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1. サステナブルファイナンスプラットフォーム

[01]サステナブルファイナンスプラットフォーム[01]サステナブルファイナンスプラットフォーム

昨今,気候変動などの社会問題解決のため,サステナブルファイナンス市場が拡大している。しかし,発行体企業にとっては,プロジェクトが生み出す環境・社会への効果(インパクト)に関するレポート作成の負担が大きい。また投資家は,各投資案件を正確に比較するためにインパクト指標の高い透明性を求めている。

サステナブルファイナンスプラットフォームは,投資対象のグリーン設備からデータを取得し,ブロックチェーンを活用して改ざんできない形で多様なインパクトを計算するものである。株式会社日本取引所グループが2022年6月に発行した国内初のグリーン・デジタル・トラック・ボンドに採用され,インパクトレポート作成業務の効率化を図るとともに,投資家がいつでも透明性高くインパクトを参照できる仕組みを実証中である。

今後は,取り扱う設備の種類の拡大や第三者検証業務支援などの機能拡充により,サステナブルファイナンス市場の課題解決に寄与していく。

2. 併用療法を要する糖尿病患者の治療薬選択を支援するAI技術

糖尿病は,世界の成人の約1割が発症している慢性疾患である。病態の進行を抑えるためには,血糖値を適切に制御することが重要とされるが,2剤以上の治療薬を用いる併用療法は症例が限られ,経験を積んだ専門医でないと適切な治療薬の選択が困難であった。

そこで日立は,米国のユタ大学とレーゲンストリーフ研究所と共同で,併用療法を要する2型糖尿病患者の治療薬選択を医療データに基づき支援する技術を開発した。

本技術は,病態が類似する患者をグループ化し,治療薬と効果の関係をグループごとにモデル化する技術である。本技術を用いて,患者特徴や治療薬の選択肢に幅を持つ複数の地域・施設のデータを病態ごとに統合することで,症例の少ない併用療法についても,患者の約83%に対して治療効果予測に基づく支援が可能になった。現在,ユタ州とインディアナ州の二つの病院グループにて,糖尿病治療の最適化に向けた価値検証を推進している。

今後も本技術を活用し,患者のQoL(Quality of Life)向上に向けた医療サービスの実現に貢献する。

[02]二つの地域の医療データを病態ごとに統合分析した治療効果予測モデルのイメージ[02]二つの地域の医療データを病態ごとに統合分析した治療効果予測モデルのイメージ

3. 分野間データ連携基盤(CADDE)

Society 5.0の実現に向けて,さまざまなデータを活用した新たなビジネス創出が期待される中,防災や交通などの分野ごとにデータ基盤が整備されてきている。一方で,分野をまたがったデータ利用は未だ進んでいない。

日立は,異なる分野をまたがってデータ連携を実現する基盤技術(CADDE:Connector Architecture for Decentralized Data Exchange)を8社協創の下で開発し,OSS(Open Source Software)として公開した。本基盤技術は,データの発見,契約,交換,来歴記録というデータ連携に必要な一連の処理を,「コネクタ」というソフトウェアモジュールがデータ検索,認証や認可,来歴管理などを実施する外部の支援サービスと連携して実行する。今後,日本全体のデータスペースを構築するDATA-EX構想へ展開を図っていく予定である。

この成果は,「内閣府SIP第2期/ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」[管理法人:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO:New Energy and Industrial Technology Development Organization)]の取り組みにより得られたものである。

[03]分野間データ連携基盤(CADDE)の全体構成[03]分野間データ連携基盤(CADDE)の全体構成

4. 社会インフラ保守を革新する漏水検知サービス

高度成長期に整備された社会インフラの老朽化が進む一方,保守人員の高齢化や減少による社会インフラの保守品質が低下しており,世界的な社会課題となっている。水道管においても,定期的な人手の巡回調査による保守が行われているが,漏水の発見が遅れると陥没事故などの原因となるため,早期発見が求められている。

日立は,独自開発した7年間電池駆動が可能な無線一体型超高感度MEMS(Micro Electronics Mechanical Systems)振動センサーと,40万点以上の漏水データを用いて開発した地中の微小な漏水も検知できる漏水検知アルゴリズムをセンサーに実装して漏水を検知し,検知結果をクラウドに伝送することで,遠隔にて管路の漏水発生状態を確認する漏水検知サービスを事業展開している。漏水検知サービスの導入により広範囲な常設監視を実現し,漏水の早期発見が可能となる。

