日立評論

広域機関システムから次のIT×OT融合システムへ

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次世代のエネルギーを実現するイノベーション
[ⅰ]パワーグリッド

広域機関システムから次のIT×OT融合システムへ

ハイライト

東日本大震災を契機に電力システム改革が進められ,その第1段階として2015年に電力広域的運営推進機関が発足した。日立は,電力広域的運営推進機関の業務を支えるIT×OT融合システムである「広域機関システム」を提供している。現在,国は第五次エネルギー基本計画の下,新市場創設や次世代ネットワークシステム構築をめざす制度設計を進めており,新たな制度に対応し,IT×OT融合など広域機関システムと同様の特徴を持つシステムの導入が計画されている。日立は,広域機関システムの開発で培った知見を基に,さらなるIT×OT融合システムの展開を通じて社会イノベーションの実現に貢献していく。

目次

執筆者紹介

奈加 健次Naka Kenji

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット エネルギーソリューション本部 広域系統ソリューション部 所属
  • 国内原子力保全総合システムの開発を経て,現在,広域機関システムの開発に従事

西谷 由育Nishiya Yoshiyuki

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット エネルギーソリューション本部 広域系統ソリューション部 所属
  • 国内電力系監視制御システムの開発を経て,現在,広域機関システムの開発に従事

定江 和貴Joe Kazutaka

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット エネルギーソリューション本部 広域系統ソリューション部 所属
  • 国内火力発電制御システム,広域機関システムの開発を経て,現在,調整力市場に関わるシステム開発に従事

藤本 勇人Fujimoto Hayato

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット エネルギーソリューション本部 広域系統ソリューション部 所属
  • 国内電力関連会社の会計システムの開発を経て,現在,広域機関システムの開発に従事

1. はじめに

低廉で安定的な電力供給は国民生活を支える基盤であり,社会・経済活動の発展に必要不可欠である。日本における電力自由化は安定供給を損なうことがないよう10年以上かけて慎重に進められてきたが,東日本大震災を契機として国は「電力システムに関する改革の基本方針」を閣議決定し,全国大での電力系統の安定運用および小売全面自由化を一気呵成(かせい)に実現させることとなった。

電力広域的運営推進機関(以下,「広域機関」と記す。)は,3段階で実施される電力システム改革の第1段階として,2015年4月に創設された。

日立は,広域機関の業務を支える「広域機関システム」の開発を受注し,2016年4月に運用を開始して以降,さまざまな課題を乗り越えて安定稼働を迎えた。電力システム改革は2020年4月1日をもって当初の主たる三つの改革を完遂し,次の制度改革の段階へと移行するが,既にこの取り組みは始まっており,本システムにおいても新制度改革への対応が継続している。

2. 電力システム改革を支える広域機関

広域機関は,電力の広域的な運用に必要な送配電網の整備を進めるとともに,全国大で平常時・緊急時の需給調整機能を強化することを目的とした業務を推進している。

広域機関が担う主な業務は,以下のとおりである。

  1. 需給逼(ひっ)迫時において,電源の焚(た)き増しや電力融通を指示することで需給調整を行う。
  2. 平常時において,各エリアの需給バランス・周波数調整に関し広域的な運用調整を行う。
  3. 需給計画・系統計画を取りまとめ,周波数変換設備,地域間連系設備などの送電インフラの増強や,エリアを越えた全国大での系統運用などを図る。
  4. 新規電源の接続受付,系統情報公開を中立的に実施する。

これらの業務を支えるのが日立の「広域機関システム」である。

2.1 広域機関システムの特徴

図1|広域機関システムと各種市場関連システムの連携の概要図1|広域機関システムと各種市場関連システムの連携の概要現在開設されている卸電力市場に加えて,今後新たに創設される需給調整市場,容量市場などのシステム連携の概要を示す。

日本における電力の安定供給は,供給エリアを送電設備でつないだ巨大な電力系統において,各エリアの一般送配電事業者(旧一般電気事業者)が「地域間連系設備の潮流の需要と供給を計画どおりに均衡させる」という極めて難しい運用を行うことで実現している。

