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1. 生産設備O&Mに向けたフレキシブルな省エネ生産計画ソリューション

生産計画ソリューションは,既存設備に生産タスクを割り振り,生産効率を大幅に向上させることができる手段として製造分野で以前から重要視されてきた。中国では,生産方式の省エネルギー化とフレキシブル化の傾向が強まる中で,従来の生産計画ソリューションでは困難であった,生産活動における設備運用の緻密化に対する需要が高まっている。

そこで,一つの改善策として日立はフレキシブルな省エネ生産計画ソリューションを提案する。本ソリューションは,設備運用要素を統合した時空間的生産計画を実現する一連の生産計画モデルで構成される。これには,フレキシブルなライン構成モデル,生産シミュレーションモデル,省エネを考慮した生産計画モデルが含まれる。オーダー,設備,コストの各データに基づいて,目標達成率と消費電力最小化の両方を同時に実現する適切なライン構成を生成し,対応する生産計画を出力する。実験条件下では,エネルギーコスト約2.7%削減を達成できている。

本ソリューションは鉄鋼,石油化学などのエネルギー多消費型産業をターゲットとしており,独立サービスまたはシステム機能モジュールとして機能することが期待される。

[01]省エネ生産計画ソリューションのフレームワーク[01]省エネ生産計画ソリューションのフレームワーク

2. 技師・患者両方に優しいX線治療装置のデザイン開発

[02]線形加速器システムOXRAY[02]線形加速器システムOXRAY

がんのX線治療は患部を切除せず治療を行えるため,患者の負担が比較的少ない治療法であり,治療中および治療後の患者のQoL(Quality of Life)維持・向上が期待できる。日立は高精度かつ高スループットを実現したX線治療装置「線形加速器システムOXRAY」を開発した(2023年7月19日販売開始)。

本装置のデザインは,開発初期から病院施設での現場調査に基づく,患者に対するケアや装置の使い勝手・スループット上の課題抽出を行い進められた。装置ハードウェアデザインにおいては,高精度なX線照射を可能とする独自のジンバル機能や軸回転機能を内包しながら,患者に対し圧迫感が少なく清潔感や信頼性を感じるガントリー部のデザインをめざした。また,ソフトウェアデザインは,従来個別だったシステムを統合して操作性を統一し,患者ごとに重要視すべき情報を確実かつ効率的に把握できるように画面レイアウトを設計した。

装置とソフトウェアをトータルデザインすることで,患者に対する安心感の醸成と,技師の操作ストレス軽減に寄与する両者に配慮した治療装置の提供を実現した。

3. 幅広奥行スリム冷蔵庫に向けた高効率冷却システム

横幅をワイドな88 cm,奥行を65.4 cmとスリムにして使い勝手を向上した冷蔵庫に向けた高効率冷却システムを,三次元シミュレーションと一次元シミュレーションを活用して開発した。

冷蔵室に専用蒸発器を設けて,幅広で温度ムラができやすい大容量冷蔵室内に専用蒸発器からの高湿大風量冷気を行き渡らせることで効率的に冷却する。これにより,蒸発器を冷蔵室の冷却に適した温度にコントロールして省エネルギー性能向上効果が得られるとともに,食品を設置する棚スペース全体がチルド温度の約2℃で,湿度が約80%※)となる均温で高湿な保存環境が得られる。同保存環境は,作り置き食品を冷蔵室棚のどこに置いても鮮度が長持ちする「まるごとチルド」として,2023年3月に日立グローバルライフソリューションズ株式会社より発売された冷蔵庫(まんなか冷凍 GXCCタイプ:R-GXCC67T)に採用された。

