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近年,世界中の電力会社がHVDC送電網への投資を強化している。HVDC技術は極めて高い効率性と制御性を備えていることから長距離送電に適しており,今日の複雑な電力系統が抱える多くの課題を解決し,カーボンニュートラルなエネルギーシステムの実現につながるものと期待される。

HVDC技術において特に重要なのが,HVDC送配電システムの「頭脳」とも呼ばれる制御・保護システムである。日立エナジーの最新の制御システムであるMACHは,高い計算能力を備え,HVDCのさまざまな制御・保護機能に対して高度な統合と処理を可能にするものであり,日立エナジーが提供するHVDCシステムの優れた性能と信頼性のカギを握る専用制御システムである。

本稿では,日立のHVDCとその制御システムMACHの主な機能と利点,システムアーキテクチャ,将来の展望について述べる。

目次

執筆者紹介

Hans Björklund

Hans Björklund

  • Hitachi Energy Sweden AB, HVDC, Grid Integration, Power Grids 所属
  • 現在,HVDC制御・保護担当コーポレートエグゼクティブエンジニアとして,HVDCの将来的な制御システムの開発に従事
  • CIGRE会員
  • IEEE永年シニアメンバー

Daniel Hallmans

Daniel Hallmans

  • Hitachi Energy Sweden AB, HVDC, Grid Integration, Power Grids 所属
  • 現在,R&Dシニアプリンシパルエンジニア,MACHテクノロジーアーキテクトとして,MACH技術開発に従事
  • CIGRE会員
  • IEEE会員

Bhagwat Gahane

Bhagwat Gahane

  • Hitachi Energy Sweden AB, HVDC, Grid Integration, Power Grids 所属
  • 現在,HVDC制御・保護担当グローバル製品マネージャとして,製品開発に従事

1. はじめに

HVDC(High Voltage Direct Current:高圧直流送電)はカーボンニュートラルなエネルギーシステム実現のカギである。長距離大容量送電,再生可能エネルギーの統合,送電網の相互連系を高効率で行うことにより,持続可能な新しい送電ソリューションの可能性を生み出すことができる。

また,HVDCシステムは,同様のAC(Alternating Current)送電システムよりも多くの電力を長距離で伝送できるため,送電線の本数が少なくて済み,コストと敷地を節約できる。HVDC技術は電気損失を大幅に低減するだけでなく,制御しやすいため,本来であれば互換性のないAC送電網の安定化や相互連系に用いることが可能である(図1参照)。

現在,HVDCには大きく分けてHVDC LCC(Line Commutated Converter:他励式変換器)とHVDC VSC(Voltage Sourced Converter:自励式変換器)の二つの技術がある。HVDC LCCは最初に開発された技術で,HVDC Classicとも呼ばれている。LCCは主に,従来のAC方式では利用できない,遠く離れた発電所間の長距離接続,異系統の相互連系,AC系統内におけるDC(Direct Current)接続,一部の陸上送電や海底送電で利用されている。一方のHVDC VSCは,日立エナジーが開発し,1997年にHVDC Lightとして発売したものである。これはHVDC Classicを応用したもので,環境に配慮したケーブル,架空線,またはケーブルと架空線の組み合わせによる送電に使用される。遠く離れた発電所間の接続,異系統の相互連系,洋上風力発電の接続,AC系統内におけるDC接続,陸上から洋上への電力供給,都心部への送電,遠隔地の負荷への送電に使用できる。日立エナジーのHVDC ClassicとHVDC Lightは堅牢性,安定性,制御性を高めるために双方向での送電が可能であり,既存のAC送電網をサポートしている。

図1|HVDC送電システムのイメージ図1|HVDC送電システムのイメージHVDC送電では,非同期(または異なる周波数)の2種の顧客の送電網を相互連系することができる。

2. HVDC制御・保護について

図2|一般的な2極構成のHVDC交直変換所のイメージ図2|一般的な2極構成のHVDC交直変換所のイメージ2極構成のHVDC交直変換所は,変圧器,冷却システム,リアクトル,HVDCバルブホールとその他のAC伝送機器から成る二つの並列HVDCコンバータを有する。個々の電極を個別に操作することが可能で,メンテナンス中でも送電を継続できる。

HVDC交直変換所は,多くのパーツから構成される複雑な設備であり,システム全体で最高の性能を保証するには慎重に制御する必要がある。主に用いられるのが,プラス極とマイナス極を備えた2極構成である。1極は,建屋内に配置される変換器バルブと位相リアクトル,建屋の外に配置されるパワートランスによって構成される(図2参照)。他にも,遮断器,断路器,変流器,容量分圧器などの高圧電源機器や,光学式直流電流測定器,補償抵抗分圧器といった非常に特殊な測定器など,多数のパーツが配置される。変換器バルブには,パワーエレクトロニクスのスイッチングパーツを冷却するための純水を使った冷却システムと,変換所の稼働を維持するための大規模な補助電源システムが必要である。

HVDCの変換器は,変換器バルブ半導体を動作させる信号を供給することで制御される。これらのコンポーネントはわずか数マイクロ秒で反応するため,HVDCの変換器は電力系統の中で独自に制御可能なデバイスと言える。このような瞬時の電力変化は,綿密に設計された制御システムによって,電力振動の減衰,急激な発電量減少への対処,無効電力制御による電圧変化のバランス調整などさまざまな方法で,接続されているAC電力システムの安定化に利用できる。

