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執筆者紹介

宅間 恵理子Takuma Eriko

宅間 恵理子(Takuma Eriko)

  • 日立製作所 産業・流通ビジネスユニット デジタルソリューション事業統括本部 エンタープライズソリューション事業部 企画本部 グローバルビジネス企画部 所属
  • 現在,産業・流通業種向けソリューション企画・事業戦略の取りまとめ業務に従事

井上 友次Inoue Yuji

井上 友次(Inoue Yuji)

  • 日立製作所 産業・流通ビジネスユニット デジタルソリューション事業統括本部エンタープライズソリューション事業部 企画本部 グローバルビジネス企画部 所属
  • 現在,産業・流通業種向けソリューション企画・事業戦略業務に従事

1. はじめに

地球温暖化やグローバリゼーションの加速など,暮らしを取り巻く環境の劇的な変化によって,今後,パンデミックは人類にとって一層の脅威となっていくと言われている。

この度の新型コロナウイルス感染症によって,世界は感染拡大防止と経済活動の両立という難しい課題に直面している。感染拡大はいわずもがな,先の見えない経済活動も人々に大きな不安をもたらした。

ビフォーコロナの世界においても,労働人口の減少はすでに切実な課題であり,省人化・自動化に関する技術が活発に研究され,一部では実現されてきたが,コロナ禍によってそのニーズはさらに加速した。働き方改革の一環として以前から推奨され,徐々に活用され始めていたリモートワークも,コロナ禍により一気に広がった。必要性は人々の意識や行動をドラスティックに変え,技術もこれに追いつくものである。

これからの産業界には,感染拡大防止と経済活動を両立する中で,消費者のみならず労働者にも,安心・便利なニューノーマル時代の暮らしを提供することが求められると考える。

2. ニューノーマル時代の産業界における日立の役割

日立は110年前の創業以来,「和・誠・開拓者精神」という日立創業の精神(VALUES)を発揮しながら,「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念(MISSION)を果たし続けてきた。特にものづくりの分野で,設計,調達,製造や物流などのサプライチェーンを中心とした社会機能の維持に必要な業務を顧客と共に支え,これらの活動を通じて顧客の企業価値向上に貢献することで,社会価値,環境価値,経済価値を同時に向上させてきた。

しかしながら,今般の新型コロナウイルス感染症の拡大に端を発したニューノーマル時代の到来により,従来の延長線上で継続的に顧客の価値向上に貢献することが困難となり,今後の新たなリスクを踏まえた不確実性への対応が必要となっている。

このような中で,日本のものづくり企業が強化すべき取り組みとして,5月に政府が取りまとめた「2020年版ものづくり白書」1)では,「ダイナミック・ケイパビリティ論」※)を挙げて,企業変革力の強化の必要性を説いている。この戦略論では,環境変化に対応するために,企業が自己を変革する能力を「ダイナミック・ケイパビリティ」と捉えており,下記の三つの能力が必要とされている。

  1. 感知
    脅威や危機を感知する能力(センシング)
  2. 捕捉
    機会を捉え,既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力(シージング)
  3. 変容
    競争力を持続的なものにするために,組織全体を刷新し,変容する能力(トランスフォーミング)

「ものづくり白書」では,これらの企業の変革力強化に向けては,デジタル化が有効であると指摘している。

日立はIT企業として,また製造業としての自社の取り組みを通じて,顧客のさまざまな経営課題の解決に取り組み,顧客の強みを生かした価値の創造,協創を推進することで,デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)を実現してきたが,ニューノーマル時代を迎えるにあたり,IoT(Internet of Things),AI(Artificial Intelligence)やビッグデータ利活用など,進展するデジタル技術のさらなる深化が求められている。

ニューノーマル時代を迎えて急速な変革が求められる産業界で日立に求められる役割とは,プロダクト×OT(Operational Technology)×ITを掛け合わせた日立の総合力で,個々の顧客の価値のみならず,企業,業界の垣根を取り払い,新しいサプライチェーン全体の価値を最大限に引き出すことと考える(図1参照)。

図1|ニューノーマル時代の産業界に求められる日立の役割 図1|ニューノーマル時代の産業界に求められる日立の役割 急速な変革が求められるニューノーマル時代においても,Lumadaを基盤としてプロダクト×OT×ITの総合力で,サプライチェーン全体の価値を最大化する。

※)
カリフォルニア大学バークレー校ビジネススクール教授デビッド・J・ティース氏らにより提唱されている経営戦略論2),3)

3. ロジスティクスの今後と日立の役割

サプライチェーン全体の価値の最大化に向けて,サプライチェーン上で労働集約的な事業構造を持ち,多様化したライフスタイルに対応したサービス提供への変革が急務となっているロジスティクスの今後と,日立の役割について紹介する。

物流業界は,今回のコロナ禍での外出自粛による需要拡大を背景に,人手不足,サービス・取扱品の多様化といった,従来から存在する課題がより深刻化しており,その対策が急務となっている。特に,外出自粛が叫ばれる中でも物流従事者の業務は対面での対応が中心であり,感染リスクの高い不安な環境下での重労働を余儀なくされてきた。

日立はこれらの課題に対し,物流センター高度化と輸配送高度化を中心テーマに定め,プロダクト×OT×ITからなるSI(System Integration),ソリューション,プラットフォーム,サービスを提供することで解決し,ロジスティクス事業の高度化を実現する。

例えば,複雑化する物流センターにおいて,サービスや取扱品の多様化,人手不足といった課題を解決する自動化,省人化を目的としたロボット技術や,全体制御をシームレスに実現する統合WCS(Warehouse Control System),最適かつスピーディな運用設計を支援するラインビルドシミュレータが,ニューノーマルの時代における三密回避に貢献する。そしてプロダクト×OT×ITを最大限活用するこれらの構想および実現は,まさにITからプロダクトまでの技術を有する日立の総合力を生かす取り組みである。