※)
約400 gの葉物野菜を24時間保存したときの棚スペースの平均湿度。

[03]対象冷蔵庫の構成と開発に用いたシミュレーション[03]対象冷蔵庫の構成と開発に用いたシミュレーション

4. 医用分析装置の高信頼化に向けたソフトウェア検証自動化技術の開発

株式会社日立ハイテクの医用分析装置を対象に,少ない工数で非機能要件の検証を実現する検証自動化技術を開発した。

本技術は,装置の操作方法を記述したシナリオに沿って装置を自動操作しながら,応答時間や状態遷移などを監視し,非機能要件に関する不良を検出する。また,操作ログを解析してベースのシナリオを作成し,操作のタイミングやパラメータ値を変えたシナリオを大量に生成する。このシナリオを用いて自動的に検証を実行することで,少ない工数で大量の検証を実施でき,特定のタイミングや操作でしか発生しないレアケースの不良を検出することができる。本技術の適用により,応答遅延などの不良を防止でき,医用分析装置の高品質化に貢献できる。

今後は,この技術を継続的インテグレーション・デプロイ(CI/CD:Continuous Integration/Continuous Deployment)システムと連携させ,不良の検出を早期化させることでさらなる工数削減を実現する。

[04]医用分析装置の高信頼化に向けたソフトウェア検証自動化技術[04]医用分析装置の高信頼化に向けたソフトウェア検証自動化技術

5. 先端半導体の安定生産を支えるインライン電気特性計測

半導体デバイスは情報社会を支える基盤部材であり,AI(Artificial Intelligence)の高度化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に伴いその安定供給の重要性が改めて認識されている。半導体の安定生産には検査計測技術が必須であり,走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)がウェーハ表面に形成された微細パターンの寸法計測に活用されている。しかし,近年のデバイス構造の三次元化や材料の多様化に伴って,従来の寸法計測では検知できないウェーハ内部回路や材質における欠陥が増加しており,これらの検査計測技術への期待が高まっている。

このニーズに対応するため,試料にレーザーを照射し,電子線と光の照射に対する応答から回路やパターンの電気および材料特性を検査計測するLaser-assisted SEM(LA-SEM)を開発している。本技術により,材料コントラストや下層構造の視認性の向上,さらには下層の電気特性を反映したコントラストの取得を実現した。

今後は,試料構造を考慮した物理モデルに基づきこれらのコントラストを解析し,電気特性を定量化する。LA-SEMをインライン電気特性計測へ適用し,先端半導体の安定生産に貢献する。

[05]Laser-assisted SEMの構成とSEM画像のコントラスト向上例[05]Laser-assisted SEMの構成とSEM画像のコントラスト向上例

6. 現場でのシステム構築を容易化したスケーラブルな遠隔設備監視ソリューション

近年,現場の生産性向上や保守効率化のため,現場設備から収集したデータによる遠隔保守・制御最適化可能な産業システムが注目されている。しかし,拠点内での設備監視のための専用機器の導入や,複数拠点での一括監視に向けた社外サービスとの連携に伴うシステム設計・構築工数が課題であった。

そこで,事前設定した産業用ゲートウェイ端末を現場導入するだけで,システム構成や規模に合わせた遠隔設備監視を実現する技術を開発した。拠点ごとの設備監視では,ゲートウェイ端末単体の機能により,現場システム構成に応じたデータ収集・統計処理・可視化・アラート送信を行う。複数拠点一括監視では,ゲートウェイ端末とサーバが連携し,VPN(Virtual Private Network)を経由するセキュアな制御通信経路を自動構築する。本経路により,サーバでの設備データ集約・参照・現場設備の遠隔制御を可能にする。これらの特長により,システム規模に依らず容易な遠隔設備監視を実現する。

(サービス開始予定時期:2024年度中)

