日立評論

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1. がん再発を低侵襲かつ早期に発見できる遺伝子検査

近年,低侵襲ながん診断技術として,血液などの体液サンプルを用いる液体生検が注目されている。液体生検は,内視鏡や針を使って腫瘍組織を採取する従来の生検と異なり,血中に微量に存在する腫瘍由来遺伝子を検出する。腫瘍由来遺伝子は正常な遺伝子がわずかに変異したものであるため,遺伝子変異を高感度に定量する技術が必要である。

このニーズに対し,高感度に対象遺伝子を定量するデジタルPCR(Polymerase Chain Reaction)に,遺伝子の変異を識別する融解曲線分析を組み合わせ,検体を多数の微小区画に分割した後に増幅し,おのおのの微小区画の蛍光強度と融解温度を計測する技術を開発した。

これにより,血中の微量な腫瘍由来遺伝子にみられる小さな遺伝子変異を,高感度かつ多項目同時に検出できることを実証した。この技術は,がん再発を低侵襲かつ早期に発見し,遺伝子変異に基づいた適切な薬剤選択や早期治療効果判定への応用が期待される。

[1]開発した遺伝子検査技術の概要[1]開発した遺伝子検査技術の概要

2. 血液一滴検査を実現する液体ハンドリング技術

近年,高感度の検査試薬や測定技術の開発により,微量血液に含まれる成分であっても濃度を正確に測定できるようになっている。検査項目が複数の場合,少量の血液を精度よく分ける液体ハンドリング技術が必要となるが,血液のように粘度が多様に変化するサンプルでは高精度の液量制御は難しい。

そこで,加工精度の高い電気鋳造パイプを用いた,微量高精度の液体ハンドリング技術を開発した。パイプ内のプランジャーを移動させることで,粘度の影響を受けず,むだなくサンプル全量を吐き出せる。表面の撥(はっ)水処理により液量精度は向上し,100 nL※)の液体であってもわずか0.7 nLの変動範囲で制御できることを示した。本技術を用いて,蚊が吸う程度の微量血液サンプル(約1,000 nL)をハンドリングし,グルコース(血糖)やコレステロールなどの濃度を精度よく測定できることを実証した。

今後は,この技術を検査装置に適用し,患者の身体的負担と経済的負担を減らす「血液一滴での健康診断」の実現をめざす。

※)
1 nL(ナノリットル)は1 Lの10億分の1。

[2]電気鋳造パイプを用いた微量高精度の液体ハンドリング技術[2]電気鋳造パイプを用いた微量高精度の液体ハンドリング技術

3. 三次元構造デバイスの内部観察を実現するパルス電子顕微鏡

半導体デバイスは微細化の限界に近づき,性能向上を実現するためにデバイス構造の三次元化や複雑化が進んでいる。このため,最先端のプロセス開発では三次元構造および構造内部の電気特性を計測する手法が求められている。

そこで,パルス電子顕微鏡を用いた三次元構造の内部観察技術を開発した。試料表面からの電流リーク特性は内部構造によって変化することから,電子ビームによって形成される試料の表面電位には試料の内部構造の情報も含まれている。この原理を活用して,パルス電子顕微鏡では電子ビームをパルス化し,その時間間隔を制御することで,試料の表面電位を変化させ,内部構造を可視化する。

例えば,デバイスの下層に形成された誘電体のパターンを可視化することができ,表層のパターンとの合わせ精度を確認することが可能となる。また,パルス化により微小な容量差まで観察できるため,トランジスタの接合不良検査にも活用が期待される。

[3]パルス電子顕微鏡による半導体デバイス内部構造の観察例[3]パルス電子顕微鏡による半導体デバイス内部構造の観察例

4. 革新材料・金属三次元積層造形技術

産業機器,医療機器など幅広い分野で活用が進められている金属積層造形(3Dプリンタ)向けに,新しい材料と造形プロセス技術を開発した。日立グループは,金属3Dプリンタの特徴である急冷・凝固過程とニアネットシェイプ造形に着目し,高性能な材料の開発に取り組んできた。今回,原子炉などの過酷環境用の材料として,酸化物相により組織を微細化した合金を開発した。強度評価ならびに原子炉内を模擬した環境での耐照射性評価の結果,従来比1.8倍の強度と4倍の耐照射性を確認している。

造形プロセス技術に関しては,複雑な形状の部品を高精度・高品質に製造する設計システムと3Dプリンタを開発した。3Dプリンタの機種や材料種に応じた最適な造形を可能にする設計システムにより,製造部品の寸法精度を手動設計に対して2倍以上向上した。さらに,真空・予熱機構を有する3Dプリンタを開発し,不純物の含有量を従来装置と比較して30%低減した。

今後,造形プロセス技術にマテリアルズインフォマティクスを組み合わせ,3Dプリンタ向け材料の開発を加速する。

[4]酸化物相により微細化した開発材の組織[4]酸化物相により微細化した開発材の組織

5. 電子部品向け材料設計技術

近年の電子部品の高性能化・微細化に伴い,異種材料が会合する界面部分を原子レベルで高精度に制御する必要性が高まっている。そこで,量子力学とニュートン力学を連成させて解く分子シミュレーションによって,異種材料界面における摩擦・摩耗や接着の状態を原子レベルで把握できる技術を開発した。

この技術を用いて,半導体デバイスの製造工程においてウェーハを平坦化する化学的機械研磨のシミュレーションを実施した。これにより,化学反応とせん断が連成した複雑な研磨メカニズムを究明し,半導体プロセスの高速化に資する研磨スラリのパッケージ設計に活用している。

また,電子部品を固定する樹脂(封止材)とその中に充填する粒子(フィラー)の接着状態や,樹脂と金属部材などの接着状態をシミュレーションすることにより,接着強度の向上に有効な封止材の組成を設計している。

今後は,本技術を5G(5th Generation)に対応した電子材料の設計にも適用していく。

[5]異種材料界面の分子シミュレーション例[5]異種材料界面の分子シミュレーション例

6. 難揮発半固体電解質を用いた高エネルギー密度LIB

生活のさまざまな場面に普及する電池システムには,安全に利用でき,大容量でコンパクトなLIB(Lithium-ion Battery:リチウムイオン電池)が必要である。一方,従来のLIBに用いられる有機電解液は室温近傍で揮発・引火する危険性があり,安全性担保のために補強材や冷却機構を設置することで,コンパクト性が悪化することが課題であった。

日立は,高安全を実現する難揮発性電解質,余剰スペースレスのコンパクトな電池構造,安全性と高エネルギー密度を両立した電極構造を開発することで,安全性を担保しつつ貯蓄できるエネルギー密度600 Wh/Lを実現し,電池容量は130 Whで従来比5分の2のコンパクト化に成功した。開発したLIBに対し,圧壊試験や過充電試験など,IEC 62660に準拠した安全規格試験を行い,発火に至らないことを実証している。

本技術により,LIBを搭載する自動車の車内空間の有効活用や,再生可能エネルギー用の電力貯蔵電源の省スペース設置が可能となる。

[6]高安全・高エネルギー密度半固体電池[6]高安全・高エネルギー密度半固体電池

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