日立評論

脱炭素化への貢献をめざす日立のエネルギー事業

オープンな「協創」でエネルギーの新たな価値を創出

ページの本文へ

Hitachi

日立評論

COVER STORY:MESSAGE

脱炭素化への貢献をめざす日立のエネルギー事業

オープンな「協創」でエネルギーの新たな価値を創出

ハイライト

脱炭素化に向けて加速するグローバルな動きを背景として,再生可能エネルギー導入が拡大する一方,EVの普及やデータセンターの規模拡大,産業の電動化などの新たなニーズを受け,エネルギー業界は大きな転換期を迎えている。

社会価値・環境価値・経済価値の三つの価値の向上,SDGsの実現などの目標を掲げ,社会イノベーション事業の進化に取り組む日立は今後,エネルギーをめぐる課題解決にどう貢献していくのか。エネルギー問題に詳しいフリーキャスターで千葉大学客員教授の木場弘子氏を聞き手に迎え,日立製作所執行役専務の小田篤が語った。

目次

気候変動に対する関心の世界的な高まり

小田 篤
日立製作所
執行役専務
1980年日立製作所入社。原子力発電プラントの配管・プラントシステム設計,建設・既設プラントのプロジェクトマネージャーなどを経て,2006年日立パワーシステムズアメリカ社副社長,2013年日立パワーソリューションズ取締役社長,2015年エネルギーソリューション社電力流通事業部長兼電力システム社COO,2016年執行役常務を経て2019年4月より現職。電気学会会員。

木場パリ協定が本格的に始動する2020年を迎え,脱炭素化の動きが急速に進んでいます。例えば,事業運営を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる国際イニシアチブ「RE100」に加盟する企業は,2019年12月時点で欧米企業のほかインドや中国など200社を超えています。まず,こういった脱炭素化の動きについてどう見ていますか。

小田昨今の世界的な異常気象によって,自然災害が激甚化しています。また,2019年8月開催のCOP25(国連気候変動枠組条約第25回締約国会議)などを背景に,国内外で気候変動への関心が高まっており,脱炭素化の動きが止まることはないでしょう。しかしながら,COP25において各国が掲げた目標をすべて積み上げても,パリ協定の目標は達成できません。脱炭素化は,COP25開催期間中に「化石賞」という不名誉な賞を受賞した日本はもちろん,各国にもさらに踏み込んだ取り組みが求められます。「RE100」加盟企業が200社を超えたのも,気候変動が最優先すべき世界共通の課題であるという認識が広がっているからだと言えます。

そうした中で,日立も社会インフラを提供している企業として,従来の考え方にとらわれず,さまざまな取り組みを進めているところです。ゼロエミッションは明日から実現できるようなことではなく,現実的には種々の対策で段階的にCO2削減を進めていくことになります。まず重要なのは具体的なロードマップを作成し,かつ各国政府がそれにコミットすることです。加えて脱炭素社会の実現には国民の理解も欠かせません。

また,ポイント・オブ・ノーリターンの時期についても議論がありますが,いずれにせよ相当に思い切った対策を講じなければ人類に課せられたこの問題を克服することはできません。その自覚の下,脱炭素社会のエネルギーシステムの在り方を考え,構築していくためには従来の産業や技術の垣根を越えた対策を検討する必要があり,さまざまな業種間で連携しながら総力戦で進めていかなければならないと考えています。

木場5,6年前から環境省の「低炭素社会に向けた地球温暖化防止国民運動事業推進委員会」のメンバーになっていますが,国もようやく最近になって「低炭素」ではなく,「脱炭素」と表現するようになりました。国民の意識を高めることの重要性については私も同感です。最新のアンケート結果をみると,世界の人々と日本人の意識の違いが明確に表れています。コストや手間を惜しむためか,日本人の約7割が脱炭素や省エネルギーを否定的に捉えているのに対し,海外の人々はむしろ進めていくことが生活の質の向上につながると考えているようです。しかも残念なことに,日本ではとりわけ若い世代で脱炭素の重要性に対する意識が希薄だという結果が出ています。

一方,産業界においてはSDGs(Sustainable Development Goals)の観点から環境や経済,人権などの問題への積極的な取り組みが求められており,それが直接,企業評価につながる時代になっています。エネルギー関連企業でなくとも,エネルギーやCO2の問題に本腰を入れなければ取り残されるという危機感を持っています。

