次世代のエネルギーを実現するイノベーション
[ⅱ]分散電源ソリューション
日立は国内外の顧客に向けて,分散電源としての産業用ガスタービン「H-25シリーズ」を提案してきた。今回,東ソー株式会社四日市事業所のエチレン製造設備向けに,H-25GTへの更新およびガスタービンの排ガスを有効活用するシステムの提案を行った。このシステムは,従来,フレアスタックとして処理していたエチレン製造の過程で発生する副生ガスのうち余剰分をガスタービンの燃料として使用し,電力を生み出すことで,受電量の削減,大幅な省エネルギー効果を実現するものであり,環境共創イニシアチブ(SII)の補助金の対象にもなっている。
本稿では,主契約者である日立が同プロジェクトを完遂するまでのプロジェクト管理の詳細と高信頼性ガスタービン制御装置技術の概要を紹介する。
東ソー株式会社四日市事業所のエチレン製造設備では,エチレンの製造工程で発生する副生ガスを既設ガスタービン(以下,「GT」と記す。)の燃料として使用し,電力を生み出していたが,既設GTの信頼性が乏しく,2011年から運転を停止していた。
これに対し,日立は高信頼性GT「H-25」によるGTおよび制御装置の更新と,排ガスの熱を有効活用し,省エネルギー化を図るシステムを提案した。これにより設備の稼働率は大幅に改善し,2019年2月の運転開始から1年の間に十分な省エネルギー効果を実証し,エチレンの生産効率向上に貢献するとともに,顧客の高い評価を得ることができた。
本稿では,日立が主契約者として,工程,品質,性能保証値などを十分に満足して完遂した同プロジェクトにおけるプロジェクト管理と,高信頼性GT「H-25」およびその制御装置について紹介する。なお,本プロジェクトはSII(Sustainable Open Innovation Initiative:一般社団法人環境共創イニシアチブ)の「平成29年度 エネルギー使用合理化等事業者支援事業」の対象にもなっている。
図1|GT発電設備とナフサ分解炉の連携システム概念図GT排ガスは熱交換器と別のナフサ分解炉へ送気される。ナフサ分解炉で発生する副生ガスの一部がGTの燃料となり,フレアスタックの軽減とともに,受電量を削減する。
東ソー四日市事業所のエチレン製造設備では,従来,燃焼用空気を既設FDF(Forced Draft Fan)を通じてナフサ分解炉へ供給していたが,今回,日立が提案したシステムでは,燃焼用空気とGT排ガスの熱を熱交換器にて交換する一方,別のナフサ分解炉には直接GT排ガスを送ることで,効果的な排熱の回収を実現している。
副生ガスは既設ガスヘッダーに集められ,ナフサ分解炉のバーナーなどで使用されるとともに,GTの燃料としても活用され,GTで使用しない場合にはフレアスタックとして廃棄処分される。また,バックアップ燃料として他の工程からの副生ガスも活用されている。
したがって本GT発電設備は,ナフサ分解炉の運転に必要な熱量をGT排ガスを通じて供給する一方,ナフサ分解炉から発生する副生ガスを燃料として運転しており,ナフサ分解炉と相互に連携運転を行うものである。
図1にGT排ガスとナフサ分解炉の連携の概念を示す。
今回は,三菱日立パワーシステムズ株式会社(以下,「MHPS」と記す。)製のヘビーデューティー型シンプルサイクルGTであるH-25(タイプ32C)(定格出力33 MW,回転数7,250 rpm/1,800 rpm)を採用した。H-25GTは分散電源としての活用が可能で,国内外で十分な運転実績を有しており,エチレン製造設備の連携運転に適していると判断した。
本プロジェクトでは,日立が主契約者としてMHPSからGT,発電機,電気盤を購入し,据え付け工事を取りまとめた。GT制御装置には,日立のHIACS-MULTIを採用した。
日立製作所エネルギービジネスユニット発電事業部がプロジェクトマネジャーとして,プロジェクトチーム体制を設置し,エンジニアリング工程,工事工程,顧客対応,技術,品質的指導,コストの責任を受け持った。また,補助金事業を担当する産業・流通ビジネスユニット産業ユーティリティソリューション本部とも密接に連携した。プロジェクトの受注から納品までの工程を図2に示す。
図2|プロジェクト実績工程2017年10月の受注後,設計段階では適宜PJ会議において仕様の調整を図り,計画通り2019年1月に運転を開始した。
図3|現地工事作業の様子と発電設備の3Dモデル四日市港に到着した輸送船から陸送用トレーラへの積み替えの様子(左上),現場に到着したGTを550 tクレーンにて吊り上げる様子(右上),顧客の既設ナフサ分解炉に接続する新設GT排気ダクトを220 tクレーンにて吊り上げ,据え付ける様子(左下),配管の干渉など現地据え付け工事上の問題がないことを事前に確認するための発電設備の3Dモデル(右下)を示す。
