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ハイライト

近年,企業経営においては,脱炭素化,エネルギーコストの高騰,労働人口の減少といったさまざまな課題への取り組みが求められている。日立はこうした課題に対し,Lumadaモデルを活用してエネルギーとファシリティに関する業務プロセスのトランスフォーメーション支援ならびにカーボンニュートラル対策支援を進めている。また,エネルギーに関する設備運用・設備保守・資産管理の負担を軽減するマネージドサービスを通して企業の「コア事業(本業)強化」に貢献することをめざしている。

本稿では,Lumadaモデルを活用した複数の拠点・エリアにおけるエネルギー利用高度化に加えて,設備管理業務の高度化など顧客のコア事業を支える業務にアプローチして,企業価値向上の支援を行う施策について,具体事例と将来の展望を紹介する。

目次

執筆者紹介

籏谷 広司Hataya Koji

籏谷 広司

  • 日立製作所 エネルギー事業統括本部 エネルギーソリューション事業統括本部 カーボンニュートラル事業部 フロントエンジニアリング部 所属
  • 現在,マネージドサービス事業推進に従事

阪倉 一成Sakakura Kazunari

阪倉 一成

  • 日立製作所 エネルギー事業統括本部 エネルギーソリューション事業統括本部 カーボンニュートラル事業部 水素事業推進室 所属
  • 現在,水素関連の新事業開拓に従事

竹越 健斗Takekoshi Kento

竹越 健斗

  • 日立製作所 エネルギー事業統括本部 エネルギーソリューション事業統括本部 カーボンニュートラル事業部 フロントエンジニアリング部 所属
  • 現在,省エネ設備コンサル・設計に従事

小国 薫Oguni Kaoru

小国 薫

  • 株式会社日立パワーソリューションズ サービスソリューション本部 受変電システム部 所属
  • 現在,国内カーボンニュートラル関連事業における設計業務に従事

1. はじめに

現代の企業経営を取り巻く課題は多岐にわたるが,これらの諸課題は下記の三つに大別されると考える。

  1. 経済課題
    地政学的リスクによりエネルギーコストが不安定となり,事業活動ならびに事業利益に大きな影響を及ぼしている。
  2. 環境課題
    カーボンニュートラル推進は,現在,事業活動上避けては通れない課題であり,メリット/デメリットではなく,事業リスクとして捉えるべき事案となっている。
  3. 社会課題
    維持管理要員や投資の不足から,バブル期以降に建設されたエネルギー関連設備の効率改善や更新が進んでいない。

しかし,こうした課題に対してそれぞれ場当たり的に対応しても,継続的かつ抜本的な解決を図ることは難しく,全体を最適化し,包括的かつ継続的に解決・支援していくためのイネーブラー※1)が必要と考える。

※1)
ビジネス領域において,他社のビジネスが成長するうえで不可欠なインフラ基盤の一部として機能し,後方支援をする立場のこと。

2. 顧客の企業価値を向上させるカーボンニュートラル施策の考え方

カーボンニュートラル対策の支援を始めるにあたり,日立はその方向性・方針を明確に見える化するために理想のあるべき姿(ToBe)や実現ポートフォリオ,ロードマップを策定し,顧客との合意のうえでその後の計画進捗のモニタリングを実施している。こうした活動は長期にわたるため,Lumadaモデルを活用した継続的な支援を行っていく。

2.1 日立カーボンニュートラル2030に向けたソリューションブロック

図1|ポートフォリオ設計図1|ポートフォリオ設計顧客のエネルギー需要特性に応じて,個々のソリューションブロックを組み合わせて提供する。

「ポートフォリオ設計(コンサルティング)」では,カーボンニュートラルに向けた施策を「減らす」,「創る・調達する」,「オフセットする」の三つの手段に分類のうえ,それぞれをどの割合で施策を積み上げていくか目標値を設定する。

このプロセスをより効果的に進めるため,顧客のエネルギー需要特性に応じた「型」を設定し,カーボンニュートラルを支援する個々のソリューションをブロックのように組み合わせることにより,迅速かつ柔軟に解決を支援する(図1参照)。

