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次世代のエネルギーを実現するイノベーション
[ⅰ]パワーグリッド

高度センシング技術を適用したデジタル変電所の実現

ハイライト

近年,設備のスリム化によるコスト低減などを目的として,国内では変電所のデジタルネットワーク化が盛んに議論されているが,既存システムからのスムーズな移行など実現上の課題もまだ多いのが実状である。

日立では,課題の一つである,既存の保護制御システムとデジタルネットワーク化した保護制御システムの共存を可能とするマイグレーション手法の検討や,さらなるシステムの最適化をめざした検討を進めている。また,高度センシング技術により,今まで収集できていなかった設備の劣化情報などを管理・分析することを可能とし,デジタルデータを活用した新サービスによるさらなる価値をユーザーに提供することをめざしている。

目次

執筆者紹介

高橋 祥平Takahashi Shohei

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 エネルギーソリューション本部 送変電制御システム設計部 所属
  • 現在,デジタル保護制御システムの設計・開発業務に従事
  • 電気学会会員

城戸 三安Kido Mitsuyasu

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 エネルギーソリューション本部 送変電制御システム設計部 所属
  • 現在,デジタル保護制御システムの設計・開発業務に従事
  • 電気学会会員

兵藤 和幸Hyoudou Kazuyuki

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 エネルギーソリューション本部 送変電制御システム設計部 所属
  • 現在,デジタル保護制御システムの設計・開発業務に従事
  • 電気学会会員

片山 茂樹Katayama Shigeki

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 エネルギーソリューション本部 送変電制御システム設計部 所属
  • 現在,変電所デジタル化の事業展開に従事
  • 電気学会会員
  • IEEE会員

山田 弘道Yamada Hiromichi

  • 日立製作所 研究開発グループ 制御イノベーションセンタ 制御プラットフォーム研究部 所属
  • 現在,AIを活用したプラント設備の状態センシング技術の開発に従事
  • 電子情報通信学会会員

1. はじめに

電力の送電における重要中継拠点である変電所では,保護制御装置によって主要機器の保護,ならびに監視制御を行うことで,系統の安定運転を維持・継続している。

国内の変電所では,保護制御装置および電気設備の間に敷設された多数の制御ケーブルにより情報を受け渡しており,ケーブル敷設や保守メンテナンスなどのコストがかかるという課題がある。これらのコスト低減を目的として,国内では,変電所のデジタルネットワーク化(デジタル化),特に海外で普及している国際規格IEC 61850の導入について盛んに議論が行われているが1),2),試験的な運用を除いて本格的な導入事例は報告されていない。

本稿では,変電所のデジタル化を実現するうえでの課題と解決方法について紹介する。また,デジタル化技術,高度センシング技術,情報処理技術を融合し,機器の劣化診断をはじめとするデジタルデータを活用した新たなサービスについて提案する。

2. 変電所のデジタル化

図1|既存の保護制御システムと将来のオールデジタル化したデジタル保護制御システムのシステム構成比較図1|既存の保護制御システムと将来のオールデジタル化したデジタル保護制御システムのシステム構成比較デジタル保護制御システムでは,配電盤室内および配電盤室−機器ヤード間の制御ケーブルが大幅に削減される。これにより,設備更新時の工事期間短縮などのメリットが見込まれる。

図1に既存の保護制御システムと将来のオールデジタル化した保護制御システム(以下,「デジタル保護制御システム」と記す。)の構成例を示す。既存の保護制御システムは,系統を安定的に運用するのに必要な遮断器などの主器,主器を操作する現場操作盤,主器へのトリップ指令や制御指令を出力したり各設備の監視情報を収集したりする保護装置・監視制御装置によって構成される。本システムは遠方監視制御装置を経由して制御所システムと接続されており,遠方からの監視制御も可能な構成となっている。各装置間や装置−主器間には多数の制御ケーブルが敷設されており,設備更新・追加のたびに工事が発生するため,工事期間の短縮が図れないといった課題がある。また,設備点検などの変電所運用は保守員によって行われることが多く,将来の労働人口減少を見据えた効率的な運用手法の確立が急務である。さらに近年では,既設変電設備の劣化状況を正確に把握し,効率的な設備更新計画につなげることも求められつつある。

