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東日本大震災を契機に周波数が異なる東日本(50 Hz)と西日本(60 Hz)間の系統連系容量を拡大する計画が進行している。日立製作所は,2019年4月に中部電力パワーグリッド株式会社より,東清水変電所向けに周波数変換装置2基の納入ならびに設備据え付け工事・試験など一式を受注した。

本設備は2027年度末の運転開始をめざしており,連系容量は現在の30万キロワットから90万キロワットに拡大する。主要設備となる交直変換器にはFCとして国内初となる「自励式」を採用する。大規模災害時における電力喪失時でも電力供給をするブラックスタートが可能であり,系統の有効電力と無効電力を別々に制御できることから電力系統の安定化にも効果が期待できる新しい技術である。

本稿ではプロジェクトおよび変換設備の概要について述べる。

目次

執筆者紹介

石田 幸大Ishida Yukihiro

石田 幸大

  • 日立製作所 パワーグリッドビジネスユニット 電力流通事業部 電力流通技術本部 電力変換システム技術部 所属
  • 現在,HVDCプロジェクトの取りまとめ業務に従事

井上 重徳Inoue Shigenori

井上 重徳

  • 日立HVDCテクノロジーズ株式会社 システムエンジニアリング部 所属
  • 現在,HVDCプロジェクトのシステムエンジニアリング・解析業務に従事
  • 博士(工学)
  • 電気学会会員
  • IEEE会員
  • CIGRE会員

Pontus Mellung

Pontus Mellung

  • Hitachi Energy Sweden AB, HVDC, Grid Integration, Power Grids 所属
  • 現在,中部電力パワーグリッド東清水変電所プロジェクト(日立エナジー管掌分)のマネジメントに従事

Hans Hillborg

Hans Hillborg

  • Hitachi Energy Sweden AB, HVDC, Grid Integration, Power Grids 所属
  • 現在,中部電力パワーグリッド東清水変電所プロジェクト(日立エナジー管掌分)のエンジニアリングに従事

羽尻 龍太郎Hajiri Ryutaro

羽尻 龍太郎

  • 中部電力パワーグリッド株式会社 エンジニアリングセンター 設備技術グループ 所属
  • 現在,東清水変電所自励式周波数変換設備増設工事の直流システム設計業務に従事
  • 電気学会会員

井本 宗志Imoto Takashi

井本 宗志

  • 中部電力パワーグリッド株式会社 基幹系統建設センター 東清水FC工事所 所属
  • 現在,東清水変電所自励式周波数変換設備増設工事の機器設計・工事業務に従事
  • 電気学会会員

1. はじめに

高圧直流送電(HVDC:High Voltage Direct Current)※1)が再生可能エネルギーの主力電源化を支援し,脱炭素社会を実現するためのソリューションとして世界中で注目を集めている。HVDCは既存系統のレジリエンスを高めるだけでなく,交流系統と比較して送電ロスが少なく,また海底ケーブルなどを用いて短い期間で整備が可能といった点でも優れている。そのため,洋上風力発電などの再生可能エネルギーの大量導入で先行する欧州では,費用便益分析などで交流系統と比較した際にHVDCによる連系強化の経済合理性が優る事例が多く報告されており,大規模な投資が行われ,HVDC市場は過去に例がないほどの活況を呈している。

日立は,1970年にHVDCを開発して以来,日本国内のほとんどの直流プロジェクトに関与している。2015年には国内でのHVDC事業展開のためにスイス重電大手ABB Asea Brown Boveri Ltd.(現 日立エナジー)と合弁で日立ABB HVDCテクノロジーズ株式会社(現日立HVDCテクノロジーズ株式会社)を設立し,大きな転換期を迎えた。2021年には合弁会社を通じ,中部電力パワーグリッド株式会社飛騨変換所向けに国内の電力用交直変換設備で初めて海外製の気中絶縁方式フィルタを納入するなど,着実に国内での実績を積み重ねている。

※1)
主に二つの電力系統間で送電するための技術。送電側の電力を,交流から直流に変換したうえで送電し,受電側の系統では交流に戻して電力を使用する。電気的な損失や設置面積,建設コストを低くすることができるため,長距離送電の用途に最適で,周波数が異なり直接交流で接続できない系統間の連系などにも適している。

2. 東京中部間連系設備増強計画

2011年3月11日に発生した東日本大震災では,東北地方および関東地方の電力会社の供給エリアにおいて多くの大規模電源が喪失した。一方で,他の電力会社エリアからの電力融通量には連系線容量の制約があるため,関東地方の一部地域において計画停電が余儀なくされる事態となった。こうした事態を受け,電力会社間の電力融通を監督する電力広域的運営推進機関は,エリアを超えた広域的な系統運用を行うための系統連系容量の増強を最重要課題として,60 Hzの中部電力パワーグリッドエリアと50 Hzの連系容量を,当時の120万キロワット※2)から300万キロワットへ増強するプロジェクトを推進している。東清水変電所が増強対象となるFC(Frequency Converter)の一つに選定され,併せて設備を保有する中部電力パワーグリッドが事業実施体に選定された。2017年より長期にわたる技術提案・見積期間を経て,2019年4月に日立の受注が決定した。

