日立評論

基礎探索

研究開発

ページの本文へ

Hitachi

日立評論

基礎探索

研究開発

1. 日立東大ラボ:ハビタット・イノベーション

日立東大ラボでは東京大学と協創し,Society 5.0がめざす都市像の発信と,その実現のために解くべき課題の抽出と解決手段となる政策提言活動および技術開発を,ハビタット・イノベーションプロジェクトの下で推進している。

プロジェクトが提唱する未来の都市では,個人のQoL(Quality of Life)向上と都市全体の課題解決の両立が可能であり,都市のデータがこれを支える。実現に向けてはデータ取り扱いの制度設計,データ利活用技術開発,住民の技術受容に関する知見蓄積が必要であり,これらをプロジェクトの主題としている。並行して,課題を解決する施策・技術の実都市での社会実証を進めている。

実証サイトの一つである愛媛県松山市では,アーバンデザインセンタ松山(UDCM)と協力し,NEXPERIENCEの都市マネジメントへの適用(Cyber-PoC for Cities)により,市民参加型まちづくりを推進中である。2019年3月に同センタに可視化ツールを設置し,地元企業を招いたワークショップを開催した。

今後は複数のワークショップを通して得られた知見を活用し,市民参加型まちづくりの手法開発や,データ駆動型まちづくりのためのデータ基盤の要件抽出を進めていく。

[1]まちづくりワークショップの開催[1]まちづくりワークショップの開催

2. 日立京大ラボ:Imagination 5.0

[2]Crisis 5.0からの脱出口を探るワークショップ[2]Crisis 5.0からの脱出口を探るワークショップ

日立京大ラボでは京都大学と協創し, 将来日本が直面する社会課題を明らかにするとともに,その解決シナリオを探索する研究を推進している。

2018年には京都大学のさまざまな専門分野の研究者や学生との議論を通じて,生命,財産,人権,アイデンティティなどが脅かされ,「不安」が生まれるときに社会課題が生じるという仮説を立て,「信じるものがなくなる」,「頼るものがなくなる」,「やることがなくなる」という三つのトリレンマ構造「Crisis 5.0」を提示した。

2019年には「Crisis 5.0」からの脱出口を2050年を担う学生とのワークショップなどを通じて検討し,「自ら主体的に課題と解決策を想像する」ということが重要であり,そのためのカギは「わくわく想像する心」であるという結論を導いた(「Imagination 5.0」)。

今後,「わくわく想像する心」を育むための企業や大学の在り方の提言を発信予定である。

3. 日立京大ラボ:社会・環境・経済価値に基づく社会協調システム

[3]実データに基づく「三つの価値」の定量化の実証[3]実データに基づく「三つの価値」の定量化の実証

日立京大ラボでは京都大学と共に,文理融合による共同研究「ヒトと文化の理解に基づく基礎と学理の探究」を推進している。

日立では「社会価値・環境価値・経済価値を重視した経営」を掲げているが,これら三つを同時に向上することはチャレンジングな課題である。例えば,経済価値(効率性)に偏ると社会価値(公平性)が軽視される懸念がある。日立京大ラボでは,「社会(分配の公正),環境(持続可能性),経済(生産の効率性)」の適切な組み合わせの実現に向けて,個人や企業の行動の中に社会規範・倫理的な志向を事前に組み込むことで社会全体のWell-beingを向上させる試みを行っている。一例として,中山間地域である宮崎県高原町にて自然エネルギーによる地域経済循環と地域活性化の可能性を検証中である。社会規範・倫理はITシステムの強制ではなく相互期待・承認の上で成り立ち,個人間相互作用や合意形成がカギであり,自然エネルギー導入時の各種施策に対する合意形成システムの実証を進めている。

