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日立GEニュークリア・エナジー株式会社は,初期投資リスク低減,長期的な安定電源確保,放射性廃棄物有害度低減を実現することを原子力ビジョンとして掲げており,これらを実現するため,革新大型軽水炉Highly Innovative ABWR(HI-ABWR),高経済性小型軽水炉BWRX-300,軽水冷却高速炉RBWR,革新的小型ナトリウム冷却高速炉PRISMの四つの新型炉の開発を進めている。HI-ABWRは福島事故対策設備の合理的な実装と新たな安全メカニズム導入による高い安全性,BWRX-300は徹底的な簡素化による安全性と経済性の両立,RBWRは実績豊富な軽水冷却技術による高速炉の実現,PRISMは革新的技術の採用により固有の高い安全性と経済性を両立するという特長を持つ。今後,グローバルなエネルギー問題への解決策を提供するために技術開発を実施し,四炉型を早期に実用化していく予定である。

目次

執筆者紹介

木藤 和明Kito Kazuaki

木藤 和明

  • 日立GEニュークリア・エナジー株式会社 原子力生産本部 原子力計画部 所属
  • 現在,小型軽水炉のシステム設計に従事
  • 工学博士
  • 日本原子力学会会員
  • 日本機械学会会員

日野 哲士Hino Tetsushi

日野 哲士

  • 日立製作所 研究開発グループ 脱炭素エネルギーイノーベーションセンタ 原子力システム研究部 所属
  • 現在,次世代軽水炉の炉心開発に従事
  • 理学博士
  • 日本原子力学会会員

中原 宏尊Nakahara Hirotaka

中原 宏尊

  • 日立GEニュークリア・エナジー株式会社 原子力生産本部 原子力計画部 所属
  • 現在,次世代高速炉システムの設計開発に従事
  • 日本原子力学会会員

1. はじめに

図1|日立GEニュークリア・エナジーの原子力ビジョン図1|日立GEニュークリア・エナジーの原子力ビジョンBWR建設経験と燃料サイクル技術を基に,初期投資リスク低減,長期的な安定電源,放射能有害度低減を実現する新型炉をオープンイノベーションで国際共同開発している。

日立GEニュークリア・エナジー株式会社は,BWR(Boiling Water Reactor:沸騰水型軽水炉)建設経験と燃料サイクル技術を基に,革新大型軽水炉HI-ABWR(Highly Innovative Advanced BWR),高経済性小型軽水炉BWRX-300,軽水冷却高速炉RBWR(Resource-renewable BWR),革新的小型ナトリウム冷却高速炉PRISM(Power Reactor Innovative Small Module)の四つの炉型について,オープンイノベーションを活用した国際共同開発を進めている(図1参照)。

本稿では,これら四つの炉型の特長や,実用化に向けた技術開発について紹介する。

2. 革新大型軽水炉 HI-ABWR

図2 |HI-ABWRの概要図2 |HI-ABWRの概要福島事故対策ならびに英国・欧州規制要求を反映した国際標準ABWR設計をベースに,新たな安全メカニズムを組み込んだ革新大型軽水炉である。

2011年に発生した東日本大震災および福島第一原子力発電所事故(以下,「福島事故」と記す。)の教訓に基づき,原子炉には各種の安全性向上対策が施された。日立GEニュークリア・エナジーでは,英国の審査基準に基づいた高い安全性と,福島事故の教訓を反映した国際標準ABWR設計を確立した。この炉はUK(United Kingdom) ABWRと称し,事故発生を抑制する対策(外部事象に対するハザード耐性強化,内部事象に対する建屋内区画分離など),事故時の影響を緩和する対策(炉心損傷防止など),航空機衝突その他のテロに対する対策など,福島事故の教訓を踏まえた対策を取り入れており,英国の許認可プロセスに申請して2017年に設計認証確認書(DAC:Design Acceptance Confirmation)を受領した。

HI-ABWRは,国際標準ABWR設計をベースとして,自然災害やテロ・内部ハザードへの耐性を強化した福島事故対策設備を事故時の安全性・運用性の観点から合理的に実装し,過酷事故発生リスクを低減するとともに,新たな安全メカニズムを導入して安全性を高めた革新的な大型軽水炉である。HI-ABWRの概要図を図2に示す。新たに導入する設備として,事故時に電源や運転員操作に依存せずに,自然力により崩壊熱を除去し,炉心を冠水維持可能なPRCS(Passive Reactor Cooling System:静的原子炉冷却システム),万一過酷事故が発生した場合でも,放射性物質の閉じ込め機能強化によって作業員や住民の被曝影響を緩和する希ガスフィルタ,炉心溶融が起きた場合でも受動的な炉心溶融物(デブリ)冷却系によりデブリを冷却するコアキャッチャ,燃料被覆管の耐熱性を高めるとともに事故時の水素発生を抑制する事故耐性燃料などの開発を進め,順次適用していく計画である。

