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ハイライト

日本では,2030年度の再生可能エネルギー導入水準として36〜38%の目標を掲げ,再生可能エネルギーの主力電源化に向けた取り組みが進められている。今後は自然変動の高い再生可能エネルギー発電においても,従来の大規模,集中型電源のようなコスト競争力,安定的な発電,系統制約,調整力の確保といった課題への対応を求められることが予想され,再生可能エネルギー電源とともに蓄電池などの分散エネルギーリソースを使った安定的で経済的な発電運用が必要になるものと考えられる。

これに対し日立製作所は,分散電源の運営に必要な集約管理,発電計画書作成および電力市場取引など分散電源の電源運用に必要な基本機能を備えた,分散電源協調運用サービスを開発中である。

本稿では,ソリューションの全体概要と特徴について紹介する。

目次

執筆者紹介

稲垣 征司Inagaki Seiji

稲垣 征司

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 社会システム事業部 エネルギーソリューション本部 デジタルソリューション部 所属
  • 現在,分散電源事業のエネルギーソリューション開発および事業取りまとめ業務に従事

宮川 純一Miyakawa Junichi

宮川 純一

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 社会システム事業部 エネルギーソリューション本部 デジタルソリューション部 所属
  • 現在,分散電源事業のエネルギーソリューション開発に従事

笹 朝博Sasa Tomohiro

笹 朝博

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 社会システム事業部 エネルギーソリューション本部 デジタルソリューション部 所属
  • 現在,VPPおよび分散電源事業のエネルギーソリューション構築業務に従事

1. はじめに

年々深刻さを増す気候変動や地球温暖化を背景に,脱炭素社会の実現が求められている。日本におけるエネルギー政策では,2030年度のエネルギーの割合を示した「エネルギーミックス」で,再生可能エネルギーの導入水準を36〜38%とする目標を掲げており,この水準を実現するためには,再生可能エネルギーの主力電源化は必要不可欠である。再生可能エネルギーの大量導入を持続可能なものとしていくため,(1)コスト競争力の強化,(2)長期安定的な発電を支える事業環境の整備,(3)系統制約の克服,(4)調整力の確保という課題に対応した電力システムの制度設計が進められている。

こうした背景の下,再生可能エネルギー電源のFIT(Feed-in Tariff:固定価格買い取り制度)からFIP(Feed-in Premium)へのシフトや,自然変動再生可能エネルギーの導入に欠かせない調整力を火力発電や揚水発電蓄電池が担う一方で,柔軟で効率的な調整力の確保に向け,地域に普及している発電設備や蓄電池などをIoT(Internet of Things)技術で統合的に制御して電力の需給調整に活用する「バーチャルパワープラント(VPP:Virtual Power Plant)」,送配電系統の安定化に寄与する「系統用蓄電池」,電力を水素に変換して貯蔵する「Power to Gas」などの技術が期待されており,カーボンフリーな次世代の調整力として導入が進められている。また,これらの需要家側が持つエネルギーリソースは大規模発電設備と異なり需要家側に分散しているため,電力システムに組み込んで活用しようとする動きもある。これらの多くのDER(Distributed Energy Resources:分散型エネルギーリソース)を束ね,需要家と発電事業者の間に立って,電力需給のバランスコントロールや需要家側のエネルギーリソースの最大限の活用に取り組む事業者を「特定卸供給事業者(アグリゲータ)」として電気事業法に位置づけ,電力の供給事業が始まっている。

本稿では,DERの発電運用の課題解決に向けた,分散電源協調運用サービスへの取り組みを紹介する。

2. 分散電源協調運用サービス

図1|分散電源協調運用サービス概要図1|分散電源協調運用サービス概要分散電源協調運用サービスは,需要家側の分散電源マネジメントシステムをIoT(Internet of Things)により集約・管理し,電力市場や系統を活用した電力運用に貢献する。

分散電源協調運用サービス(Distributed Energy Resources Cooperation Service)は,DERの電力供出情報を収集し束ねてVPP化し,電力広域的運営推進機関(OCCTO:Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN)への計画書提出機能および一般社団法人日本卸電力取引所(JEPX:Japan Electric Power Exchange)との取引機能を備え,主に中小規模となるDER事業者へ電力運用と収益化をサービス型で提供をするプラットフォームサービスである。本稿執筆時の電力系統を活用した分散電源活用で想定している代表的なユースケースを図1に示す。

2.1 分散電源協調運用サービス開発

図2|分散電源協調運用サービス構成概要図2|分散電源協調運用サービス構成概要再生可能エネルギーアグリゲーションは,個々の発電の計画および予測と需要計画を集計して,発電過不足分を電力卸市場で売買し,売買約定結果をもって発電販売計画の提出機能を有する。

日立は,前述のユースケースの実現を目的として,分散電源の市場協調運用に必要な機能を搭載した日立電力事業用パッケージ製品「CURSUS」シリーズを活用し,分散電源協調運用のサービス化に取り組んでいる(図2参照)。2022年度は,図1におけるUC(Use Case)6の再生可能エネルギーを主体に発電事業を行うFIP発電事業者向けに,複数の再生可能エネルギー発電の取引業務と発電計画書提出業務を行える再生可能エネルギーアグリゲーションサービスを開発した。

