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次世代のエネルギーを実現するイノベーション
[ⅲ]エネルギーマネジメント

大規模ハイブリッド蓄電池システムの開発

ドイツ・ニーダーザクセン州でのシステム実証

ハイライト

再生可能エネルギーの拡大とともに従来型電源の代替となる調整電源が必要とされる中,調整力が電力取引市場を介して調達される欧州や米国を中心に,蓄電池システムの導入が進められている。

株式会社日立パワーソリューションズは,日立化成株式会社,日本ガイシ株式会社と共同で,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受け,ドイツのニーダーザクセン州において,再生可能エネルギーの大量導入が進んだ電力系統の安定化を目標とした大規模ハイブリッド蓄電池システムの実証運転に取り組んでいる。本システムの稼働により,従来の火力発電代替機能としての需給調整力に加え,バランシンググループ内のインバランス低減,無効電力供給の各機能を実現した。

目次

執筆者紹介

林 一尭Hayashi Kazutaka

  • 株式会社日立パワーソリューションズ エネルギーソリューション事業統括本部 再エネソリューション本部 風力システム部 所属
  • 現在,系統用蓄電池システムの企画・設計に従事

三上 陽介Mikami Yosuke

  • 株式会社日立パワーソリューションズ サービス&プロダクトソリューション事業統括本部 パワーシステムサービス本部 受変電・電機サービス部 所属
  • 現在,系統用蓄電池システムの企画・設計に従事

平野 和弘Hirano Kazuhiro

  • 株式会社日立パワーソリューションズ サービス&プロダクトソリューション事業統括本部 情報・制御サービスソリューション本部 デジタルソリューション部 所属
  • 現在,系統情報制御システムの設計に従事

寺山 ひかるTerayama Hikaru

  • 株式会社日立パワーソリューションズ エネルギーソリューション事業統括本部 再エネソリューション本部 ガスエンジンシステム部 所属
  • 現在,分散電源の統合運用や地域エネルギー供給事業の企画・設計に従事

1. はじめに

現在,再生可能エネルギーの導入が世界的に進んでおり,一方で化石資源の減少や環境への影響から従来型の火力発電は減少傾向にある。電力系統の運用においては,これまで需要と供給のバランスを保つ調整力の役割を担っていた従来型電源が減少するため,代替となる調整電源が必要となる。電力自由化の先進地域と言える欧州や米国では,調整力は電力取引市場を介して調達されており,その主要電源の一つとして応答性が高く調整力に適した蓄電池の導入が進められている。日本国内においても,電力システム改革により2021年以降,需給調整市場が段階的に開設される予定であり1),蓄電池の普及拡大が期待される状況である。

株式会社日立パワーソリューションズでは,風力発電の出力変動緩和用途などで多数の大規模蓄電池システムの導入実績がある。この知見を生かして調整力用途への蓄電池システムの技術展開を進めるため,ドイツ北西部に位置するニーダーザクセン州において,2017年4月から実証事業を行ってきた2)

2. 需給調整市場と規定の動向

2.1 ドイツにおける需給調整市場と規定

ドイツにおける需給調整市場は2006年に開設され,以降頻繁に制度変更が行われている。調整力には商品区分があり,高い応答性が要求されるものから順に,一次調整力・二次調整力・三次調整力となる。各調整力の要件を表1に示す。蓄電池は,この中でも高い応答性が求められる一次調整力用の電源に適しており,ドイツでは一次調整力として使用される蓄電池用の運用規定が定められている。特に重要なのは蓄電池の容量(MWh)に関する規定であり,認定出力(MW)にて一定時間以上の連続供給が可能な容量が求められるというものである。2019年6月までは30分間以上の連続供給が可能な容量が必要であったが,7月以降は15分間に変更され,規制緩和が進められている。蓄電池用の運用規定の導入により,蓄電池の需給調整市場参入は増加しており,2019年11月には一次調整力の総需要量約600 MWに対し,蓄電池の参入認可取得規模は約380 MWに達している3)

また,調整力取引の期間についても規制緩和が進められている。2019年6月までは一次調整力の取引1回当たりの契約期間は1週間単位であった。これが7月以降は1日単位に短縮され,供給者は可能な日のみ契約することができるようになり,より柔軟に所有電源を運用することが可能になった。さらに2020年7月以降は,4時間単位に短縮される予定である。同様の契約期間短縮の動きは,二次調整力など他の調整力や卸電力取引でも進められており,電力取引の改善により電力コスト低減をめざす欧州域の方針をうかがうことができる。

