日立評論

画像解析応用サービスによるタッチレスソリューション

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ハイライト

近年,ビル利用者の多様化やデジタル技術の発展など,ビルを取り巻く環境は急速に変化しつつあり,新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて,建物内における非接触な移動・生活の実現が求められている。

株式会社日立ビルシステムは昇降機保全事業で培ったノウハウ・インフラを活用し,防犯カメラシステムや入退室管理システムなどの建物トータルソリューションを提供してきた。防犯カメラの契約台数は累計約20万台,ビル管理クラウドサービス「BIVALE(ビヴァーレ)」による入退室管理システムのサービス契約数は約3,000件に上る。

本稿では,「BIVALE」を中心として体系化を進めている日立ビルシステムのビル管理クラウドサービスについて,スマートビルへの展開に向けた将来構想とともに紹介する。

目次

執筆者紹介

加藤 審吾Kato Shingo

加藤 審吾(Kato Shingo)

  • 日立製作所 ビルシステムビジネスユニット ソリューション事業部 デジタルソリューション推進プロジェクト 所属
  • 現在,デジタルソリューションを核とした新事業企画業務に従事

谷酒 範昭Tanisake Noriaki

谷酒 範昭(Tanisake Noriaki)

  • 株式会社日立ビルシステム ソリューション事業部 フロントエンジニアリング部 所属
  • 現在,海外事業企画業務に従事

天野 康介Amano Kosuke

天野 康介(Amano Kosuke)

  • 株式会社日立ビルシステム ソリューション事業部 ビルICTソリューション部 所属
  • 現在,ICT商品の企画に従事

春名 成彦Haruna Shigehiko

春名 成彦(Haruna Shigehiko)

  • 株式会社日立ビルシステム ソリューション事業部 デジタルソリューション推進プロジェクト 所属
  • 現在,デジタルソリューションを核とした新事業企画業務に従事

1. はじめに

先進国を中心とした労働人口不足,グローバル化,モノからコトへの消費者ニーズの変化など社会潮流の変化を受け,ビルにおいても,単純な監視カメラシステムや入退室管理システムの提供だけではなく,運用の改善に向けたソリューションや,利用者に配慮したソリューションの提供が求められている。

個人情報漏洩(えい)事故対策などに向けたセキュリティ強化のニーズや,地球温暖化への懸念をはじめとするエコ・省エネルギー意識の高まりを踏まえ,株式会社日立ビルシステムでは2012年よりサービスを開始したビル管理クラウドサービス「BIVALE(ビヴァーレ)」を通じ,社会潮流に合わせたソリューションを提供してきた1)

現在,世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るっており,さらなる感染拡大の防止に向けては,監視目的のみの防犯カメラシステムや認証媒体への接触を伴う入退室管理システムに,さらなる安全・安心を付加したサービスの提供が急務となっている。そこで,日立ビルシステムは衛生面を考慮したタッチレス化に着目し,従来のBIVALEによるサービスと連携して,画像解析技術を応用したソリューションの提供を進めている2)

2. 画像解析市場の動向

Fortune Business Insights Pvt. Ltd.によると,2018年時点で世界の画像解析の市場規模は約25億USドルであり,2026年には約120億USドルに迫り,この期間のCAGR(Compound Average Growth Rate:年平均成長率)は22%に達する見込みである。その中でも今後,市場の成長を牽(けん)引していくのは,政府機関によるテロ対策などの投資と,セキュリティ面における投資の二つと考えられる。2018年時点では単純な動作検知関連の画像解析の比率が高いが,これらの投資により,今後は対象物のより詳細な動作検知や車番認証の市場の成長と技術向上が予測されている3)

今後の注目市場はアジア太平洋地域であり,中でも需要の伸長が期待される中国・インドにおける市場規模は,2018年時点で約5億USドルに達していた。また,画像解析用クラウド技術の向上を見越して,今後は中小企業のクラウドベースでの画像解析の採用が増えると期待されている。それ以外にも,画像解析技術を応用した自動運転,産業機械自動化,ロボットなどの分野で,今後著しい成長が見込まれている。