3. 高経済性小型軽水炉 BWRX-300

図3|BWRX-300の概要図3|BWRX-300の概要革新的な隔離弁一体型原子炉の採用により,冷却材喪失事故(LOCA)の影響を緩和するとともに,安全系は,動作に交流電源や運転員操作を必要としない静的安全系で構成される。

カーボンニュートラル社会の実現に向けて原子力発電の価値が再評価されているが,自由化された電力市場における発電プラントには,発電コストの低減とともに,資本費の抑制と投資リスクの低減も求められる。このような背景の下,小型軽水炉が世界的に注目されており,日立GEニュークリア・エナジーは米国の姉妹会社であるGE Hitachi Nuclear Energy(以下,「GEH社」と記す。)と協調し,高度な安全性を維持したうえで経済性を向上した小型軽水炉BWRX-300の日米共同開発を進めている。

BWRX-300の概要図を図3に示す。BWRX-300は,電気出力300 MW級の小型BWRである。BWRは原子炉で蒸気を発生させてタービンに送る,シンプルな直接サイクルのプラントである。BWRX-300はこの特長を生かして,プラントシステムの簡素化をさらに追求し,その結果,「隔離弁一体型原子炉」の概念の採用へと至った(図3参照)。隔離弁一体型原子炉は,従来はRPV(Reactor Pressure Vessel:原子炉圧力容器)から離れて設置されていた隔離弁を,RPVに直付けしたものである。このような構成とすることで,LOCA(Loss of Coolant Accident:冷却材喪失事故)の原因となる配管の破断部(配管溶接部)を隔離弁よりも外側に限定でき,隔離弁を閉止すれば冷却材の喪失を停止できる。その結果,LOCAを隔離弁が閉止するまでの短い時間に限定し,その影響を緩和できる。このような先進的な概念を採用することで,安全性を高めつつ,非常用炉心冷却系ポンプなどの大型機器を削減するとともに,原子炉建屋および原子炉格納容器を大幅に小型化できる見通しを得ている。プラントシステムの簡素化は機器点数削減による信頼性の向上や,運転・保守費の低減,そして廃炉時の廃棄物量の低減にもつながる。

また,BWRX-300の機器のほとんどは,運転・建設実績のあるBWRやABWR,米国で設計認証を取得済みのESBWR(Economic Simplified BWR)の技術で構成されており,燃料も欧米で豊富な使用実績を持つものをそのまま使用できる。イノベーションを追求しつつ,実績のある技術を活用することで,開発リスクおよび許認可リスクを最小化し,早期の市場投入が可能となる。

このような特長が認められ,北米や欧州で,建設炉の候補としてBWRX-300が選定されている。カナダでは,オンタリオ州の州営電力会社であるOntario Power Generation Inc.(OPG1),およびサスカチュワン州の州営電力会社であるSaskatchewan Power Corporation2)の建設炉の候補として選定されたほか,米国の国営電力会社であるTennessee Valley Authorityも小型炉建設を念頭に置いた「New Nuclear Program」の中でBWRX-300が候補であることを表明した3)。また,エストニアのFermi Energia ASからも建設炉の候補として選定されている4)。カナダにおける許認可手続きとして,Vendor Design Reviewを2019年から実施していたが,許認可当局から完了したことが公表された5)。今後,米国のGEH社と協力関係にある日立GEニュークリア・エナジーもこれらのプロジェクトに関与していく。

4. 軽水冷却高速炉 RBWR

図4|RBWRの導入ビジョン図4|RBWRの導入ビジョン燃料棒を稠密に配置した燃料により中性子の冷却水との衝突による減速を抑制してエネルギーを従来BWRよりも高める。プルトニウム利用を促進し,使用済み燃料削減に寄与する四角格子RBWRの開発を進めている。

日立GEニュークリア・エナジーは,冷却水(中性子減速材)が沸騰するBWRの特長を生かしたRBWRの開発を進めてきた。RBWRはこの冷却水の沸騰に加え,稠密燃料により水対燃料の比率を減少させ,通常の軽水炉よりも中性子エネルギー分布を高エネルギー側にシフトさせる設計としている。RBWRの導入ビジョンを図4に示す。最終的には六角格子RBWRにより高速炉サイクルの実現をめざしつつ,まずはプルトニウム利用の促進により再処理工場の活用を推進し,使用済み燃料を減容して原子力発電の最大限活用を維持していくため,既設炉にバックフィットする四角格子RBWRの開発を進めている。