ソリューションブロック活用のモデルケースは以下のとおりである。

  1. 減らす:DX(デジタルトランスフォーメーション)×GX(グリーントランスフォーメーション)のマイクログリッド型エネルギー供給サービス
    ポートフォリオ達成の手段の一つである「減らす」の事例として,茨城県日立市内の隣接する日立グループの4事業所で,「DX×GXのマイクログリッド型エネルギー供給サービス」を2023年度後半より稼働予定である。ガスコージェネレーションで発電した電力を4事業所で利用するとともに,電力発生時の排熱を工場のクリーンルーム空調に活用する。エリア全体の最適化により,単独事業所の対策と比較してより効率的なエネルギー利用が可能となり,複数拠点(4事業所)のCO2排出量が全体の約15%,年間約4,500 t※2)削減される見込みである。本サービスは,エネルギー関連企業やファイナンス関連企業などとの異業種コンソーシアムを活用し,各事業所(需要家)はエネルギー設備を「所有」から「活用」に変更することによって設備運用・設備保守・資産管理に関する負担を軽減できる。またDXを活用してエネルギー設備および運用のさらなる最適化をめざしていく。
  2. 創る:再生可能エネルギー発電設備と自己託送制度を利用した多拠点エネルギーマネジメント
    ポートフォリオ達成の手段の「創る」については,太陽光発電設備の導入が一般的であるが,発電する供給サイトと電力を消費する需要サイトが必ずしも同一拠点にはないケースも多い。こうした顧客に対して,日立は再生可能エネルギーと系統監視制御システム,AI(Artificial Intelligence)などを活用し,自己託送制度を利用した複数拠点事業者向け多拠点エネルギーマネジメントの検討を開始している。
    そのパイロットモデルとして,日立の研究開発グループ鳩山サイト(埼玉県)に設置する太陽光発電設備で発電した電力を,鳩山サイト内で自家消費しつつ,余った電力を同国分寺サイト(東京都)に送電するシステムを2024年3月から運用開始する。これにより,国分寺サイトで発生するCO2排出量を2030年度までに2010年度比で実質75%削減1),※3)することをめざしている。
    このように,電力需要特性および有効設置スペースが異なる場合に,それぞれのエネルギー事情に合わせて多拠点でエネルギー利用することで,全体最適化を図ることができる。また,今後は複数の供給元と需要先を組み合わせた「N拠点:M拠点」で複数の拠点間の電力融通をめざすことで,個々の事業所単拠点では難しかったカーボンニュートラルを実現していく。
※2)
日立製作所の試算による。
※3)
CO2削減に向けたその他の取り組みや,省エネルギー機器の導入なども含んだ効果。

3. エリアマイクログリッドでのエネルギー地産地消システム

図2|福島県双葉郡大熊町「下野上スマートコミュニティ整備事業」のイメージ図図2|福島県双葉郡大熊町「下野上スマートコミュニティ整備事業」のイメージ図メガソーラーで発電した再生可能エネルギーを大熊町大野駅前を中心とした下野上エリアの各需要家に自営線で供給する。グリッドコントロールシステムおよび蓄電池設備によりエネルギーの地産地消システム構築を支援する。

2020年に発表された日本政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受け,日本各地で「ゼロカーボン宣言」を行う地方公共団体が増加している。

このような背景の下,2020年2月にゼロカーボン宣言を行った福島県双葉郡大熊町と株式会社日立パワーソリューションズは,2022年10月11日,「下野上スマートコミュニティ整備事業に係る事業実施協定書」を締結した。

本事業で導入予定のシステムは,メガソーラー発電システム・蓄電池システム・電力を需要家に届ける自営線・全体を最適に制御するグリッドコントロールシステムである。大熊町大野駅前を中心とした下野上エリアに再生可能エネルギー由来の電気を供給し,エネルギーの地産地消システム構築を支援する。

本事業を通じて,大熊町がめざす地産の再生可能エネルギーを活用したゼロカーボンタウンの実現に貢献する(図2参照)。

4. カーボンニュートラルに向けたエネルギートランスフォーメーション

4.1 水素,メタネーションの動向と日立の取り組み

図3|水素・合成メタンP2Gシステムの構成図3|水素・合成メタンP2Gシステムの構成余剰再生可能エネルギーを用いて水電解装置で水素を製造し,さらにメタネーションと合わせて水素・合成メタンをいずれも供給する。需要情報を基にシステム全体の最適なエネルギーマネジメントを行う。

2050年のカーボンニュートラル社会実現に向け,日本でも再生可能エネルギー比率の増加,さらに余剰再生可能エネルギー電力を使った水素の導入(P2G:Power to Gas)が本格的に検討されるようになってきた。業界各社やコンビナート,港湾地域においても,各社それぞれの強みや地域性を生かしながら連携し,水素を「造る」,「運ぶ」,「貯める」,「使う」のサプライチェーンを構築する動きが活発になっている。

日立は,その中でも「造る」,「使う」領域における水素と合成メタンに着目し,水素については低コスト水素製造および水素バリューチェーンの構築に向けた高電圧水電解・水素系統制御技術,ガスタービンやガスエンジン水素混焼案件のエンジニアリングに注力している。水素の利用形態の一つである合成メタンについては,国内ガス業界の目標である「2030年に合成メタン1%,2050年に同90%導入」に貢献するために,バイオメタネーションに注目し,事業化に向けて検討している。P2G全体システムの中核を成す水素と合成メタンのキープロダクツを提供するとともに,アセットライフサイクルマネジメント,サプライチェーンマネジメント,カーボンニュートラル価値の取引といったOT(Operational Technology),ITを併せて提供していく考えである(図3参照)。

