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ハイライト

カーボンニュートラルの実現に向け,再生可能エネルギーの主力電源として期待される洋上風力発電の導入が全世界で拡大している。日立製作所とルクセンブルク・Jan De Nul nvは,台灣電力股份有限公司から彰化洋上風力発電プロジェクト向け風力発電システムを受注し,2021年6月に風車の据え付けを完了,同年12月より稼働を開始した。風力発電業界には第三者機関が風車の設計内容を検証し,認証を与えるという品質確保のプロセスがあり,洋上風力発電プロジェクトではプロジェクトごとに認証を取得する。

本稿では日立の彰化洋上風力発電プロジェクト向けのプロジェクト認証取得の取り組み,初の洋上風車据え付け工事における課題やその対処方法などについて紹介する。

目次

執筆者紹介

三木 裕介Miki Yusuke

三木 裕介

  • 日立製作所 事業マネジメント強化統括本部 風力プロジェクト本部 風力発電システム部 所属
  • 現在,風力発電システムの機械設計に従事

飛永 育男Tobinaga Ikuo

飛永 育男

  • 日立製作所 事業マネジメント強化統括本部 風力プロジェクト本部 風力発電システム部 所属
  • 現在,風力発電システムの設計まとめに従事
  • 日本風力エネルギー学会会員

清木 荘一郎Kiyoki Soichiro

清木 荘一郎

  • 日立製作所 事業マネジメント強化統括本部 風力プロジェクト本部 風力発電システム部 所属
  • 現在,風力発電システムの荷重評価業務に従事
  • 日本風力エネルギー学会会員

1. はじめに

図1|台湾彰化洋上風力発電プロジェクト図1|台湾彰化洋上風力発電プロジェクト日立製作所とJDNは,台湾の彰化県沖約8 kmに洋上ウインドファーム(5.2 MW風力発電システム21基,総出力109.2 MW)を建設した。

期限付きカーボンニュートラル宣言国は,2021年11月のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)終了時に154か国・1地域に拡大しており,気候変動対策は高い目標を競うだけでなく,いかに目標を達成するかの実行段階に突入している1)。脱炭素化の実現には持続可能なエネルギーシステムへの転換が必須である。発電時にCO2を排出しない発電技術の一つとして風力発電があり,中でも洋上風車は陸上風車に比べて,風の乱れが少ない,土地や道路の制約が少なく大型風車の導入が可能という利点がある。このため,洋上風力発電は再生可能エネルギーの主力電源として期待されており,欧州を中心に全世界で導入が拡大している。近年では,日本や台湾をはじめとしたアジア市場も急成長している。

日立製作所とルクセンブルクのJan De Nul nv2)(以下,「JDN」と記す。)は,台灣電力股份有限公司3)(以下,「台湾電力」と記す。)から,彰化洋上風力発電プロジェクト(以下,「彰化プロジェクト」と記す。)向け5.2 MW風力発電システム21基(総出力109.2 MW)の機器製造から据え付け,5年間のO&M(Operation and Maintenance)などを一括で受注した。2021年6月に風車の据え付けが完了し,2021年12月より21基が稼働している(図1参照)。

本稿では日立が取り組んだ彰化プロジェクトにおける設計・建設例について紹介する4)

2. 洋上風力発電機の支持構造物設計

風力発電業界には第三者機関が風車の設計内容を検証し,認証を与えるという品質確保システムがあり,日立のHTW5.2-127風力発電機は洋上仕様で設計され,認証機関であるドイツのDNV AS5)(以下,「DNV」と記す。)から設計認証を,一般財団法人日本海事協会(ClassNK)6)から型式認証を取得している。洋上風力発電プロジェクトでは,環境条件,特に水深と地盤条件がプロジェクトごとに大きく異なるため,支持構造物(タワーと基礎)の検証はプロジェクト認証と呼ばれる各プロジェクトの個別評価で確認される。型式認証取得済みのRNA(Rotor Nacelle Assembly)の強度についても,プロジェクトごとに設定された設計荷重にて再確認される。

彰化プロジェクトでは,日立,JDN,デンマークの大手エンジニアリング会社であるCOWI A/S7)(以下,「COWI」と記す。)で設計チームを編成し,約18か月でジャケット基礎による支持構造物設計を完遂してプロジェクト認証を取得した。

2.1 設計基準の整理

彰化プロジェクト向け洋上風力発電機の支持構造物設計にあたっては,以下の内容を含む3種類の設計基準(Design basis A:プロジェクト一般要件,Design basis B:風車設計条件,Design basis C:支持構造物設計条件)を整理する必要があった。