例えば,日立が開発した自律型ピッキングロボットシステムでは,ロボットの動きをあらかじめ細かく設定する「ティーチング」が不要であり,ハードウェアに依存せずスピーディに現場・現物に対応できるシステムをめざして開発された(図2参照)。今後も導入実績を積みながら進化させていく。

図2|自律制御ソフトウェア「AIROBO」を搭載したピッキングロボット 図2|自律制御ソフトウェア「AIROBO」を搭載したピッキングロボット ティーチングレスでロボットを制御する日立の自律制御ソフトウェア「AIROBO」が搭載されたロボットは,人がモノを見て手を伸ばし,つかみ,作業するのと同じように,物流倉庫におけるピッキング作業を行うことができる。

また,輸配送の爆発的な需要拡大に応えるには,輸配送高度化が非常に重要である。小規模事業者の多い配送業界においては,ビフォーコロナの時代から日常の業務に追われてデジタル化が立ち遅れてきた現状があり,まさに早急なデジタル化による業務の効率化が求められる業界と言える。日立は,デジタルソリューション「Hitachi Digital Solution for Logistics」により,現場のデータを蓄積・分析し,リアルタイムでの入出荷や配送調整・指示,安全運行を含む運行状況の可視化を実現する。

物流センターおよび輸配送の高度化の実現において,現場のデータ蓄積・分析による業務の見える化とそれに基づく解決策は,企業の管理者層のみならず現場の従事者からも期待が大きい。従来,物流センター運営や配送計画,配送効率と安全運転のバランシングは,ドライバーを含む現場のベテランの経験と勘に支えられてきていたが,データの蓄積・分析によって現場の実態を定量的に見える化することにより,課題を組織の共通認識とすることが可能となる。そして現場のデータに基づいて設計されたシステマティックな配送計画,運行管理は,管理者のみならず現場の従事者の業務負荷軽減に大いに貢献することができる。

日立はさらにサプライチェーン上の複数の顧客や業界をデジタルでつなぐことで価値を最大化し,ロジスティクス事業の高度化を牽引していく。

4. 再生医療バリューチェーン

ここでは少し視点を変えて,再生医療に対する取り組みを紹介する。今回のパンデミックにより,健康管理や医療機関の重要性が改めて注目されている。特に印象に残ったのは,通院による感染リスクを恐れ,持病に対する必要な治療や検査を先延ばしにした患者が後を絶たなかったことである。ニューノーマルの時代において,人々はいつ発生するかが分からないパンデミックに備えて,自身の健康により気を遣うようになり,医療も飛躍的な進化を求められることとなる。

再生医療とは,本人もしくは他者由来の細胞・組織を用いた治療である。患者個人の体質や病気の状態に合わせた治療を提供することで治療効果の最大化,副作用の最小化を図ることができるとされ,特に難病の根治などに大きな期待が寄せられている。

再生医療では扱う対象が細胞・組織であるため,素材の調達・管理や特殊な製造工程など,化学物質主体の従来医薬品と異なるバリューチェーン構築および管理が必要となる。

日立はこれからの新しい医療技術・医薬品の一つとして期待が集まる再生医療等製品のバリューチェーン管理に寄与する三つのDXソリューションを提供する。

特に再生医療等製品サプライチェーンDXプラットフォームは,再生医療等製品に関わる医療機関・製薬・物流・製造企業などのステークホルダーが利用可能な共通サービス基盤であり,患者の機微な個人情報の取り扱いにも十分に配慮した設計となっている。日立は,医療関係の企業・業界の垣根を越えたバリューチェーン上のさまざまな業務のDXを支えていく。

5. 企業の新たな価値を生む取り組み

最後は,先の見通しが読めないニューノーマルの時代において,顧客の新たな価値を一緒に見いだし,具現化していく取り組みについて紹介する。日立は,日立製作所東京社会イノベーション協創センタが研究・開発し,2015年に発表した顧客協創方法論「NEXPERIENCE」4)により,顧客の将来ビジョンを描き,新たな解決策を顧客と共に創生する活動を推進している。

今までに延べ1,000社以上の顧客との協創活動実績があり,顧客からは具体的なアウトプット以外にも「自社のビジネスや今後の方向性について,こんなに皆で議論したことはなかった」,「非常に有意義かつ楽しい議論ができた」といった声が寄せられている。

日立社内でニューノーマル時代における試みとして実施した完全オンライン(非接触)のワークショップは,本音を引き出し,議論を活発化させるためのファシリテーターの技術や工夫により,社内に埋もれるさまざまな価値のある声を拾い上げるという意味で有意義な取り組みであった。

先の見通せないニューノーマルの時代にこそ,社内の「声なき本音」を拾い上げ,従業員が一丸となって未来を描く活動が重要となるものと考える。

6. おわりに

ニューノーマル時代の到来で社会の変革が加速する。企業の発展は,経営判断の確からしさとスピードがカギとなる。本特集で紹介する事例をはじめとするさまざまなDXソリューションの提供により,日立は企業や業界の変革力を支援し,新しいサプライチェーンの幕開けに挑んでいく。

参考文献など

1)
経済産業省,外:2020年版ものづくり白書(2020.5)
2)
D・J・ティース,ダイナミック・ケイパビリティの企業理論,中央経済社(2019.9)
3)
菊澤研宗,成功する日本企業には「共通の本質」がある‐ダイナミック・ケイパビリティの経営学,朝日新聞社出版(2019.3)
4)
日立製作所,One Hitachi で社会イノベーションを生み出す−顧客協創方法論「NEXPERIENCE」(2018.4)
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