HVDCの変換器は,制御が正しく機能しなければ動作しないため,制御システムも信頼性が高くなければならない。このような高い信頼性を実現するために1982年に日立エナジーが導入したのが,送電を停止せず瞬時にホットスタンバイ系へ切り替える,デジタル化された制御システムである。それ以来,この構成は日立エナジーのすべてのHVDC設備に採用されている。

このように瞬時に反応する変換器と制御システムでは,保護装置も従来のAC保護装置より大幅に高速でなければならず,変換器バルブの損傷を避けるため,反応時間は1ミリ秒未満に抑えなければならない。日立エナジーの最新の制御システムであるMACH(Modular Advanced Control for HVDC)システムのビルディングブロックは,高速な光プロセスバスによって計測機器に接続された,完全二重化集中型保護システムの構築にも適している。

MACHシステムの高い性能はその他の重要な機能の高度な統合も可能にしている。例えば,IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子学会)規格に準拠しているCOMTRADE形式の記録を生成する,完全二重化の統合過渡故障記録装置などである。完全に統合されたアプリケーションとして,コンピュータやDSP(Digital Signal Processor)で利用可能なあらゆる信号を記録できる。記録できる信号の数は,メモリが利用できる限り制限がない。

さらに高速GPS(Global Positioning System)クロック同期アナログ入力(50 MHz)が追加されたことで,進行波技術を使用し,DCラインやケーブルの故障時に故障箇所を正確に特定するライン/ケーブル故障箇所特定機能の統合が可能になった。

3. MACH制御プラットフォーム

MACHの制御・保護システムはいくつかのビルディングブロックから構成される(図3参照)。これらのブロックを組み合わせて,日立エナジー(またはサードパーティ)が納入したさまざまな種類と世代のHVDCシステムを制御できるモジュラーシステムを構築する。この後方互換性により,日立エナジーは,顧客サポートとしてHVDC設備で40〜50年と想定される寿命の間に少なくとも1回は制御・保護のアップグレードを行い,制御・保護技術の最新のシステムを提供できる。

メインの閉ループ制御は四つの異なるパーツから成り,いずれも冗長化されている。「メインコンピュータシステム」は8〜12コアの高性能サーバ型コンピュータであるPS700,8コアのDSPプラットフォームであるPS935,冗長切り替えユニットであるPS775の3種類の製品で構成される(図4参照)。メインコンピュータシステムは,各種プロセスバスを介してI/O(Input/Output)システムから入力を受け取る。システムによっては,500 kサンプル/sの低遅延I/O,デジタル光計測器トランスなどの非従来型測定ユニット,HVDCシステムに接続された大規模変電所の制御に用いられるIEC61850を経由する従来型の標準的なI/Oシステムなど,専用のI/Oシステムが使用されることもある。本システムの中核を成すのが,変換器バルブの各位置にある半導体に直接接続される,変換器バルブエレクトロニクスである。バルブ制御ユニットは変換器バルブの数百〜数千の位置とメインコンピュータシステムとの間のインタフェースとして機能する。以上のビルディングブロックを組み合わせることで,数十マイクロ秒〜ミリ秒の制御・保護ループが形成される。

すべてのアプリケーションコードは,日立エナジーが開発,所有するHidrawと呼ばれる共通のグラフィカルプログラミング言語によってプログラムされている。Hidrawを使用すると,変換器システム全体の設計,リアルタイムデバッグ,シミュレーションを,構築ならびに電力系統モデルへの接続前に行うことができる。Hidrawは過去30年間にわたってMACHのプログラミング言語として使用されており,制御ループや保護スキームを直接再利用して最新の基本設計に統合できるため,据え付け済みの古いシステムのアップグレードを極めて迅速に行うことができる。

変換所レベルバスには,運用者用ワークステーション,サーバ,サードパーティシステムとやり取りするゲートウェイなど,複数の異なるシステムが接続されている。また,日立エナジーEC(Energy Connect)エッジゲートウェイにより,MACHと日立エナジーLumada/IdentiQシステムとの連携が可能である。

図3|MACHのビルディングブロックおよびインタフェースシステムの簡易階層図図3|MACHのビルディングブロックおよびインタフェースシステムの簡易階層図MACHには,HVDCシステムを監視・制御・保護するためのさまざまなハードウェアモジュールが含まれる。

図4|一般的な制御・保護キュービクル図4|一般的な制御・保護キュービクル上部が制御用,下部が保護用となっている。

4. その他の用途

MACHの優れた性能とコンバータ制御能力は,日立エナジー内で同様の性能を必要とする他の用途にも適している。例えば,既存または新規のAC送電網でより多くの電力と制御を提供するために使用されているSVC(Static Var Compensator:静止型無効電力補償装置),STATCOM(Static Synchronous Compensator:自励式無効電力補償装置),直列補償装置などの電力品質システムなどである。MACHシステムは,高電圧変換器だけでなく,低・中電圧変換器やエネルギー貯蔵ソリューションであるE-STATCOMにも適している。

5. おわりに

MACHのシステムアーキテクチャとハードウェアおよびソフトウェアのインタフェースは,MACHが今後も進化を続け,日立エナジーの将来のHVDCおよび電力品質ソリューションのベースとなる制御・保護システムであり続けられるよう,慎重に選択されている。

MACHの基本構造を変えずに,さらに高性能化,統合化されたソリューションや新しいイノベーションが導入されることが期待できる。ハイブリッド型HVDC遮断器のような新しいシステム技術に加え,異なるメーカーの複数のHVDC変換所間のやり取りが必要となる直流送電網などに対応するため,相互運用の重要性は,将来のシステムにおいてますます高まっていくと考えられる。

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