持続可能社会の実現の一つの鍵は都市集中の緩和であり,今後も地方創生の支援を通じて地方分散社会の実現をめざす。

4. 日立北大ラボ:課題先進地域で創造する新公共サービス

日立北大ラボでは,課題先進地域のソリューションをテーマに,北海道における過疎化,少子高齢化,地域創生などの社会課題の解決を,自治体と連携した実証実験や探索的活動を通じて進めている。

これまでも,人口減少の問題とQoLの関係を解明するヒューマンデータ分析予測技術の一環として,岩見沢市における母子の腸内環境に着目した,世界的に類を見ない形での長期にわたる健康データを蓄積・分析し,子どもの成長発達に影響を与える因子やさまざまな疾患の原因を明らかにする取り組みを北海道大学COI(Center of Innovation)と連携する形で行ってきた。

今後は,地域が抱えるさまざまな社会課題の解決と,定住条件の強化を図ることを目的に発足した岩見沢市スマート定住事業に参画し,公的なサービスや財源に頼らない,民間と自治体が融合した公共サービスの創生により,市民の生活・健康環境を支援し,個々人が健康で安心して暮らせる,地域経済を活性化する取り組みの実現をめざす。

[4]岩見沢市スマート定住事業[4]岩見沢市スマート定住事業

5. ICTイノベーションに向けたシリコン量子コンピューティング

[5]シリコンナノワイヤスプリットゲート技術に基づく16量子ビットモジュール(特許技術)[5]シリコンナノワイヤスプリットゲート技術に基づく16量子ビットモジュール(特許技術)

近年,マイクロプロセッサの微細化は本質的限界に達し,計算性能の向上が原理的に困難になっている。この困難を乗り越えるには,トランジスタの微細化に頼らない,新しいコンピューティング技術の開発が重要となる。日立ケンブリッジラボでは,潜在的な社会要求を解決する手段として期待されている大規模データベース検索,材料シミュレーション,最適化を実現するために,従来のコンピュータを上回るコンピューティング技術,シリコン量子コンピューティング技術の開発に取り組んでいる。

開発している量子コンピュータ技術は,シリコン中の電子スピンを利用したものである。既存のシリコンエレクトロニクスプロセスを利用するため開発コストが抑えられ,高集積化が可能なことが特長である。日立の特許技術はスプリットゲート電界効果トランジスタを使用した量子ビットである。このトランジスタの二つのゲート電極下にスピンを閉じ込めて量子ビットを形成し量子演算を行う。日立ケンブリッジラボでは,量子演算の実行に必要な低温の環境下で,世界最速の高速量子ビット読出し技術を実証した。また,このような量子デバイスと従来型トランジスタ回路とのハイブリッド技術を提案し,その優位性を示した。

現在は,前述の技術を拡張し,社会課題の解決に役立つ大規模な量子プロセッサを構築することをめざしている。開発を加速するため,日立ケンブリッジラボは世界中で大規模な研究者のエコシステムを構築している。

6. 日立神戸ラボにおける再生医療研究

[6]細胞シート自動培養装置[6]細胞シート自動培養装置

再生医療は,従来有効な治療法がないとされてきた難病であっても,細胞や組織を使った治療によって根治へと導く革新的医療として期待されている。中でも京都大学の山中伸弥教授が開発したiPS(Induced Pluripotent Stem)細胞は,さまざまな種類の細胞に分化することができる多能性を有し,表皮や血液から比較的容易に作製することが可能なことから,近年iPS細胞を用いたさまざまな疾患の臨床研究や臨床試験(治験)も始まっている。

日立は2019年3月に,国立研究開発法人理化学研究所の橋政代博士らと共同で,日立独自の完全閉鎖系細胞シート自動培養装置を用い,ヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮(RPE:Retinal Pigment Epithelium)シートの培養自動化に世界で初めて成功した。これにより,従来の手技培養の課題であった品質のばらつきやコストの課題を培養装置により解決し,難治性眼疾患である加齢黄班変性のRPE細胞シートの移植による治療への応用に限らず,再生医療の普及と発展に広く貢献することが期待される。この成果は,科学誌『PLOS ONE』に2019年3月14日付けで掲載された。