小田企業においては,ESG(Environment, Social, Governance)投資に代表される,投資家を意識した意欲的な取り組みが始まっています。一方で,国が「脱炭素」と表現することを躊躇してきたのは,従来の産業基盤が化石燃料に大きく依存しており,急にはエネルギー政策を変えられなかったからでしょう。

木場スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんのようにオール・オア・ナッシングで考えられればシンプルですが,日本社会は石炭に頼っている部分がありますし,今後,原子力発電をどうするかという問題にも直面しています。徐々にでも一つの方向に向かっていくためには具体的なタイムテーブルが必要ですね。

小田そのとおりです。先ほど若者の意識についてお話がありましたが,学生のうちから問題意識を持つことが重要ですね。その点では,教育とマスメディアの果たす役割が非常に大きいと感じています。

木場そう思います。大事なことと視聴率はリンクしないので,大手メディアは視聴率が取れるものを扱うことになりがちです。若者のこうした傾向は,選挙においても見られます。自分の1票で,世界が変わるわけないという諦めがあり,任せておけば誰かがやってくれると感じているわけです。エネルギー問題を啓発していくことはそうした意識を変えていくうえでも試金石になると思います。

パラダイムシフトで変わるエネルギーの景色

木場再生可能エネルギーへの転換など,エネルギーの供給側で脱炭素化の動きが加速する一方で,需要家側でもパラダイムシフトが起きているように思います。

小田そうですね。お客様が自宅の太陽光パネルで発電した電力を販売するということは,従来は当たり前ではありませんでしたし,EV(Electric Vehicle)の普及やデータセンターの規模拡大,それに産業の電化・電動化など,需要家側のニーズも大きく変化しています。

EVは分散型エネルギーの役割も果たすことから,従来型の電力供給システムを大きく変貌させるポテンシャルを有していると考えています。他方,データセンターの規模拡大には少し違った側面があります。ある調査によれば,2018年のデータセンター関連投資は約17兆円,年率成長率は20%に上るそうで,今後もますます増加していくことが予想されます。しかし,大量のエネルギーを消費するデータセンターの規模拡大は,CO2排出量の増大に直結するため,今後は環境配慮型のデータセンターの推進がいっそう重要になると考えています。日立としては,今後,空調設備の冷却効率の改善やフリークーリングの活用などの運用改善,さらにはAI(Artificial Intelligence)を用いたエネルギー効率の向上などを通じて,データセンターの設備やICT(Information and Communication Technology)の電力削減に貢献する事業を拡大していきたいと思っています。

日立が提供するエネルギーの新たな価値

木場 弘子
[聞き手]
フリーキャスター・千葉大学 客員教授
千葉大学教育学部卒業後,アナウンサーとして1987年株式会社TBSテレビ入社。同局初の女性スポーツキャスターとして多数のスポーツ番組を担当し,1992年フリーランスとなる。2007年洞爺湖サミット・クールアースアンバサダーおよび規制改革会議メンバー,2009年教育再生懇談会メンバーを歴任し,現在,七つの省庁で審議会のメンバーを務め,2013年より千葉大学客員教授,国際石油開発帝石株式会社社外監査役および日本港湾協会理事。予防医学指導士。

木場近年,日立はさまざまな分野にAIをはじめ,IoT(Internet of Things),ビッグデータといったデジタル技術を活用したソリューションを提供していますが,脱炭素化に向けたデジタル技術の活用についてはどうお考えですか。

小田デジタル技術を活用した取り組みの一つに予兆・予測診断技術があります。もともとは産業分野において,機器の稼働状態のデータから故障時期を予測するというテクノロジーです。例えば,自動車工場の大きなプレス機が故障すると製造ラインが止まってしまいますが,復旧に時間がかかれば事業にはさらに大きな影響が出てしまいます。これに対し,日立は故障の予兆を捉えて備えることで事業機会の損失を減らす技術開発に早くから取り組んできました。エネルギー分野では,このようにデジタル技術を活用して,電力の需要予測の高度化,発電所の運転効率化,デマンドレスポンスやVPP(Virtual Power Plant)による分散型電源の最適制御などに活用し,エネルギーバリューチェーン全体を高度化していくことをめざしています。

