日立評論

地域の再生エネルギーと既存配電線を活用した地域マイクログリッドの検討

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次世代のエネルギーを実現するイノベーション
[ⅲ]エネルギーマネジメント

地域の再生エネルギーと既存配電線を活用した地域マイクログリッドの検討

ハイライト

熊本県芦北町で運転中のSGET芦北御立岬メガソーラー(1,980 kW)を主電源とし,同地区内5か所の避難所などを電力供給先とするシステムにおいて,災害時の電力レジリエンス強化を目的とした地域マイクログリッドの検討を行った。このマイクログリッドでは,自営線の建設コストの削減を図るべく,御立岬メガソーラーから電力供給先への送電に既存の九州電力の配電線を活用している。

本稿では,マイクログリッドの構成・制御保護方式などの技術検討を中心に紹介するとともに,実システム構築に向けた制度上の対応および運用上の課題についても報告する。

目次

執筆者紹介

中村 知治Nakamura Tomoharu

  • 日立製作所 エネルギービジネスユニット 新エネルギーソリューション事業部 新エネルギーシステム本部 太陽光発電推進部 所属
  • 現在,再生可能エネルギーのソリューション事業開発に従事
  • 技術士(電気電子部門)
  • 電気学会会員
  • IEEE会員

永山 祐一Nagayama Yuichi

  • 日立製作所 エネルギービジネスユニット 新エネルギーソリューション事業部 新エネルギーシステム本部 太陽光発電推進部 所属
  • 現在,再生可能エネルギーのソリューション事業開発に従事
  • 技術士(電気電子部門)

今野 博充Konno Hiromichi

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット エネルギーソリューション本部 送変電制御システム設計部 所属
  • 現在,再生可能エネルギー活用に向けた蓄電池適用型系統ソリューションの設計業務に従事

原田 裕基Harada Hiroki

  • 日立製作所 エネルギービジネスユニット エネルギー生産統括本部 自然エネルギー発電システム生産本部 太陽光発電システム部 所属
  • 現在,太陽光発電所のシステム設計業務に従事
  • IEEE会員

佐野 裕子Sano Yuko

  • 日立製作所 研究開発グループ 制御イノベーションセンタ 産業システム制御研究部 所属
  • 現在,再生可能エネルギー向け蓄電池システムの研究・開発に従事

1. はじめに

2018年の北海道胆振東部地震や2019年の台風15号,19号の被害を受け,電力システムのレジリエンス強化の重要性が再認識された1)。一方で地元の再生可能エネルギーを活用した需給一体型の地域電力供給システムに期待が集まっている2)。しかし従来の地域電力供給システムは自営線による電力供給システムが基本で,自営線の建設コストがシステム実現の障害の一つであった。

そこで,既存配電系統を活用することでコストを削減したマイクログリッドによる災害時の電力供給システムの検討を行った。従来にない新しいシステムであることから,地元自治体(熊本県芦北町),一般送配電事業者(九州電力株式会社)などの協力の下,技術検討から制度上の課題まで踏み込んだシステム検討を行った。マイクログリッドの主電源は既存の1,980 kWのメガソーラーとし,新設の蓄電池で需給バランス制御を行うシステムを提案する。

2. 地域マイクログリッドの対象区域とシステム概要

熊本県芦北町で運転中のSGET(SPARX Green Energy & Technology)芦北御立岬メガソーラー(1,980 kW)を主電源とし,指定避難所など5か所が災害時の電力供給先となるエリアをマイクログリッド対象区域とした。SGET芦北御立岬メガソーラーから電力供給先への送電は既存の九州電力の配電線を活用する。

2.1 対象エリアと電力需要

マイクログリッドの電力供給先は,芦北町の要望を踏まえ,防災拠点となる芦北町役場田浦支所,指定避難所である芦北町地域活性化センター,田浦小学校,田浦中学校および道の駅たのうらの計5か所とした。メガソーラーとこれらの電力供給先,これらをつなぐ既存の配電線を図1に示す。このエリアをマイクログリッド対象エリアとした。

