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次世代のエネルギーを実現するイノベーション
[ⅲ]エネルギーマネジメント

顧客の価値向上を支援するエネルギー&ファシリティマネジメントサービス

ハイライト

日立が提供するエネルギー&ファシリティマネジメントサービス「EFaaS」は,従来,顧客側にて実施していたエネルギー管理・設備管理の業務を,一元的に提供するサービス型ソリューションである。プラットフォームによるデータマネジメントにより運用業務や設備稼働の効率化を図り,エネルギーの使い方や設備の予防保全など,最適運用を支援する。また,初期投資を抑えたサービス型のシステムや設備の導入を推進することで,企業の財務状況を改善する。

本稿では,顧客の社会価値,環境価値および経済価値の向上を支援するEFaaSの概要と,同サービスの導入事例および展望について解説する。

目次

執筆者紹介

小野田 学Onoda Manabu

  • 日立製作所 エネルギー業務統括本部 次世代エネルギー協創事業統括本部 戦略企画本部 マーケティング・戦略部 所属
  • 現在,EFaaSの市場調査などに従事

原田 和弘Harada Kazuhiro

  • 日立製作所 エネルギー業務統括本部 次世代エネルギー協創事業統括本部 エンジニアリング・ビジネス推進本部 ビジネス開発第1部 所属
  • 現在,複数の店舗・事業所を保有する顧客に向けたEFaaS事業推進に従事

磯崎 絵里Isozaki Eri

  • 日立製作所 エネルギー業務統括本部 次世代エネルギー協創事業統括本部 エンジニアリング・ビジネス推進本部 ビジネス開発第1部 所属
  • 現在,エリアを管理・運営する顧客に向けたEFaaS事業推進に従事

西岡 京Nishioka Miyako

  • 日立製作所 エネルギー業務統括本部 次世代エネルギー協創事業統括本部 エンジニアリング・ビジネス推進本部 ビジネス開発第1部 所属
  • 現在,エリアを管理・運営する顧客に向けたEFaaS事業推進に従事

1. はじめに

近年,日本国内では労働力人口減少への対策やESG(Environment, Social, Governance)重視の企業経営が求められている。製造業,非製造業を問わず,省エネルギー・CO2削減の取り組みが求められる一方,設備維持管理に関わる人員不足,バブル期に建築された設備の老朽化といった課題が顕在化するなど,事業環境が大きく変化している。

国のエネルギー政策によれば,今後は再生可能エネルギーの大量導入が推進される見込みであるが,再生可能エネルギー電源に由来する出力変動のため電力系統の不安定化が同時に予想されており,安定化に向けたエリア分散型のエネルギーマネジメントの実現が急務となっている。

2. EFaaSの概要

こうした課題に応えるため,日立は最先端技術を用いた新しい事業の創出を試みている。その一つが,エネルギー&ファシリティマネジメントサービス「EFaaS(Energy and Facility Management as a Service)」である。

企業は,生産ライン増強や設計・研究開発,店舗拡大といった利益拡大につながる業務(以下,「コア業務」と記す。)へのリソース確保には注力できるが,受変電・発電・空調の運用保全管理・更新などの業務(以下,「コアサポート業務」と記す。)に対しては投資予算を確保しづらく,限られたリソースで対応するケースが多い。日立は,コアサポート業務への初期投資を抑えつつ,前述の課題を解決するサービス型ソリューションのEFaaSを提供しており,エネルギーの見える化・分析・運用最適化を主体とするエネルギーマネジメントに加え,設備更新・付帯業務をアウトソースし業務管理効率を向上するファシリティマネジメントを合わせて一つのサービスとしている。サービスの提供範囲はコアサポート業務とし,顧客がリソースをコア業務にシフトできるよう支援する(図1参照)。

図1|日立のEFaaSの概要図1|日立のEFaaSの概要日立のEFaaS(Energy and Facility Management as a Service)を導入し,設備の運用・管理を一括してアウトソーシングすることにより,顧客は初期投資を軽減し,フリーキャッシュフローを増大させることが可能となる。

