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ハイライト

カーボンニュートラル社会の実現に向けて,グローバルでさまざまな取り組みが進められている。こうした中,天候によって発電量が変動する再生可能エネルギーを常時有効活用する24/7カーボンフリーエネルギーの取り組みが新たなトレンドとして拡大しており,真のカーボンニュートラル達成には細かな時間粒度で再生可能エネルギーの発電・消費を管理することが必要であると認識されている。日立は24/7カーボンフリーエネルギーの標準規格化を推進するEnergyTagイニシアチブなどに参画しながら,日立エナジーと共にデジタル技術を活用したソリューションの具体化を進めている。本稿では,細粒度のデータを用いたデータドリブン志向により,カーボンニュートラルに向けたDXサイクルを実行することで社会の脱炭素化へ貢献する日立の取り組みについて紹介する。

目次

執筆者紹介

森脇 紀彦

森脇 紀彦

  • 日立製作所 エネルギー事業統括本部 エネルギーソリューション事業統括本部 デジタル事業戦略本部 所属
  • 現在,エネルギー分野のデジタル事業戦略策定とデジタルソリューション開発のマネジメントに従事

定江 和貴

定江 和貴

  • 日立製作所 エネルギー事業統括本部 エネルギーソリューション事業統括本部 デジタル事業戦略本部 デジタル変革推進部 所属
  • 国内電力へのソリューションビジネス展開を経て,現在,電力サプライチェーン向けのデジタル事業開発推進に従事

齋藤 直

齋藤 直

  • 日立製作所 研究開発グループ 技術戦略室 所属
  • 国内外の電力送配電システムの研究開発,デジタルソリューション開発を経て,現在,国外の研究開発戦略企画業務に従事

Efrain Tamayo

Efrain Tamayo

  • 日立製作所 エネルギー事業統括本部 エネルギーソリューション事業統括本部 デジタル事業戦略本部 デジタル変革推進部 所属
  • 再生可能エネルギー導入に向けたシステムや市場分析に基づくサステナブルファイナンスプラットフォームの開発を経て,現在,海外の電力サプライチェーン向けのデジタル事業開発推進に従事

伊藤 政昭

伊藤 政昭

  • 日立製作所 エネルギー業務統括本部 デジタル事業戦略本部 デジタル変革推進部 所属
  • 国内外のエネルギー分野のデジタルソリューション事業開発を経て,現在,国内向けのエネルギー分野のグリーン×デジタルソリューション事業開発に従事

Hugo Stappers

Hugo Stappers

  • 日立エナジー Energy Portfolio Management所属
  • 現在,日立エナジーのエネルギーポートフォリオ管理ソリューションのグローバルな営業活動に従事

24/7カーボンフリーエネルギー実現に向けたグローバル動向

図1│地域ごとの24/7CFE関連動向図1│地域ごとの24/7CFE関連動向

カーボンニュートラル社会の実現に向けて,エネルギー属性証書(EAC:Energy Attribute Certificate)の活用や電源購入契約(PPA:Power Purchase Agreement)などさまざまな政策がグローバルに推進されている。しかしながら,本格的な脱炭素化に向けては再生可能エネルギーのさらなる導入拡大が必須であり,関連する市場や技術開発の分野では新たな課題も生じている。一方で,再生可能エネルギーの導入は最終目標ではないため,それだけに限らずカーボンフリーエネルギー(CFE:Carbon Free Energy)実現に向けて必要なアクションを起こしていく必要がある。

エネルギー属性証書EACに関して,電力に直接的に付帯されないEACの取引システムと実在する電力システムの物理的条件の間には時間的・空間的な乖離があり,これを埋めるためには時間単位で契約して調達した再生可能エネルギーが需要側に供給された電力と同一であることを証明することが必要となる。再生可能エネルギーは天候などの影響を受けるため,導入にあたっては発電する時間と場所の両面で制約がある。したがって,そうした要件を満たしつつ再生可能エネルギーの新規導入を奨励し,継続的かつ効果的に既存の電力システムや取引システムと統合していく必要がある。そのため24/7カーボンフリーエネルギー※)(以下,「24/7CFE」と記す。)では,CFEの生成と消費が1時間あるいはそれ以下の時間粒度で一致することを重要な要件として位置づけている。