周波数変換設備のうち,日立はシステム全体のエンジニアリング,変換用変圧器の設計・製造,機器の据え付け工事,系統連系試験などのシステムインテグレーションを担当する。日立エナジーは設備のコア技術となる交直変換器をはじめとした主回路機器,制御保護装置を提供する。

本稿では,東清水変電所特有の仕様・条件を踏まえて最適化した各主要納入機器の特長について述べる。

※2)
2021年に飛騨信濃周波数変換設備の運用を開始したことで,210万キロワットに拡大された。

3. 基本事項

図1|東清水変電所付近の電力系統図1|東清水変電所付近の電力系統現在,60 Hz側は中部電力パワーグリッド駿河変電所より275 kV駿河東清水線,50 Hz側は154 kVの送電線を介して既設2号FCと連系している。今回工事にて50 Hz側は275 kV送電線を新たに新設し,増設する1号FC,3号FCと連系する。

中部電力パワーグリッド株式会社東清水変電所は静岡県静岡市清水区に位置し,日本国内で3か所目のFCが併設された変電所である。

電力系統図を図1に示す。現在,60 Hz側は中部電力パワーグリッド株式会社駿河変電所より275 kV駿河東清水線,50 Hz側は154 kVの送電線を介して既設2号FCと連系しており,今回工事にて50 Hz側は275 kV送電線を新たに新設し,増設する1号FC,3号FCと連系する。

案件の受注から約4年が経過する中,日立はこれまで各種システム検討,機器配置計画,主回路機器設計に注力してきた。変電所では2022年から土木・建築工事も本格化している。2023年には機器の製作も始まり,2024年から機器の据え付け工事を実施する計画である。

次章からは,HVDCシステムの概要,交直変換装置,制御保護装置の特長について述べる。

4. システム設計

4.1 主回路構成

図2|今般増設する1,3号FCと東清水変電所の主回路構成図2|今般増設する1,3号FCと東清水変電所の主回路構成各FCの交流側は275 kV母線からケーブルを介して変換用変圧器の1次側に接続し,2次側には交直変換器を構成する機器を設置している。それぞれのFCはMACH Systemによって制御・保護される。

増設する1号および3号FCを含む東清水変電所の主回路構成を図2に示す。両FCともに60 Hz側275 kV母線と50 Hz側275 kV母線の間を接続しており,それぞれ定格有効電力300 MW,定格無効電力±100 Mvarの変換容量を持ち,日立エナジーの自励式※3)変換器HVDC LightによるBTB(Back-to-back)構成である。また,60 Hz側の変換器について代表して主回路構成を図2に示しているが,50 Hz側の変換器についても同様である。1号FCと3号FCは独立したFCであり,それぞれが対称単極(Symmetrical Monopole)構成である。また,60 Hz側275 kV母線においては,既設の2号FCが並列に連系している(50 Hz側においては154 kV母線に連系しているため図示を省略した)。日立の納入範囲は図2において網掛けした部分であり,変換用変圧器とその2次側(変換器側)の交流・直流機器と制御保護装置である。

交流母線から交流遮断器とケーブルを介して変換用変圧器の1次側に接続している。変換用変圧器はY-Δ結線であり,1次側は直接接地している。変換用変圧器の2次側には初充電開閉器と初充電抵抗器を介して正側・負側それぞれのバルブリアクトルと変換器バルブを接続している。直流母線には極コンデンサと極コンデンサ直列抵抗器を設け,正負直流母線の対地電位のバランスを確保しつつ,バルブのスイッチングに伴うリプル電圧を低減する。

1,3号FCそれぞれに対して制御保護装置[MACH(Modular Advanced Control for HVDC) System]を設け,交流遮断器,初充電開閉器,変換器バルブなどを制御するほか,図示していないが変換器バルブ冷却装置などの補機類の制御も行う。

※3)
自己消弧形整流素子を用いた交直変換システム。既存他励式に比べ,コンパクトな設備,多様かつ複雑な制御が可能で系統の信頼性を大幅に向上できるという利点がある。

4.2 交直変換器および変換器バルブの仕様

図3|交直変換器の構成図3|交直変換器の構成交直変換器はMMC構成であり,各セルはBIGTによるチョッパセルである。

本FCでは交直変換器としてMMC(Modular Multilevel Converter:モジュラー・マルチレベル変換器)を用いる。交直変換器の構成と主な仕様を図3に示す。

MMCは同一構成のセル(またはサブモジュールとも呼ぶ)を直列接続して構成したアームを基本とする交直変換回路であり,アームを三相ブリッジ状に接続することで交直変換器を構成する。MMCはセル数の増減による容量や電圧に関する高いスケーラビリティが特長で,日立エナジーのHVDC Lightでは最大で±640 kV級,4,000 MW級の電圧・容量に対応できる標準ラインアップを有しており,本プロジェクトでは系統電圧や系統周波数の変動範囲などを考慮したうえで,300 MW,100 Mvarの要求仕様を満足するバルブ構成や回路定数を設計している。

