日立評論

飛騨信濃周波数変換設備の特長技術

最新の直流送電プロジェクト

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日立評論

次世代のエネルギーを実現するイノベーション
[ⅰ]パワーグリッド

飛騨信濃周波数変換設備の特長技術

最新の直流送電プロジェクト

ハイライト

現在,建設が進められている飛騨信濃周波数変換設備は,東京電力パワーグリッド株式会社(50 Hz)側の新信濃変電所と中部電力株式会社(60 Hz)側に新設する飛騨変換所間を結ぶ直流送電設備であり,日本で初めて架空線で異周波系統間を直流連系し,かつ各端を異なるメーカーが担当したプロジェクトである。日立は,飛騨変換所側の交直変換設備を一括して担当し,標高1,085 mの豪雪地帯という環境条件を考慮した開発設計を行った。

目次

執筆者紹介

飯村 美起Iimura Miki

  • 日立製作所 エネルギービジネスユニット 電力流通事業部 電力パワーエレクトロニクス本部 電力変換システム部 所属
  • 現在,HVDCプロジェクトの取りまとめ業務に従事
  • 電気学会会員
  • CIGRE会員

千葉 開Chiba Kai

  • 日立製作所 エネルギービジネスユニット 電力流通事業部 電力パワーエレクトロニクス本部 電力パワーエレクトロニクス設計部 所属
  • 現在,電力系統連系用変換装置の設計に従事

鴨志田 真一Kamoshida Shinichi

  • 日立製作所 エネルギービジネスユニット エネルギー生産統括本部 送変電生産本部 開閉装置設計部 所属
  • 現在,ガス絶縁開閉装置の設計に従事
  • 電気学会会員

小形 秀紀Ogata Hideki

  • 日立製作所 エネルギービジネスユニット エネルギー生産統括本部 送変電生産本部 変圧器設計部 所属
  • 現在,大容量変圧器の電気設計に従事
  • 電気学会会員

内海 知明Utsumi Tomoaki

  • 日立ABB HVDCテクノロジーズ株式会社 システムエンジニアリング部 所属
  • 現在,ABB製フィルタ設備のエンジニアリングに従事
  • 電気学会会員
  • CIGRE会員

中野 芳彦Nakano Yoshihiko

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 エネルギーソリューション本部 送変電制御システム設計部 所属
  • 現在,直流制御保護装置の設計に従事

1. はじめに

東日本大震災の発生を背景として,大規模災害時の電力供給能力向上の必要性が露見した。これに伴い,50 Hzと60 Hzの異なる周波数間の連系容量を増強すべく,東京中部間HVDC(High Voltage Direct Current)送電設備プロジェクトが発足した1)

HVDCは,異なる周波数の系統間の連系を可能にするほか,長距離送電における損失の低減や,系統の増強・拡大に有利な特長を持つ。今後,再生可能エネルギーの導入拡大にあたっては,遠方で発電された大規模な再生可能エネルギーや洋上風力発電エネルギーの送電・地域間系統連系容量の増加などの実現のため,HVDCの重要性はますます高まると考えられる。

現在,前述のプロジェクトの一環として,2021年3月運転開始予定の飛騨信濃周波数変換設備の建設が進んでおり,日立はこのうち中部電力株式会社飛騨変換所のサイリスタバルブ,変換用変圧器,直流リアクトル(DCL:Direct Current Reactor),交流ガス絶縁開閉装置(AC-GIS:Alternating Current Gas Insulated Switchgear),直流ガス絶縁開閉装置(DC-GIS:Direct Current Gas Insulated Switchgear),制御保護装置,高調波フィルタ,調相設備などを納入する。

本稿では,飛騨変換所特有の仕様・条件を踏まえて最適化した各主要納入機器の特長について述べる。

2. システム構成

図1|飛騨信濃周波数変換設備の主回路構成図1|飛騨信濃周波数変換設備の主回路構成日立は,中部電力(60 Hz)側である飛騨変換所の交直変換設備を一括納入した。

表1|飛騨信濃周波数変換設備の仕様・条件表1|飛騨信濃周波数変換設備の仕様・条件飛騨信濃周波数変換設備の主な仕様を示す。ただし,環境条件は中部電力飛騨変換所の条件を示す。

飛騨信濃周波数変換設備は,長野県の東京電力パワーグリッド株式会社新信濃変電所から,岐阜県に新設される中部電力飛騨変換所までを全長約89 kmの架空線で結ぶ直流送電設備であり,連系容量は900 MW(450 MW×2極構成),直流線路電圧はDC200 kVである。主回路構成を図1に,主な仕様・条件を表1に示す。