24/7CFEに対する理解を促進するため,英国に拠点を置くEnergyTag1)イニシアチブは,EACと同様に発行・取引・償却されるGC(Granular Certificate)という証書の標準規格とガイドラインを2022年3月に発行した(図1参照)。日立は100社以上あるEnergyTagのサポート組織の一つとして設計プロセスに参画した。データセンター分野ではGCの自発的な実装が既に始まっているほか,グリーン水素やメタン,アンモニアなどの分野でも適用に向けた検討が進められている。米国の再生可能エネルギー証書であるREC(Renewable Energy Certificate)の国際標準化組織 I-REC2)では,時間単位の証書化に加えて,炭素除去や水素などにもスコープを拡張している。厳密な炭素会計に必要となるGHG(Green House Gas)排出量の情報開示に向けては,将来的に24/7CFEの導入が重要になることが想定される。

※)
24時間365日(常時),電力供給網にCO2排出量ゼロの電力を供給し,リアルタイムで使用するという考え方。

GHG排出量の情報開示の重要性

脱炭素活動についてTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)3)に則した情報開示をする企業が世界的に増えている。2022年9月22日の時点でTCFDが公表している情報によると,世界全体で3,819の企業や機関が情報開示に賛同し,日本では1,062の企業や機関が賛同している。

TCFDの開示内容には,「ガバナンス」,「戦略」,「リスク管理」,「指標と目標」の四つのカテゴリーがあり,「指標と目標」では,国際的に認められているGHGプロトコルに則した温室効果ガスの排出量の算定と報告が必要となる。GHGプロトコルは排出方法や排出者に応じて,「スコープ1(直接排出量)」,「スコープ2(間接排出量)」,「スコープ3(そのほかの排出量)」の三つに区別されている。再生可能エネルギーの導入が増えていく中,企業・機関などの報告者においては,アセット管理やエネルギー管理に加えてGHG排出量の把握・算定・報告業務の重要度が今後増していくと考えられる。なお,日本国内でも東京証券取引所が2021年6月に改訂したコーポレートガバナンス・コードにおいて,プライム市場上場企業1,839社に対して,TCFDの枠組みに沿った情報開示が義務化している。

またスコープ3においては,個社で閉じないサプライチェーン全体での報告が求められており,顧客への納品物に関する炭素量を提示する必要がある。欧米の一部企業では,納品物に関わる電力が1時間単位で再生可能エネルギー由来であることの証明を顧客から求められる事例も出始めており,エネルギー自体がカーボンフリーであることの証明を求める声は今後,ますます増えていくと予想される。

デジタル技術活用によるエネルギーマネジメントのイノベーション

図2│Granular Certificateの活用に向けたエコシステムの構成イメージ図2│Granular Certificateの活用に向けたエコシステムの構成イメージ

日立はデジタルソリューションの強化と,広範な電力システムソリューションの活用に取り組んでいる。今後はさらにGC に関するソリューションを新たに提供することで,顧客の脱炭素化に包括的に貢献していく。さまざまなステークホルダーと,E2E(End-to-end)のプロセスをカバーする活動を考慮したエコシステムに対して,信頼性の高い認証,リスク軽減,および電力とGCの最適な調達を実現する(図2参照)。関係するさまざまなステークホルダーの行動を調整し,地域社会とのコミットメントと協力を実現することをめざしている。

現在,米国のRECや欧州の原産地証明(GO:Guarantee of Origin)などのEACは,PPAを通して電力に付帯した形で購入されるか,または電力取引市場から電力を調達した後,電力に付帯しない形で別途購入される。それに対して,日立はデジタル技術を活用したエネルギーマネジメントのイノベーションにより消費者と供給者を事前にマッチングさせることで,電力と付帯するGCの調達を同時に実現し,電力小売事業者が管理するプライベートマーケットでの取引を可能にする。顧客要望に沿う形で付帯型のGC 調達ができない場合には,電力には付帯しないGCの調達も補完的に提供する。電力需給の運用計画に加えて過去実績と予測のデータを利用して需要と供給の最適化を行い,供給と需要の双方のフレキシビリティを活用して未利用の再生可能エネルギーを最大限に活用する事前マッチング取引を実現する。需要と供給間の再生可能エネルギー取引を細かな時間粒度でマッチングさせることで,再生可能エネルギーやそれ以外のエネルギー源も含めた電力に対してのエネルギートレーサビリティを提供できる。

