ページの本文へ

Hitachi
お問い合わせお問い合わせ

1. Quality Chain Management

医薬・医療機器業界では,品質要求の高まりや法規制への対応のため,高度な品質管理・保証活動が要求されている。しかし,製造記録や品質情報などのデータが散在し,情報収集の工数が膨大になっており,また,それによる問題の原因究明や変更措置の影響度評価が属人的な業務となり,ノウハウや技術の共有が困難になっている。

この課題に対し,システムに散在する品質関連情報を互いに関連付ける一元管理を行い,製造時の品質情報のトレースや可視化によって,継続的な品質向上を実現するQCM(Quality Chain Management)を開発している。IoTコンパスのデータモデルである業務+4M(Man,Machine,Material,Method)モデルに,製造過程で発生した逸脱情報や製品仕様などの変更情報,ユーザーからの苦情情報を関連付け,製造工程を俯瞰(ふかん)的に見ながら,製品の品質問題における根本原因を示すデータを効率的に探索することができる。また,IoTコンパスとの連携によりSCM(Supply Chain Management)やECM(Engineering Chain Management)への利用展開が期待できる。

[1]Quality Chain Management[1]Quality Chain Management

2. 5Gを活用した遠隔作業支援ソリューション

[2]遠隔地熟練者用ディスプレイのプロトタイプ[2]遠隔地熟練者用ディスプレイのプロトタイプ

次世代通信5G(5th Generation)を活用したユースケースの一つとして,産業分野における保守・点検や製造・組立業務を支援するソリューションの開発を進めている。

少子高齢化に伴い労働者および熟練者の減少が進む中,作業の効率化や若者・外国人などの未熟練者の早期活用が求められている。こうした課題に対し,現場の情報を360°高精細に撮像し,5Gの特徴である大容量・低遅延伝送によりリアルタイムに遠隔地に伝送することで,遠隔地の熟練者が現場の未熟練者を支えることができる遠隔作業支援ソリューションを考案した。これにより,現場の様子を遠隔地から熟練者が見たい視点で詳細に把握することができ,現場への的確な指示が可能となる。加えて,日立のセンシング技術,映像解析技術を駆使し,現場の距離,振動,音の情報や,現場作業者のバイタルや動きの情報を捉えることで,より有益な情報を遠隔地に伝達する。

このように,複数の現場の設備・環境・ヒトの情報を臨場感高く遠隔地で再現し,難作業を遠隔地から支援することで,労働力不足の課題解決に貢献する。

3. 製造設備の点検自動化に向けた機械稼働音認識技術

従来,製造設備の点検では,熟練者が音を聴いて稼働状態を確認することが一般的であったが,労働者人口の減少に伴って点検自動化のニーズが高まってきた。しかし,工場内などさまざまな設備に囲まれた環境では,周囲環境から発生するさまざまな環境騒音や周囲の物体から跳ね返ってくる反響音などの雑音が混在しているため,正確な認識が困難であった。

これに対し,雑音に影響されず稼働音を認識することができるAI(Artificial Intelligence)技術を開発した。この技術では,環境騒音や反響音などの雑音が含まれる音を,音源の方向や音色の違いなどの複数の観点に基づいて分解し,分解された音を基に稼働状態を高精度に認識することができる。音響認識分野で最大の国際コンペティションDCASE(Detection and Classification of Acoustic Scenes and Events) 2018 ChallengeのTask 5※1)において第1位のスコア※2)を獲得し,本技術の効果を確認した。

今後,さらなる機能向上を図り,音に基づく設備自動点検の実用化をめざす。

※1)
Task 5:家に設置した複数のマイクロフォンを用いて収録された音から,9カテゴリーの日常活動のいずれの状況かを認識するタスク。
※2)
公式評価値であるF1-score on Eval. set (Unknown mic.)

[3]さまざまな観点での音の分解と複数のDNNを用いた総合判断による状況認識のプロセス[3]さまざまな観点での音の分解と複数のDNNを用いた総合判断による状況認識のプロセス

4. ロボット向け物品認識のためのシミュレーションベース学習技術

[4]撮影画像と仮想画像との風合いの違い[4]撮影画像と仮想画像との風合いの違い

倉庫や工場では,人手不足の下,変化の激しい顧客ニーズに柔軟に対応していくことが求められている。多種多様な作業ができるロボットの利用が期待されるが,あらかじめ多くの動作パターンや,扱う物品の画像を教示しておく必要があり,その手間は膨大となる。

そこで,シミュレータにより仮想的に生成する多数の動作パターンや物品画像の学習,目的の作業を遂行するための複数動作パターンの組み合わせ方法の学習※1)により,必要な教示を大きく削減する技術を開発している。さらに学習結果に基づく動作を,確実かつ高速に実行する技術※2)についても併せて取り組んでいる。