2021年度より正式運用を開始し,熊本市上下水道局をはじめとして適用される水道事業体が増えている。

今後は,さらなる技術開発と社会実装を進めて,将来の社会インフラ保守を見据えた水道管理業務の革新に貢献していく。

[04]漏水検知サービス概略図[04]漏水検知サービス概略図

5. 監視・警備業務を高度化するソリューションMVS v1.4

MVS(Multifeature Video Search)は,防犯カメラの映像から全身の特徴を使って高速に特定の人物を検索できるソリューションであり,100種以上の人物属性から検索できるほか,検索速度に強みを持っている。今般,近年の治安維持への意識の高まりに伴い,「公共空間におけるインシデントの発生を未然に防止したい」という各種事業会社から出てきたニーズを捉え,国際会議にて世界最高レベルの精度を評価された技術※1)を元に,新たに(1)広域監視においてインシデントになりえる特定の行動を検知する「行動検知機能※2)」,(2)遺失物や不審物を発見する「置き去り/持ち去り検知機能」を開発し,MVS v1.4として製品化した。

本機能によって,公共空間で発生する各種インシデントの予兆をより迅速に発見できるようになる。既に空港・電力などの分野で本格的な実用化に向けた検討が進められており,製品導入をめざしてより詳細な実験を継続する予定である。

※1)
映像解析分野のトップカンファレンスであるCVPR 2021,ICIP 2022などへ関連技術が採択
※2)
「キョロキョロする」など9種の行動を認識し,学習によって他の行動も認識可能である。

[05]MVS1.4で追加された画像認識アルゴリズムによる認識結果[05]MVS1.4で追加された画像認識アルゴリズムによる認識結果

6. CMOSアニーリングの協創を推進

世界各地で異常気象や自然災害,パンデミックに伴う社会生活の混乱が起きている。そのような状況では,社会インフラやシステムの効率的な運用や計画変更への速やかな対応が重要となる。

日立は,組合せ最適化問題の実用解を高速に探索することができるCMOS(Complementary Metal-oxide Semiconductor)アニーリング技術を開発し,さまざまなパートナーと社会課題の解決に向けた協創を進めている。

一例として,国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所と日立は,災害時の救援物資輸送の計画最適化に取り組んだ。災害時の救援物資輸送では,大量の物資を効率的に,各避難所間での不平等がないように輸送することが求められる。このような要求を満たす輸送計画をCMOSアニーリング技術により高速に計算し,実用的な解を得られることを実証により確認した。

広く協創を進めていくため,CMOSアニーリング技術をWebから使うことが可能なAnnealing Cloud Webのコンテンツを継続的に拡充している。これを通じてCMOSアニーリング技術を活用した社会問題解決を加速していく。

本成果の一部は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP16007)の結果得られたものである。

[06]海上・港湾・航空技術研究所との協創(左)とアニーリングクラウドウェブ(右)[06]海上・港湾・航空技術研究所との協創(左)とアニーリングクラウドウェブ(右)

7. デジタルツインを活用した配電デジタル保全基盤サービス

電力の配電業務では,保全コストの低減や労働者不足への対応,電力の安定供給といった課題がある。それら課題に対し,AI活用による業務効率化やドローンを用いた巡視点検自動化などのDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されている。DX導入のためには,保全業務を担う企業設備資産管理システム(EAM:Enterprise Asset Management)と新たに導入されたAIプラットフォームやIoTセンサー,ロボット,都市3Dモデルといった多様なシステムとの連携が課題となっている。

そこで日立は,配電業務に関係するさまざまな情報を集約管理するための配電デジタルツインを構築し,過去を含む配電の実環境をデジタル空間上に再現することで,EAMと前述の多様なシステムとのスムーズな連携を実現している。都市デジタルツインをコアとして,ビル街区やモビリティなど都市に関わる異業種の業務システムと連携する「配電デジタル保全基盤サービス」を提供することで,都市の経済発展と社会課題の解決に貢献する。

