日立評論

Society 5.0を支えるエネルギーシステムの実現へ

日立東大ラボの取り組み

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COVER STORY:FOREWORD

Society 5.0を支えるエネルギーシステムの実現へ

日立東大ラボの取り組み

ハイライト

昨年は欧州各地で記録的な気温上昇が起こり,12月にスペイン・マドリードで開催された国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)では,パリ協定の1.5℃目標のさらなる追求が議論された。国内では大型台風による被害が相次ぎ,レジリエンスの強化も喫緊の課題であることが再認識された。これらと並行してエネルギー分野では,再生可能エネルギーの主力電源化や,分散化,デジタル化,電化・電動化などが不可逆的に進んでおり,エネルギーシステムの在り方が問われている。

かかる状況に先行して,東京大学と日立製作所は,2016年,産業界と大学がより良い社会を実現するためのビジョンを共有し,「産学協創」の新たなスキームの下「日立東大ラボ」を設置して,Society 5.0を支えるエネルギーシステムの検討を進めてきた。

目次

Society 5.0を支えるエネルギーシステム

吉村 忍吉村 忍
東京大学
副学長
1987年東京大学工学系研究科修了(原子力工学専攻),工学博士。
東京大学工学部講師,助教授,新領域創成科学研究科教授を経て,2005年より工学系研究科教授。2009年総長補佐,広報室長,工学系研究科副研究科長,教育研究評議員を経て,2017年より現職,専門は計算力学,システムデザイン学。国際計算力学連合副会長理事,日本学術会議会員などを歴任し,国際計算力学連合フェロー賞(2014),APACM計算力学賞(2013)など受賞。

Society 5.0の世界では個人が主役となり,地域社会ごとに特色あるエネルギーシステムが構築される。各地域社会が人々の想像力を活用してエネルギーを含むさまざまな課題を解決し,積極的に新しい価値を創造していく。このために,電力・ガス・水道に加えてICT(Information and Communication Technology)・自動車・物流などの各種インフラが協調して,地域社会に適したエネルギー流通の仕組みを再構築し,CO2削減や地域の経済循環,生活の利便性,災害レジリエンスなど,多様な価値を実現していく。そこでは,エネルギーの「量」の価値に加え,再生可能エネルギーの需給調整能力など「質」の価値も流通させるインフラと制度を組み入れる。さらに,電力基幹システムを地域社会との協調を前提に再構築し,日本の電力システム全体として3E+S(Economy, Environment, Energy Security, Safety)を実現する制度・政策を準備していく。

これらの在るべき姿を具現化していく手段として,日立東大ラボは以下の検討を進めている。

  1. 長期エネルギーシナリオ
    2030年から2050年という長期の視点でエネルギーシステムを検討するためには,さまざまな不確実性への対応を想定し,複数のシナリオによる議論と多様な技術選択肢の準備が必須である。複数の将来像からのバックキャストで技術開発や設備投資などの移行戦略を明確化していく。また,戦略実行のために投資促進と効率化を両立する仕組みも求められる。
  2. オープンな評価プラットフォーム
    エネルギーの需要・供給を担う多様な利害関係者が,オープンで定量的・客観的な情報発信・共有を行うため,投資の社会便益を評価できるプラットフォームの構築と公正な運用が必要となる。一例として,広域安定度シミュレータを開発した。今後,評価解析や分析に用いるデータの公開・開示の技術的仕組みとルール作りが重要となる。

Society 5.0を支えるエネルギーシステムの全体像

制度改革の議論の活性化

日立東大ラボの活動成果を第1版の提言として2018年4月に公開して以降,国内各所でもエネルギー制度改革の議論が高まってきている。昨年は経済産業省で「持続可能な電力システム構築小委員会」など電力システムの再構築に関する複数の審議会が設立され,脱炭素に向けた再生可能エネルギーの主力電源化やレジリエンスの確保,それらを実現するための制度改革の方向性が示されつつある。電力部門の投資促進と効率化を両立するための託送制度改革は,その一つの柱である。また,データ公開・開示のためのシステム構成や費用負担の具体的な整理も進んでいる。経団連も提言書「日本を支える電力システムを再構築する」を発行し,Society 5.0実現に向けた新たな電力政策の必要性を指摘している。

今後の展望と期待

日立東大ラボは今年,これまでの活動の成果となる提言書の第3版を発行する予定である。昨年発行した第2版1)までは電力分野の脱炭素化を中心に検討してきたが,第3版では長期的な視点でSDGs(Sustainable Development Goals)を実現するため,産業部門や運輸部門などの非電力分野との協調に対象範囲を拡大して検討している。今後は,それら新たな価値を循環させる仕組みとルール作りに向けて,技術的選択肢の定量的・客観的な情報発信と提言をさらに深化させていく。

社会が急速に変化する中,エネルギーシステムが複合的な社会課題を解決し,個人のQoL(Quality of Life)を向上させていくためには,従来のシステムの延長線上にはない非連続的なイノベーションの実現が不可欠となる。基幹システムと地域社会,需要側・供給側がそれぞれ協調し,イノベーションに向けた知恵を発揮していくことが求められる。