表1|ドイツにおける各調整力の要件表1|ドイツにおける各調整力の要件ドイツにおいて,調整力は要求される応答性によって3種類の商品に区分される。

2.2 2021年以降の日本における需給調整市場と規定

本実証はドイツで行われたものであるが,参考として日本の動向を紹介する。日本では電力需給調整は従来,旧一般電気事業者の責任で行われてきた。現在では,電力システム改革における発送電分離の方針により,調整力は年1回の公募により調達されている。今後,さらに改革は進み,2021年以降,段階的に公募から需給調整市場での調達に移行される予定である。需給調整市場での商品区分は現在,経済産業省を中心に協議中であるが,公募時からは一新され,応答性と目的に応じた複数の商品区分となる見込みである。現在明らかにされている商品区分および要件を表2に示す。ここで注目すべきは,ドイツと同様に調整力が一次・二次・三次に大別され,各要件についても類似点が多い点である。このことから,ドイツでの実証実績を日本でも応用することが期待できる。一方で,一次調整力の継続時間は5分とドイツより短時間であることや,応動時間は10秒とドイツより厳しい要件であるなど,相違点も生じる見込みである。

表2|日本における各調整力要件の計画表2|日本における各調整力要件の計画日本において,調整力は要求される応答性および目的によって5種類の商品に区分される。

3. 実証概要

3.1 実証システムの構成

図1|実証システムの構成概要図1|実証システムの構成概要実証システムはリチウムイオン電池とナトリウム硫黄電池のハイブリッドシステムであり,両電池の運用管理は日立パワーソリューションズの系統情報制御システムが行う。電力取引システム・VPP制御システムとの連携による電力取引が可能である。

前述の状況を踏まえ,日立パワーソリューションズは,再生可能エネルギーの大量導入が進んだ電力系統においては蓄電池システムが調整力として重要な役割を担うと考え,ドイツのニーダーザクセン州における実証事業に参画した。同地域の配電事業者であるEWE Netz GmbHによると,同地域での再生可能エネルギー電源の発電比率は需要に対し80%を超えており,ドイツ内でも再生可能エネルギー電源の普及が進んだ地域と言える。

実証システムの構成概要を図1に示す。本実証では,システムの導入費用の低減を図るため,高出力型電池である日立化成株式会社のリチウムイオン電池(LiB:Lithium-ion Battery)と,大容量型電池である日本ガイシ株式会社のナトリウム硫黄電池(NAS※1)電池)のハイブリッドシステムを採用している。一次調整力では,契約期間において供給を継続できるだけの十分な容量(MWh)が求められる一方で,出力(MW)は系統周波数見合いで決定され,一時的な高出力への対応も求められる。規定にもよるが,高出力かつ大容量という特長をもつハイブリッド蓄電池システムは,一次調整力用の電源として適していると考えられる。

両蓄電池の充放電制御は,日立パワーソリューションズが開発した系統情報制御システムで行う。また,系統情報制御システムは,ドイツ側の実証パートナーであるEWEグループのVPP(Virtual Power Plant)制御システム・電力取引システムを通じ,需給調整市場および卸電力市場での電力取引を可能としている。実証システムはEWEグループのVPPにも属し,VPP内の電源の一つとしての動作も実証運転で検証している。また,配電事業者の系統管理システムからの指令に基づき,電力系統の無効電力制御や,系統混雑時の発電抑制も行っている。

※1)
NASは,日本ガイシ株式会社の登録商標である。

3.2 運用機能

本実証システムは,複数の運用機能を有する。具体的には,以下のとおりである。

  1. 一次調整力供給
  2. 二次調整力供給
  3. バランシンググループ内のインバランス低減
  4. 裁定取引運用※2)

また,現時点では取引市場はないが,ローカルな電力系統の力率改善を目的とした無効電力供給を,(1)〜(4)の各機能と同時に運用することができる。これらの運用機能のうち,現状では一次調整力供給が最も収益性が高いため,優先的に入札する。一次調整力の落札が行えなかった場合,他の運用機能に切り替えて収益を確保することができる。

次章では,上記機能のうち一次調整力供給の運用実績を紹介する。また,収益性の向上のため,一次調整力機能と裁定取引機能の同時運用にも取り組んでおり,この実績も紹介する。