なお,本稿で紹介した内容の一部は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「基盤技術研究促進事業」,文部科学省先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム「再生医療本格化のための最先端技術融合拠点」において実施した。

7. ハピネスプラネット

[7]スマートフォンアプリ利用例[7]スマートフォンアプリ利用例

幸福度の高い組織は生産性が高いことが知られている。ハピネスプラネットは,経営方針に沿ってポジティブで自律的に動く組織づくりを支援するサービスである。新しい経営方針の導入はしばしば従業員に不安や混乱をもたらすことがあるが,アプリを使って従業員一人ひとりがアプリ内で毎日小さなアクションを行うことで,経営者と現場の認識のギャップを埋め,従業員が自信を持って自発的に経営方針に関連する行動が実行される状態に変化することを促す。

アプリには,毎日の目標(働き方チャレンジ)を選択してチームで共有する機能と,組織の状態をハピネス度という身体リズムに基づく客観的な指標で計測する機能が含まれる。これにより,従業員自身がゲーム感覚で楽しみながら,変化を確認しつつ自分に合った働き方を探索することができる。これまでの実証実験では多様な企業から3,000人以上が参加し,90%以上が自ら主体的に目標を実行したと回答した。

本サービスは法人向けとして有償PoV(Proof of Value)を予定している。

8. 材料革新に向けた原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡の高度化

温暖化防止に向けて,CO2排出量削減に寄与する材料の革新が求められている。そのためには,材料の機能を生み出している材料内部とその近傍の電磁場を,原子レベルの分解能で高感度に観察することが重要である。

日立製作所基礎研究所は九州大学,大阪大学と共同で,触媒反応場の電位を電子一個レベルの感度で計測できるようにすることを目標に,電磁場計測感度を10倍化する技術開発を進めている※1)。電子線ホログラム自動取得技術による多量データの蓄積と深層学習による画像分類・積算技術を融合することでその実現をめざしており,原子分解能・超高圧ホログラフィー電子顕微鏡※2)により,原子レベルの分解能(〜0.2 nm)で1万視野の電子線ホログラムを自動計測し,電位分布を得ることに成功した。

画像分類・積算技術も並行して開発を進め,目標とする電磁場計測の高感度化を実現できる見通しが得られた。触媒,電池などの機能性材料の機能を発現させているメカニズムを解明し,持続可能な社会を支える材料の革新に貢献していく。

※1)
「戦略的創造研究推進事業(CREST)」の助成を受けて開発。
※2)
「最先端研究支援プログラム(FIRST)」の助成を受けて開発。

[8]原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡(左)と,観察した金ナノ粒子の電位分布(右)[8]原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡(左)と,観察した金ナノ粒子の電位分布(右)

9. 廃棄物バイオや水素を用いた地域発電

循環型エネルギー社会の実現に向けて,バイオ燃料や水素を高効率に利用できるマルチ燃料対応エンジンシステムを開発している。このエンジンシステムは,既存の石油燃料以外にバイオエタノールやバイオガス,水素など多種の燃料に対応可能である。また,酒かすや廃果実などの廃棄物から発酵工程のみで製造可能な,水を多く含んだ含水エタノール(エタノール濃度7〜12%程度)も燃料として利用することができる。これらのさまざまな燃料を,AI(Artificial Intelligence)を用いたエンジン制御技術とエンジン排熱を用いた燃料改質技術により高効率に発電に利用できることから,場所ごとに入手可能なバイオ燃料を選択することができる。

本技術をコアに,廃棄物から生成されるさまざまなバイオ燃料を組み合わせて高効率に利用し,資源の循環とエネルギーコスト低減の両立に貢献するとともに,循環型エネルギー社会の早期実現をめざす。

[9]廃棄物バイオ資源を活用した社会イメージ[9]廃棄物バイオ資源を活用した社会イメージ

Adobe Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe® Reader®が必要です。