  1. サイト条件(風況,海象,地盤,地震など)
  2. 適用する規格やコード,追加要件(顧客要求仕様など)
  3. 設計クライテリア[設計風速,設計荷重(極値荷重と疲労荷重),安全率など]
  4. 製造,輸送,設置および試運転の要件(仕様,品質管理システム,輸送方法など)
  5. 運用・保守要件(構造の目標寿命,検査の範囲と頻度)
  6. 風力発電機のタイプ(風車の仕様や要件)

これらの設計基準の整理のため,日立,JDN,COWIの設計チームは,適用する規格・規準と認証機関,基礎種類の数や反復計算回数などの設計条件,計算に使用するソフトウェアの確認とデータの交換方法,サイト条件などについて議論し,調整を実施した。

日立は風況観測結果とシミュレーションを基に,設計風速を決定した。これに際しては,台湾電力が建設サイト近傍の洋上に風況マストを建てて観測した風況データを活用した。短期間の観測では,再現期間の長い台風による極値風速を捉えることは難しいため,シミュレーションを併用して設計風速を決定した。

2.2 設計荷重の決定

図2|スーパーエレメント法図2|スーパーエレメント法COWIより提供されたスーパーエレメント化した基礎モデルを風車モデルに組み込み,基礎と風車の連成解析を実施し,風車側の荷重を計算した。結果をCOWIにフィードバックし,基礎側の荷重が再計算される。

風況や波,潮流,地盤などサイト固有の条件を基に荷重条件表が決定された。荷重条件表は膨大なケース数となるため,認証機関と相談しながら条件を絞り込みのうえ,決定された(本プロジェクトの場合は1風車当たり約7,000ケースであった)。本プロジェクトでは海の深さによりクラスタリングを行い,3種類(Deep,Intermediate,Shallow)のジャケット基礎に対し,スーパーエレメント法により設計荷重を評価した(図2参照)8)

最初に,COWIが洋上構造エンジニアリングソフトウェアツールSesam※)を用いて基礎のモデルを作成し,波荷重条件にて解析を行った。次に,基礎のモデルがモーダル質量とモーダル剛性のマトリックスにより構成されるスーパーエレメントと呼ばれるモーダルモデルに還元され,波荷重とともに日立に提供された。日立は風車設計ソフトウェアBladed※)を用いて,COWIより提供されたスーパーエレメント化した基礎モデルを風車モデルに組み込み,基礎と風車の連成解析を実施し,風車側の荷重を計算した。最後に,Bladedの解析により得られたタワーと基礎の間のインタフェースノードにおける時刻歴荷重をCOWIへフィードバックし,COWIにて日立から提供された時刻歴荷重と波荷重を適用して再度解析を実施し,基礎側の荷重を計算した。本プロジェクトではこのフローを3回繰り返し,支持構造物の最適化や設計荷重(極値荷重と疲労荷重)の決定を行った。

※)
SesamおよびBladedは,DNV社の商標である。

2.3 一次構造設計および仮設時の設計

一次構造とはジャケット基礎のはりやタワーのシェル,フランジなど,構造物の主要部品であり,十分な構造強度を有する必要がある。通常これらの設計は前述の設計荷重を用いた構造強度評価をもって完了する。

また,洋上風力発電プロジェクトにおいては後述のように据え付け時間やつり上げ回数を最小限に抑えることが求められるため,港でのプリアセンブリを行った。タワーのみを組み立てた状態では,完全な風車の状態(タワー上に重量物であるナセルやロータがある状態)よりも固有振動数が高くなるため,風がタワーの円筒断面を通過する際に生じる渦により励起される振動(VIV:Vortex Induced Vibration)のリスクに備える必要があった。VIV荷重を推定する方法は規格やガイドラインに記載されているが,事前組み立てされたタワーは一群で保管しており,隣接するタワーの影響を受けるため,その影響を加味して解析・評価することが困難である。また,評価時の重要なパラメータの一つとして構造減衰が挙げられ,その推定が重要となる。

日立ではVIVの対策として,タワーにストレイキを設け,欧州規格を用いて事前組み立て・輸送段階でのタワーの構造評価を実施した。構造減衰の検証は港と据え付け船上で減衰を実測して検証を行った。

2.4 二次構造設計

二次構造とはタワーやジャケット基礎に取り付けられるはしごやデッキ,柵のことであり,これらの部品には機能性と安全性を両立した設計が求められる。保守計画を準備することも重要な考慮事項である。