本サービスの導入による顧客のメリットは,以下の3点である。

  1. オペレーションの改善
    従来は各事業所にてエネルギーデータおよびファシリティデータの報告書を作成し,それを本社の経営部門が手作業などで集約して管理する形態であった。そこで,クラウド上で各事業所のエネルギーデータを総合的に管理し,全体のエネルギーデータを比較して最適化を図るとともに,必要に応じて制御を行い,エネルギー原単位の低減を支援する。これにより,本社の経営部門や各事業所によるデータ管理が省力化される。
  2. ファシリティ管理における業務効率向上
    従来は各事業所にて独自に設備管理やドキュメント管理などのコアサポート業務を実施していた。そこで,設備の状態管理などのモニタリング機能や,設備管理台帳・保全点検管理により保守・故障履歴・更新計画に関わる予算などをデータベース化・一元管理化することで,各事業所による個別管理が不要となり,事業所の業務効率向上が図れる。
  3. ファイナンス面の改善
    自社で省エネルギー設備などを導入する場合は,初期投資と設備償却が必要となるが,サービスとして設備を提供することで初期投資が抑えられる。さらにエネルギーコストが低減され,コストも平準化されるため,コア業務へ集中させることが可能となる。

日立のEFaaSは特に,複数拠点を保有する企業のほか,工業団地などエリア再開発型で事業を運営する企業・団体を対象に,サービスの拡大をめざしてきた。次章以降は,多拠点を有する企業向けEFaaSの導入事例や効果に加え,エリア再開発・工場向けEFaaSの検討状況を紹介する。

3. 多拠点を有する企業向けEFaaS

3.1 製造業・非製造業におけるエネルギーマネジメント上の課題

環境経営が重視される中,企業においては製造業・非製造業を問わず,以下の課題を抱えている。

  1. 環境対策
    環境意識の高まりに伴い,CO2削減・省エネルギー化やエネルギーの最適化への取り組みが加速し,脱炭素の推進が求められている。
  2. 設備の高経年化
    バブル期に建築された設備の老朽化が進み,特に受変電・発電・空調設備など,コアサポート業務に関わる設備の高経年化が顕著である。しかし,適切な設備保全ができていないため,故障による計画外の操業停止・損失が発生し,経営を悪化させている。
  3. 労働力不足および従業員の高齢化
    人員・予算など理由はさまざまであるが,現場作業員を確保できない状況下において,少人数での設備管理が要求されている。また,保守・点検記録や不具合が生じた際の経緯・対応記録などがデータベース化されていないため,過去に発生した事例を参照できず,対策の効率化が不十分である。加えて,高齢化による熟練者の退職により,経験の中で築き上げられた設備管理ノウハウの継承が不十分である。

これに加え,投資抑制のため修理保全で延命している設備の突発的な不具合により,計画外費用が発生し,収支の悪化を招く悪循環に陥っている。

これに対し,日立はエネルギーマネジメントによる「省エネルギー化・エネルギー最適化提案」と,ファシリティマネジメントによる「効率的な設備管理や運用の簡略化」,初期投資を抑えながら設備更新を推進するファイナンスを含めたEFaaSを推進している。導入事例および今後の展望について以下に述べる。

3.2 スーパーマーケットの空調設備更新によるエネルギーマネジメント

図2|株式会社カスミに導入したEFaaSのシステム構成図図2|株式会社カスミに導入したEFaaSのシステム構成図店舗内の空調・冷凍庫・冷蔵庫など,エネルギー消費の大きな設備に電流センサーを導入した。

路面店を中心としたスーパーマーケット約180店舗を展開する株式会社カスミでは,運営継続にあたって以下の二つの課題を抱えていた。

  1. 人財不足のため,煩雑な設備管理を少人数で対応しており,各店舗の設備管理ができず,計画外の故障対応により損失が発生している。
  2. 省エネルギー化の取り組みが進められていない。

日立は顧客との会話の中でこれらの課題を抽出し,各店舗のエネルギーデータと規模(面積)に基づき,店舗ごとのエネルギー効率を分析した。その中から運用効率の悪い店舗を選択し,当該店舗の現場に出向いて設備稼働や老朽化の状況を調査し,更新計画を立案した。更新・改善を提案した範囲を図2に示す。ここでは,老朽化が著しい空調設備の更新と,店舗内の冷凍庫・冷蔵庫などエネルギー消費の大きな設備への電流センサー導入によるエネルギーマネジメントの運用を提案した。また,図3にEMS(Energy Management System)のサンプル画面を示す。この画面では店舗全体の数値に加えて,空調設備,冷凍設備など設備ごとのエネルギー消費量を表示することができる。設備の導入に際しては,サービス型で提供することで初期費用を削減し,オフバランス化による財務体質の改善を提案した。