エネルギーストレージは再生可能エネルギーの広範な利用においてフレキシビリティを提供するための重要な役割を担うため,日立は蓄電池の充放電電力に対するGC管理技術を開発しており,充放電された 再生可能エネルギーの消費者にGCを提供可能とする。蓄電池で充放電する際には電力損失が発生するため,これを考慮した信頼性の高いGC管理を実行できる。将来的に電力の消費,生成,および蓄電池などの系統機器を含むシステム全体を最適化して24/7CFEを実現することがねらいである。

GHG排出量の情報開示の一環として,CFEを使用して製造された製品に対し,サプライチェーン全体を通した脱炭素に関するレポーティングにGCを活用することにより,完全に持続可能な方法で生産されている製品として最終的に認定することが可能となる。環境意識の高い製造業者,サービスプロバイダ,エンドユーザーなどはこのような証明を必要とするため,GCを利用することで24/7CFEであることを外部へ発信し,環境貢献に対する価値を高めていくことができる。

カーボンニュートラルを段階的に実行するDXサイクル

図3│カーボンニュートラル実現に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)サイクルのイメージ図3│カーボンニュートラル実現に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)サイクルのイメージ

需要家などのエネルギー消費者にとって,2050年までのカーボンニュートラル達成に向けた道のりはとても険しく,現時点の状況を正確に把握しながら中長期的に戦略を立案し,着実に推進していくことが重要となる。しかし,このような大きな構想や目標に対し,どう取り組めばいいのか迷う企業も少なくないと想定される。

エネルギーのカーボンニュートラルに向けた活動を「戦略策定と更新」,「業務設計とシステム要件」,「細粒度の運用管理」,「報告とレビュー」の四つに分類した(図3参照)。まず,「戦略策定と更新」では,2050年までの取り組みをロードマップとしてまとめる。次の「業務設計とシステム要件」では,ロードマップから短期的なアクションについて具体的な実行策を設計する。ここでは単に再生可能エネルギーを増やす計画だけではなく,関連する設備および業務についても運用を考えていく必要がある。そして「細粒度の運用管理」にてカーボンニュートラル施策を実行し,段階的な再生可能エネルギー率の向上をコスト削減と運用効率向上のバランスを俯瞰しながら継続運用していく。最後に「報告とレビュー」にて改善効果の把握やロードマップとの比較を行い,2周目のロードマップ更新の根拠となるレポートを目的に応じて出力していく。これら四つの活動は一回のみで終わらせることを前提としておらず,直近の事業環境の情勢を捉えながら,できる範囲から徐々に継続実行していくことで,短期的な達成が難しいカーボンニュートラルを段階的に実現していくことが重要であると考える。

グローバルなソリューション提供への取り組み

図4│顧客・エンドユーザーの24/7CFE利用に向けた日立提供ソリューションのイメージ図4│顧客・エンドユーザーの24/7CFE利用に向けた日立提供ソリューションのイメージ

日立は2020年にABB社のパワーグリッド事業(現 日立エナジー)を買収した。さらに,日立エナジーによる米国パイオニアソリューションズ社の買収によって,EACを含むコモディティ/エネルギー取引とリスク管理ソリューションの市場でのETRM(Energy Trading and Risk Management)/RECTracker, EmissionsTracker製品4)を提供しており,事業部門,営業部門,研究開発チームがグローバルに協調し,顧客やエンドユーザーの24/7CFE利用を加速する包括的なソリューション提供に取り組んでいる(図4参照)。

また,電力取引に関わる環境価値やコスト,さまざまなリスクを総合的に勘案しながら,1時間単位やそれ以下の時間粒度で最適化していくため,GCの取引管理を実現可能とする細かな時間粒度のエネルギートレーサビリティや,発電・需要予測に基づく高度な需給マッチング,蓄電池の充放電電力に対するGC管理技術などの開発に取り組んでいる。これらの取り組みを総合的に活用することでカーボンニュートラルに向けたDXサイクルを段階的に実行し,再生可能エネルギーをむだなく効率的に活用して,顧客の環境価値を高めることに貢献していく。

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