日立評論

京都市高速鉄道東西線運行管理システムの開発

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日立評論

ハイライト

鉄道事業の中で,輸送制御の中核を担う運行管理システムの重要度が高まっている。日立はさらなる品質の追求と納期への対応力強化を目的として,2017年度より製品および設計開発プロセスの標準化・共通化を行っており,2019年度には標準運行管理システムの開発を完了し,京都市交通局が運営する京都市高速鉄道東西線に初適用した。

本システムでは駅務室など,中央指令室以外の遠方の各拠点でも専用端末から列車の運行状況を正確に把握できる運行状況配信機能や,クラウドデータセンター経由の遠隔監視機能により,重要な中央処理装置や他設備インタフェース装置の迅速な障害検知が可能である。今後は,レパートリーの拡充,自動運転への対応,AIを活用した運転整理業務の効率化,IoTやクラウドによるハードウェアレス化など,製品価値の向上に取り組み,顧客の課題解決に寄与する魅力ある製品を提供していく。

目次

執筆者紹介

阿部 祐太Abe Yuta

阿部 祐太(Abe Yuta)

  • 日立製作所 鉄道ビジネスユニット 信号システム設計本部 輸送管理システム設計部 所属
  • 現在,列車運行管理システムの設計・開発および標準取りまとめ業務に従事

室谷 繁Murotani Shigeru

室谷 繁(Murotani Shigeru)

  • 日立製作所 鉄道ビジネスユニット 信号システム設計本部 輸送管理システム設計部 所属
  • 現在,列車運行管理システムのソフトウェア設計・開発取りまとめ業務に従事

井田 貴儀Ida Takanori

井田 貴儀(Ida Takanori)

  • 日立製作所 鉄道ビジネスユニット 信号システム設計本部 輸送管理システム設計部 所属
  • 現在,列車運行管理システムのフロントエンジニアリングおよび設計・開発に従事

染谷 朋秀Someya Tomohide

染谷 朋秀(Someya Tomohide)

  • 日立製作所 鉄道ビジネスユニット 信号システム設計本部 輸送管理システム設計部 所属
  • 現在,列車運行管理システムおよび電力・設備管理システムの設計・開発に従事

1. はじめに

輸送分野全体における鉄道の重要度向上に伴い,輸送制御の中核を担う運行管理システムの重要度が高まっている。日立は,さらなる品質の追求と納期への対応力強化を目的に,2017年度より製品および設計開発プロセスの標準化・共通化を開始し,2019年度に標準運行管理システムの開発が完了した。この標準システムは,納入済みシステムの機能仕様分析結果から,顧客の運用や路線形態に依存しない標準機能仕様を明確化し,運用や路線形態に依存する部分をレパートリー化して,それぞれに対応するソフトウェアを実装した運行管理システムである。これにより,さらなる品質の安定と,短納期への対応力を強化していく。

本稿では,京都市交通局に納入した京都市高速鉄道東西線運行管理システムへの標準運行管理システムの初適用と今後の展望,そして同システムで開発した新機能である,運行状況配信機能とクラウドデータサーバ経由の遠隔監視機能について報告する。

2. 標準運行管理システムのコンセプト

現在,日立が公民鉄事業者向けに納入している運行管理システムは,全国で30社50路線に上る。

更新システムの設計を開始する際には,まずベースシステムを決定し,既設システムをベースに追加機能や改善機能,ハードウェア更新への対応を組み込んできた。ところが,この開発プロセスでは,システムごとの運用や路線形態に直接関係のない仕様・アーキテクチャの新設計,過去に経験済みの設計要素に対する繰り返し設計などが生じ,似て非なるシステムを多く生産してきた。その結果,顧客との仕様打ち合わせの長期化や日立社内での品質管理,維持管理が煩雑になっていた。

そこで,この課題の解決に向けて新たに標準運行管理システムを開発した。本開発では,(1)顧客の運用や路線形態に依存せず案件ごとに変える必要のない部分(標準部分)とそれを実現するソフトウェアの固定および標準部分の継続的な洗練,(2)案件ごとに変える必要があるが実装実績から選択可能な部分(オプション部分)のレパートリー化およびオプション部分蓄積によるレパートリー充実をコンセプトとした。

