日立評論

日立の鉄道事業におけるOS&Mビジネスの展望

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日立評論

ハイライト

2018年に新たな鉄道事業のビジョンが提示されてからおよそ2年を経て, 日立の鉄道ビジネスユニットは,鉄道のOS&M(運用・サービス・保守)市場のニーズの変化に対応し,デジタル技術を活用して製品とサービスの統合を加速するべく, OS&M部門を再編した。

新しいOS&M部門は,車両機器および信号設備向けのS&M(サービス・保守)事業と,ターンキー,信号設備,車両,ビル,施設を含むO&M(運用・保守)事業のリソースと活動をグローバルに統合した組織である。OS&M部門は地域の営業部門およびプロジェクト部門と緊密に連携することで顧客向けの窓口を一本化し,フルサービスプロバイダーとしての取り組みを強化している。

目次

執筆者紹介

Edoardo La Ficara

Edoardo La Ficara

  • Hitachi Rail STS S.p.A.所属
  • 現在,COOとしてOS&M部門の統括業務に従事

Michele Budetta

Michele Budetta

  • Hitachi Rail S.p.A.所属
  • 現在,副COOとして調達,品質管理および保全エンジニアリングの統括業務に従事

Piero Marotta

Piero Marotta

  • Hitachi Rail STS S.p.A.所属
  • 現在,O&Mプロジェクトの統括業務に従事

Gianluca Guido

Gianluca Guido

  • Hitachi Rail STS S.p.A.所属
  • 営業,プロジェクト管理,入札および事業開発の統括業務に従事

1. はじめに

日立の鉄道事業の再編は,2015年のAnsaldo Breda S.p.A.およびAnsaldo STS S.p.A.の買収によって始まった。2社の買収を通じて製品およびサービスのポートフォリオを拡充することで,日立は信号・ターンキー,交通管理システムの能力を増強し,2019年,鉄道BU(Business Unit)は組織変革に向けた調査に着手した。その結果,OS&M(Operation Service and Maintenance:運用・サービス・保守)部門を一つの組織に統合することにより,大きなメリットが得られることが分かった。統合によって顧客に提供できる製品やサービスの幅が広がり,地域間の連携を強化するとともに,地域を越えた企業文化を醸成することができる。さらには,市場を牽(けん)引する企業やその他の競合他社と足並みをそろえることで,収益性を高めることができるという可能性が示されたのである。

本稿では日立の新たなOS&M部門の概要と,同部門が世界各地で実施している主なプロジェクトについて紹介する。また,高速かつクリーンな鉄道への需要に応えていくための将来的な課題についても考察する。

2. 統合されたグローバルな組織へ

新しいOS&M部門は,グローバルな事業開発,入札,販売,プロジェクト管理,調達,品質管理,保全エンジニアリングなどの部署から成る。これらの部署はOS&M部門全体のグローバルな運用をサポートしつつ,国や地域ごとのローカル市場でのサービス展開を管理する(図1参照)。

図1|グローバルOS&M部門の組織モデル 図1|グローバルOS&M部門の組織モデル 日立の鉄道事業における再編後のOS&M部門の組織図を示す。

新たなOS&M部門の基本方針は,以下のとおりである。

  1. 営業およびプロジェクト管理におけるグローバルなリーダーシップの発揮
  2. 顧客志向のプロジェクト遂行に向けたローカルなリーダーシップの発揮
  3. OS&MプロバイダーとD&B(Design and Build)チーム間のE2E(End to End)の連携
  4. プロジェクトベースの組織によるO&M(Operation and Maintenance:運用・保守)およびS&M(Service and Maintenance:サービス・保守)の遂行
  5. RS(Rolling Stock:車両)およびS&T(Signal and Turn-key:信号・ターンキー)のエキスパートを加えた統合組織下における,ローカルなO&MおよびS&Mのリソース管理
  6. 地域のリソースを使用した調達,サプライチェーン,品質管理,エンジニアリングによる効率化と標準規格およびプロセス統合の推進

2.1 OS&M市場の概観と展望

日立の鉄道BUは世界各地で大規模なプロジェクトを次々と展開しており,OS&Mの対象製品と事業エリアは多岐にわたる(図2参照)。目下の重要な課題は,新興市場で新たな商機を見いだし,他社買収によって得られたノウハウと新たなOS&M部門を通じて事業シェアを拡大することである。

図2|世界の主なOS&Mプロジェクト 図2|世界の主なOS&Mプロジェクト 日立の鉄道BU(Business Unit)は,世界各地で多数のOS&Mプロジェクトを展開している。

O&M市場では,車両および信号の分野とは異なり,コントロールセンターの運用,運賃の徴収,施設管理,インフラ保守,駅の運用,カスタマーケアといったコアサービスの提供がより重視される。サービスの展開の幅が広いということはすなわち,競合他社の数が多いということでもある。競合企業は主に以下の三つのカテゴリーに分類される。

  1. O&Mに特化したグローバルオペレータ
    国際的に事業展開する大手オペレータで,世界各地のバス,地下鉄,路面電車,通勤鉄道網の運用および保守を担う。
  2. 車両およびシステムプロバイダー
    車両製品および契約のほかに保守サービスも提供する。
  3. サービスプロバイダー
    グローバル企業または地元の企業で,保守サービスを中心に提供する。

これに対し,日立のOS&M部門は,革新的な無人運転(GoA4:Grades of Automation 4)メトロプロジェクトと,これまでに培ってきた信号システムおよび車両保守サービスを二軸として,O&M市場におけるプレゼンスの強化に取り組んでいる。また,デンマークのコペンハーゲンメトロとサウジアラビア・リヤドのプリンセスヌーラ大学向け自動運転メトロシステムのO&Mの経験が,リヤド・メトロ3号線〜6号線,ペルーのメトロ・デ・リマ2号線,4号線,米国・ハワイ州のホノルルLRT(Light Rail Transit)プロジェクトなど,多数の無人自動運転メトロシステムの開発に生かされている。