[07]配電デジタル保全基盤サービスの概要[07]配電デジタル保全基盤サービスの概要

8. ゼロエミッションデータセンター技術

世界的な気候変動への対策として脱炭素化への取り組みが加速しており,DC(データセンター)においても,社会のデジタル化に伴いその消費電力が増大しているため,ゼロエミッション化が必須である。このような背景を受けて,ゼロエミッションDCの実現に向け,DCにおけるIT×OT(Operational Technology)による電力需要の高度な予測・制御によるコスト低減と再生可能エネルギーの需給最適化をコンセプトとして研究開発を進めている。特にDC内の電力把握と不安定な再生可能エネルギー電源活用を課題と捉え,以下の技術を開発している。

  1. データ駆動型DC消費電力分析・予測技術
    取得容易なデータのみを用い,サーバルームごとに異なる特徴を自動で捉えて消費電力を分析・予測する。これにより,電力効率の改善や再生可能エネルギー化計画策定を容易化する。
  2. グリーン配慮ITワークロード制御技術
    複数の分散DC間にてITワークロードの実行場所と実行時間を最適化し,消費電力パターンを制御する。これにより,グリーンエネルギー活用を実現する。

今後,これらの技術の事業適用を進め,デジタル化社会の脱炭素化の実現に貢献していく。

[08]ゼロエミッションデータセンター技術[08]ゼロエミッションデータセンター技術

9. イベント駆動型分散アプリケーションのオートスケーリング技術

通信・電力などの社会インフラシステムSIで,高いSLA(Service Level Agreement)要件達成に加え,運用管理コスト削減や他システム連携などでクラウドシフトの要求が増えている。一方で,クラウドのマネージドコンテナなどのサービスを利用する際,余分なリソース稼働を長時間行うと,課金額の高騰につながる。そこで,業務アプリケーションの処理(イベント)負荷を観測してオーケストレーションサービスに通知し,オートスケーリングする技術を開発した。

本技術は,リソース間のイベント制御・配信・分散処理を担うイベント駆動型分散アプリケーション実行基盤HAF/EDC(Hitachi Application Framework/Event Driven Computing)が動作するコンテナアプリケーションを対象とする。HAF/EDCコンテナアプリケーションの未処理イベント総数と種別(処理時間)を定期取得して処理負荷に換算し,その結果をオーケストレーションサービスに通知することでオートスケールイン/アウトを行う。これにより,SLA要件を満たしつつコンテナリソース課金額を抑制することができる。

今後,本技術を発展させてクラウド環境での課金額低減手法を確立し,クラウドシフト案件における省リソース運用実現に貢献していく。

[09]イベント駆動型分散アプリケーションオートスケーリングの概要[09]イベント駆動型分散アプリケーションオートスケーリングの概要

10. 超高速無線伝搬シミュレータを用いた無線デジタルツインの実現

現場に5G(Fifth Generation)や無線LAN(Local Area Network)などの無線を活用したシステムを導入・運用する際,現場レイアウトの変更,人やモノの動きなどの現場環境の変化によって,無線通信劣化や不安定さを引き起こすことがある。

日立は,それらの通信不安定さの要因となる環境変動に対して,現場3Dデジタル空間において短時間でさまざまな環境を事前検証可能にした超高速無線伝搬シミュレータを開発した。

従来,現場デジタル空間での無線品質検証においては,数百から数千の電波到達点での解析が必要であり,その解析に数時間程度を要していた。本開発シミュレータでは,複数の電波到達点において並列的に解析処理が可能な,GPU(Graphics Processing Unit)計算に最適な電波環境解析アルゴリズムを開発したことにより,従来比1万分の1程度,数秒以内の解析を実現することができた。これにより,現場で起こる多種多様な変化を想定した事前評価を短時間で行うことができるため,安定した無線システムの導入や運用が可能になった。

[10]超高速無線伝搬シミュレータを用いた無線デジタルツインの実現[10]超高速無線伝搬シミュレータを用いた無線デジタルツインの実現

11. 多様な人財のスキル評価を支援する面談支援AIサービス

[11]熟練面談者のノウハウをノンコーディングでAIモデル化[11]熟練面談者のノウハウをノンコーディングでAIモデル化

近年,従業員のキャリアアップを支援するため,キャリアフォロー面談を導入する企業が増えている。しかし,従来型の面談では面談者の主観に基づいて評価を決定するため,公平で均質な評価を下すことは困難であった。また,面談者の数に対して被面談者の数が多く,実施可能な面談の数に限界があった。

