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ハイライト

2050年のカーボンニュートラル実現に向けては,電力供給において,再生可能エネルギーとともに,原子力を長期にわたり最大限活用することが求められる。このためには,プルトニウム資源の有効活用および放射性廃棄物の処理処分を両立させていく必要があり,高速炉サイクルは「高レベル放射性廃棄物の減容化」,「有害度低減」,「資源の有効利用」に資する技術である。

日立GEニュークリア・エナジー株式会社は,高速炉サイクルの早期実証の実現をめざし,革新的小型ナトリウム冷却高速炉(PRISM)と金属燃料サイクルの技術開発を推進している。PRISMは,金属燃料を採用することにより固有安全性を有するとともに,空冷・自然循環・静的機器による受動的安全性を有することが特徴である。また,PRISMと金属燃料サイクルを組み合わせることにより,高レベル放射性廃棄物減容・有害度低減が可能で,高い核拡散抵抗性を有することが特徴である。

目次

執筆者紹介

星野 国義Hoshino Kuniyoshi

星野 国義

  • 日立GEニュークリア・エナジー株式会社 福島・サイクル技術本部 燃料サイクル推進センタ 所属
  • 現在,燃料サイクル分野プロジェクト業務に従事
  • 理学博士
  • 日本原子力学会会員
  • 日本化学会会員

雪田 篤Yukita Atsushi

雪田 篤

  • 日立GEニュークリア・エナジー株式会社 福島・サイクル技術本部 所属
  • 現在,燃料サイクル分野プロジェクト業務に従事
  • 日本原子力学会会員

松村 和彦Matsumura Kazuhiko

松村 和彦

  • 日立GEニュークリア・エナジー株式会社 原子力生産本部 原子力計画部 所属
  • 現在,次世代高速炉システムの設計開発に従事
  • 日本原子力学会会員

渡邉 大輔Watanabe Daisuke

渡邉 大輔

  • 日立GEニュークリア・エナジー株式会社 原子力生産本部 原子力計画部 所属
  • 現在,次世代高速炉システム・燃料サイクルの設計開発に従事
  • 日本原子力学会会員

1. はじめに

2050年のカーボンニュートラル実現に向けては,再生可能エネルギーだけでなく,原子力を長期にわたって活用することが求められる。現状の燃料サイクルと,「高レベル放射性廃棄物の減容化」,「有害度低減」,「資源の有効利用」の実現に向けて,めざすべき将来の燃料サイクルを図1に示す。使用済み燃料の再処理で発生する高レベル放射性廃棄物には,長期間にわたって放射能や発熱性を持ち続けるマイナーアクチノイド(MA:Minor Actinide)が含まれている。将来の燃料サイクルでは,高レベル放射性廃棄物からMAを回収し,燃料として高速炉で燃焼することにより,高レベル放射性廃棄物の放射能や発熱量を低減することができ,処分場の負荷を小さくすることが可能となる。日立GEニュークリア・エナジー株式会社は,将来の高速炉サイクルの早期実現に向けて,革新的小型ナトリウム冷却高速炉(PRISM:Power Reactor Innovative Small Module)と金属燃料サイクルの技術開発を推進している。

PRISMの概念は,米国のVTR(Versatile Test Reactor:高速中性子多目的試験炉)プログラムやGE Hitachi Nuclear Energy(GE日立社)とTerraPower, LLCの連携によるARDP(Advanced Reactor Demonstration Program:先進的原子炉実証プログラム)のNatrium※)の原子炉に採用されている。Natriumは2030年頃に米国で運転開始予定であり,これらの先行する高速炉の設計・建設の実績を活用し,国内導入に向けた開発を進めることにより,高速炉サイクル技術を早期実証することが可能となる。PRISMは,このように早期実証が可能であり,必要規模への拡張に柔軟に対応することで,次のような価値を提供できる。