本プロジェクトにおける先手管理の代表的な施策,リスク評価,対応,課題について紹介する。
本プロジェクトでGT制御装置として適用したHIACS-MULTIは,火力,水力から原子力まで,多くの発電プラントで実績のあるHIACS(Hitachi Integrated Autonomic Control System)をベースに,三重化制御システムの採用により信頼性を向上しつつ,6面分の機能を3面に集約したコンパクト設計で経済性にも優れた発電監視制御システムである。
GT制御システムにおいては,CPU(Central Processing Unit)とPI/O(Process Input/Output),速度センサー,油圧サーボ弁などをそれぞれ冗長化した構成としている(図4参照)。GT制御装置は独立並列三重系のシステムを採用し,単体故障時の制御・監視機能喪失に対する信頼性を向上した設計としている。
独立並列三重系は,CPUとPI/Oが三重化で構成され,個々に入力・演算を行い,以下の出力方式により信頼性の高いシステムとしている。
これにより,一つの系統で故障が発生した場合でも,残る二系統で信頼性の高い状態を保ったまま運転を継続することが可能である。
GT制御装置は多数の電子部品で構成されているため,わずかでもノイズが流入すると,それが内部で増幅され,内部回路の誤作動を引き起こす場合がある。日立は,制御システムベンダーとして耐ノイズ設計についてのノウハウを有しており,以下の対策を実施した製品を提供している。
図7|EMiliaによる制御の内容製造プロセスの余剰副生ガスを計測し,これを使用した際のGT発電出力の最大値を計算してGTを制御する。
図8|ピーク時間帯における電力対策量の実績2019年の電力対策量を示す。ピーク電力対策時間帯に大幅な対策が取れていることが分かる。
SIIによる「平成29年度 エネルギー使用合理化等事業者支援事業」の対象として,本プロジェクトのピーク電力対策事業およびエネルギーマネジメント(以下,「エネマネ」と記す。)事業を申請した。ピーク時間帯での電力対策量16 GWh,エネマネによる電力対策量8 GWh※1)を合算し,年間ピーク電力対策量は24 GWhであるとした。EMS(Energy Management System)には,日立がSIIのエネマネ事業用システムとして登録している統合EMS「EMilia」を使用した。EMiliaの主な特長は,以下のとおりである。
今回,EMiliaの機能を活用して,副生ガスを燃料とするGTの最適運転ロジックを構築した(図7参照)。
今回導入したGT発電設備の燃料は副生ガスである。副生ガスはエチレンの原料であるナフサの性状により,発生する副生ガスの量,発熱量が変動する。これまでは,余剰に発生した副生ガスはフレアスタックにて処理していた。今回,大気放出している副生ガスの熱量の計測結果をEMiliaにて監視し,発生量の変動,他の工程での使用状況の変動を考慮して,変動対応の尤(ゆう)度を設定し,GTの発電燃料として使用することとした。
GTの制御システムでは本来,発電に必要な燃料は供給されることが前提となっており,目標の発電出力値に対応した燃料が消費される。
本システムにおいては,GTの燃料はエチレン製造工程で発生する副生ガスであり,エチレン製造工程内のエネルギーバランスの上に成り立っているため,GTの発電に使用する燃料が不適切な場合,工程内のエネルギーバランスが崩れて最適な運転ができないおそれがある。EMiliaはフレアスタックによりロスしているエネルギーを適切にGTで消費できるよう,工程内のエネルギーバランスを計算し,GTの発電出力の増大につなげることが可能である。2019年2月の運転開始から11月までの実績によれば,ピーク電力対策時間帯※2)におけるピーク電力削減量は合計32 GWhに上り,計画電力対策量24 GWhをすでに達成している(図8参照)。
日立は分散電源として最適な産業用GT「H-25」を引き続き国内外の顧客へ提案していく。
特に,本プロジェクト同様に省エネルギー効果が大きい案件に対して重点的に,顧客の設備やニーズに沿った発電設備を提案する。これにより,世界的なニーズであるCO2の削減にも寄与できるものと確信している。最後に,本プロジェクトにおける据え付け工事完了後のプラント設備外観を図9に示す。
図9|据え付け工事完了後の外観納入プラント設備外観(左),GT本体後方外観(中),GT排気ダクトと顧客設備との接続点(右)を示す。
本稿では,GT発電設備における日立のプロジェクトマネジメントの実践について紹介した。
今後も強力なプロジェクト管理を展開・推進し,工程,品質,性能保証値などを満足した信頼性の高い発電設備により,省エネルギー化のみならず,顧客の生産効率向上に寄与していく。