そこで熟練面談者のノウハウをノンコーディングでAIモデル化することで,面談動画から熟練面談者の評価結果を高い精度で予測する技術を開発した。この技術により面談者ごとの評価のばらつきの抑制が可能となる。また,面談者の代わりにアバターが面談を行うセルフ面談機能を開発することで,対面だけでなく時間にとらわれない面談の実施が可能となる。

株式会社日立ソリューションズは,この技術を採用した「面談支援AIサービス」の提供を開始している。本サービスはオンラインで実施するさまざまな業務を支援できるため,人材派遣,教育,医療など,多くの業種におけるオンラインコミュニケーションの課題解決への貢献が期待される。

12. VCPモデルを活用した適合性検証技術

[12]VCPモデルを活用した適合性検証技術[12]VCPモデルを活用した適合性検証技術

COVID-19後のニューノーマルに向けて,店舗や施設からの衛生管理状況の積極的な開示が求められているが,従来は情報開示が不十分であり,利用者の安心・安全が確保されていない状態であった。この課題に対し,SIP(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)第2期「IoT社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティ」で開発した規程,ルールなどで要求されるヒト,システム,モノ,データ,プロセスのあるべき状態を機械可読形式で記述可能なVCP(Value Creation Process)モデルを活用し,施設に設置されたセンサーから収集した衛生管理状態(CO2濃度,騒音,温度,湿度など)と衛生管理規程のVCPモデルの突き合わせを行うことにより,現場の状態が規程から逸脱していないことを検証可能とする適合性検証技術を開発した。本技術により,店舗・施設の衛生管理状態を随時利用者に開示可能となり,利用者の安心・安全の確保による集客向上を実現させた。

今後,飲食チェーンや不動産デベロッパー,自治体,教育機関などさまざまな業種に展開し,商業施設やオフィス,公共施設など幅広い施設での適用をめざす。

本技術開発の一部は,内閣府が進める戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「IoT社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティ」(研究推進法人:NEDO)によって実施されている。

13. 需要特徴による需要予測と自動補充発注ソリューション

アフターコロナの時代による急激な変化で,需給が一層不安定となり,急激な増減産や過剰在庫が繰り返されている。人の経験に依存する在庫計画,購買計画の見直しと意思決定などは,企業細分化管理の要求を満たすことができない。このような状況において,サプライチェーンにおけるビッグデータ,AIなどの技術を活用し,DXの取り組みを加速することが,企業の競争力に大きな影響を与えている。

本ソリューションでは,在庫計画と購買計画に着目し,需要を満足する前提で在庫を削減し,購買管理の効率を向上させることをめざしている。この領域において,需要予測に基づく在庫最適化ソリューションがすでに多数存在しているが,膨大な品目数がある中でAIによる需要予測は,精度が高いものと精度が低いものが混在しているため,単一な需要予測型補充方式では不十分である。

そこで,製品・材料の需要特徴に対して多次元の分析を行い,需要特徴に合わせて最適な予測方法と在庫補充方式を自動選定することで目標を実現した。中国にある大手ビールメーカー向けにシステムを導入し,在庫金額が16%削減の効果が得られた。

[日立(中国)有限公司]

[13]需要特徴に基づく最適な在庫補充方式自動マッチングモデル[13]需要特徴に基づく最適な在庫補充方式自動マッチングモデル

14. VOSPの開発と業務提携へのアプローチ

DXが加速する中国では,安全性,効率性,規則性などを高めることを目的とした,現場の稼働状況の視覚的な分析および業務最適化のニーズが高まっている。しかし,従来のようなさまざまなカスタマイズ要件にケースバイケースで個別に対応するというやり方では,顧客の多岐にわたる問題を早い段階で迅速に解決するのは難しい。こうした状況で,顧客の多様なニーズを満たすシステムを迅速に提供するための統合共通プラットフォームとして,VOSP(Video Operation Service Platform)を開発した。

VOSPは,顧客のユースケースに共通する機能を取り出したモジュールブロックを含むフレームワークを備えている。さらに,さまざまなシナリオに合わせて共通機能を素早く調整するためのツールとして,データインタフェースやチューニングメソッドを搭載している。ビデオ解析,機械学習,データシミュレーションなどの最先端技術は既に,学会やジャーナルで広く認められている。先進的な技術を搭載するVOSPは,製造業の安全ビデオソリューションの開発に採用され,ソリューションの構築時間を2/3に短縮することに成功した。これらのアプリケーションを通じて,VOSPは現地の顧客とWin-Winの関係を築き,中国のDXビジネスを効果的に拡大するのに役立った。