電力システム改革以前は,旧一般電気事業者における垂直一貫体制にてこれを実現してきたが,2016年度の電力小売全面自由化以降は多くの発電事業者,小売事業者が電力系統に連系し,従来の運用では各一般送配電事業者が需要と供給の状態を随時把握することが困難になると予想された。

広域機関システムは,これを解決するためITとOT(Operational Technology),資源エネルギー庁,広域機関,一般送配電事業者,日立など多数の組織の英知と経験,運用技術を結集して開発された。

例えば,小売事業者,発電事業者といった各事業者から送付される計画データや,一般社団法人日本卸電力取引所から送付される約定データといった大量データ処理についてはITの分野となるが,この処理結果を基に地域間連系設備の制御用潮流値を決定する処理や,一般送配電事業者の中央給電指令所システムへ制御用潮流値をサイクリック・ディジタル情報伝送装置にて連携する処理はOTの分野となる。広域機関システムが持つ機能について表1に示す。

また,広域機関システムは一般送配電事業者の中央給電指令所システムや日本卸電力取引所の卸電力市場システムと連携を行っているが,今後,順次運用開始予定の各種市場関連システムとの連携も計画されている。システム間連携の概要について図1に示す。

表1|広域機関システムが持つ機能表1|広域機関システムが持つ機能広域機関システムでは,発電や需要などの各種計画を事業者から受け付け,需給状況の管理や連系線利用の計画などの業務を行う。

2.2 IT×OTの融合で解決した技術的課題

図2|北海道・本州間連系設備における最適化計算図2|北海道・本州間連系設備における最適化計算潮流値を最大化するためのルート計算の概略を示す。

図3|3種類の設備制約を考慮した潮流値と運転状態の決定図3|3種類の設備制約を考慮した潮流値と運転状態の決定潮流値における各設備の制約を示す。

広域機関システムの開発で発生した課題の多くはITとOTを融合した技術にて解決を図った。ここでは一例として北海道・本州間連系設備対応の事例を取り上げる。

北海道・本州間連系設備は,北海道と本州を結ぶ地域間連系設備(直流連系設備)である。この設備の効率的な運転を実現するためには,段差制約,上下限制約,反転制約の3種類の設備制約を考慮した適切な潮流値と運転状態(26種類から1つ)の決定が随時必要となる(図2参照)。この課題に対し,ITとOTを融合して解決を図った。

潮流値と運転状態は,計画段階において1日24時間を30分単位に区切った48点のコマの単位で算出する。設備制約を順守するには1点のコマだけを見て潮流値と運転状態を決定することはできず,常に48コマ全体の潮流値と運転状態を考慮した処理が必要となる。

これは2648という膨大な組み合わせから1日48コマの潮流値と運転状態を決定することを意味しており(図3参照),分岐条件などを用いた一般的な処理ロジックでは実現が困難であることから,動的計画法による最適化計算を活用した高速演算処理を設計するというIT分野の技術を活用して課題解決を図った。

一方,この動的計画法による最適化計算において用いる制約式やパラメータについては,当該設備の設備制約を反映する必要があることから,OT分野の知見も活用している。

3. 広域機関システムの開発で培った知見

広域機関システムの開発を通じて培った,新制度対応のシステム開発を成功させるための知見について,以下3点を紹介する。

3.1 IT×OTの組織融合

政府は電力分野の新事業創出などを目的としたデジタル化を推進しており,広域機関システム以外にもITとOTを融合するシステムが今後さらに求められる。

電力システム改革の第3段階により2020年4月に送配電部門の法的分離が行われることで,旧一般電気事業者内に閉じた運用管理を行っていた電力需給調整や供給力確保などにおいてはより一層の透明性・効率化が求められるため,結果として市場の重要性が増すことになる。これに伴い,送配電部門によるOT機能が市場取引や料金精算といったIT機能と連携する必要性が生じ,システムを提供する日立としてもITとOTを融合した知見を集結する必要性はさらに高まると想定される。日立では,IT,OT双方の人財を融合した組織を設立し,電力システム改革の知見を蓄積・活用できる体制で新制度対応のシステム開発を推進している。