異周波系統間の連系を行う交直変換設備は過去にも存在するが,異周波系統間を架空線で連系するHVDC送電設備は日本初となる。飛騨信濃周波数変換設備のうち,日立は飛騨変換所の交直変換設備を一括で受注した。今回の変換設備は,新信濃変電所側を親局,飛騨変換所側を子局とする,異なるメーカー間のHVDCシステムとなる。このシステムにおいては,起動停止時,保護連動動作時の信号授受,保護モードの動作タイミングなど,両端システム間での協調制御が必要となる。このため,2018年に新信濃変電所にて,異なるメーカー間の制御保護装置を模擬したシミュレータ試験を実施した。その後,現地にて機器および制御保護装置据え付け後の両端システム間の結合試験を実施中である。

2019年11月に機器の据え付けを終え,現在,飛騨変換所では2020年2月から4月にかけて,両端無課電対向試験を実施している。2020年10月より系統連系試験を開始し,2021年3月に運転開始予定である。図2に,2019年9月時点の飛騨変換所の空撮写真を示す。今回,飛騨変換所に納入する機器のうち,調相機能を備えたフィルタ設備は海外製(ABB社製)のものを採用している。また,飛騨変換所には,外気温度-30℃〜+35℃,標高1,085 m,積雪200 cmの豪雪地帯という環境条件があり,機器の開発にあたってはこれらの条件を考慮したシステム検討により最適化を図っている。

以下の章では,主要機器であるサイリスタバルブ,DC-GIS,変換用変圧器,調相・フィルタ設備,制御保護装置の特長を述べる。

図2|飛騨変換所の空撮写真図2|飛騨変換所の空撮写真敷地面積約6万平方メートルに及ぶ飛騨変換所の全体像を示す
(2019年9月時点)。

3. サイリスタバルブ

図3|450 MWサイリスタバルブの外観図3|450 MWサイリスタバルブの外観4アーム積層構造として,1アーム当たり6台のモジュールを実装した。

図4|サイリスタバルブのモジュール外観図4|サイリスタバルブのモジュール外観光直接点弧サイリスタ[VBO(Voltage Break Over)機能付き,定格電圧8 kV,定格電流2,490 A]を6台直列接続した。
サイリスタを含むモジュールの各部品が故障した際には,モジュール全体の交換でなく,部品単位での交換が可能である。

直流送電システムを構成する機器の中で,交流から直流,直流から交流へ電力を変換する機器がサイリスタバルブ(交直変換装置)である。飛騨変換所のサイリスタバルブには,日本のFC(Frequency Converter)設備において実績がある光直接点弧サイリスタを使用した空気絶縁純水冷却方式を採用した。

サイリスタバルブの主な仕様は,1極当たりの定格容量450 MW,定格直流電圧DC200 kV,定格直流電流DC2,250 Aである。サイリスタバルブは4アーム積層構造として,1アーム当たり6台のモジュールを実装した(図3参照)。また,モジュールは定格電圧8 kV,定格電流2,490 Aのサイリスタ6台の直列接続とした(図4参照)。

サイリスタバルブ設計のポイントは以下のとおりである。

  1. VBO(Voltage Break Over)機能付き大容量光直接点弧サイリスタの適用
    日立として,VBO機能付きサイリスタをHVDC送電設備に初適用した。これにより,サイリスタに一定の値を超える過電圧が印加した際,素子が自己点弧しサイリスタへの過負荷を回避する。また,サイリスタを含むモジュールの各部品が故障した際は,部品単位での交換方式の採用により短時間での交換・復旧作業が可能である。
  2. 輸送および現地作業工数を考慮したバルブ構造・寸法の採用
    サイリスタバルブは工場での組立・分解,現地への輸送制限および現地での組立工数の低減を考慮した寸法とし,高さ方向のみの分解・組立構造を採用した。
  3. 耐震性能の解析・検証
    サイリスタバルブの構造設計においては,解析モデルを用いた固有振動数解析を実施した。また,サイリスタバルブの耐震性能の検証にあたり,実器を用いて固有振動数を測定した。この結果,解析値と実測値が同等であることを確認し,耐震仕様を満たすサイリスタバルブの構造を実現した。
  4. 冷却装置の仕様合理化およびロータリ制御の採用
    サイリスタバルブの冷却には閉ループ循環冷却水を使用しており,冷却水は熱交換器を介して屋外に設置した冷却装置により冷却される。サイリスタバルブは標高1,085 mに設置されるため,屋外気温の上限が35℃であることを考慮し,冷却装置の台数を合理化した。また,ロータリ制御の採用により,冷却装置の適切な運転台数の設定および運転時間の平準化を実現した。

4. DC-GIS

図5|DC-GISの外観図5|DC-GISの外観標高,外気温,積雪条件などを考慮し,充電部が金属に覆われたDC-GISを適用した。飛騨変換所の運転開始に伴い,日立で初めてのDC-GISの運用となる。