[日立(中国)有限公司]

[14]VOSPプラットフォームの構造とメリット[14]VOSPプラットフォームの構造とメリット

15. 中国におけるビルエネルギー管理ソリューション

中国政府による「建築物炭素排出標準」などの環境規制を背景に,ビルオーナー・不動産デベロッパーは,ビル運営において経済活動と規制対応の両立をめざしている。この実現には,電力利用量を正確に予測し,ビル空調設備(チラー,ファンコイルユニットなど)のパラメータ設定,太陽光発電の利用量,再生可能エネルギーの調達量などを精緻に調整する必要がある。

日立(中国)有限公司R&D(Research and Development)は,高精度な空調電力需用予測技術を強みとした,ビルエネルギー管理ソリューションを開発した。本技術は,全データでの学習に加え,月,週日,時間ごとの特徴を持つ部分データをそれぞれ学習し,結果を統合することで予測精度を向上する。

90以上の国・地域のチームが参加したスマートビル・シティで世界最大規模のAIコンペティション「Global AI Challenge for Building E&M Facilities」において,本技術は,商業ビルの3か月後までの1時間ごとの電力消費量を75%の精度で予測し,かつ各種エラー率を低く抑えたことから,企業部門において最優秀賞(全5社)を受賞した。

[日立(中国)有限公司]

[15]ビルエネルギー管理ソリューション[15]ビルエネルギー管理ソリューション

16. AIソフトウェアのためのデータセット品質評価技術

AIソフトウェアは従来のソフトウェアとは異なり,学習データから帰納的に開発される。つまり高品質なAIソフトウェア開発には,高品質なデータセットを用意することが前提条件となる。データセットの品質を詳細に評価するために,例えば画像データに映っている物体の名称といった単一の属性だけではなく,物体の形状や背景の色などといった複数の属性に着目し,それらに対応するデータが十分に存在することの評価が重要となる。

そこで,変分オートエンコーダを拡張した技術を利用して,一つのデータから複数の特徴量を抽出・分析可能な技術およびツールを開発した。適用事例として,手書き帳票文字データセットを対象とした評価実験を実施した。その結果,データセット品質評価者が文字の名称だけでなく,文字の太さや形の乱れ度合い,ノイズ量といった複数の属性において,類似した特徴を持つデータ群を発見できることが分かった。

今後,この技術を基にそれらのデータ群のデータ数の定量化などを行い,多種多様なデータセットの十分性などの品質を評価する予定である。

[16]複数の属性分析によるデータセットの品質評価[16]複数の属性分析によるデータセットの品質評価

17. 業務継続性を担保した対策を実現するセキュリティデジタルツイン

近年,OTシステムを標的とするサイバー攻撃が増加し,ITシステムと同様のセキュリティ対策が急務となっている。しかし,OTシステムはITシステムに比べて機器の稼働を停止することが困難な場合が多く,想定外のシステム停止のリスクを伴うソフトウェアへのパッチ適用やファイアウォールのルール変更などを実施する判断ができず,長期間にわたり脆弱性が放置される問題があった。

そこで,このような脆弱性を悪用するサイバー攻撃の被害を軽減できるセキュリティ対策を複数立案し,各対策を実施した際に想定されるシステム停止などの業務継続性に与える影響(副作用)をサイバー空間上で事前に評価可能な技術(セキュリティデジタルツイン)を開発した。

今後,顧客の工場環境をはじめとして,電力施設などの社会インフラ,コネクテッドカーなどのIoT機器,医療機器システムなどを対象としたセキュリティ対策の適正化・効率化に貢献していく。

[17]セキュリティデジタルツイン技術[17]セキュリティデジタルツイン技術

18. 製品の安全性や信頼性を向上する高速データ検索技術

[18]データに基づく品質管理[18]データに基づく品質管理

安全意識の高まりから幅広い分野でデータに基づく品質管理の重要性が増加しており,製造データの高速検索により,製品出荷時に製造データを用いた全数検査を実現することが求められている。そのため,製造履歴データベースにおいて,出荷判定時に,出荷する全製品について原材料・部品から製品までの全工程の製造データを製品にひも付けて取得することが必要である。