※2)
卸電力市場の取引価格が高い時に放電し,低い時に充電することで利鞘(ざや)を得る運用。ただし取引量の決定・取引はEWEグループのシステムで行う。

4. 実証状況の紹介

4.1 一次調整力供給

図2|一次調整力契約最大7 MWにおける一次調整力の実証運転実績図2|一次調整力契約最大7 MWにおける一次調整力の実証運転実績一次調整力契約最大7 MWにおける周波数と出力の相関図(右上),周波数に対し数秒程度の遅れで出力を行っている状態(右下)および1週間の連続運転において,常に安全な蓄電池残量(SOC)を保つことができている状態(左下)を示す。

本実証システムは,送電事業者による一次調整力の認定試験を経て,2018年10月に運用許可を取得し,その後1年以上にわたり市場で実際に入札を行いながら運用を続けている。なお,LiB-NAS電池のハイブリッド蓄電池システムを用いた一次調整力供給はドイツにおいては本実証のみであるが,送電事業者との事前協議を重ねて本実証システムの制御内容・供給信頼性に対する理解を得て,運用許可を取得することができた。

本実証システムの運転実績を図2に示す。一次調整力の出力要求値は,系統周波数が基準値(50 Hz)以上であれば下げ方向(充電),基準値以下であれば上げ方向(放電)となり,かつ基準値との偏差に比例するものであるが,本実証システムでは出力精度・応答速度などの関連規定を満足した運用ができている。また,運用上非常に重要なポイントとして,数日あるいは数週間にわたる契約期間において,蓄電池残量を常に確保して供給を継続できるかという課題があった。これについては,卸電力市場からの電力調達や,LiB-NAS電池間の電力調整機能などの残量調整手法を用い,連続供給を実現することができている。なお,これらの出力・残量制御においては日立パワーソリューションズの系統情報制御システムが重要な役割を担っている。

4.2 一次調整力供給と裁定取引の同時運用

図3|一次調整力と裁定取引の同時運用の実証運転実績図3|一次調整力と裁定取引の同時運用の実証運転実績一次調整力契約最大7 MW,裁定取引最大1 MWの条件下において,一次調整力と裁定取引双方の要求出力を合算し,蓄電池システムから供給している(右)。また1週間の連続運転において,常に安全なSOCを保つことができている(左下)。

ドイツの調整力規定では,一次調整力供給と卸電力取引に基づく電力供給を,同時に重畳して行うことが認められている。本実証ではこの規定を活用し,蓄電池残量に余裕がある場合には,一次調整力供給と同時に卸電力市場での裁定取引を行い,収益性を向上している。運転実績を図3に示す。ここでは,7 MWの一次調整力供給を行い,これに上限を1 MWとして裁定取引分の出力を追加している。裁定取引分の出力は,電力取引システムの価格予測に基づき算出され,卸電力市場の最小取引期間である15分ごとに値を変更している。

同時運用においては,一次調整力の単独運用時より出力が増加するため,蓄電池の残量管理はさらに難しくなるが,本実証では系統情報制御システムにより,残量を常に確保しつつ長期間の連続供給を実現できている。

5. 今後の実証方針と展望

前章で紹介した機能のほか,本実証では二次調整力の運用許可を取得し,2019年11月より実証運転を開始している。2019年11月時点で発表されている調整力の電源構成資料3)によれば,二次調整力の運用許可を取得した蓄電池システムはドイツにおいて前例がなく,本実証システムがドイツ初の適用と思われる。また一次調整力については,2.1で述べたとおり2019年7月に容量規定が更新され,本実証では新規定に基づく運用許可を取得済みである。残りの実証期間で,新規定に基づく運用を予定している。

日立パワーソリューションズでは,これらの最先端の市場で蓄電池を複数の運用形態に適合させて柔軟に制御した実績を生かし,ドイツだけでなく,今後調整力市場の開設が予定される日本および諸外国においても,蓄電池システムの展開をめざしていきたいと考えている。

6. おわりに

ドイツの電力システム構造は変革の途中である。本実証においても,実証期間の中で運用規定が度々変更されることがあり,つど対応してきた。これは技術的な対応が必要というだけではなく,市場環境の変化をもたらし長期的な事業の予見性を低下させるものでもある。こうした状況はその他の国や地域でも同様であると考えられるため,世界的な変化の動向を把握・予想し,変化に柔軟かつ迅速に対応できる技術と戦略が必要となる。日立パワーソリューションズは,引き続き電力市場動向の把握と技術開発に取り組み,本稿で述べた蓄電池事業を含め,エネルギーソリューション事業の拡大をめざす所存である。

謝辞

本稿で述べたドイツ・ニーダーザクセン州での実証事業においては,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO),日立化成株式会社,日本ガイシ株式会社,ニーダーザクセン州およびEWEグループ各社に協力を頂いた。深く感謝の意を表する次第である。

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