今回,これらの中から実際の撮影画像とシミュレータの仮想画像の間に生じる,影や鮮明さなどリアリティの違いに対策する手法を開発した。認識時に撮影画像を仮想画像に似せる前処理を行うこととし,この似せる処理は深層学習により実現する。故意に撮影画像のリアリティを落とすことで,仮想画像による学習の結果が適切に適用される。実験では,認識の精度を保ったまま,教示の作業時間を従来の80分の1(24分間)に短縮できることを確認した。

※1)
技術革新 インダストリー 「見まね」により模倣動作を生成する深層学習ロボット技術を参照。
※2)
技術革新 インダストリー 自律作業ロボットの生産性を向上するエッジAI技術を参照。

5. 「見まね」により模倣動作を生成する深層学習ロボット技術

労働力不足解消のため,作業支援ロボットの活用が期待される中,ロボットの導入障壁となっている膨大なプログラミングを不要とする深層学習技術を開発している。これまでに,複数の学習済み個別動作を自律的に組み合わせる技術を開発し,「ドア開け通過動作」が1日で獲得できることを実証したが,動作追加時には,人がロボットを遠隔操作し,その動作を複数回実行する必要があった。そこで,人が実演した1回の作業を「見まね」により模倣する技術を開発した。

この技術は,従来の個別動作学習時に,新たにパラメトリックバイアス(PB)と呼ばれる各動作固有の値である動作インデックスを抽出するものである。人の物体操作を撮影したカメラ画像から,その物体操作を実現するPBを推定することで模倣動作を生成することが可能となる。検証のため実ロボットで物体(ブロック)の回転移動と並進移動を行う個別動作のPBを学習させた後,人が実演して見せた回転と並進を含む新規動作のPBを推定し,そのPBを指定することで模倣動作が生成できることを確認した。

本技術は,加工や組み立てなど幅広いロボット応用が可能であり,今後実用化をめざし,信頼性や機能向上などの開発に取り組む。

なお,この成果は,早稲田大学尾形哲也研究室との共同研究にて開発したものである。

[5]動作教示の様子[従来:遠隔操作(左)と本技術:見まね(右)][5]動作教示の様子[従来:遠隔操作(左)と本技術:見まね(右)]

6. ホイスト制御技術

[6]荷振れを抑制可能なホイストコントローラ[6]荷振れを抑制可能なホイストコントローラ

熟練作業者の高齢化やクレーンの需要拡大に伴う人手不足から,操作に不慣れな未習熟の作業者が増加している。未習熟の作業者は吊荷の荷振れを抑える振れ止め操作に不慣れなため,衝突や挟まれなど事故のリスクが高い。そこで,操作者の技能によらず,より安全で,かつ,素早く動作できるホイストをめざし,自動で荷振れを抑制する荷振れ抑制制御技術を開発した。

通常運転での荷振れ抑制制御では,ホイストモデルを用いた仮想的な2自由度制御により,荷振れを検知するセンサーを使うことなく,制御なし時の4分の1以下に荷振れを低減できる。また,ロープ長の変化をホイストモデル・制御器に反映させることで,巻上げ・巻下げながらでも荷振れを抑制できる。さらに,危険を検知して緊急で停止する場合には,熟練作業者が行う振れ止め操作を模擬し,減速してそれにより発生する荷振れを打ち消すように台形波で動かす模擬追いノッチ制御を行う。これにより,荷振れを抑制しつつ,通常運転での荷振れ抑制制御より短い距離で停止できる。

今後,より高度な制御技術の開発に取り組み,さらなる安全性の向上を実現していく。

7. Hitachi AI Technology/計画最適化サービスMLCPの機能拡充

生産計画や要員計画などの計画業務で用いられる従来の数理最適化技術では,職人が行っているような条件緩和などの機転を利かせた計画の再現ができなかった。この問題に対し,日立は数理最適化技術にAI技術を組み合わせたHitachi AI Technology/Machine Learning Constraint Programming(以下,「AT/MLCP」と記す。)という技術を開発した。AT/MLCPは,機械学習技術により職人が立案した計画履歴から,職人の機転(暗黙知)を条件緩和量として抽出し,職人の計画立案を再現している。

この技術により,計画自動生成システムが自動立案した計画を数値化や可視化することで,これまで漠然と考えられていた計画の良し悪しの基準を明確化し,計画自動生成システムにフィードバックして改善することができる。