3. 画像解析を利用したソリューションサービス

画像解析技術を活用したサービスは国内外で多数の企業により提供されているが,日立ビルシステムの強みは,昇降機メーカーであり,防犯カメラシステムや入退室管理システムを昇降機と連携して提供できる点である。

日立ビルシステムでは,顔認証や人流解析などの画像解析応用サービスと各システムを連携することで昇降機や入退室管理システムの利便性,利用時の衛生面を考慮した機能のサービス化を進めている。

3.1 画像解析システム構成

現在,市場にはさまざまな画像解析サービスがあるが,それらはクラウド型または大型のオンプレミスサーバ型によるサービスが主流であり,レスポンスの遅延や,高価な導入コストが課題となっている。

そこで日立ビルシステムでは,安価で小型なAI(Artificial Intelligence)エッジ端末とBIVALEを連携させることで,画像解析サービスの導入が容易なシステムを実現した。また,LAN(Local Area Network)ポートや通信インタフェースを有するため,既存の防犯カメラシステムや入退室管理システムに接続することで,既存資産を有効に活用することが可能である(図1参照)。

特にクラウド型の画像解析サービスで課題となる個人情報管理についても,顔認証データをAIエッジ端末に保存することにより,インターネット上に個人情報が保存されることがない,個人情報保護に配慮したシステム構成としている。

図1|システム構成概要 図1|システム構成概要 既存システムにAIエッジ端末と,顔認証画像を登録するパソコンを追加することで導入が可能である。

3.2 タッチレスソリューション

画像解析技術を活用したタッチレスソリューションは,顔認証ソリューションと人流解析ソリューションに大別される。日立ビルシステムでは,ドアやエレベーターなどのビル設備機器と連携したサービスを提供している。

まず,顔認証ソリューションは従来のIC(Integrated Circuit)カードや静脈などの認証媒体による認証に加え,顔認証技術を利用した入退室管理システムであり,ドアセキュリティやセキュリティゲートに適用可能である。また顔認証とすることで,タッチレス化を実現している。

一方,人流解析ソリューションでは,エレベーターホールやビルのエントランスにいる人の数をカウントし,人数に応じた最適なエレベーターの運転制御や,タッチレスによるエレベーターのホール呼びなどを実現する。

  1. 顔認証ソリューション
    顔認証サービスは,ビルの共用部に設置されたフラッパーゲートや,専有部の執務室のドアなどの認証媒体として利用することで,タッチレスで衛生的な入退室管理システムを実現できる。既設のネットワークカメラを利用することもできるため,防犯用途との併用も可能である。また,被写体撮影カメラと赤外線カメラのデュアルレンズを搭載した顔認証専用端末の採用によって写真や動画によるなりすましを防止し,より高いセキュリティを必要とするサーバルーム入口などにも適用可能である(図2参照)。
    また,ネットワークカメラの画角内に最大10人までの同時認証を実現したバーチャルゲートを設定することで,朝の通勤時のエントランスでの認証時間削減が期待できる。このソリューションでは,ICカードのように各々がカードをカードリーダーにかざすことなく個人を特定できるため,スピーディーな出退勤管理も可能となる(図3参照)。
    この顔認証システムの特長として,社員証や履歴書の写真データを利用できるため,指紋認証や静脈認証のようにシステム導入時に生体情報の登録が不要な点が挙げられる。これにより,システム導入時の運用工数削減が期待できる。仮に顔認証データの作成が必要となる場合も,写真を撮影するのみであるため,認証媒体に触れることなく登録可能であり,タッチレスで衛生的である。
    また,スマートフォンや従来型の携帯電話にて自身で撮影した写真を顔認証データとして活用できるため,ビルへの来訪者を事前登録することでエントランスをタッチレスで通過可能となり,ビル受付での滞留時間を削減することができる。

図2|顔認証専用端末を利用した入退出 図2|顔認証専用端末を利用した入退出 顔認証専用端末を用いた生体確認により,顔写真,顔動画によるなりすましを防止し,より高いセキュリティを必要とするサーバルーム入口などへの適用が可能である。

図3|バーチャルゲートを利用した人数カウント 図3|バーチャルゲートを利用した人数カウント 防犯カメラの画角内にバーチャルゲートを設定することで,最大10人まで同時に顔認証が実施可能である。