飛騨変換所は標高1,085 m,積雪200 cmの豪雪地帯に位置し,外気温度は-30℃〜+35℃となる。こうした環境条件を考慮し,充電部が金属に覆われて外部環境の影響を受けにくいDC-GIS(本線の定格電圧DC200 kV,帰線の定格電圧DC10 kV,定格電流DC2,250 A)を適用することとした(図5参照)。DC-GISは,感電に対する安全性が高く,環境に依存した劣化要因が少ないためメンテナンスの省力化が実現可能であるほか,耐震性能に優れ,敷地面積を縮小可能であるなど多くのメリットを有している。

このDC-GISは交流機器と異なり,直流特有の抵抗率に依存した電界設計が必要であり,直流絶縁で最も重要となる金属異物の影響,絶縁物の帯電現象を考慮した機器設計が求められる。このため,実規模での検証試験を実施するとともに,交流用GISの最新技術を取り入れることで信頼性の高いDC-GISの設計技術を確立した。

また,DC-GISの構成要素であり直流システムにおける絶縁協調として重要となる直流用避雷器では,直流専用の長寿命避雷素子を適用したタンク形避雷器の設計開発を行い,解析技術を駆使したシールド適正配置による電位の均一化を実現している。さらに,直流システムの保護制御に関して重要な構成要素である直流用変流器はゼロフラックス方式の変流器であり,直流用変成器は抵抗容量分圧方式の変成器である。これらはともに直流専用の新規品であることから,誤差性能に代表される性能評価だけでなく,GISに組み込んだ状態で補助盤を含めた計測システムとして検証を行い,十分な性能・品質であることを確認している。

それらに加え,断路器,接地開閉器,気中ブッシング,ガス-油ブッシングなど,各コンポーネントを直流用として絶縁性能,通電性能,開閉性能の評価を行い,すべてのコンポーネントをガス絶縁方式とした高い信頼性を有するDC-GISを実現している。

5. 変換用変圧器

変換用変圧器の構成は,輸送制限ならびに据え付けスペースを踏まえた合理的な分割単位とするため,上段Y/Y脚と下段Y/Δ脚で構成した単相4脚鉄心を1タンクとし,3タンクを組み合わせて三相結線する特別三相型変圧器を採用した。

飛騨変換所の外気温度-30℃〜+35℃,標高1,085 mという環境条件がJEC-2200-2014「変圧器」に定められる常規使用状態(-20℃〜+40℃,標高1,000 m以下)の範囲を超過することから,外気温度下限-30℃に対しては,通常よりも流動点の低い低温流動油を採用することにより油の流動性を保ちつつ,熱および絶縁に影響を及ぼさないよう対策した。また標高については,気圧低下による影響を加味した工場検証を実施するため,温度上昇限度および耐電圧試験値の補正ならびに気中絶縁距離の補正を実施した設計・製作としている。

また,従来の変換用変圧器と同様に,巻線内の各部直流電界を詳細に検討するとともに,直流偏磁による無負荷損および騒音の増加や,高調波電流による負荷損の増加といった変換用変圧器特有の事象についても十分検討を行い,信頼性の高い変圧器を製作した。

6. 調相・フィルタ設備

図6|交流フィルタ図6|交流フィルタ海外製の気中絶縁方式フィルタを採用し,2極の交直変換装置のそれぞれに冗長2群,合計4群を配置した。
直流フィルタは,交直変換棟の奥側に配置している。

飛騨変換所では,国内の電力用交直変換設備で初めて海外製(ABB社製)の気中絶縁方式フィルタを適用した。缶形ユニットを直並列接続したコンデンサバンク,乾式空心リアクトルおよび乾式抵抗器で構成され,いずれも自冷式である。気中配置の自由度を生かした複同調式フィルタにより,効率的な電圧ひずみの抑制を図っている。

図6に示すように,交流フィルタは(1)交直変換装置から発生する高調波電流の流出を抑制する11/13次BP(Band-pass)フィルタと23/35次HP(High-pass)フィルタ,(2)交流系統側に存在する高調波の交直変換装置への影響を抑制する5/7次HPフィルタ,(3)交流系統の逆相電圧成分が交流系統・交直変換装置・直流系統の相互作用を介して誘起する3次高調波を抑制する3次C形フィルタの,合計4種類のフィルタにより1群を構成した。直流側は,交直変換装置から発生する高調波電圧に起因して直流送電線に流出する高調波電流を,12/24次HPフィルタで抑制している。