今後,システムが自動的に成長可能となる機能を拡充していく。

[7]数理最適化技術にAIを組み合わせたAT/MLCP[7]数理最適化技術にAIを組み合わせたAT/MLCP

8. 制御システムのリアルタイム性を保証するセキュリティ強化技術

IoTが普及し,産業機器がネットワークにつながりデータを共有し合うと,サイバーセキュリティ対策が重要となる。IT機器向けのファイアウォールは,通信データを一旦メモリに格納し,CPU(Central Processing Unit)のソフトウェア処理でデータを照合する。したがって,通信遅延が大きく,リアルタイム制御(数十〜数ミリ秒の周期)が必要な産業機器に適用するのは難しかった。

そこで,通信データの流れを止めずに適正/不正を検査する独自の照合アルゴリズムと,不正な通信データのFCS(Frame Check Sequence)を書き換えてマーキングすることで,保護対象機器側で無効化できる技術を開発した。この技術をFPGA(Field Programmable Gate Array)上に実装して評価した結果,一般的な制御周期より十分に短い約2マイクロ秒で通信データを検査できることを確認した。

今後は,本技術の実証を推進し,産業IoT分野のセキュリティ向上に貢献していく。

[8]不正な通信データのリアルタイム検査技術(従来比較)[8]不正な通信データのリアルタイム検査技術(従来比較)

9. 自律作業ロボットの生産性を向上するエッジAI技術

ロボット向けAI処理は演算量が多いため,コントローラに実装するうえで,効率的なアルゴリズムとハードウェア実装による演算量と消費電力の削減が重要となる。取り組みの一環として,カメラと距離センサーにより得られる三次元画像データを,三次元物体形状データと高速に照合する技術を開発し,ディープラーニングと組み合わせることで,平面や曲面から成る複雑形状物体のリアルタイム認識を実現した。

具体的には,物体形状データをグラフ構造に変換することで,画像と物体形状の効率的な照合を可能にした。さらに,そのグラフ構造化を効率的に実行できる専用回路をFPGA上に実装し,アクセラレータとして適用した。以上により,コントローラに実装可能なハードウェア構成を用いて,画像と物体形状の照合を従来の約10倍に高速化し,その結果,棚に乱雑に置かれた物品の位置と姿勢を0.6秒程度で特定できることを確認した。

今後も同様のアプローチにより,さまざまなロボット向けAI処理のコントローラ組込み技術を開発し,倉庫や工場の自動化を促進する予定である。

[9]複雑形状物体の効率的な認識技術[9]複雑形状物体の効率的な認識技術

10. 射出成形機の機差補正技術

熟練労働者の不足による脱ノウハウ依存のニーズを背景として,IoT を活用した製造プロセスの革新が国内外で急速に進んでいる。日立は,射出成形プロセスに対して,現在ノウハウに依存している射出成形機の機械特性(機差)を考慮した成形条件の最適化に着目し,複数設備で同品質が得られる成形条件の補正技術を開発した。

あらかじめ複数設備に同等の成形条件を設定したときの樹脂流入口(金型入口)部分の樹脂状態を,センサー搭載金型による可視化データと流動解析を組み合わせて取得する。得られた樹脂状態の各種特徴量に対して特徴量の分析を行い,成形条件に対する樹脂状態の予測モデルを構築する。量産中に金型を移管する際,予測モデルを参照して同品質が得られる補正条件を自動出力する。この技術により,複数設備間で同等の成形条件を設定した場合に発生する重量誤差を7.3%から1.1%まで低減することを実証しており,生産開始リードタイム低減と品質安定化を実現できる。

今後は,このシステムを複数製品と設備で実証していく。

[10]射出成形機の機差補正システムの概念[10]射出成形機の機差補正システムの概念

11. 気づき支援CADシステム

製造性や保守性などに関わる設計ルールを3D-CAD(Computer-aided Design)上で自動チェック可能な「気づき支援CADシステム」を開発した。設計段階において設計ルール違反に関する気づきを促すことで,製造・保守からの手戻りや,設計ルールのチェック工数の低減が可能になる。本システムは,グローバル協調設計支援ソリューション「Hitachi Digital Supply Chain/Design」のサービスの一つとして提供を開始している。

本システムは,3D-CADモデルの中からチェック対象となる形状を見つける形状認識の機能群と,寸法を測定する幾何特徴量計算の機能群を標準ライブラリとして有している。この機能の組み合わせにより,従来は設計ルールをチェックするために手動で行っていたCAD操作手順を自動実行可能とすることで,各社固有のノウハウに基づく多種多様な設計ルールについても柔軟に対応できる。

自動車や日立グループの各種プロダクトなどの幅広い製品に適用を進めており,日立グループの製品において,手戻り回数削減,チェック作業の自動化により設計リードタイムを約30%削減する効果を上げている。

[11]気づき支援CADシステムの構成[11]気づき支援CADシステムの構成

Adobe Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe® Reader®が必要です。