以上を踏まえ,日立ではユーザーの変電所運用をサポートするべく,変電所デジタル化によって以下の実現をめざしている。

  1. デジタルネットワーク化による省配線と設備構成の最適化
    各装置が制御ケーブルで受け渡している接点情報,遠隔監視情報[SV(Supervision)情報],遠隔測定情報[TM(Telemetering)情報]をデジタルデータに変換し,デジタルネットワークを経由して他の装置間との情報交換を可能とする。図1に示すように,主器へ直接接続するMU(Merging Unit)と主器間以外の敷設ケーブルを大幅に削減することができるため,設備更新・追加時の工事期間短縮やメンテナンスが容易になるなどのメリットがある。
  2. 高度センシング技術の活用による設備の劣化兆候の検出と劣化診断
    変電設備の各種情報をセンシング技術によってデジタル化し,データを分析することで設備の劣化状況を把握する。特に,新たに開発した高感度センサーにより,検出が困難であった微小な劣化兆候を部分放電現象で検出し,デジタルデータに変換して分析することで,従来よりも高精度な設備の劣化診断が可能になる。本診断により,設備の故障を事前に予測して修理・更新することが可能となり,事故を未然に防ぐことができる。
  3. デジタル情報の集約・分析によるユーザーの設備管理支援
    各変電所においてデジタル化した運用情報や設備の劣化情報を集約・分析することで,ユーザーが保有する設備の状態を可視化し,効率的な点検・更新計画の立案をサポートする。

次章以降では,これらの機能を実現する保護制御システムのオールデジタル化におけるマイグレーション手法,高度センシング技術を活用した劣化診断システム,デジタルデータを活用した設備管理支援システムについて紹介する。

3. 保護制御システムのオールデジタル化におけるマイグレーション手法

図2|システムのマイグレーション手法図2|システムのマイグレーション手法システムの移行途中はデジタル対応装置と非対応装置が混在するが,共通インタフェース装置により既存のデジタル非対応装置をデジタル保護制御システムに取り込むことが可能である。

既設の保護制御システムをデジタル化する場合,既存装置の更新に合わせてデジタルネットワーク対応装置(デジタル対応装置)に置き換えることが想定されるが,各装置の更新周期が合わないため,部分的に移行する手法が必要になる。その場合,更新の過程ではデジタル対応装置と非対応装置が混在してしまうため,デジタル非対応装置をデジタル保護制御システムへ取り込む手法が必要となる。

図2に既設の保護制御システムをデジタル化するプロセスを示す。

ステップ1-1

デジタル化した情報を管理するため,既存の監視制御装置をデジタル対応装置で最適化した制御システムに更新する。これにより,デジタルネットワークを経由してデジタル対応装置への制御指令出力や監視情報の収集が可能となる。ただし,デジタル非対応装置および制御所システムとの接続は不可であるため,ステップ1-2,1-3も合わせて実施する必要がある。

ステップ1-2

ステップ1-1で更新した制御システムと既存のデジタル非対応装置とのインタフェースの役割を持つ共通I/F(Interface)装置を導入する。本装置は,接点情報を取り込みデジタルデータに変換して制御システムへ送信する機能と,制御システムから受信した制御指令に基づきデジタル非対応装置へ制御指令を接点出力する機能を持つ。これにより,デジタル保護制御システムに既存のデジタル非対応装置を取り込むことが可能となる。

ステップ1-3

デジタル保護制御システムと制御所システムを接続するためにゲートウェイ装置を導入する。本装置は,変電所構内で使用している通信プロトコルと制御所システムで使用している通信プロトコルを相互変換する機能を持つ。これにより,既存の制御所システムとデジタル保護制御システム間で情報を伝送することが可能となり,制御所システムには影響を与えずに変電所のデジタル化を行うことが可能となる。

ステップ2

共通I/F装置に接続している既存の保護装置や現場操作盤をデジタル対応装置に更新する。対象装置は一括で更新する必要はなく,装置ごとに更新することが可能である。

これらのステップを繰り返し,変電所内のすべての装置をデジタル対応装置に更新することでデジタル保護制御システムの完成形となる。ただし,火災警報など所内共通の警報情報に関してはシステム以外の仕様にも依存しており,デジタル化が困難な可能性も考えられる。その場合は,共通I/F装置を介してシステムに接続することを想定している。また,4章以降で紹介する設備の劣化診断システムや設備管理支援システムとデジタルネットワークを介して連携し,変電所運用をサポートする手法についても検討している。この他に,ハード実装の制約により分散していた保護制御システムの構成をデジタル化によって最適化することができ,トータルコストの削減や機能拡張・変更・試験時の利便性向上が見込まれる。