交流フィルタについては,2極の交直変換装置のそれぞれに対して冗長2群の構成とすることにより,交直変換設備全体の信頼性を高めた。合計4群の交流フィルタを配備した結果,冗長分を部分的に入切することによる進相容量調整が可能となり,国内で初めてShR(Shunt Reactor)と組み合わせて調相設備を構成した。

また,積雪200 cmの豪雪地帯に位置するため,すべてのフィルタ設備を架台で200 cmかさ上げし,積雪による対地の離隔距離減少を防止した。また,各設備の屋根を急勾配にして積もった雪を落下させる設計とし,耐震設計への積雪の影響を排除した。その際,雪の落下位置には設備を配置しないよう配慮した。

耐震設計については,海外メーカーの検討手法がIEEE 693に基づいたモーダル応答スペクトル解析であり,日本のJEAG 5003による時刻歴モーダル応答解析と異なることから,「JEAG 5003の3 m/s2正弦3波を,IEEE 693手法適用を目的として換算した応答スペクトル2)」を用いて行った。

7. 制御保護装置

図7|制御保護装置システム構成図7|制御保護装置システム構成12相制御装置からサイリスタ点弧パルス,極保護装置から保護連動を出力し,調相制御装置でACFとShRの制御を行う。各装置の情報は所内LANを経由し,遠隔から確認することが可能である。

図8|HSRによる装置間通信図8|HSRによる装置間通信各装置間をループ状に接続することによって冗長化を図り,入出力インタフェースの削減にも貢献している。

制御保護装置は,サイリスタバルブの制御や機器保護など,変換システムを運用するうえで重要な役割を担っている。このため,単一装置が故障した場合でも運用に支障がないように2重系で構成しており,飛騨信濃周波数変換設備のシステム信頼度を維持している。主な機能は,以下のとおりである。

  1. 交流/直流変換を行うサイリスタバルブへの点弧角位相制御
    変換器制御は,交流・直流系統の状態をセンシングして,親局(新信濃変電所)からの運転指令に基づき,サイリスタバルブに適切な点弧位相パルスを出力している。これらの制御は刻々と変化する60 Hz系統および親局指令と協調する必要があり,高速演算処理を用いて実現している。
  2. 故障種別ごとに適切な保護動作を行う保護連動
    交流システムの保護は遮断器開放にて行われるが,直流システムの保護には,サイリスタバルブのゲート制御と適切なタイミングでの交流側の遮断器開放を組み合わせた保護連動が必要となる。保護連動は,変換機器の故障や直流・交流系統の異常などさまざまな異常現象を種別ごとに検出し,最適な保護パターンによって安全にシステムを停止させている。
  3. 交流フィルタの冗長予備を活用した調相制御
    調相制御は,交直変換装置の消費無効電力を補償するために,融通電力に応じて調相機器の投入・開放を行い,交流系統との無効電力バランスを保つ機能である。飛騨変換所の調相機器はShRに加えて交流フィルタの冗長予備器を活用しており,国内初となる構成である。交流フィルタは各次数とも2バンクを有しており,1バンクは高調波除去用に必ず使用し,冗長予備となる残り1バンクを無効電力補償用として入切制御する。このとき,特定のバンクや次数に制御が偏らないよう,適切な等頻度制御を実施している(図7参照)。

これらの機能を実現するため,交流保護ディジタルリレーで採用しているVeuxbusシリーズを,直流の制御保護装置に初めて適用した。交直変換所には多くの装置が存在するが,従来のサイリック伝送方式(54キロビット/s,光伝送)から産業用イーサネット※)の冗長化通信方式であるHSR(High-availability Seamless Redundancy)伝送方式を適用することにより,装置間インタフェースの大幅な削減と信頼性向上を図った。また,最新の高精度サンプリング技術やリアルタイム通信による技術を応用し,制御保護性能の向上と装置のコンパクト化も実現している(図8参照)。

運用保守面では,運用保守LAN(Local Area Network)を構築し,遠隔PCから各装置の保守情報が確認可能な構成とした。特に飛騨変換所は従来のHVDC送電設備と異なり,運用開始当初から無人化が予定されているため,ニーズに対応した構造となっている。

※)
イーサネットは,富士ゼロックス株式会社の登録商標である。

8. おわりに

本稿では,2021年3月に運転開始予定の飛騨信濃周波数変換設備と,日立が納入する飛騨変換所の各機器の仕様と特長について述べた。

現在,さまざまな直流プロジェクトが計画されており,本プロジェクトで培った知見を次期プロジェクトに生かしていく考えである。

参考文献など

1)
電力広域的運営推進機関:東京中部間連系設備に係る広域系統整備計画(2016.6)(PDF形式、1.2Mバイト)
2)
変電設備仕様国際化専門委員会:変電設備仕様の国際化,電気協同研究会,第63巻,第4号(2008.3)
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