4.2 水素を活用した熱利用のカーボンニュートラル実証

図4|熱利用のカーボンニュートラル実証を実現するシステムの概要図4|熱利用のカーボンニュートラル実証を実現するシステムの概要太陽光パネルで発電された電力は水電解装置を経て水素を生成し,タンクに貯蔵する。
貯蔵した水素はインバランス状況に応じて,水素ボイラー,または燃料電池へ供給し,熱利用のカーボンニュートラルまたは電力安定化を図る。

企業のCO2排出量内訳は大きく電気起因・熱起因の二つに分けられ,カーボンニュートラル達成のためには再生可能エネルギー電力などの活用で達成可能な電気起因のCO2削減のみならず,熱起因のCO2排出量を削減する必要がある。ここでは,水素を用いた熱利用のカーボンニュートラル事例について紹介する。

環境省の「2022年度(令和4年度)二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」を活用し実証を行うA社グループにおけるCO2排出量は電気起因のものが50%,熱起因のものが50%であり,カーボンニュートラル達成のためには熱起因の改善が必要となっている。これを踏まえて,A社グループでは将来十分量が供給されると想定されている水素を用いて熱利用のカーボンニュートラル実証を計画した。再生可能エネルギー電力で製造したグリーン水素を水素ボイラーおよび燃料電池に使用してコージェネレーションシステムを構築し,高効率運用を図る。さらにインバランス対応として,水電解装置による電力吸収と燃料電池による電力供給のEMS(Energy Management System)による制御実証を実施する予定である(図4参照)。

将来的には日立が導入予定の発電設備と燃料電池・水電解装置を組み合わせ,電力インバランスを最小化することで,熱利用のカーボンニュートラルに加え,電力の安定化に寄与する計画である。日立はA社グループに対し,カーボンニュートラル達成に向けたロードマップ作成や設備導入などを支援し,長期にわたるエネルギーパートナーとして貢献する所存である。また,ここで培ったノウハウを生かし,カーボンニュートラルを命題とする他の企業とも協創を図っていく。

5. プロセス改革&マネージドサービス

カーボンニュートラルの取り組みにおいてはデジタルを活用した連続的なモニタリングに加え,分析と検証を繰り返しながら継続的に推進することが求められる。設備は経年により減価(劣化)するが,データは増価(価値化)していくことから,プロセス(オペレーションや保守)に関しての改革を生み出すと考える。

5.1 設備管理業務のマネージドサービス

図5|B社における設備管理業務のマネージドサービス提供事例図5|B社における設備管理業務のマネージドサービス提供事例B社における運用上の課題とそれに対する解決策・成果を示す。解決策として,「設備管理システム」と「予兆診断システム」をワンパッケージにて提供した。

ここでは,食品を扱う流通小売業であるB社に対して,設備管理業務のトランスフォーメーションを行うソリューションを提供した事例を紹介する。B社では,(1)保守業務煩雑さの解消と保守コスト低減,(2)カーボンニュートラル化の推進といった設備運用上の課題を抱えていた。

これに対し,日立は以下の二つのシステムをワンパッケージで提供することを提案した。

  1. 設備管理システム
    設備の保守窓口を一本化し,データの入力から管理までを日立が担うことで設備管理業務を高度化する。
  2. 予兆診断システム
    冷凍・冷蔵設備のエネルギーと稼働状況の遠隔監視および予兆診断を行い,予防保全による保守コスト低減,冷凍・冷蔵設備の突発故障による店舗営業への影響対策,冷媒漏洩早期検知によるカーボンニュートラル化を推進し,同時に食品廃棄ロスを低減する。
    今後は,10店舗からスタートした「予兆診断システム」を,全100店舗へ多拠点拡大するとともに,マネージドサービスとしてのエネルギーとファシリティのデータ活用を進める。具体的には,設備の最適更新計画立案や投資判断,予兆検知・稼働データおよび故障の統計傾向を考慮したメーカー選定や店舗設計などの応用的データ活用形態が挙げられる。

設備管理業務の高度化とカーボンニュートラルを両輪で推進することで,顧客の社会・環境課題を解決するとともに,データ活用による新しい価値の提供を進めていく(図5参照)。

また,多拠点に同様の仕組みを施すことにより,設備管理システムなどのIoT(Internet of Things)だけではなく,予備部品や維持管理人員などさまざまなリソースプラットフォームを確立し,企業全体に新たなメリットを創出できると考えている。さらには他の顧客も含め,企業の垣根を越えた多拠点を束ねるリソースプラットフォームとしていくことで,メリットシェアも大きくなると期待される。

6. おわりに

企業を取り巻く商環境が厳しさを増し,コア事業強化のためにリソース投資を集中しなければならない中,カーボンニュートラル対策を含め,コア事業を支える業務(エネルギー設備や管理業務)を企業内で抱えるべきかどうかを検討すべき時期に入っていると考える。

日立は,これらの業務を包括的かつ継続的にアウトソーシングし,「所有」から「活用」に変えていくことで,顧客のコア事業経営に貢献することをめざしている。

また,GX(グリーン電源,省エネルギーなど)とDX(エネルギーマネジメント,アセットマネジメント,IoTなど)を掛け合わせることで,顧客の企業価値向上に貢献していく。

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