3.2 アジャイル開発の要素を組み合わせた開発プロセス

図4|アジャイル開発型のシステム開発プロセスの概念図4|アジャイル開発型のシステム開発プロセスの概念北海道・本州間連系設備における最適化計算機能の開発手法の概略を示す。

新制度設計に対応するためのシステム開発は,日本で前例がないことから,すべての要件・仕様を確定してから開発に着手することは困難である。結果的に工期後半で課題が多発し,システム運用開始遅延などを招きやすくなるため,これを防ぐ施策として,ウォーターフォール型の開発プロセスだけで進めるのでなく,アジャイル開発(適応型開発)の要素を取り込むことが効果的である(図4参照)。

広域機関システムの追加開発においては,机上検討だけでは仕様の正否の判断が難しい処理を早期に動作するプログラムとして実装することで,本番データを入力した機能検証の実施が可能となり,早期の課題摘出・対策実施を繰り返し,工期後半での課題の多発・リリース延期を防ぐことができた。

また,ユーザーである広域機関と協創することで,課題への対応要否・対応方法について,実運用上の発生頻度と業務影響度を見極めた判断を実施できた。

3.3 工期厳守・業務運用を優先するプロジェクト管理

広域機関の設立は電力システム改革第1段階であり,2016年4月の電力小売全面自由化(第2段階)に向けてシステム運用開始の順延が許されない納期厳守のプロジェクトであった。一方,制度設計とシステム開発が並行したことで,品質確保が大きな課題となっていた。

納期厳守とはいえ品質不十分のシステムを運用開始させることは最終的に顧客に迷惑を掛けることになるため,基本と正道にのっとり,理想(機能の完全性)だけを追求せず,工期内で実現可能な処理仕様を設計することが肝要となる場合がある。

具体的には品質確保の難易度が高い処理や性能劣化リスクがある処理仕様の排除だけでなく,システム運用開始および業務運用の成立を最優先とした顧客とのシステムの実現範囲の調整が必要となる。広域機関システムにおいても,納期を実現できるスコープを見極め,システムで実現することと業務運用にて対応することを広域機関と調整・合意し,社会的影響を与えることなくシステムの拡充を図っている。

4. 次のIT×OT融合システムへ

世界的な環境問題である地球温暖化への対策は,電力分野における喫緊の課題である。日本は自由化を主眼とした電力システム改革を推進しつつ,安定供給を損なうことなく再生可能エネルギーのさらなる有効利用によって脱炭素を進めるという,極めて困難な課題に直面している。

これを解決するにあたり,当面の課題は再生可能エネルギーを系統連系させるための送電線の空き容量不足である。地域間連系設備も含む送電線の建設も解決法の一つではあるが,それには膨大な設備投資と用地買収から送電線建設まで長い期間が必要となる。そのため,一般送配電事業者の送配電設備と系統運用におけるノウハウや,さらには発電サイドだけでなく需要家サイドのリソースも活用し,ITとOTを融合したソリューションを社会全体で活用していくことが,課題解決のための急務と考えられる。

日立はLumadaをソリューションコアとして,ITとOTを融合したソリューションによる社会イノベーションを推進しており,中央給電指令所システムや系統安定化システム(SIPS:System Integrity Protection Schemes)などの超高圧系統の運用ソリューション,さらにデマンドレスポンス,バーチャルパワープラントなどの需要家サイドのソリューションの開発に取り組んでいる。

5. おわりに

政府は第五次エネルギー基本計画の下,容量市場,需給調整市場などの新市場創設や,次世代ネットワークシステムの構築を計画している(図5参照)。

日立はこれらの計画に対応するため態勢を整えており,これからもITとOTを融合したソリューションにより,新時代に向けたエネルギー分野の社会イノベーションを実現していく。

図5|第五次エネルギー基本計画に基づく次世代ネットワークシステム構築の構想図5|第五次エネルギー基本計画に基づく次世代ネットワークシステム構築の構想2018年7月に発表された,第五次エネルギー基本計画の概要を示す。

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