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1. グリーンモビリティのためのデジタルツイン―人流および交通流のシミュレーション

欧州社会がグリーンモビリティの実現に向けて進む中で,より良い交通サービスや持続可能な移動手段へのモーダルシフトを可能にするため,モニタリングを通じて,公共交通機関の運行状況や人々の移動をほぼリアルタイムで予測できるモビリティデジタルツインが必要とされている。

日立は,MAS(Multi Agent Simulation)とAI(Artificial Intelligence)/ML(Machine Learning)によるシミュレーション技術と可視化機能とを組み合わせたモビリティデジタルツインを開発した。このデジタルツインは,より正確な人流および交通流の予測のために,公共交通車両に取り付けられたセンサーから定期的に送信される新しいデータセットに基づいてシミュレーションを10〜20分ごとに動的に更新する。シミュレータはほぼリアルタイムで動作し,都市全体の移動需要,公共交通車両の位置と乗車率を予測できる。さらに,このデジタルツインは,個人の嗜好など,乗客一人ひとりの行動的側面を組み込むことができる柔軟なフレームワークを備えており,さまざまなグリーンモビリティの取り組みの実現に貢献できる。

(日立ヨーロッパ社)

[01]グリーンモビリティのためのモビリティデジタルツインのフレームワーク[01]グリーンモビリティのためのモビリティデジタルツインのフレームワーク

2. マルチモーダル向け多主体KPI貨客混載マッチングシステム

物流業界では,慢性的な配送量の増加,2024年問題によるドライバー不足などが課題となっている。一方で,バス,鉄道などの公共交通業界では,ワークスタイルの変化により在宅勤務が増加し,収益確保の課題を抱えている。そこで,貨物と交通機関をマッチングして,貨物を公共交通機関で運ぶ貨客混載サービスが注目されている。しかし,貨物の輸送に公共交通機関を使用すると,例えば混雑時には乗客の不快感が高まり,交通機関の乗客減につながる可能性もある。

そこで,各ステークホルダーの満足度を推測し,全体として満足度が高められるような運用計画が必要であると考え,乗客,荷主,交通機関の満足度KPI(Key Performance Indicator)をモデル化し,貨物と輸送手段の最適なマッチング案を導出する貨客混載マッチングシステムを開発した。

今後,本技術の事業適用に向けさらなる技術開発を進め,荷主のドライバー不足改善,脱炭素ニーズに貢献していく。

[02]多主体KPI貨客混載マッチングシステムの概要[02]多主体KPI貨客混載マッチングシステムの概要

3. 24/7カーボンフリーエナジーの実現を支える電力需給管理サービス

近年,温室効果ガスの排出量を削減する一環として,太陽光や風力などの再生可能エネルギー(以下,「再エネ」と記す。)により発電された電力を,24時間365日における時間粒度で利用することが推進されている。この実現のためには,事業者間で電力を細粒度で取り引きするとともに,再エネによる電力利用を識別することで,再エネの電力を効率的に活用する必要がある。

そこで,ブロックチェーンを活用し,再エネ利用に対してトークンを付与することにより,再エネにより発電して供給された電力であることを追跡可能とするトレーサビリティ技術の研究開発を行った。また,細粒度電力取引で顕在化する供給計画と供給実績の差分処理リスクを軽減するために,各時刻において供給される電力の供給信頼性を評価する技術の研究開発を行った。

今後,本技術の事業適用に向けさらなる技術開発を進め,小売・需要・供給の各事業者の高度な電力需給管理サービスの実現を図る。

[03]再エネ電力取引向けトレーサビリティ技術の概要[03]再エネ電力取引向けトレーサビリティ技術の概要

4. 事故時における周辺住民の被ばくを大幅に低減する全放射性物質フィルタシステム

カーボンニュートラル実現に向けて,低炭素電源である原子力によるエネルギーの安定供給が望まれている。原子力を最大限活用するためにも,福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ,発電所のさらなる安全性を追求し,より多くの住民に安心を提供する必要がある。

そこで日立は液体吸着材(イオン液体)と分離膜(希ガスフィルタ)を利用して,事故時に外部に放出される可能性のあるガスからすべての放射性物質※)を除去する全放射性物質フィルタシステムを開発している。放射性の有機ヨウ素をイオン液体により高効率で吸着除去し,かつ今まで除去が困難であった放射性の希ガスを希ガスフィルタにより分離除去することで,原子力プラントの安全性向上と周辺住民の不安,避難の負担解消に貢献していく。また,本技術はシステム全体がコンパクトである特徴があることから,スペースが限られている建設済みのプラントへの適用も期待できる。

※)
トリチウムを除く。

[04]全放射性物質フィルタシステム[04]全放射性物質フィルタシステム

5. 原子力プラントの信頼性向上に向けた溶接品質可視化技術と耐震解析技術

原子力プラントの信頼性向上に向けて,IoT(Internet of Things)や高度解析の活用が進んでいる。

従来の溶接品質の評価では,配管内部および狭隘部は作業者が目視不可能であり,溶接品質の一つである溶接部形状を評価できなかった。そこで,配管および狭隘部に適用可能な内視鏡カメラの画像から3D(Three Dimentions)形状を復元する方法を開発し,理想的な溶接形状と復元した3D形状の差分から溶接の品質の評価・監視を可能とした。本技術を溶接士教育訓練システムに活用することで,溶接士の育成および技能向上に貢献できる。