機能性の観点では,建設中から保守段階まで洋上風力発電機にアクセスする機会が多くあるため,サイト環境条件を考慮して幅広い海象条件で船舶でのアクセスと荷役が可能となるようにデッキの位置や高さ,アクセス点の数,デッキの形状などを決定した。

安全性の観点では,関連する安全規格への適合確認や消耗部品・故障のリスクのある部品の交換性を考慮して設計した。

3. 洋上風力発電機の据え付け工事

3.1 洋上での据え付け工事の課題

図3|洋上での据え付け作業の様子図3|洋上での据え付け作業の様子ジャッキアップ船(JUV:Jack-Up Vessel)を利用して洋上据え付け作業が行われる。本プロジェクトでは21基の風車の据え付けを行い,1基あたりの据え付け時間は最短で22時間未満で完遂した。

ここでは,洋上風力発電機の据え付け工事における課題について紹介する。

  1. 建設コスト
    洋上風車の据え付け工事では,通常,ジャッキアップ船(JUV:Jack-up Vessel)が使用される。JUVは陸上の建設設備に比べてコストが大きいため,据え付け時間とつり上げ回数を最小限に抑える必要がある(図3参照)。このため,タワーのプリアセンブリ化や非同軸ターニングモータの導入,ブレード取り付けエリアの部品簡素化などにより,作業の最適化を図って対応した。
  2. 作業環境条件
    洋上での作業は,風速だけでなく,海象・気象条件によっても大幅に制限される。このため,事故や天候による中断の可能性を考慮して,作業計画とバックアップ計画,工事スタッフのシフトを随時作成するなど綿密な計画を立てて工事を実施した。
  3. スタッフの人数制限
    JUVでは,船員,プロジェクト管理者,海上保証調査員,顧客など,さまざまなスタッフが乗船する必要があり,船室制限によって風力発電機の設置に必要なスタッフの数が制限された。このため,短時間・少人数での建設を可能にする治具を準備して対応した。
  4. 輸送用治具・設備の認証取得
    洋上風車の建設では一般的に,治具類の使用は,治具が該当する基準に従って正しく設計および製造されていることを,第三者が認証することで許可される。輸送に使用する船舶および輸送品のレイアウトを決定した後,船舶の加速度や重力,風を考慮して荷重ケースを設定し,治具や設備の強度解析を実施し,第三者認証を取得した。
  5. 据え付け用治具の認証
    つり具などの据え付け用治具も,規格やガイドラインに沿って設計されていることを確認する必要がある。加えて,治具が実際の負荷に耐えられることの検証試験も必要になる。また,設計通りに製作されていることを,製造立会監査で確認を行う。汎用品(スリング,シャックル,リフティングバッグなど)に関しても,認定品を使用していることの確認が含まれる。

3.2 洋上での据え付け工事の実績

日立とJDNの建設チームは2020年6月から建設を開始し,新型コロナウイルスの影響による休止期間を経て,2021年6月に全21基の洋上風力発電機の据え付け工事を完了した。設計や作業の最適化により,風力発電機の洋上での据え付け工事を最短22時間未満で完遂することができた。

4. おわりに

本稿では,彰化プロジェクトにおける日立の設計活動と据え付け工事の実績について紹介した。日立は本プロジェクトを通じて得られた知見や経験を生かし,洋上風力発電事業の発展に貢献していきたいと考えている。

謝辞

本稿で述べた台湾彰化洋上風力発電プロジェクトの設計活動と据え付け工事においては,コンソーシアムパートナーであるJan De Nul nvや基礎設計会社のCOWI A/S,顧客である台灣電力股份有限公司,認証機関であるDNV ASなど,多くのステークホルダーにご協力いただいた。深く感謝の意を表する次第である。

参考文献など

1)
資源エネルギー庁,令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022)PDF版(2022.6)
2)
Jan De Nul nvウェブサイト
3)
台灣電力股份有限公司ウェブサイト
4)
飛永育男,外,洋上風力発電における設計・建設例の紹介,第44回風力エネルギー利用シンポジウム,A1-4(2022.12)
5)
DNV ASウェブサイト
6)
一般財団法人日本海事協会ウェブサイト, CHARTING THE FUTURE
7)
COWI A/Sウェブサイト
8)
W. Collier, Support Structure Superelement: User Guide for Bladed 4.8, DNV・GL(2018.8)
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