また将来の脱炭素社会の実現には,ベースロード電源として原子力発電が必要であると考えていますが,その一方,福島第一原子力発電所では廃炉に向けた作業が続いています。放射線レベルの高い現場での作業にはロボットの存在が欠かせません。人が入れない場所の画像など,ロボットによって取得されたさまざまなデータは,解析やシミュレーションなどを通して現場の課題解決に役立てられます。高放射線環境下などの過酷な場面においても大きな力を発揮するのがデジタル技術の最大の強みだと言えるでしょう。

木場エネルギー分野のデジタル化が進展する中,エネルギーを取り巻く課題は実は国や地域によってさまざまだということも浮き彫りになってきたように思います。私は昨年10月のHitachi Social Innovation Forum 2019 TOKYOのビジネスセッション「日本を元気にする地域エネルギー」のモデレータを務めさせていただきましたが,地域エネルギーに関する日立の取り組みにはどんなものがあるのでしょうか。

小田地域エネルギーといえば,「分散電源」をまず思い浮かべますが,日立は「供給」,「需要」,「貯蔵」,「制御」というエネルギーマネジメントの基本モデルを組み合わせ,地産地消型や離島型など,地域の特性に応じたCO2ゼロエミッションをめざしたソリューションを幅広く提供しています。

具体的な取り組みの一つとして,英国シリー諸島における協創事例があります。シリー諸島は英国南西の海上に位置する風光明媚な島で,およそ2,000人の人口に対し,年間10万人もの観光客が訪れる観光地ですが,化石燃料への依存度が高いためにCO2排出量が大きく,深刻なエネルギー問題に直面しています。そこで2025年までに電力料金を40%節減することに加え,電力需要の40%を再生可能エネルギーで賄い,かつ車両全体の40%を低炭素型のクルマやEVに置き換えるという意欲的な目標を掲げたプロジェクトが進行しています。日立もこのプロジェクトに参画し,現在,島内に設置された太陽光発電システムや蓄電池,ヒートポンプといったエネルギー設備に対してIoTプラットフォームやAIなどのデジタル技術を活用し,再生可能エネルギーの有効活用や安定化に寄与する取り組みを進めています。

木場エネルギーの全体最適化の面では,日立の得意な「制御」の部分が特に重要ですね。最近,ある通信関連企業の経営者の方とスマートシティをテーマに対談する機会がありました。当初はエネルギー問題で注目されたスマートシティですが,その時の話題は,豪雨の際に水位上昇のデータを知らせるといった防災に関することをはじめ,入室時のセキュリティ確保のための顔認証,さらにはドローンによるランチデリバリーなど,IoTや5G(Fifth Generation第5世代移動通信システム)などの最新のデジタル技術を駆使し,住民に快適な生活を提供するサービスが中心でした。

小田社会インフラは空気みたいなもので,電気を使いたいというより,快適な生活したいということですよね。コトができればいい。クルマでも所有からシェアと発想が変わってきました。ただスマートシティの場合もそうですが,そこに基盤のエネルギーがあることを忘れてはならないでしょう。

木場ええ。スマートシティは,社会課題の解決をめざしたものですから。社会課題の解決にとってITの力も重要ですが,エネルギー環境が整っていることも快適な暮らしや社会課題の解決には欠かせないはずです。そうした問題を解決するための技術も重層的に盛り込んだスマートシティができればいいと思います。

イノベーションに欠かせないオープンな協創

木場脱炭素化の実現には,環境意識を高め,多様なステークホルダーが団結していく必要があると思います。日立は,協創といった形でお客様と課題解決に取り組んでいるそうですね。

小田シリー諸島でのプロジェクトのほか,ハワイのマウイ島やドイツ,スロベニアなど,グローバルな実証事業を,さまざまなお客様と協創しながら積極的に推進しています。ドイツにおける大規模ハイブリッド蓄電池システムの実証では,2種類の蓄電池の充放電で電力需給バランスの調整を経済的に実現するとともに,再生可能エネルギーの大量導入が進んだ電力系統の安定化に貢献するべく,新しい電力取引の形も視野に入れたビジネスモデルの確立をめざしています。また,スロベニアではクラウド型エネルギー管理システムの実証,英国ロンドンでは大規模なEV導入の実証など,多様なステークホルダーと協創を行っているところです。