現在,五つの店舗で本サービスの導入が完了している。設備更新とエネルギーマネジメントにより,13.2%の省エネルギー効果が見込まれるとした事前予測に対し,単月比較でほぼ同等の結果を確認できた。

今後は空調設備と合わせ,店舗内で特にエネルギー消費量の高い冷凍・冷蔵設備のエネルギー最適運用と,デジタル技術とクラウドを活用した設備一括管理を実現させる。将来的には,建屋を含めた店舗全体の一括管理をめざし,顧客の抱える業務課題の解決に向けてWin-Winの協創を推進していく。

図3|EMSのサンプル画面図3|EMSのサンプル画面EMS(Energy Management System)を導入したすべての店舗のエネルギー消費量のほか,店舗ごとの空調設備,冷凍設備などに分けてエネルギー消費量を表示でき,各店舗間のエネルギー消費量を比較できる。

4. エリア再開発・工場向けEFaaS

図4|エリア再開発・工場向けEFaaSの概要図4|エリア再開発・工場向けEFaaSの概要EMSによって特定地域における同一系統のエネルギー需要を管理すると同時に,コージェネレーション,再生可能エネルギー,蓄電池などの運用を管理する。さらに,EMSプラットフォームにより,エリア内のエネルギーの全体最適化を実現する。

一方,特定エリアにおけるエネルギーマネジメントにおいては,再生可能エネルギー導入に対する社会的ニーズが拡大し,事業におけるCO2削減,BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)確立が課題となっている。そこで日立は,エリア再開発および工場などの設備更新に対し,EMSおよびIoT(Internet of Things)プラットフォームを活用したサービスを展開している。図4に示すように,EMSによってある地域における同一系統の複数需要家(または同一工場内の複数建屋)のエネルギー需要を管理すると同時に,コージェネレーションシステム,再生可能エネルギー,蓄電池などエネルギーアセットの運用を管理する。さらにEMSプラットフォームにより,エリア内の需給バランスを含め,個別最適だけではなく全体最適の視点でのエネルギー最適化を実現する。また,デベロッパーやエネルギー供給事業者などパートナー企業との協創を通じ,メンテナンスやエネルギーサービスなどの業務支援を行うことをめざしている。

こうしたエネルギー最適運用を実現するため,東京都国分寺市に位置する日立製作所中央研究所と連携し,再生可能エネルギーの普及に向けた研究を進めている。

エリアとして太陽光発電などの再生可能エネルギーによる分散型電源を導入するには,配電側に発電抑制,需要抑制などの制約が発生するといった課題がある。これらの制約を解消するため,実際にコージェネレーションシステム,太陽光発電などの分散電源を導入し,中央研究所を一つのエリアとみなして,取得した実運用データを基に設備の効率運用方法などの仮説検証を行っている。これにより,分散型電源導入時の制約の解消と採算性の向上を両立しながら,再生可能エネルギーの普及に貢献するサービスの提供をめざしている。

今後も顧客との協創を通じ,これらの研究や実証の成果と従来の技術を組み合わせた新たなソリューションを展開していく。

5. おわりに

本稿では,サービス型ソリューションである日立のEFaaSを紹介した。労働力人口の減少に伴う課題をクラウドやデータベースを活用したエネルギー・ファシリティの総合管理で解決するとともに,環境対策としてCO2削減・省エネルギー化・各種エネルギーの最適利用を促進し,また,新たな投資方法・設備導入の提案により顧客の財務体質の向上などに貢献する。

多拠点を有する企業向けEFaaSでは,エネルギーデータを活用し,店舗運営の在り方や店舗展開(投資)の在り方など,経営判断に役立つ精度までデータ分析を拡張していく。また,エリア再開発・工場向けEFaaSでは,全体最適から見た個々の生産活動の在り方や,「安全・安心・安定」というレジリエンスに加えて,「便利・快適」などのQoL(Quality of Life)向上に役立つデータの活用をめざしていく。

これらの将来像をめざし,日立はEFaaSの提供を通じて,高効率のエネルギー設備(プロダクト)に加え,OT(Operational Technology)とITを組み合わせることで,新たな価値を創造していく。

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