  1. 図1に示すように,軽水炉で発生した使用済み燃料を再処理し,回収されたMOX粉末を金属転換し,金属燃料の新燃料としてPRISMに供給するとともに,PRISMで発生した使用済み燃料に乾式再処理を適用し,金属燃料の新燃料としてPRISMに供給する。これにより,現状の軽水炉燃料サイクルを活用しつつ,高速炉サイクルの実現が可能となる。小型炉PRISMと小規模サイクルの金属燃料乾式再処理の組み合わせによって,導入コストを低減し,高速炉サイクルを早期に実証することが可能となる。また,米国先行実績・日米協力の活用により国内開発の開発費低減,開発加速が可能となる。
  2. 金属燃料乾式再処理は原理的にMAがU,Puに同伴して回収されるため,MA燃焼サイクルが小規模で完結でき,早期にMA燃焼を実証可能となる。このような特徴から,核拡散抵抗性が高いという利点がある。
  3. 実証後は,状況に応じて同型炉・サイクル施設を増設することにより,燃料サイクル需要に柔軟に対応することが可能となる。

日立GEニュークリア・エナジーは,国内の酸化物燃料サイクルと整合した金属燃料高速炉サイクルの導入成立性を検討し,高レベル放射性廃棄物の減容・有害度低減に向けて,酸化物燃料サイクルで発生するMAを金属燃料高速炉で燃焼するシナリオの検討開発を進めている。

本稿では,これら開発状況について述べる。

※)
Natriumは,TerraPower, LLCの商標である。

図1|現状の燃料サイクルとめざすべき将来の燃料サイクル図1|現状の燃料サイクルとめざすべき将来の燃料サイクル将来の高速炉サイクルの早期実現に向けて,革新的小型ナトリウム冷却高速炉(PRISM:Power Reactor Innovative Small Module)と金属燃料サイクルの技術開発を推進している。

2. PRISMと金属燃料サイクルの国内導入

PRISMと金属燃料サイクルの国内導入のシナリオと成立性を検討している。現在の軽水炉燃料サイクルは,酸化物燃料炉心,酸化物燃料製造および湿式再処理からなる酸化物燃料サイクルで構成されており,金属燃料を用いるPRISMとその金属燃料サイクルの導入にあたっては,国内核燃料サイクル政策に整合し,合理的・効率的に進める必要がある。酸化物燃料サイクルと金属燃料サイクルを図2に示す。

酸化物燃料サイクルで回収したU,Pu,MA酸化物を金属転換し,金属燃料高速炉で燃焼させる。また,金属燃料高速炉で発生した使用済み燃料の再処理には核拡散抵抗性の高い乾式再処理技術を適用する。高速炉は,高速中性子の利用で燃料となる核分裂性物質を消費しつつ,高い増殖比を達成できるポテンシャルを有し,燃料組成に対して高い柔軟性を有している。将来の燃料サイクルに向けて,金属燃料によるマルチリサイクルのほか,今後のプルサーマル利用で発生する使用済みMOX燃料を原料に,金属転換,乾式再処理を経て金属燃料として使用することにより,使用済み燃料の蓄積量を削減することをめざしている。また,乾式再処理ではU,PuとMAが同時に回収されるため,金属燃料高速炉と乾式再処理を組み合わせることで高レベル放射性廃棄物の有害度低減が可能となる。

図2|金属燃料サイクルの国内導入図2|金属燃料サイクルの国内導入PRISMの国内導入を検討している。高レベル放射性廃棄物の減容・有害度低減に向けて,酸化物燃料サイクルで発生するMAを金属燃料サイクルで燃焼する。

3. 国内導入段階に適したPRISM炉心構成と導入シナリオ

図3|導入時期に合わせた炉心構成図3|導入時期に合わせた炉心構成金属燃料の原料となる使用済み燃料の組成やMAの有無,導入時期のシナリオに応じて炉心を構成している。Pu残存比(燃焼前後Pu量の比率)>1でPu増殖,資源有効利用可となる。

