ページの本文へ

Hitachi
お問い合わせお問い合わせ

ハイライト

ニューノーマル時代の到来によって人々の生活スタイルは一変し,ECやインターネットサービスを利用する消費者が増えてきている。これに伴い,高頻度かつ小口・短納期の配送など物流事業者への要求が厳しさを増す一方で,配達ドライバーや倉庫内従事者などの労働力は依然として逼迫しており,対策が急務となっている。

日立は「変化に強い物流」を実現するため,物流現場が抱えている課題をデジタル技術の活用によって解決する取り組みを進めている。本稿では,日立の物流高度化サービス群「Hitachi Digital Solution for Logistics」における取り組みの事例を紹介する。

目次

執筆者紹介

宇山 一世Uyama Kazuya

宇山 一世(Uyama Kazuya)

  • 日立製作所 産業・流通ビジネスユニット デジタルソリューション事業統括本部 エンタープライズソリューション事業部 流通システム本部 ロジスティクスイノベーション部 所属
  • 現在,輸配送ソリューション全般の新規事業企画,推進に従事

後藤 慧央Goto Akihisa

後藤 慧央(Goto Akihisa)

  • 日立製作所 産業・流通ビジネスユニット デジタルソリューション事業統括本部 エンタープライズソリューション事業部 流通システム本部 ロジスティクスイノベーション部 所属
  • 現在,輸配送ソリューション全般の新規事業企画,推進に従事

大江 菊仁Ooe Kikuhito

大江 菊仁(Ooe Kikuhito)

  • 日立製作所 産業・流通ビジネスユニット デジタルソリューション事業統括本部 エンタープライズソリューション事業部 流通システム本部 ロジスティクスイノベーション部 所属
  • 現在,ロジスティクスソリューション全般の新規事業企画,推進に従事

長尾 淳平Nagao Jumpei

長尾 淳平(Nagao Jumpei)

  • 日立製作所 産業・流通ビジネスユニット デジタルソリューション事業統括本部 エンタープライズソリューション事業部 流通システム本部 ロジスティクスイノベーション部 所属
  • 現在,ロジスティクスソリューション全般の事業統括,推進に従事

1. はじめに

近年,EC(Electronic Commerce)の進展により物流事業者が取り扱う荷物の数量は上昇の一途をたどっている。また,ニューノーマル時代の到来によって人々の生活スタイルは一変し,宅配便やネットスーパーなどのECやインターネットサービスを利用する消費者が増えている。

小売・流通業の企業は,自宅で過ごす「巣ごもり消費」需要を取り込むべく,ECなどデジタル化へシフトしつつあり,従来のサプライチェーンとは異なる調達先や商品配送ルートを検討する必要が出てきているとともに,サプライチェーンの構造改革も同時に実行することが求められている。一方,製造業の企業では,生産量の低下に伴って機械など工業製品の中距離輸送が減少したため,配送トラックの余剰が発生している。しかし,製品によっては急激な需要変動に伴う配送量の増加により,逆に配送トラックが不足し,リードタイムの増加や納期遅延を招くケースもある。

こうした中,多頻度・小口・短納期の対応を求められる物流事業者においては,労働人口の減少に伴う配達ドライバーや倉庫内従事者などの不足により,物流インフラを支えることが難しくなりつつある。また,非接触・非対面を重視するニューノーマル時代の新たな行動様式の定着により,人が介在しない省人・自動オペレーションが求められている。

一方で,従来のように配送ネットワークを定期的な固定コースで運用することは,物流の繁閑差に追従することが困難であり,需要や供給の変化に対応していく配送ネットワークが求められている。これは,競争力の向上や事業継続に向けて企業が変化しようとする動きであり,物流事業者においては,無理なく機敏に需給変動に対応できる「変化に強い物流」の構築が急務となっている。物流業界は今までのアナログな業務からデジタルな業務への転換期を迎えていると言える。

本稿では「変化に強い物流」を実現する物流業務の高度化の取り組みとして,配送計画や配送オペレーションの高度化を実現する日立のデジタルソリューション「Hitachi Digital Solution for Logistics」の活用事例について詳述し,併せて今後の展望について述べる。