また,近年の耐震設計では,二次元の耐震モデルを用いる従来設計に地震時の三次元挙動の影響を考慮することが課題だった。そこで,原子炉建屋の3D-FEM(3D-Finite Element Method)モデルと機器のはり・質点系モデルの接続部における幾何学的特性を一致させることで,建屋から機器への三次元的な荷重伝達を模擬できるモデル化手法を開発した。これにより,建屋と機器の連成振動を考慮して地震時の三次元挙動の影響を考慮した耐震設計を可能とし,耐震安全性の向上に貢献した。

[05]3D形状復元による溶接品質可視化と3D-FEMを活用した耐震解析技術[05]3D形状復元による溶接品質可視化と3D-FEMを活用した耐震解析技術

6. 電池のライフサイクルコスト改善に向けたデジタルツイン技術

[06]蓄電池搭載製品のデジタルツイン技術[06]蓄電池搭載製品のデジタルツイン技術

環境対応車やポータブル機器,系統連系向け分散電源などに代表される蓄電池搭載製品では,コスト低減に向けて蓄電池搭載量や交換頻度の削減が求められている。日立は,長年に渡って蓄積した蓄電池の試験データや反応メカニズムに対するナレッジを活用し,蓄電池の充放電性能や寿命を高精度に予測するデジタルツイン技術の開発を進めている。

今回,蓄電池の電圧や温度,劣化モデルを統合した連成計算環境を構築し,蓄電池搭載製品の実運用条件を精緻に抽出して計算に取り込むことで,蓄電池システムの設計から保守に至るまでのライフサイクルコスト低減を可能とした。開発した技術は,鉄道車両や家電製品,系統用蓄電システムなどの日立グループの幅広い蓄電池搭載製品開発に適用され,製品の低コスト化や軽量化・小型化の実現に貢献している。

今後,蓄電池のフィールドデータを活用することで,蓄電池搭載製品の長寿命化や省エネルギー化,保守効率化などの顧客課題を解決するデジタルツインへと拡張し,蓄電池ソリューションサービスを展開していく。

7. 次世代型STATCOMによる慣性力および無効電力の供給

近年の電力系統は火力発電所などの停止により,系統周波数の維持に必要な慣性や,送電電圧を一定に保つ無効電力が減少しており,信頼性と安定性の課題に直面している。日立エナジ―が開発した次世代型STATCOM(Static Synchronous Compensator):SVC Light Enhancedは,従来のSTATCOMに有効電力出力とグリッドフォーミング機能を付加した系統安定化装置であり,慣性確保や電圧維持に貢献する。

従来の同期発電機は回転体に大きな慣性を保有しているが,系統の周波数に同期して回転するため,1 Hzの周波数変動に対して蓄積運動エネルギーの4%しか取り出すことができない。SVC Light Enhancedは,系統周波数とは独立に直流電圧を制御することで蓄積エネルギーを取り出すため,1台でより大きな慣性を供給できる。連系線や電源の脱落時には,本装置により同期調相機の1/5の容量で必要な慣性と無効電力を供給でき,送電網のレジリエンス確保を可能とする。

(日立エナジー)

[07]SVC Light Enhancedによる大規模慣性力の供給[07]SVC Light Enhancedによる大規模慣性力の供給

8. 再生可能エネルギー導入拡大系統に対応した人工知能の活用による系統安定化システム

[08]長野方面ISCシステム[08]長野方面ISCシステム

中部電力パワーグリッド株式会社の長野方面系統は,上越火力発電所からの大電力長距離送電に対応するため,長野方面ISC(Integrated Stability Control)システムの電圧無効電力制御方式によって適正電圧を維持している。しかし,再生可能エネルギー導入拡大による電圧変動拡大が進みつつあり,今後,適正電圧逸脱発生や調相設備・変圧器タップの開閉器動作回数増加が懸念される。

これに対し,AIを活用することで,適正電圧維持と開閉器動作回数最小化を両立する電圧無効電力制御方式を開発した。本方式では,運用制約を遵守する適切な目標機器状態をオフラインでAIに学習させ,オンラインでAIが出力した目標機器状態に基づいて制御対象を決定することでこれを実現した。シミュレーション検証の結果,従来比で開閉器動作回数を約50%低減できることを確認した。

本方式を実装した長野方面ISCシステムが運用を開始した。新規性が高く評価され,一般社団法人電気学会から第79回電気学術振興賞進歩賞を受賞した。

(運用開始時期:2023年5月)