さらなる成長を促進するため,日立のOS&M部門は車両,信号,ターンキーを提供できる類まれなオペレータという長所を生かし,日立の車両以外の車両保守,高速路線・モノレールの運行,オープンイノベーションへの投資を進めている。これにより,新たな市場や地域での商機が得られると考えている。

2.2 フリートKPIの継続的改善

O&Mなどの市場構造の変化により,鉄道BUもまた改善が求められている。鉄道BUは新しい事業構造の下,顧客の事業環境に合わせて中核業務の方向性を見直し,実績報告,ガバナンス,情報分野での連携を強化したいと考えている。これらの課題に関するOS&Mの取り組みを以下に示す(図3参照)。

図3|KPI改善に向けたOS&Mのアプローチ 図3|KPI改善に向けたOS&Mのアプローチ O&M市場の変化に対応するべく,鉄道BUが改善に取り組む四つのポイントを示す。

2.3 Lumadaを活用した保守によるライフサイクルコストの削減

押し寄せるデジタル化の波により,OS&M市場においても,IoT(Internet of Things),CBM(Condition Based Maintenance),予防保全,データサイエンスを抜きにサービスを提供することはほぼ不可能な状況となっている1),3)。2019年の鉄道事業部門の統合により,OS&M部門は,S&Mの技術領域を再編成して,システム分野のコンピテンスにデータサイエンスやITのノウハウを組み込むことが可能になった。

これに際し,OS&M部門では,データおよび診断ルールのロードマップを開発した。このロードマップに従って部品使用率を評価するとともに,点検手順を自動化し,処方的な保全・整備に関する情報を与えることで,保守の最適化を実現する(図4参照)。これにより,ライフサイクルコストを削減し,顧客やサプライヤとの連携を強化できる。また,英国で実施されたITフリートに関する最近の分析では,パンタグラフ,HVAC(Heating Ventilation and Air Conditioning),バイモード車両に設置された発電ユニットのメンテナンスを大幅に削減できると予測されている。

図4|OS&Mによる予防保全およびデータ活用のロードマップ 図4|OS&Mによる予防保全およびデータ活用のロードマップ 使用履歴に基づき部品の使用率を評価するとともに,点検手順を自動化し,処方的保全および整備活動の情報を与えることで,保守の最適化を実現する。

OS&M部門は,Lumadaやビッグデータ,GPLM(Global Product Lifecycle Management)などのさまざまなテクノロジーを活用しているほか,Project Phoenixという共通監視プラットフォームを開発し,2019年より運用を開始している。このプラットフォームでは,英国およびイタリア市場向けに以前開発された主要設備監視機能をOS&Mに統合し,2021〜2022年にかけてCBM機能を最適化する予定である。

2.4 サプライチェーン管理の強化

OS&M部門ではサプライチェーン業務を最適化し,さまざまな地域で最適な対応を取るべく,日立のグローバルオペレーションと現地調達を促進している。鉄道BUの収益を支えるOS&M部門のサプライチェーンは,十分なインテリジェンスと機敏性を備え,短期の故障修理に対応しながら,オーバーホールや部品改修,倉庫業務などのより長期的な活動を通じて,費用に見合う価値を創出するものでなければならない。

これを実現するべく,2019年2月,OS&M部門とRS部門の再編成にあわせて専任のOS&M調達部が設立され,購入,契約,注文処理を担当している。協創と業務標準化の推進に重点を置くため,グローバル調達部門とは緊密な関係を維持している。組織再編の完了に伴い,OS&M部門の調達活動およびサプライチェーンの焦点は,最新のデジタル技術を通じた在庫管理,潜在的なインソーシングの機会の特定に移った。

OS&Mのサプライチェーンは時間の経過とともに変容し,データを活用して再注文および倉庫業務ソリューションの管理における課題を抽出する。むだの削減や在庫コストの最適化は,今後の営業活動や入札の際にも役立つものと考えられる。

また,修繕に必要な部品などを自社で製作するか,購入品を用いるかについては,修理時間を短縮するための現地生産化から保守全体を請け負う案件まで,特に市場が成熟していない地域で,複数の取り組みが進行中である。O&M部門は引き続き,特に英国のIEP(Intercity Express Programme)などの全面的に保守を請け負うプロジェクトに関して,引き続きグローバル調達部門と緊密に協力していく。人財を長期的に開発し,各サプライヤと連携することで,自社製品と購入品の最適なバランスを取ることが重要である。

3. おわりに

日立の鉄道事業のOS&Mの変革は,組織の再編から始まった。OS&M部門は今後,交通システムの保守サービス市場における大量輸送システム運用経験の活用,設備管理分野を牽引するデジタル技術の開発により,フルサービスプロバイダーとしての立場を固めていく計画である。

参考文献など

1)
Levitt, J.: Complete Guide to Predictive and Preventive Maintenance. Industrial Press Inc. , USA (2011.6)
2)
Hodge, V. et al.: Wireless Sensors Networks for Condition Monitoring in the Railway Industry: A Survey, IEEE Transactions on intelligent transportation systems, vol.16, no.3, pp.1088-1106(2015.6)
3)
Hurwitz, J. et al : Essential Elements of an IoT Core Platform(2016.11)
4)
Nuttall, N.: Trenitalia Drives Cost Savings Using IoT on Train Operation, Gartner, ID.: G00318187(2016.12)
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