近年,太陽光や風力などの自然エネルギーの導入拡大により,発電の脱炭素化は大きく進展している。その一方で,エネルギーバリューチェーンの送配電部分における温室効果ガス排出削減も課題であることが分かってきた。遮断器,ガス絶縁開閉装置などの高電圧変電装置で六フッ化硫黄(SF6)の使用を廃止することが,ネットゼロを達成し,よりサステナブルな電力系統運用を実現するためのカギとなる。SF6は最も強力な温室効果ガスの一つであり,地球温暖化係数はCO2の2万5,200倍にも及び,流出した場合,3,200年も大気中にとどまるといわれている。
本稿では,環境効率の高いEconiQ技術によって業界のSF6からの脱却を加速させる,日立エナジーの取り組みについて紹介する。
変電装置は運転中,極端な機械的,電気的,熱的ストレスにさらされることが多い。特に高電圧遮断器や開閉装置などはその傾向が強く,例えば,6万3,000 Aの故障電流を遮断するために通常必要とされる420 kVの遮断器は,内部温度が2万℃(約3万6,000°F)以上に達することがある。また,遮断プロセスで放出されるエネルギーは,時速100 kmで走行中の自動車を停止させるのに必要なエネルギーに相当する1)。
このような過酷な条件下では,極めて高い絶縁強度と遮断能力を持つ絶縁ガスが求められる。六フッ化硫黄(SF6)はこの二つの性能特性を兼ね備えた合成フッ素化合物であり,1950年代以降,世界中の電力系統で広く使用されてきた。しかし,1997年の京都議定書で,SF6は監視と削減の対象となる6種類の主要温室効果ガスの一つに指定されている。以降約20年間にわたり,装置メーカーはSF6に代わるよりサステナブルなソリューションを開発するために膨大な時間と資金を投入してきた。しかし,SF6と同様の性能特性を同等の設置面積で実現できるソリューションの特定は困難を極めた。
長年にわたり,さまざまなSF6代替ガスが開発され,高電圧用途でのテストが繰り返されてきた。その中で,代替候補となるものがいくつか見つかった。近年,SF6に代わる有力な候補の一つとして合成空気が取り上げられ,合成空気を絶縁ガスとして用いる真空遮断器に注目が集まった。合成空気は,温暖化係数こそゼロではあるものの,絶縁性能はそれほど高くない。そのため,SF6(またはその他の先進的な代替混合ガス)を使用する場合と比べ,GIS(Gas-insulated Switchgear:ガス絶縁開閉装置)などの金属容器内に密閉された開閉装置が大型化,重量化しがちである。
高電圧GISのサイズは,いくつかの理由で重要な要素である。第一に,変電所は都市部にあり,設置面積に制約があることが多い。第二に,合成空気を使用しても,製造プロセスで使用する材料やエネルギーが増えると,結果的にCO2排出量の削減効果は相殺されてしまう。そこで,高電圧装置[特に,GIS,GIL(Gas-insulated Transmission Line:ガス絶縁伝送路),DTB(Dead Tank Breaker:デッドタンク遮断器),ハイブリッド型開閉装置などの金属容器内に密閉された装置]に対してより効果的なソリューションとして浮上したのが,フルオロニトリル(C4-FN)ベースの混合ガスである。純粋なC4-FNはSF6の2倍の絶縁強度を持つ。CO2およびO2と混合した場合,CO2換算量はSF6の約100分の1に抑えられる。それ以外にも以下のような利点がある。
日立エナジーは,持続可能な開閉装置ソリューションの開発におけるグローバルリーダーであり,この2年間で新しいC4-FNベースの混合ガスを使用した高電圧製品の商品化について大きな成果を挙げている。2021年,日立エナジーは,GE Renewable Energy社のGrid Solutions事業部門との協業・クロスライセンス契約を経て,環境効率の高い高電圧開閉装置のポートフォリオ「EconiQ2)」の販売を開始した。すでに,72.5 kV,145 kVのLTB(Live Tank Breaker:ライブタンク遮断器)や145 kVのGIS,420 kVのGIL,EconiQレトロフィルなど,SF6フリーの高電圧EconiQ製品が世界中で導入されている。
2022年末には,420 kV,63 kAのSF6フリー遮断器を導入したことで,重要なマイルストーンに到達した。この定格電流を持つ遮断器は長距離電力伝送において特に重要である。SF6フリーの代替品の製品化が重要なのは,送配電事業者にとって新たな脱炭素化の道を開くことになるためである。この遮断器は,63 kA,5,000 A,50 Hzおよび60 Hzについて,IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)ならびにIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子学会)の規格に定められている関連試験に合格しており,設置面積もSF6ベースの420 kV遮断器と同等である。
日立エナジーは,今後数年間で,SF6フリーのポートフォリオを高電圧開閉装置全体に拡大する計画である(図1参照)。
今後数年間にわたり,複数のSF6フリーEconiQ 420 kV遮断器の設置が予定されている。日立エナジーが発表した直近のプロジェクトの概要を以下にまとめる。
従来,公共サービス事業者や送電事業者は,新技術の導入に伴うリスクの可能性を回避する傾向があった。電力系統では電力の安定供給が最も重要であることから,これは当然のことといえる。風力や太陽光などの再生可能エネルギーの普及が進むにつれ,既存の送配電インフラの拡張とそのインフラへの適応が必要となる。一般的に風力発電所からの電力は,従来の発電源と比べてエンドユーザーまでの送配電距離が長いため,高電圧のシステムや変電所の需要が高まる。新しいインフラの建設にあたっては高信頼性が最優先とされる一方,持続可能性への関心の高まりに合わせて,温室効果ガス排出量への配慮も必要になる。
高電圧装置におけるSF6の廃止は,ネットゼロに向けた重要なステップの一つとして,産業界と行政の双方から広く受け入れられている。さまざまな代替技術のうち,高電圧装置のSF6に置き換わるソリューションとして実証されているのがC4-FNベースの技術である。総カーボンフットプリントの比較において,C4-FNを使用するガス技術の方が,絶縁媒体として合成空気を使用する高電圧GISよりも有利である。近年,欧州,中国,韓国をはじめとする世界中の大手業者の装置でC4-FNベースの混合ガスがすでに使用されており,今後さらに広く採用されていく見通しである。
日立エナジーは,今後10年以内に高電圧製品全体にEconiQ技術を導入し,ポートフォリオの拡張性を示すとともに,持続可能技術のリーダーとして業界を牽引していく。