今回,(1)の成果として,標準機能仕様,標準内部インタフェース(運行管理システムを構成する装置どうしのインタフェース),標準ソフトウェアの開発が完了したため,京都市交通局の京都市高速鉄道東西線運行管理システム更新プロジェクトに初適用した。

3. 京都市高速鉄道東西線運行管理システムの概要

京都市交通局が運行する京都市高速鉄道東西線は,京都市内の六地蔵駅から太秦天神川駅の合計17駅を結ぶ路線長17.5 kmの地下鉄路線であり,御陵駅で京阪電気鉄道株式会社の京阪京津線との乗り入れ制御を行うという特徴がある(図1参照)。1997年10月の東西線開業時に運行管理システムを導入して以来,20年以上が経過し,ハードウェアが老朽化したため,今回,運転指令業務の効率化,乗客へのサービス向上と円滑な列車運行管理,保守性の向上といった顧客のニーズに応えるべく,新システムを設計・開発し,2020年2月に使用開始を迎えた。

図1|京都市高速鉄道東西線の路線図 図1|京都市高速鉄道東西線の路線図 東西線は京都市内の六地蔵駅から太秦天神川駅の合計17駅を結ぶ路線長17.5 kmの路線であり,御陵駅で乗り入れ制御を行うという特徴がある。

3.1 システムの特長

京都東西線運行管理システムのシステム構成を図2に示す。旧システムは各駅の装置が独自にダイヤグラム(運行計画)を管理し,制御論理演算を行う自律分散方式のシステムであった。これに対し,新システムでは制御の一元化による演算・通信性能の向上,機器集約による保守性の向上を目的として,二重化した中央処理装置が一貫して制御論理演算を行う中央集中型のシステム構成を採用した。また,中央処理装置両系停止時の列車番号表示と手動進路制御を可能とするためのバックアップ機能を他設備インタフェース装置に実装することで,さらなる納入機器数の低減を実現した。運転指令業務を司る運行管理操作卓においては,複数台設置による冗長化,デュアルディスプレイ採用による視認性向上を図った。

図2|京都市高速鉄道東西線のシステム構成 図2|京都市高速鉄道東西線のシステム構成 制御の一元化による演算・通信性能の向上,機器集約による保守性の向上を目的として,二重化した中央処理装置が一貫して制御論理演算を行う中央集中型のシステム構成を採用した。

3.2 標準運行管理システムの適用

今回,顧客の運用に依存しない標準部分について,日立がこれまでに開発してきた30システムの機能仕様比較結果に基づき,標準仕様と非標準仕様を明確に区別して決定・記載した標準機能仕様書を作成した。東西線の機能仕様においては,標準部分に標準仕様をそのまま採用することで,仕様決定品質の確保を図った。

また,HMI(Human Machine Interface)機能は顧客の運用に大きく左右されるため,標準化の対象には位置づけていなかったが,操作性や視認性の向上が製品価値の向上につながると考え,納入済みの30システムの実装機能マトリクスを作成し,標準HMI機能項目を明確にした。さらに,標準HMI機能それぞれの入力と入力内容チェック仕様について30システムの仕様比較を行った結果を標準HMI機能仕様書としてまとめ,採用した。例えば,進路制御を手動で行うためのHMI機能である手動進路設定については,旧システムでは他社製操作卓で行っていたが,今回,標準HMI機能を提案・実装したことで,他機能との操作共通化による指令業務効率向上を図ることができ,高く評価されている。

内部インタフェースは案件によって機能仕様が変化するため,従来は案件ごとに設計変更を要していた。しかし,標準機能仕様を決定したことで,標準内部インタフェースを固定するための前提条件を整えることができた。そこで,今後の標準適用案件も見据え,(1)オプション仕様変更に伴うプログラム変更が生じないような内部インタフェース,(2)どの案件の制御対象規模にも対応可能な内部インタフェースの確立をコンセプトとして標準内部インタフェース仕様を決定するとともに,これを実現するためのソフトウェアを開発し,京都東西線にて初適用した。

3.3 標準運行管理システムの今後の活用

以下の3点を目的として,今後すべての案件において標準運行管理システムをベースとした設計・製作を行う方針である。

  1. 標準部分の固定化によるさらなる品質向上
  2. 標準部分の洗練と運用面の課題抽出強化による製品価値向上
  3. オプションのレパートリー充実によるソリューション提案力向上