2. 変化に強い物流のめざす姿

2.1 ニューノーマル時代に合わせた配送業務の変化

図1|これからの物流のめざす姿 図1|これからの物流のめざす姿 「デジタル技術を活用した物流高度化」により環境変化に対応した物流を実現する。ただし,実現に向けたビジネススキームの見直しも必要である。本稿では,図中の太枠部に示す機能を主に紹介する。

物流現場にはアナログな業務が依然として多く残っている。特に配送業務では,荷主と物流事業者のやり取りがFAXや電話などを通じて行われていることも多い。また,紙の伝票を使って配送指示や荷受検品処理を実施する作業もいまだに多く残っている。

こうした作業は現場担当者への依存度が高く,現場のオペレーション負担が大きいため,業務が属人化し,効率化を阻害する要因にもなっている。本来は早急にデジタル化を図り物流を高度化していく必要があるが,昨今の需給のアンバランスを受けて配送現場は日々の業務を回すことで手一杯となっており,デジタル化が遅れていた。しかし,ニューノーマル時代を迎えていく中で,物流変動への対応や限られた物流リソース(車両,ドライバー,倉庫)をいかに効率よく活用していくかが,事業継続への大きなカギとなっている。しかし,デジタル技術によって配送計画や配送オペレーションを高度化していくだけでこうした課題を解決できるわけではない。例えば,物流変動へ対応するためには,得意先や調達先との取引条件交渉によって物流を平準化し,納品条件の変更を実施していく必要がある。また,物流事業者間で荷物を融通しあうことで,より広域に配送ネットワークを広げることが可能になり,限られたリソースの有効活用ができる。これらの活動は物流事業者の自助努力だけでは解決できず,荷主企業や納品先企業など業界全体で取り組んでいくことが重要である。

日立は,デジタル技術を活用した物流高度化の一環としてこれらの課題を解決していくとともに,物流変動への対応や物流リソースの最大活用を推進していく顧客のビジネススキームの変革も支援することで,変化に強い物流の実現に取り組んでいる(図1参照)。

2.2 日立が考える配送業務の高度化

日立は,配送業務の高度化に向けて,計画フェーズと実行フェーズのそれぞれに対応したソリューションを提供している。計画フェーズの業務の一つである配送計画については,物流ルートや物量変化に柔軟に対応し,効率的な配送計画業務を自動化する「配送最適化サービス」がある。また,実行フェーズの一つである配送オペレーションには,車両などにIoT(Internet of Things)デバイスを搭載し,データを収集・管理することで運行の安全・品質を維持した配送動態管理を実現する「安全・運行・動態管理サービス」がある。これらのソリューションは,配送領域のデジタル化によって業務を自動化し,安全性を高めるとともに,サプライチェーンをデジタルでつなぐことで顧客満足度の向上をめざすものである。

次章では,これらのソリューションが想定する課題と解決の方向性について,事例を交えて詳述する。

3. デジタル技術を活用した配送業務高度化の事例

図2|配送業務を高度化するステップ 図2|配送業務を高度化するステップ 「安全・運行・動態把握サービス」と「配送計画最適化サービス」を活用した配送業務高度化ステップを示す。

日立は,顧客の物流業務のデータを収集・蓄積・分析することでサプライチェーン最適化を支援し,物流業務を高度化するサービス群をHitachi Digital Solution for Logisticsとして体系化し,現在は以下のサービスを提供している。

  1. 安全・運行・動態管理サービス
    熟練者の運転ノウハウの共有や運転特性の把握によって現場の実態を見える化し,業務の最適化・効率化を実現する。
  2. 配送最適化サービス
    熟練者の代わりに効率的な配送計画を自動で立案することで,配車の自動化と配送の効率化を実現する。

配送業務の高度化にあたって重要な三つのステップを図2に示す。

最初に,データを取得し,現場の実態を見える化していく。リアルタイムの動態把握によって突発的なイベント時にも迅速な対応が可能となり,帰社や納品の目安時間を把握することで物流サービス品質の向上にもつながる。次に,熟練者の運転ノウハウや運転特性を把握し,ドライバー,配車計画担当者の業務ノウハウを共有していく。また,予実管理による配送業務の問題点を知識化していくことで効率化を図る。最後に,蓄積・分析されたこれらのデータを活用して最も効率的な配送計画を自動的に立案し,コスト削減や作業効率の向上を促していく。