本システムの主な機能は,以下のとおりである。

  1. 再生可能エネルギー発電量予測
    風力・太陽光といった再生可能エネルギーは発電量を制御できないため,気象情報などから発電量を予測する機能が必要となる。各DERの発電予測を取り込み,集約処理によりエリアごとの発電総量予測を行うが,CSV(Comma Separated Value)ファイル形式の発電予測データ出力機能を具備した他社製予測システムからも取り込み可能とした。
  2. 発電計画策定
    予測発電量と相対先契約量(需要量)より発電計画を自動策定する。発電による利益の最大化および需要供給契約履行のため,需要量に対して各発電設備の発電計画量を割り付けることで余力電力量/不足電力量を算出できる。また市場価格予測を取り込むことにより,最適な電力取引市場への入札案を作成することが可能である。
  3. JEPXスポット市場入札
    JEPXスポット市場に入札するインタフェースを具備しており,本システムから入札が可能である。入札後の約定結果も自動的にJEPXより取り込みが可能であり,約定した発電量を各発電設備に再配分して発電計画を自動更新する。
  4. 発電販売計画書提出
    電気事業法や託送供給等約款に基づき,各事業者または各契約者はOCCTOに発電販売計画を提出する必要がある。策定した発電計画および販売計画(約定結果)を,OCCTOが提供する計画書作成のための「入力支援ツール」に必要な諸元データとして出力することが可能である。

本システムにはこれらの機能の操作・確認を行うユーザーインタフェースが具備されており,予測発電量・相対先契約量(需要量)などの各種情報をトレンドグラフで確認できる。本システムは,日立グループ内にて実際の風力発電所を用いた風力発電量予測システムと連携して運用検証を完了している。

2.2 大みかグリーンネットワーク

図3|2022年度OGN構想における分散電源協調運用サービスの構成概要図3|2022年度OGN構想における分散電源協調運用サービスの構成概要カーボンニュートラルに向けて需要家PPSとして再生可能エネルギーを含む発電調達運用したケースをシミュレーションで可視化することで,効率的な運用を支援する。

大みか事業所では,事業所内施設でさまざまな脱炭素化に関する技術・ノウハウを蓄積し,ステークホルダーと脱炭素化を推進する「大みかグリーンネットワーク(OGN)」を構想し,社会全体のカーボンニュートラル化に寄与する取り組みを行っている。その中で,所内電源の低炭素化に向け,電力市場からの電源調達と事業所内のPV(Photovoltaics:太陽光発電)・蓄電池などを活用した分散電源運用最適化シミュレーションを通じた,「低炭素電源調達と分散電源の協調運用および最適制御」に対して,分散電源協調運用サービスの実証検証を行っている。2022年度のOGN構想の構成概要を図3に示す。

ここでは,DERの電源運用に分散電源協調運用サービスを適用し,分散電源最適制御はインテリジェンス機能付きのGW(Gateway)と日立エナジー製のコントローラ(e-mesh)で構成している。GW経由の発電関連情報と,JEPXのスポット市場価格予測,太陽光発電予測,需要予測を基に発電計画および外部からの電力調達計画を策定し分散電源最適制御システムに対する発電指令をネットワーク経由で行っている。

計画策定は,発電コストが最も経済的になるよう発電設備の組み合わせと,30分単位の発電量の割り当て計画を策定し,発電指令として通知する。ここでは,市場価格と発電設備情報(発電コスト・発電上下限値など)を総合的に判断し,需要予測に対して発電過不足が発生した場合に電力調達を行えるよう調達・販売計画書用のデータ出力機能を備えている。

分散電源最適制御システムは発電指令を基に,調達電力を計画どおり利用することを目的に分散電源最適制御を行う。具体的には,設備の低負荷/高負荷電力状態を予測し,負荷変化に応じて受電点電力(調達電力)制御を行う。また,事業所内の既設発電設備に加え,将来増設予定の発電設備を模擬し,各発電設備の運転状態変化,余剰発生時の蓄電池への余剰充電および電源設備応動のシミュレーションを行う機能を備えている。

これらの取り組みを通じて得られた外部電力調達計画およびシミュレーション結果を基に,エネルギー施設ごとのエネルギー種別,電力量,CO2排出量,総量トレンドグラフに基づく任意の期間内のCO2排出量推移を把握することで,電力運用におけるカーボンニュートラルの推進状況をリアルタイムで可視化し,低炭素化に向けた計画と実行支援を実現している。

3. おわりに

本稿では,再生可能エネルギーの主力電源化に伴い,分散電源運用の課題解決を支援するプラットフォームサービスについて紹介した。

従来の発電事業だけではなく,アグリゲータやオフサイト電源供給などプロシューマの電力系統としての活用はグローバルにも普及してきているが,電源として簡易にかつ安定的に運用することが求められる。

今後は,日立グループの各電力部門とBPO(Business Process Outsourcing)や業務委託と組み合わせた総合的な業務サービスへ範囲を広げていく。

日立は,プラットフォームのサービス提供を通じて,顧客の事業環境変化により直面する課題に柔軟に応え,顧客と共に持続的な成長を支えていく。

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