これらの目的を果たし,顧客満足度の高い製品を提供し続けるためには,標準運行管理システムそのものの進化が不可欠である。そのため,案件適用の度に標準部分とオプション部分の両方が強化されていくような標準運行管理システムのベースライン管理を組織的に推進していく。また今後,本線・車両基地一体制御や,CBTC(Communications-based Train Control)化にも対応可能な標準運行管理システムへの進化にも取り組んでいく。

4. 運行状況配信機能の特長

運行状況配信機能関連装置の構成を図3に示す。運行状況配信機能により,駅務室など,中央指令室以外の遠方の各拠点でも,専用端末から列車の運行状況を正確に把握することができる。旧システムで実現していた機能を最新のハードウェアで実現することでリアルタイム性を確保し,さらに,訓練システムと同等のHMIによる過去20日分の運行状況再現を可能としたことが本機能の大きな特長である。その他の主な特長は,以下のとおりである。

図3|運行状況配信機能関連装置の構成 図3|運行状況配信機能関連装置の構成 運行状況配信装置の二重化により可用性を確保した。また,サイバーセキュリティ対策強化のため,運行状況配信装置を各運行状況モニタにFW経由で接続した。

  1. 専用端末のHMIを運行管理操作卓および訓練システムと統一した。また,専用端末ごとに表示・操作できる画面を制限した。これにより,円滑な指令員の配置ローテーションが可能となった。
  2. サイバーセキュリティ対策として,運行状況配信装置と顧客専用ネットワークの間にファイアウォールを設置し,特定のプロトコルのみを通過させるようにした。
  3. すべての専用端末を最新状態に保つために,専用端末起動時にユーザーインタフェース用のソフトウェアを自動更新するようにした。
  4. 今後更新予定の京都市高速鉄道烏丸線の情報も同じ装置と専用端末で表示できるようにするため,烏丸線分を見越したハードウェアとソフトウェアで機能を構築した。

運行状況画面の例を図4に示す。

図4|運行状況画面の例 図4|運行状況画面の例 専用端末のHMI(Human Machine Interface)を運行管理操作卓および訓練システムと統一した。また,専用端末ごとに表示・操作できる画面を制限した。

5. 遠隔監視機能の特長

遠隔監視機能関連装置の構成を図5に示す。遠隔監視機能により,運行管理システム構成装置のうち特に重要な中央処理装置および他設備インタフェース装置の迅速な障害検知が可能となった。

図5|遠隔監視機能関連装置の構成 図5|遠隔監視機能関連装置の構成 クラウドデータセンターには3台のクラウドデータサーバを設置し,それぞれをFW経由で接続することにより,セキュリティ対策を強化した。

本機能の特長は,保守契約会社である株式会社日立パワーソリューションズが監視対象装置を24時間365日遠隔監視するにあたり,クラウドデータセンターを経由する点である。クラウドデータセンターには3台のクラウドデータサーバを設置し,それぞれをファイアウォール経由で接続することにより,セキュリティ対策を強化した。また,無線化により,運行管理システム以外の監視対象装置の増設が比較的容易となり,今後の保守効率向上が期待できると考えている。

今回,運行管理システムの遠隔監視にクラウドを初適用したことをきっかけに,製品のクラウド化をさらに加速させていく。

6. おわりに

本稿では,運行管理システムの標準化,標準運行管理システムの初適用,京都市高速鉄道東西線運行管理システムで新たに開発した運行状況配信機能と遠隔監視機能の特長について述べた。

今後も,標準運行管理システムの洗練とレパートリー充実化,自動運転への対応,AI(Artificial Intelligence)を活用した運転整理業務の効率化,IoT(Internet of Things)やクラウドによるハードウェアレス化など,新技術導入による製品価値の向上に取り組むとともに,顧客のニーズに応えながら課題を解決する魅力ある製品を提供していく。

参考文献など

1)
竹辺靖昭,外:多様な製品展開を支える再利用型組込みソフトウェア生産技術,日立評論,91,5,422〜425(2009.5)
2)
吉村健太郎,外:組込みシステムにおけるソフトウェアプロダクトラインの導入,情報処理,Vol.50,No.4,p.295〜302(2009.4)
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