  1. 人流解析ソリューション
    人流解析による人数カウントでは,ネットワークカメラの画角内にバーチャルラインやバーチャルエリアを設定することで,入場者と退場者を同時に検知することができ,施設内にいる総人数をタイムリーに集計することができる(図4参照)。
    2020年4月からは,大規模商業施設において訪れた人数を区域ごとに計測・集計し,そのデータをマーケティング情報として活用し始めている。
    人流解析の応用として,バーチャルラインやバーチャルエリアを設定し,ラインを越えた,あるいはエリアに侵入した人物を検知した際に発報することで,防犯用途での利用も可能である。
    センサーを用いた侵入検知では,小動物など人物以外の検知により誤報が発生するケースがあるが,画像解析技術を用いることで人物だけを検知対象とすることが可能となり,検知精度の向上が見込める。
    また,エレベーターホール内に設定したバーチャルエリア内にいる人数,または入り口に設定したバーチャルラインを越えた人数をカウントすることで,人数に応じたエレベーター制御を行うことができる(図5参照)。基準階においてバーチャルラインを越えた人物を検知し,エレベーターの呼びボタンを自動押下することも可能である。
    また,主にマンションなどに納入している「ダブルセキュリティ4)」との連携により,顔認証で個人を特定しエントランスを開錠後,自動でエレベーターを呼び,その個人の行先階を自動で指定することができる。これらを一連の流れとして制御することにより,目的階までタッチレスで移動できるため,便利かつ衛生的であり,感染症予防の面でも有効である。

図4|バーチャルライン越えを利用した人数カウント 図4|バーチャルライン越えを利用した人数カウント 出入口に設置したIP(Internet Protocol)カメラの画角内にバーチャルラインを引くことで,施設(エリア)内を行き来する入場者,退場者を同時にカウントでき,施設内にいる総人数をタイムリーに集計することが可能である。

図5|バーチャルエリアを利用した人数カウント 図5|バーチャルエリアを利用した人数カウント 人流計測による人数カウントにてエレベーターホール内に設定したバーチャルエリア内の人数をカウントできる。

4. 画像解析技術を活用した今後のサービス提供

画像解析の分野では今後,ニーズの複雑化に対応するため多様な解析技術が必要とされると見込まれるが,日立ビルシステムが取り組むスマートビルへの応用が可能となる技術は次の二つに分類できると考えられる。

  1. 顔認証技術の応用
    顔認証技術は昨今広く普及しており,個人用携帯電話の認証,入国管理ゲート,オフィスの出退勤管理や入退室管理,テロ対策用の広域システムなどに使用されている。
    また,顔認証を応用したサーマルカメラによる体温検知なども可能である。近年では性別・年齢のみならず,体調や感情の推測など,より高度な認識ができるようになった。
    今後は防犯カメラを多く納入する流通系の顧客に対し,性別・年齢の分析データ提供や,スマートビル化の一環としてビル入場者の健康状態の把握などのサービスを検討していく。
  2. 行動検知技術
    行動検知技術では,背景の画像と対象エリアをピクセル比較することで認識し,人数カウントやエリアカウント,置き去り検知,滞留検知といったさまざまな応用が可能である。
    スマートビルの推進に向け,今後はビルや施設内で発生した転倒などの異常行動検知や,不審者行動,軌跡検知および車いす・ベビーカー検知,迷子検索機能などの技術も取り入れ,より高度な画像解析サービスを提供していく。また,人数カウントを利用し,施設内区域の人数に応じた空調制御をおこなうAI空調との連携なども検討していく。

5. おわりに

本稿では,日立ビルシステムの防犯カメラを活用した画像解析応用システムにおける新たな取り組みと今後の展望について述べた。

「人・ビル・社会」に新たな価値を提供することは,日立ビルシステムの企業理念の一つである。オフィスビルやマンションを取り巻く環境は大きく変わりつつあり,日立ビルシステムは時代のニーズを捉えながら,より安全で快適な環境づくりを提案していく。また,管制センターやフィールドエンジニアといったインフラ資源や,これまでに培ってきたビル設備へのノウハウに加え,新たに開発するデジタル技術などを活用し,ビルに関わる人に新たな価値やサービス,スマートビルソリューションを提供していく。

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