従来DWH(Data Warehouse)では,工程を逐次検索するため検索に時間を要し,抜取検査となっていた。一方で,Hitachi Advanced Data Binder(HADB)※1)では,非順序型実行原理※2)によって工程を並列に検索することで,検索時間を最大1/20※3)に短縮し,全数検査を実現した。

これにより,自動車,医薬,材料,食品などの産業分野において,出荷する全製品の全工程を対象とした品質検査を実現し,製品の安全性や信頼性を大幅に向上できる。

※1)
内閣府の最先端研究開発支援プログラム「超巨大データベース時代に向けた最高速データベースエンジンの開発と当該エンジンを核とする戦略的社会サービスの実証・評価」(中心研究者:喜連川 東大特別教授/国立情報学研究所所長)の成果を利用
※2)
喜連川東大特別教授/国立情報学研究所所長・合田 東大准教授が考案した原理
※3)
当社比較による

19. ミッションクリティカル業務へのAI導入を加速するAI単純化技術

従来のブラックボックス型AIを,判断基準が明確な予測式に変換するAI単純化技術を開発した。従来のブラックボックス型AIは,予測精度を高めるために複雑な数式で構成されており判断基準が不明確であるため,未知のデータに対して意図しない予測結果を導くリスクがあった。一方,本技術では,人が理解できる単純なAI(予測式)を創出し,あらゆる入力に対して明確な判断基準の下で予測結果を提示する。さらに,顧客の経験や知識に基づき予測式を調整できるため,予測精度を維持・向上しながら安心して利用できる。

本技術の一部は,日立グループにおける製品出荷前の自動検査ラインに適用された。従来AIでは納得感が原因で導入が困難であったが,本技術による単純化で納得感が得られ,精度も維持できたためAI導入が実現した。その結果,熟練者不足の解消や検査速度の向上効果が確認された。今後,製造・金融・インフラ制御などの領域で信頼できるAIの実装と社会全体のDX加速に貢献していく。

[19]AI単純化技術の概要[19]AI単純化技術の概要

20. アプリ迅速開発を実現するサービスマッシュアップ基盤

ビジネス環境が不確実で複雑化する中,企業にはアジリティと柔軟性が求められている。デジタルソリューションの創生にあたっては,ソリューションのイメージや要件が最初から明らかなことは珍しく,顧客との対話を通してこれらを一緒に探っていく協創型のアプローチが不可欠になる。

そこで,このような課題を解決するソリューションの一つとして,手早くプロトタイプアプリケーションを開発することができるサービスマッシュアップ基盤を開発した。

サービスマッシュアップ基盤では,SaaS(Software as a Service)やマイクロサービスなどの疎結合なサービス部品群をコンポーザブルに組み合わせ,ロジックを組み立てていくサービスチェイニングと呼ばれる手法を取り入れている。これにより,少ないコーディング量で手早くプロトタイプを開発することができ,短期間で仮説検証や試行錯誤を繰り返しながら,ソリューションイメージや要件のあるべき姿を探索することができる。

[20]迅速なプロトタイプ開発と仮説検証サイクルによる要件の探索[20]迅速なプロトタイプ開発と仮説検証サイクルによる要件の探索

21. マイクロサービス型システムのセキュリティ強化に向けたサービスメッシュ活用の取り組み

ビジネスアジリティ向上を背景にシステムの拡張性確保と競争領域への経営資源の集中が求められ,複数の小規模システムを相互に通信接続させることで拡張性と再利用性を高めたマイクロサービス型システムが注目を集めている。このようなシステムは通信のアクセスポイントが多く,セキュリティの確保が課題となる。そこで,プロキシを用いた通信制御によりシステムへ一貫したセキュリティポリシーを適用するサービスメッシュの技術を活用し,以下のアプローチでマイクロサービス型システムのセキュリティ強化に取り組んでいる。

  1. セキュリティ責務の分離
    システムの各コンポーネントからのサービスメッシュを用いた通信セキュリティ責務の分離,およびインフラ側での一元管理を行う。
  2. システムの状態把握
    コンポーネント間通信のメトリクスやログを基に,通信状況や異常なアクセスを可視化するオブザーバビリティを実現した。
  3. アクセス制御
    不正アクセスをブロックするWAF(Web Application Firewall),ならびにサービスメッシュを用いた包括的な認証認可を実現した。