配電系統から見ると,このエリアは図1の実線で示したAエリアと,破線で示したBエリアで運用されている。メガソーラーが接続されているAエリアと電力供給先が接続されているBエリアは,平時は別系統として運用されているので,マイクログリッド運用時は常時開放されている境界の区分開閉器を閉路する。また,避難所への電力供給に関係のない支線については分岐点の区分開閉器を「切」状態にすることとした。これらの開閉器の入切操作などは,停電発生時のマイクログリッド構築操作として九州電力にて実施することとした。

以上の操作で構築したマイクログリッドの中には避難所の他にも一般の需要家が接続されている。このエリアの平常時電力需要は,昼夜の平均で約600 kW前後である。主電源となるメガソーラーは夜間や雨天時には発電できないことから,一般需要家の電力需要を混乱なく抑制することは重要な課題である。需要家一軒一軒に端末などを設置することなくこの抑制を実現するには,運用面での対処が必要である。

図1|地域マイクログリッドの対象区域図1|地域マイクログリッドの対象区域マイクログリッド運用時の主電源はSGET芦北御立岬メガソーラー,電力供給先は指定避難所など5か所である。送電には既存の九州電力の配電線(AエリアおよびBエリア)を活用する。

2.2 システム概要

図2|システム構成図2|システム構成メガソーラーの出力は天候に依存して大きく変動する。マイクログリッド内の需給バランス制御を,500 kWhの蓄電池システムで実現する。蓄電池は万が一メガソーラーが発電しない場合でも,非常用電源として活用できる。

マイクログリッドの主電源は1,980 kWの既設メガソーラーである。メガソーラーの出力は天候に依存して大きく変動する。マイクログリッドを安定的に運用するにはメガソーラーの出力変動を吸収する調整電源が必要である。そこで,調整電源として蓄電池を設置する計画とした。

図2に蓄電池を含めたシステム構成を示す。蓄電池は災害時に万が一メガソーラーが運転できなくとも非常用電源として活用できること,平時に有効活用できることなどを考慮し,防災拠点ともなる田浦支所の敷地内に設置することとした。蓄電池とメガソーラーは協調運転が必要なため,両者間には通信設備を設置し連動させている。

2018年に発生した北海道胆振東部地震では停電からの復旧に44時間48分を要した3)。これを踏まえ,災害発生時に蓄電池のみで必要最低限の電力を3日間(72時間)供給できる容量を搭載することとした。必要最低電源容量は芦北町の事前検討に基づき93 kWh/日と想定し,蓄電池容量は余裕をもって500 kWhとした。

蓄電池用PCS(Power Conditioning System)の出力定格は,必要調整電力と最大需要電力に基づいて決定する。メガソーラーの最大出力は1,980 kWであり,最大調整力として同じ1,980 kWが必要であるが,それでは設備が過大となる。そこで,メガソーラーの出力上限を需給の状況,蓄電池の充電状況(SOC:State of Charge)に応じて制御することで,必要調整電力を抑制することとした。一方,最大需要電力は一般需要家の電力需要を事前の周知徹底などの運用により抑制できることを前提として500 kW程度と想定した。以上から蓄電池用PCSの出力定格は500 kWとした。

3. 地域マイクログリッドの制御保護方式

図3|需給バランス制御のイメージ図3|需給バランス制御のイメージ蓄電池は,メガソーラーの出力が大きいときは充電運転を行い,メガソーラーの出力が小さいときは放電運転を行う。蓄電池のSOCを適正値に維持するため,メガソーラーの出力上限を抑制する。

蓄電池用PCSは系統電圧を一定に維持するような電圧源として動作し,メガソーラーの出力と需要の偏差に応じて電力を自動的に制御する。メガソーラーの出力が大きく供給過剰の場合,蓄電池は充電運転をし,メガソーラーの出力が需要よりも小さくなった場合には蓄電池は放電運転を行う。蓄電池がこのような調整能力を維持するには,適正な充放電余力を確保しておく必要があるため,蓄電池のSOCに応じてメガソーラーの出力上限を制御する。制御のイメージを図3に示す。

配電系統に地絡・短絡が発生した場合の保護は,通常,電力会社の配電用変電所に設置されている保護リレーによって行われるが,マイクログリッド運用時,配電系統は変電所から切り離されるため,メガソーラーおよび蓄電池設備自体が保護機能を持つ必要がある。そこで図2中に「27」や「64」の数字で示す地絡・短絡保護を検出する保護リレーをメガソーラーと蓄電池設備に設置し,事故検出時には保護リレーが蓄電池とメガソーラーの双方を自動的に停止することで配電系統を保護することとした。