四角格子RBWRは,燃料集合体当たりのプルトニウム装荷量を増やすことで,プルトニウム利用量を現行BWRプルサーマル[使用済み燃料から取り出したウランとプルトニウムを混ぜたMOX(Mixed Oxide:混合酸化物)燃料を軽水炉で利用すること]の約2倍にする。核不拡散の観点から,日本はプルトニウムを利用する分のみ再処理する方針であるが,燃料集合体当たりのプルトニウム利用量を増やすことで,プルトニウムを利用できるプラントが限られる場合でも,再処理量を増やし,使用済みウラン燃料貯蔵量をより多く削減することができる。また,燃料集合体当たりのプルトニウム装荷量が増えることで,同じ量のプルトニウムを利用した場合に発生する使用済みMOX燃料の体数も現行BWRプルサーマルよりも削減できる。

プルサーマル後の使用済みMOX燃料は,長期保管により241Puの崩壊が進むと,高速炉で再利用する際に核分裂性プルトニウムが不足するため,核分裂性プルトニウムの割合が比較的多い使用済みウラン燃料からの回収プルトニウムと混合するなどのプロセスが必要となる場合がある。そこで,四角格子RBWRはプルトニウム利用量を増やしつつも,四角格子RBWRから生じる使用済みMOX燃料を将来の高速炉で再利用することを考慮し,稠密燃料による高速中性子スペクトルを利用して,核分裂性プルトニウムの割合を現行プルサーマルよりも高く維持する。これにより,高速炉サイクル移行に必要とされる使用済み燃料の保管量や再処理量の削減も図る。

5. 革新的小型ナトリウム冷却高速炉 PRISM

図5|原子炉モジュール概念図(GEH社提供)図5|原子炉モジュール概念図(GEH社提供)PRISMは標準的には2基の原子炉モジュールと1基のタービン設備により1組のパワーブロックが構成される。本図に標準的な原子炉モジュールを示す。

日本は,高レベル放射性廃棄物の減容化,有害度の低減,資源の有効活用などの観点から高速炉を活用した核燃料サイクル政策を推進している。2022年12月改訂の高速炉開発の「戦略ロードマップ」では,2030年頃までに概念を固め,2050年までに実証炉の運転開始が望まれている。日立GEニュークリア・エナジーでは,経済性と安全性,柔軟性を兼ね備えたPRISMを2040年代に国内導入することを目標としている。

PRISMの設計は1980年代にGeneral Electric Company(GE)により始まり6),現在はGEH社により開発が継続されている。原子炉モジュールの概念図を図5に示す。PRISMは,事故時に電源および運転操作を必要とせず,長期間の炉心冷却を実現する受動的安全系設備RVACS(Reactor Vessel Auxiliary Cooling System)と固有安全性などの特長を有する金属燃料(U-Pu-Zr)を採用した高速炉である。重金属密度と平均中性子エネルギーが高く,経済性や資源有効利用の観点でも優れている。さらに初期投資を抑制できる小型モジュール炉(1基当たり311 MWe)の設置数により柔軟なプラント構成を可能とする。

金属燃料サイクルに関しては,一体型高速炉(IFR:Integral Fast Reactor)と呼ばれる,金属燃料高速炉,乾式再処理,燃料製造を一体型施設として統合した概念も開発されている。乾式再処理はPuとマイナーアクチニド(MA:Minor Actinide)が同時回収され,施設外に取り出すことなく,燃料として再利用できるため,高い核拡散抵抗性を有し,高レベル放射性廃棄物の減容化,有害度の低減にも貢献できる。

さらに米国の実証炉建設計画プログラムである,ARDP(Advanced Reactor Demonstration Program)に採用された,TerraPower, LLCとGEH社により開発が進められているNatrium※)は,原子炉にPRISM概念を採用し,電力需要に応じて余分な熱量を蓄える溶融塩蓄熱システムを備えることにより,負荷変動や再生可能エネルギーの出力変動への対応,電力市場に応じた発電により経済性向上を図る設計オプションとなっており,2030年頃の実用化をめざしている。このプログラムでPRISM概念も実証されることになり,GEH社と協調しながら日立GEニュークリア・エナジーも日本への早期導入を検討している。

今後,国内導入のフィージビリティ・スタディとして,GEH社および関係機関と協力して,国内導入時に想定される規制要件への適合性や導入シナリオ,RVACSと金属燃料の安全性について検討を進め,燃料サイクルを含めて実証試験計画を立案する。その後,実証試験,詳細設計,許認可を経て2040年代の導入をめざしていく。

※)
Natriumは,TerraPower, LLCの商標である。

6. おわりに

本稿では,初期投資リスク低減,長期的な安定電源確保,放射性廃棄物有害度低減の実現に向けた,日立GEニュークリア・エナジーのHI-ABWR,BWRX-300,RBWR,PRISMの四つの新型炉の開発について述べた。

今後も,原子力政策の反映,ユーザー意見の取り込みなど,社会的受容性を高め,カーボンニュートラル実現にクリーンエネルギーである原子力発電で寄与するため,四炉型を早期に実用化していく予定である。

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