9. プラント運転高度化・高信頼化を支援する耐放射線デバイス

原子力発電所では耐放射線性に優れた計測技術が必要とされている。そこで,従来のケイ素(Si)よりも耐環境性に優れた炭化ケイ素(SiC)半導体を用いて,過酷な放射線環境に耐えるCMOS(Complementary Metal-oxide Semiconductor)技術を開発している。この技術を応用して,複数センサーのデータを一つの出力ラインへ選択的に接続する耐放射線マルチプレクサを開発している。

図の左側に開発中のマルチプレクサの外観を示す。開発中のマルチプレクサは,アナログスイッチと,これをコントロールするデジタル回路とを一つのチップ上に搭載したデジアナ混載回路としている。開発中のチップは四つの入力データを切り替える構成としている。図(右)はガンマ線照射後の試験波形である。市販品では動作困難な500 kGyにおいても,開発中のマルチプレクサは問題なく出力の切り替えが可能であることを確認できた。今後はマルチプレクサの多入力化を進め,プラント運転監視のさらなる高度化をめざす。

[09]開発中の耐放射線マルチプレクサの外観(左)と放射線照射後の試験波形(右)[09]開発中の耐放射線マルチプレクサの外観(左)と放射線照射後の試験波形(右)

10. カーボンニュートラル実現を加速する水素混焼発電機

カーボンニュートラルの達成に向けて,電動化や再エネの主力電源化が進められている。風力発電や太陽光発電といった変動の大きい再エネ発電が増加すると,エネルギーの需給バランスが崩れやすくなるため,分散発電システムの役割が高まっている。

その中でも,水素や合成燃料を用いた分散発電システムは,余剰再エネ電力を用いて燃料を製造,貯蔵することで,任意のタイミング,場所にて容易に発電し電力需給を同時同量に調整可能である。

これを実現するため,既存のエンジン発電機にレトロフィット可能な水素供給システム,コントローラを開発し,従来燃料と水素の混焼を可能にした。自動車分野で培った燃焼解析により,異常予兆や燃焼状態をリアルタイムに検出し水素流量を制御する技術を開発することで,水素混焼率を市販システム中で最高水準の50%まで高めた。今後,エネルギーマネジメントシステムとの連携なども進め,顧客の多様なエネルギー構成に対応できる脱炭素ソリューション推進をめざす。

[10]水素を活用した脱炭素ソリューションの概要[10]水素を活用した脱炭素ソリューションの概要

11. 鉄道車両の遠隔リアルタイム取得データを活用した保守省力化技術

鉄道事業者の運用コスト削減に向けた保守省力化に向けて,鉄道車両の機器の中でも故障時の影響が大きい空気圧縮機に対する異常予兆検知技術を開発した。空気圧縮機は,空気ブレーキ装置や空気ばね装置などに圧縮空気を供給する装置であり,空気タンク内の残量に応じて稼働ON/OFFを切り替える。

今回,空気圧縮機に用いられる潤滑油の油量低下や漏油などの異常により,空気圧縮機の稼働時間が増加することに着目した。しかし,圧縮空気の消費条件によって稼働時間は変動するため,正常な稼働時間の変化であっても異常を検知してしまうという課題があった。そこで,消費条件に基づき蓄積したデータをクレンジングし,同じ条件下における理想的な稼働時間を算出する技術を開発した。実際の稼働時間と理想的な稼働時間との差分を時系列で評価したところ,異常発生前にその差分が上昇し,閾値を設定することで空気圧縮機の異常予兆を検知することを可能とした。

今後,本技術の実機適用に向けた提案を進めるとともに,他の機器についても異常予兆検知技術を開発し,鉄道事業者の保守省力化に貢献していく。

[11]鉄道車両の稼働データを用いた空気圧縮機の異常予兆検知[11]鉄道車両の稼働データを用いた空気圧縮機の異常予兆検知

12. 新幹線の安全・定時運行を支える保安装置の電磁ノイズ干渉低減技術

新型新幹線N700Sの安定運行を目的に,位置検出用の車上子(アンテナ)への電磁ノイズの抑制技術を開発した。新幹線では,列車駆動用インバータが発生する電磁ノイズが保安装置に干渉し,非常ブレーキが誤作動した結果,列車が遅延することが問題となっていた。これまでの技術では,長大かつ複雑な車両内で,走行中に発生する電磁ノイズが機器に干渉するメカニズムを正しく把握することができなかった。

そこで,本開発では,走行中車両の電磁ノイズを常時計測する技術とノイズが機器に干渉するメカニズムを実験的に検証する技術を開発し,得られた検証結果から電磁ノイズの伝搬経路をシミュレーションする技術を開発することで,誤作動が起きるメカニズムを特定した。さらに,特定したメカニズムを基にノイズを相殺する車体構造を開発して,10 dBのノイズを削減することに成功し,設計に反映することで非常ブレーキの誤作動防止に貢献した。本構造は,新型新幹線N700Sに適用され,現在まで電磁ノイズ起因の遅延は発生せず,安定運行を続けている。

[12]電磁ノイズ干渉低減設計技術[12]電磁ノイズ干渉低減設計技術

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