4. 需給バランスと電圧変動の検証

4.1 需給バランスシミュレーション

図4|需給バランス制御シミュレーション結果の例図4|需給バランス制御シミュレーション結果の例曇天日の発電パターンでの3日連続の需給バランスシミュレーション結果を示す。メガソーラー出力に応じて蓄電池が充電,放電制御することで需給バランスを制御する。蓄電池のSOCが上下限値の範囲に収まり,安定運転ができていることを示している。

前章で述べた受給バランス制御の有効性を確認する目的で,御立岬メガソーラーの代表的な発電条件および需要条件に基づく需給バランス制御のシミュレーションを実施した。メガソーラーの発電条件は,過去の運転実績データから晴天日,曇天日の代表日を選択した。複数の需要パターンを想定し,目標とした3日間連続運転のシミュレーションを行った。全期間で充放電電力が定格の500 kWを超えずに,蓄電池のSOCがおおむね10%〜90%の範囲に維持されていれば安定した運転ができていることになる。

シミュレーションの結果,メガソーラーの出力上限を適切に制御すれば安定して運転できることが確認でき,基本的な制御の有効性を確認した。また,曇天時などメガソーラーの発電量が十分でない場合には需要制限が必要となる。曇天で,翌日の午前中に供給力が限界となる最も厳しい条件のシミュレーション例を図4に示す。

4.2 電圧変動解析

図5|電圧変動解析結果の例図5|電圧変動解析結果の例系統解析シミュレーションツールによる電圧変動解析の結果を示す。%で表示される図中の数値は定格電圧を100%とした各所の電圧値を示している。各所の電圧値は規定の±6%以内に収まっていることが確認できる。

配電系統の電圧は定格電圧の±6%以内に維持することが電気事業法(施行規則)で求められており,これを逸脱すると電気製品が正常に動作しなかったり,故障したりするおそれがある。電圧は,マイクログリッド内の需要分布と電力供給源となる太陽光発電および需給調整を担う蓄電池の負荷分担により変動する。そこで,マイクログリッド運用時におけるマイクログリッド内区分開閉器の区間ごとの電圧値を系統解析シミュレーションツールにより解析した。その結果,想定されるいずれの運用パターンでも系統電圧が定格電圧の±6%以内に収まり,品質が確保できることを確認した。結果の一例を図5に示す。

5. おわりに

今回の取り組みを通じて,地域マイクログリッドの基本的な技術的見通しを得ることができた。今後,システムの実現に向けて蓄電池とメガソーラー間の協調制御の細部や,発電量予測情報活用を含めた検討を進める。一方,技術的課題の他に運用上の課題も明らかとなった。主なものを以下に示す。

  1. 一般需要家の需要制限のための手法と対象区域住民の協力,電力供給範囲に対する地域住民の理解を得ることがスムーズな運用のために重要である。
  2. 蓄電池や制御システムなどの設備投資が必須であり,事業性を確保するため投資設備の平常時活用の事業モデルの検討が必要である。
  3. 電力の託送にあたりマイクログリッド事業者,一般送配電事業者,一般需要家間の給電申し合わせ書,契約の見直しや,供給不具合,配電線事故など異常時の責任範囲や補償責任など制度上の課題について詳細な検討が必要である。

今回検討した地域マイクログリッドの実現に向け,今後,技術的な課題,運用上の課題,制度上の課題の対応を含め,さらなる検討を進める所存である。

謝辞

本検討は経済産業省の「平成30年度災害時にも再生可能エネルギーを供給力として稼働可能とするための蓄電池等補助金」の一環として,地域マイクログリッド構築支援事業のうちマスタープラン作成事業を受託したSGET芦北御立岬メガソーラー合同会社からの依頼により実施した。検討にあたってはSGET芦北御立岬メガソーラー合同会社およびスパークス・グリーンエナジー&テクノロジー株式会社より協力を頂いたほか,芦北町,九州電力株式会社にはデータ提供,助言を頂いた。関係各位に深く感謝の意を表する次第である。

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