また,われわれは産学連携による社会への提言も重要だと考えています。Society 5.0の実現に向けたイノベーション創出のために設立した日立東大ラボでは,2018年に「Society 5.0を支える電力システムの実現に向けて」という提言を公開しました。その取りまとめの過程では,再生可能エネルギーの大量導入という課題に対して,社会便益の最大化を評価するシミュレータを開発するとともに,さまざまな対策についてオープンな議論ができる仕組みづくりを行いました。政策面での改善や新しい制度設計などを視野に入れると,定量的な根拠に基づくオープンな議論が重要だと考えたからです。日立東大ラボは年に2回オープンフォーラムを開催しており,前回は一般の方を含めて約700名もの方々に出席していただき,安田講堂でパネリストを中心に活発な議論を交わしました。

また,日立は2018年にABB社のパワーグリッド部門の買収を決定しました。詳細は現在,詰めているところですが,送配電プロダクトやグリッドオートメーションといったABB社が有する世界No.1クラスの製品・技術と,日立の強みであるデジタル技術が融合することで,脱炭素化に向けたイノベーションが創出できると考えています。

木場1社でできることの範囲が見えてきて,これからの時代は複数の企業がそれぞれの得意な分野をマッチングして,変わりゆく世の中に対応する柔軟かつ強靭な新しい組織をつくるということが増えてきそうですね。

小田そうですね。日立の協創のキーワードは,オープンであるということです。Lumadaのコンセプトがそうであるように,革新的なイノベーションは機器や人がつながるところから生まれてくるのだと思います。

エネルギーの未来を見据えて

木場先ほどお話しいただいたABB社のパワーグリッド部門の買収のニュースには驚きました。グリッド分野も含め,日立としては,エネルギーの未来を見据え,今後どのような事業を展開されるのでしょうか。

小田まず,われわれが事業を進めていくうえでは,大義をきちんと持つことが重要だと考えています。当社の企業理念は「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」ですが,この理念を大切にして社会価値,環境価値,経済価値の三つの価値を向上させることで社会イノベーションを実現しようとしています。エネルギーに関していえば,社会価値は安価で安定的かつクリーンな電力の供給をはじめ,エネルギーセキュリティの確保,さらにレジリエンシーの提供などが挙げられます。環境価値としては,脱炭素社会を実現すること,そしてこれらのことを総合的に合わせて経済価値を向上させる。これがわれわれの考える大義です。

また,SDGsに即していえば,「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」,「住み続けられるまちづくりを」,「気候変動に具体的な対策を」という三つの開発目標について,特に戦略的に取り組んでいきます。具体的には,これまでお話ししたことのほか,新しいチャレンジとして電化・電動化に牽引される伸長領域や,変化する電気の使い方という動向を捉えた事業を推進します。日立の強みであるエネルギーソリューション技術,Lumadaをはじめとするデジタル技術を組み合わせ,エネルギー分野における社会イノベーションを生み出し,それを三つの価値の向上,SDGsの達成につなげたいですね。

木場余談ですが,私は,国土交通省が立ち上げた「地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会」のメンバーとなっています。近年,海藻など海洋の生物がCO2を吸収・固着するブルーカーボンが注目されていますが,その検討会では,吸収係数と面積(活動量)に基づいてCO2吸収量の計測を進めており,それらをまとめた成果を2025年に国連に提出する予定です。意外だったのは,地球温暖化をいわば否定しているアメリカが先頭に立ってブルーカーボンの取り組みで実績を上げていて,そこはさすがだなと感心しました。

小田今のお話をうかがって,2019年9月に開催された国連気候行動サミットにおいて,70以上の国と地域が2050年までに温暖化ガスの排出量をゼロにすると表明したことを思い浮かべました。多くの国や地域が高い目標を掲げている中,日本も自ら変わっていく努力をしなければならないと感じています。

木場日立というグローバルカンパニーの取り組みを通じて,今後,日本が取り組むべき課題が見えてきたように思います。本日はありがとうございました。

Adobe Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe® Reader®が必要です。