3.1 安全・運行・動態管理サービスの適用事例

図3|安全・運行・動態管理サービスの提供機能と導入効果の関係 図3|安全・運行・動態管理サービスの提供機能と導入効果の関係 本サービスの提供機能は「動態管理」,「走行軌跡」,「運転集計」,「進捗確認」から成る。本機能を活用して,(1)熟練者の運転ノウハウの共有, (2)業務改善の観点洗い出し,(3)リアルタイムな実績把握が可能である。

安全・運行・動態管理サービスの導入により,現場の実態を見える化することで業務の最適化,効率化を実現することが可能になる(図3参照)。例えば,熟練者の運転ノウハウを見える化することで新人ドライバーや応援のドライバーにもノウハウを共有できる。また,データを収集することによって走行実態を把握することが可能となり,他のチームや同一ドライバーの過去の走行実態と比較することで,より適正な安全運転指導につなげることができる。さらに動態把握によってリアルタイムに情報を連携することで,サプライチェーンにおける次の作業者が状況を把握でき,ドライバーの待ち時間を削減し,遅延発生を防ぐことも可能となる。

ある顧客の例では,本サービスの導入前後で事故件数を30%減少させることができ,全国各地から大量のデータを実績として収集したことで,それに基づく計画の立案が可能となった。事故なく確実に業務を遂行することによって信頼や期待を維持し,企業価値を保つことにもつながった。また,今まで把握できていなかった外出時のドライバーの動きを共有できるため,安全運転指導を徹底できたほか,担当ドライバーにかかわらず一定の品質で業務を遂行することが可能となった。

3.2 日立が考える配送業務の高度化

図4|配送最適化サービスの提供機能と導入効果の関係 図4|配送最適化サービスの提供機能と導入効果の関係 本サービスの提供機能は「配送計画立案」,「配車実行(実績登録)」,「配送計画評価」,「改善対応」から成る。
本機能を活用して(1)配車の自動化,(2)配送の効率化,(3)配送モニタリングが可能である。

配送最適化サービスは,配車の自動化を実現し,属人的な作業からの脱却を支援する(図4参照)。また,現状は空車便となってしまっている帰り便を有効活用することで積載のむだを解消し,効率的な配送と収益の拡大につなげることができる。さらには,収集した実績データと予実比較することで無理のない計画を立案し,柔軟で対応力がある変化に強い配送計画を実現する。

ある顧客の事例では,(1)配送計画業務の作業時間の低減,(2)積載率向上によるトラック利用台数の最大10%削減,(3)ルート最適化による高速道路利用料金の低減を達成し,配送効率を高めることができた。また,本サービスを用いて,納品時間の緩和といった条件変更による配送への影響を取引先とも共有していくことで,サプライチェーン全体の効率化につなげることができた。

4. おわりに

図5|Hitachi Digital Solution for Logisticsのトータルシームレスソリューションのイメージ 図5|Hitachi Digital Solution for Logisticsのトータルシームレスソリューションのイメージ フィジカルデータを収集し,サイバー空間上で分析・計画を実現する。倉庫内業務や輸配送業務を連携し,サプライチェーン上の業務をシームレスかつ効率的に支援する。

Hitachi Digital Solution for Logisticsは,物流業務のデータを収集・蓄積・分析することで,物流業だけでなく製造業や小売業を含めたさまざまな顧客のロジスティクスに関する課題を解決する。現状,物流現場のデータはサプライチェーン上でつながっておらず,効率化を図っていくうえではさまざまな課題がある。例えば,物流倉庫に車両が近づいてきた際には,AGV(Automated Guided Vehicle)やAGF(Automated Guided Forklift)などがバースへの出庫業務を開始し,到着したトラックへの積込作業と連携するなど,倉庫業務と配送業務の双方を制御していかなければならない。

今後も,日立は各業務の際(きわ)をシームレスにつなぎ,サプライチェーン全体の効率化を図るトータルシームレスソリューションの研究開発を推進していく(図5参照)。また,現場のオペレーションから情報を吸い上げ活用することで計画を最適化し,無理・むだのない計画に近づけていくことに取り組むとともに,より変化に強い物流を実現するべく,顧客のビジネス拡大に寄与するソリューションを拡充していく。

Adobe Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe® Reader®が必要です。