セルに用いる半導体素子として5.2 kV耐圧のBIGT(Bi-mode Insulated Gate Transistor)を用いる。BIGTは従来のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)とダイオードを一つの半導体チップ上に形成した半導体素子であり,逆導通IGBTの一種である。IGBTとしての電流とダイオードとしての電流が同一チップに流れるため,発熱・放熱のバランスに有利であり,大電流化に適している。本プロジェクトではBIGTをセルごとに2個用いてチョッパセルを構成する。

4.3 運転制御方式の概要

図4|60 Hz側東清水変電所直近での三相地絡故障の解析例図4|60 Hz側東清水変電所直近での三相地絡故障の解析例交流系統側で短絡・地絡などの故障が発生した場合においても,変換器はゲートブロックすることなく運転継続できることを解析で確認した。また,系統安定化に寄与するため,系統故障の継続中に無効電流を注入する。

  1. 基本機能とFRT制御
    本FCは基本機能として融通電力制御(APR:Automatic Power Regulator),交流電圧制御(AC-AVR:Alternating Current - Automatic Voltage Regulator),無効電力制御(AQR:Automatic Reactive Power Regulator)の各機能を有するほか,周波数低下時応援制御(EPPS:Emergency Power Presetting Switch),周波数上昇時応援制御(Over-frequency Control),転送ブロック制御などの特殊機能を有する。また,交流系統で地絡・短絡などの故障が発生した場合,ゲートブロックすることなく運転継続(FRT:Fault Ride Through)する。さらに,系統故障中に系統電圧を支えるため,無効電流を注入する機能を設けている。60 Hz側の駿河東清水線の東清水変電所直近で三相地絡故障(3LG:3 Line Ground)が発生した場合の解析例を図4に示す(1号FCの波形のみを図示)。系統故障発生前は東向き300 MWで有効電力を融通している。3LGが発生すると連系点電圧はほぼゼロまで落ち込むが,変換器はゲートブロックすることなく運転継続し,有効電流を絞り込んで無効電流を注入していることが分かる。また,系統故障が除去されると速やかに300 MWの電力融通を再開できる。
  2. 自励式変換器の特長を生かした機能
    本プロジェクトでは,自励式変換器の特長を生かして単独系統維持機能およびブラックスタート(ブラックアウト時における立ち上げ)機能を備える。
    60 Hz系統における地絡・短絡故障の除去後に静岡方面の系統が本系統から分離され,本FCと負荷のみの単独系統が形成されることがある。単独系統維持機能は,このように形成された単独系統内の負荷に対して1,3号FCが融通電力制御から単独運転モードに制御を切り替え,電圧源として給電を継続する機能である。
    ブラックスタート機能は,60 Hzまたは50 Hz系統の一方がブラックアウトした場合に,健全な系統のエネルギーを使用して変換器を起動し,ブラックアウトした系統に逓昇加圧を行う機能である。これによって変換器をブラックアウトした系統の復旧の起点とすることができる。
    以上の運転制御を実現する制御保護装置(MACH System)は制御系・保護系ともに二重化しており,制御系については待機冗長,保護系については並列冗長である。また,ゲートブロックすることなく運転中に制御系を待機側に切り替えることが可能である。

4.4 レイアウト

図5|周波数変換装置棟(1号FC,3号FC)の外観イメージ図5|周波数変換装置棟(1号FC,3号FC)の外観イメージ3号FC(左),2号FC(中央),1号FC(右)を示す。完成後の建物は地下1階・地上2階建ての構成であり,建物の高さは地上約25 mにもなる。

東清水変電所は山腹急斜面に位置し,コンパクトな変電所である点が特徴である。増設工事完了後の変電所イメージを図5に示す。既存2号FCを中心に北側に3号FC,南側に1号FCがそれぞれ新たに建設される。変電所構内の敷地の制約は厳しく,機器の設計が確定していない段階で必要な電気的離隔・保守作業離隔を確保しつつ,効率的な機器配置を検討するのは困難であったが,土木建築工事関係者と繰り返し調整を行い,実際の機器据え付け作業や運用開始後の保守作業においても支障がないような建屋設計となるように工夫した。

5. おわりに

本稿では,2027年度末に運用開始予定の東清水変電所1号FCおよび3号FCと,日立が納入する周波数変換設備のシステムおよび各機器の仕様,特長について述べた。

日立は,HVDCをエネルギー分野における主力事業の一つと位置づけており,今後も,国内外の系統連系強化や再生可能エネルギー増加に伴う系統連系設備のニーズに対応し,脱炭素社会の実現に貢献していく。

参考文献など

1)
変電設備仕様国際化専門委員会:変電設備仕様の国際化,電気協同研究,第63巻,第4号(2008.3)
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