図4|PRISM国内導入における発電設備容量図4|PRISM国内導入における発電設備容量使用済み燃料の蓄積量やPuのバランスを考慮し,金属燃料の原料に応じた炉心ごとの発電容量を設定している。

PRISMによる金属燃料サイクルの国内導入にあたって,国内で発生する使用済み燃料(SF:Spent Fuel)のPu中の核分裂性Pu(Puf:Fissile Plutonium)の比率に応じた高速炉炉心を複数検討している。高速炉平衡サイクルに到達するまでの移行シナリオを構築するため,複数の高速炉炉心の導入ペースと国内導入の成立性および有効性を検討した。

軽水炉から高速炉への段階的な移行を想定し,酸化物燃料サイクルに整合性をもって金属燃料高速炉を導入するシナリオを検討している。国内軽水炉の使用済み燃料を再処理・回収したMOXを原料とした金属燃料を用いる炉心A,MAを含む金属燃料を用いる炉心D,プルサーマルの使用済み燃料を原料とした金属燃料を用いる炉心Bの特徴を図3に示す。いずれもPuの残存比(燃焼前後のPu量の比率)が1以上となり,Puの増殖による資源の有効利用が持続可能な見通しを得ている。

原子力発電の設備容量や高速炉の導入ペースはエネルギー基本計画1)などを参考として設定した。軽水炉やプルサーマルの炉心仕様については文献値2)などを参考に設定した。高速炉の導入ペースの評価結果を図4に示す。高速炉の導入ペースの考え方は,2040年に初号機を導入し,2090年以降にプルサーマルを停止しつつ軽水炉を高速炉へリプレースする想定とした。この国内導入シナリオに基づいて評価した使用済み燃料の蓄積量の推移を図5に示す。使用済み燃料の蓄積量が負の値とならないことから,PRISM国内導入の平衡期までに必要なPu量は国内使用済み燃料から確保できる見通しとなり,Puバランスの観点でPRISM国内導入の成立性の見通しが得られている。引き続き最新の知見に基づいてPuバランスを考慮しつつ国内導入シナリオを検討していく計画である。

高レベル放射性廃棄物の減容・有害度低減に対しては,長半減期の放射性核種であるMAの燃焼が必要である。高速炉であるPRISMはMAの燃焼が可能であり,金属燃料ではMA濃度が5%程度までであれば実験的な知見が豊富で燃料の成立性があると考えられる。また,溶融塩電解による乾式再処理ではPuと一緒にMAを回収可能であり,過去の試験の結果からMAの回収率は99.5%程度と評価している。国内導入シナリオにおけるMAの回収量とMAの金属燃料への供給量のバランスから,MAの貯蔵量の推移を評価した結果を図6に示す。高速炉導入量が少ない時期は湿式再処理によるMAの回収ペースの方が速いため一時的なMA貯蔵が必要となるが,高速炉導入に伴い徐々にMAを燃料に装荷してMA貯蔵を不要とすることが可能な見通しである。

以上のことから,PRISM・金属燃料サイクルの国内導入にあたって,高速炉サイクルの意義である「高レベル放射性廃棄物の減容化」,「有害度低減」,「資源の有効利用」が達成できる見通しを得た。

図5|使用済み燃料の蓄積量の推移図5|使用済み燃料の蓄積量の推移国内の使用済み燃料から高速炉導入に必要なPu量を供給可能である。

図6|国内導入シナリオにおけるMAの貯蔵量の推移図6|国内導入シナリオにおけるMAの貯蔵量の推移高速炉導入初期にMA貯蔵量は徐々に増加するが,本格導入時には貯蔵MAの燃料装荷により,MA貯蔵が解消される見通しである。

4. おわりに

日立GEニュークリア・エナジーは,国内の核燃料サイクル政策に整合した金属燃料高速炉サイクルの成立性について検討し,国内導入へ適合できる見通しを得ている。今後も引き続き,これらの革新技術に基づく金属燃料小型高速炉・金属燃料サイクルの開発を進めていく。

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