これまで,セキュリティ戦略に基づく参照実装の構築や,監視・認証認可に関する機能開発・OSS化※)を行ってきた。今後はコードやインフラにもセキュリティのスコープを広げ,マイクロサービス型システムにおけるアジリティとセキュリティの両立に貢献していく。

※)
Auth Gateway: https://github.com/Hitachi/istio-auth-gateway,Istio Bench: https://github.com/Hitachi/istio-bench

[21]マイクロサービス型システムのセキュリティ強化[21]マイクロサービス型システムのセキュリティ強化

22. ドメインナレッジの蓄積活用によるDXコンサルティング技術

AIやデータサイエンス分野の技術と,業務適用に不可欠なOTの深い知見を有する研究者やエンジニアを結集したLumada Data Science Lab. (LDSL)を2020年に設立した。これらの知識と技術を顧客協創プロジェクトに活用することで,データ駆動による価値創生ソリューションをスピーディに実現し,Lumada事業拡大を推進している。

近年,DXの必要性が高まっているが,顧客フェーズに応じて課題を抽出し,最適なAI・データアナリティクス技術を選択することで,業務適用へのギャップが生じないように段階的な導入を実現することが重要である。日立には,幅広い事業領域における多様な顧客課題の理解と,達成に向けた具体的施策の提案により培われてきた知見・技術・事例が蓄積されている。これらのドメイン知識をグラフデータ構造として形式知化し,業界横断で活用可能なデジタルアセットとして管理するフレームワークおよびデータ基盤を開発した。この技術により,顧客のビジネス成長シナリオと成長を支えるソリューションの迅速な提案をめざす。

[22]ドメイン知識蓄積のフレームワーク概略図[22]ドメイン知識蓄積のフレームワーク概略図

23. レジリエンス経営を支援するO&M業務シミュレーション技術

O&M(Operation and Maintenance)事業では,安全・信頼性・環境・レジリエンス・働き方など,さまざまな価値を考慮した事業計画立案が必要である。本技術では,事業計画者がさまざまな戦略のリスクや効果をエージェントシミュレーションにより定量評価することで,組織変更や投資の迅速な意思決定を支援する。設備,作業員,ITなどをシミュレーション部品(エージェント)として備えており,特に設備エージェントは信頼性分析技術に基づいて構成することで,複雑な構造や特性を有する設備を再現可能とし,また状態監視や故障診断などのITソリューション導入計画や各種保全業務方式の選択や,目標性能検討も可能としている。

エージェントを実際の経営シナリオに沿って組み合わせてシミュレーションを行うことで,数理モデル化などの手順を必要とせずに,工場や発電所などの大規模設備から,風車や店舗設備などでの人員派遣によるO&Mまで,幅広い分野の計画検証を直観的・定量的に行うことを実現した。

[23]O&Mシミュレータによる施策検証と価値実現[23]O&Mシミュレータによる施策検証と価値実現

24. 超低消費エネルギーでエッジでのAI適用範囲を拡大するニューロモルフィックコンピューティング

画像認識などのAI処理がエッジ環境に適用され始めている。エッジ環境のさまざまな場面に広くAI処理を適用するには,できるだけ低消費電力で処理を行う必要がある。

ヒトの脳は約20 Wの低消費電力で動作することが知られているが,脳の処理を模倣した(ニューロモルフィック)アルゴリズムと革新デバイスにより,GPU比1/100以下の消費エネルギーで深層学習同等の認識が可能となる。映像監視への適用に向け映像認識用のアルゴリズムを開発した。この技術により人物属性や行動の認識といった高度な映像認識を1 W以下の低消費電力で実行できるため,監視カメラやドローンなどエッジ末端機器に組み込んで,外部サーバやクラウドに映像を送信して処理することなく,オンサイトでリアルタイムのインシデント検知が可能となる。

今後,交通車両内,作業現場,屋内外などでのリアルタイムの監視・見守りソリューションへの適用を検討し,人々の安心・安全の向上に貢献していく。

[24]深層学習の計算環境との比較,および活用想定シーン[24]深層学習の計算環境との比較,および活用想定シーン

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