日立評論

人生100年時代の中でのハイブリッド型コミュニティ創造

人のための新たなデジタル社会を背景とする新地域コミュニティ像

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人生100年時代の中でのハイブリッド型コミュニティ創造

人のための新たなデジタル社会を背景とする新地域コミュニティ像

飯島 勝矢飯島 勝矢
東京大学高齢社会総合研究機構 機構長
東京大学未来ビジョン研究センター 教授
1990年,東京慈恵医科大学卒業後,千葉大学医学部付属病院循環器内科入局。東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座講師,米国スタンフォード大学循環器内科研究員等を経て,東京大学高齢社会総合研究機構教授,2020年より現職。博士(医学)。専門は老年医学,老年学。特に,健康長寿実現に向けた超高齢社会のまちづくり,地域包括ケアシステム構築,フレイル予防研究などを進める。内閣府「一億総活躍国民会議」有識者民間議員,厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」構成員などの役職を務める。

わが国においては世界に例のない少子高齢化が進んでおり,こうした急激な人口構成の変化に対応し,医療・介護を含む社会保障・居住環境・社会的インフラ・就業形態(高齢者就労も含む),そして人とのつながりを軸とする地域社会との接点,これらを包含した社会システム全体を組み替える必要性が目前に迫っている。中でもわが国は,国民が健康な生活と長寿を享受できる健康長寿社会の実現が急務となっており,さらに経済活動・地域活動への高齢者の積極的な参画を促すことによって,高齢者も「社会の支え手」となれる新しい社会システムを追い求める必要がある。

人生100年時代とも言われる中で,健康寿命の延伸は国家戦略の中核であり,フレイル(虚弱)をいかに喰い留めるのかが鍵になる。このフレイルの概念は,従来の健康増進〜介護予防の流れにも新しい風を入れようとしている。

フレイルには多面性があり,身体的な要素(変形性膝関節症を代表とするロコモティブシンドロームなど)だけではなく,精神心理的なメンタル面や社会的な要素(孤立,孤食,独居,経済的困窮など)もあり,これらがさまざまな負の連鎖を起こし,自立度の低下を促進していく。そこに大きく関わる要因が筋肉減弱(サルコペニア)である。このフレイル化をより早期から予防するためには,健康増進に向けた従来のアプローチ(十分な蛋白質摂取と適切な運動習慣)だけでは限界があり,そこに人とのつながりも含めた社会性・社会参加が個々人に大きく求められる。

今年2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が大きな問題になった。筆者が率いる東京大学ジェロントロジー研究機構におけるフレイル予防研究チームの調査研究により,単なる感染リスクだけではなく,高齢者の自粛生活長期化による健康二次被害(フレイル化およびフレイル状態の悪化)が明確なエビデンスとして見えてきた。すなわち,過剰な恐怖を背景とした自粛生活長期化により,顕著な生活不活発および食生活の乱れ,さらには人とのつながりの断絶が見られた。

われわれが高齢住民主体のフレイルチェック活動を導入している自治体を調べたところ,ある地域では40%強の高齢者に外出頻度の著明な低下が認められ,中でも14%の方が週1回未満の外出頻度(=閉じこもり傾向)まで低下していた。さらに,外出頻度だけではなく,「バランスの良い食事ができていない」,「買い物に行けず食材が手に入らない」,「献立を考えるのが面倒になった」,「食事も疎かになり簡単に済ませる」などの悪影響も認められた。新型コロナウイルス感染症流行の前後比較での実測値の変化では,握力,ふくらはぎ周囲長,筋肉量の減少(特に体幹部は約8%減少)が認められた。

今後,全国の高齢者の方々には,この感染症を「正しく賢く恐れる」ことを促し,悪影響が出ている心身機能と生活内容を早々に改善すべきである。

そこで,ウィズコロナ・アフターコロナ社会を見据えて,わが国日本がどのように大きく変容できるのかが大きな鍵になる。そこで,国家戦略として三つの「守る」,すなわち(1)感染から守る,(2)経済を守る,(3)健康/健全な地域社会を守る,を実現すべきであることを改めて強調したい。

その中で,個人および地域のNew Normalの構築へチャレンジしたい。個々の地域住民に対して,早期からのフレイル予防による健康長寿実現のために「栄養(食と口腔)・身体活動(運動が主)・人とのつながりを基盤とする社会性」の三つの柱は重要である。今こそ,個々人の変革と地域の変革のために「ハイブリッド型の地域コミュニティ」を構築すべきである。

オンサイト(現場)で従来の通いの場や集いの場を上手く配慮しながら実現させていき,そこにオンライン技術を上手く溶け込ませ,地域支援ICTプラットフォームを創造していくべきである。すなわち,感染対策に直結する新しい生活様式も当然重要であるが,それに加えて,人とのつながり方や集い方の新しい形をITを駆使して模索し,「身体は離れていても心が近づくことができる地域社会」を構築したい。そこには趣味や価値観を共通項として,物理的な距離が大きく離れている者同士(特に若い世代だけではなく高齢者も)で気軽に集えるように,さらには,従来の地域コミュニティ(特に日常生活圏域)において忘れられかけている「絆」を取り戻すことができるようにしたい。

このCOVID-19問題のピンチをどうチャンスに変えることができるのか。この課題は,アフターコロナ時代において,人のあり方はどう変わっていくべきかを意味している。さらには,真の人間中心社会に向けて,Society 5.0時代の技術が進化し,さらに普及し,「われわれの忘れてはならない原点」と「次世代の新しい地域コミュニティ像(人のための新たなデジタル社会)」の両方を実現しながら,人と人との心を近づけ(いわゆる絆),豊かな社会に向けた新たな価値を全世代に創造してくれることを信じてやまない。

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