4. 高度センシング技術を用いた設備の劣化診断システム

図3|日立で検討中のケーブル絶縁劣化診断システム図3|日立で検討中のケーブル絶縁劣化診断システム運転中の設備から発生する極微小な放電パルス信号を高感度センサーで収集・分析することで,設備の劣化状況をオンラインで推定する。

図4|ケーブル絶縁劣化診断システムにおける部分放電判定処理の概要図4|ケーブル絶縁劣化診断システムにおける部分放電判定処理の概要複数サイクルの測定データから,部分放電発生位相角分布データを生成し,2種類のニューラルネットワークで部分放電のクラス判定と特徴量のクラス判定を行う。これらを総合的に判定し,部分放電の段階を推定する。

日立で検討中のケーブル絶縁劣化診断システムを図3に示す。日立では,運転中の設備から発生する極微小な放電パルス信号を高感度センサーで収集・分析することで設備の劣化状況をオンラインで推定するサービスを検討している。

4.1 送電ケーブルの絶縁劣化

送電ケーブルは,電気を伝える導体が絶縁体および接地された金属シースで覆われたものである。経年劣化により絶縁体に油隙や空隙(ボイド)や水トリーなどの欠陥が生じると,その箇所に部分放電が発生するようになる。部分放電を早い段階から検出し分析することで,ケーブルの劣化状況を推定することが可能である。

4.2 部分放電によるケーブル絶縁劣化診断のメカニズム

部分放電が発生した場合,高周波のパルス信号が金属シースから接地線へと流れるため,本システムではこの信号を高周波センサーで検出する。検出した信号を部分放電検出装置でA/D(Analog to Digital)変換・サンプリングした後にデジタルネットワークを経由して分析用PCに集約し,解析処理を行って部分放電の段階を判定することで,劣化状況を推定する。

部分放電判定処理の概要を図4に示す。上の九つのグラフは印加電圧1サイクルの間に発生したパルス信号を,横軸を印加電圧位相φ,縦軸を電荷量qとしてプロットしたグラフである。これらのグラフから,各位相でどの程度の大きさの電荷量が何回(n)放電されたかを算出し,マッピングしたデータを部分放電発生位相角分布(φ-q-n)データと呼ぶ。

さらに,特徴量検出アルゴリズムによりφ-q-nデータの特徴量を示すpqn4,pqn5を生成することが可能である。

このようにして生成したpqn1-5のデータを,あらかじめモデル学習を行った2種類のニューラルネットワークにそれぞれ入力し,分析した結果を総合的に判定して部分放電の段階を推定する。

5. 情報処理技術を用いた設備管理支援システム

図5|設備管理支援システム図5|設備管理支援システム変電所のデジタル化および劣化診断システムの導入により,設備の詳細な状態・運用情報を収集することが可能であり,それらの情報を分析して可視化することで,ユーザーの設備管理戦略の立案をサポートする。

日立で検討中の設備管理支援システムの概要を図5に示す。変電所のデジタル化により各変電所における設備の運用状態や劣化状態などをデジタルデータとして集約することができ,将来的にはこれらの情報を分析して,設備のリスクマップ,更新優先順位,ライフサイクルコスト分析結果などを提供可能と考える。また,本情報に基づいて実施された設備の保守保全作業データをシステムにフィードバックし,AI(Artificial Intelligence)にモデル学習させることで,より高精度な分析が期待できる。以上のように,設備管理支援システムにより,ユーザーの最適な設備点検・更新戦略の立案に寄与する。

6. おわりに

本稿では,変電所をデジタル化するうえでの課題や解決方法およびデジタルデータを活用した新サービスについて紹介した。今後は,より高精度な劣化診断技術の開発や設備管理支援システムの開発を進めていく。

参考文献など

1)
高橋祥平,外:海外汎用IEDを活用した変電所監視制御システムの開発,保護リレーシステム研究会,PPR-17-005(2017.5)
2)
大谷哲夫,外:国内の変電所監視制御システムに対するIEC 61850の適用―共通化を指向した機能仕様に基づく監視制御装置の試作と評価―,電力中央研究所 研究報告,R13003,p.99〜103(2014.2)
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