[06]現場でのシステム構築を容易化したスケーラブルな遠隔設備監視ソリューション[06]現場でのシステム構築を容易化したスケーラブルな遠隔設備監視ソリューション

7. 重粒子線治療の個別化を通じた患者QoL向上に貢献するAI・デジタル技術

[07]重粒子線治療の個別化にむけたAI・デジタル技術[07]重粒子線治療の個別化にむけたAI・デジタル技術

重粒子線治療の適応判断から照射までの包括的なプロセスにおける患者個別化の実現をめざし,治療効果を予測するAI 技術および患者体内の日々の変化に即時対応するオンラインアダプティブ治療システムを,豊富な臨床経験を持つ群馬大学との共同研究を通じて開発している。

治療効果予測AI技術の開発では,早期非小細胞肺がんを対象とし,腫瘍近傍の3断面画像に基づき重粒子線治療後の再発有無を予測するモデルを構築した。本技術は,治療前の患者情報を入力とするため治療前の効果予測が可能であり,医師・患者に対して治療方法選択の支援を実現する。

オンラインアダプティブ治療システムの開発では,患者の体内の日々の変化に即時対応する治療ワークフローを重粒子線治療向けに構築した。治療時間の短縮を実現するシステム構成を陽子線治療システムと共通化する一方で,線量指標に基づく治療計画採否の判断支援技術を群馬大学の臨床経験に基づいて開発し,効率的なワークフローの構築を可能とした。

8. 高高度過酷環境に対応した高信頼絶縁技術

2050年のカーボンニュートラルの実現に向け,運輸部門では電動化・水素化の取り組みが加速しているが,航空機分野では,電動化コンポーネントの高高度環境下の絶縁信頼性向上が課題となっている。そこで,高度1万2,000 m環境下に対応した絶縁技術を構築した。

パワーモジュール内部の電気絶縁材として広く用いられるシリコーンゲル材は,弾性率が低く熱応力耐性に優れる。一方,高高度条件下では,気圧差応力で形状が変形し,絶縁層界面などに残存するマイクロボイドが拡大し,絶縁特性が劣化する。そこで,ボイドの拡大と界面剥離を抑制するため,弾性率と接着力に着目した材料選定指針を見いだした。シリコーンゲルに対して弾性率の高いシリコーンコーティング材を適用し,サンプル評価で航空環境試験DO-160Gの気圧サイクル試験をクリアした。

今後は本技術を用いて,電動化コンポーネントや産業用変換器の耐環境性・絶縁信頼性を向上し,製品長寿命化によるライフサイクルコスト低減に貢献する。

[08]高高度過酷環境向け絶縁信頼性[08]高高度過酷環境向け絶縁信頼性

9. コンポーザブル生産管理最適化サービスの開発

製造業では,消費者嗜好の多様化や世界的な部素材不足を背景とした変種変量生産のニーズや,カーボンニュートラルへの対応を背景とした工場での消費電力の削減ニーズが高まっている。これらのニーズから,変種変量生産に向けては生産性と柔軟性を両立する生産ラインの設計や,需要変動に追随するための生産計画の高速立案,カーボンニュートラルに向けては消費電力を削減する生産計画の立案が課題となる。これに対し,日立は複数の最適化サービスをフレキシブルに組み合わせることで,顧客のニーズに応じて機能を提供するコンポーザブル生産管理最適化サービスを開発している。

本サービスでは,フローショップなどのライン構成に応じた計画ロジックを備えることで生産計画を高速立案するシミュレーションベース生産計画最適技術をコアとして,作業者や設備の割り当てを決定するライン編成最適化技術,設備の消費エネルギーの原単位を推定する電力消費モデル推定技術と連携することで,変種変量生産やカーボンニュートラルをめざす顧客の課題を解決する。

[09]コンポーザブル生産管理最適化サービスの概要[09]コンポーザブル生産管理最適化サービスの概要

10. 建設フィールド向けロボティクスオートメーション

建設現場では,高所作業中の転落事故防止や省人化のために施工ロボットの導入検討が進んでいる。しかし,高所で足場が不安定な設置状況下でアンカーボルト※)打ち込みなどの重作業をロボット化する場合にはリトライが発生しがちであり,作業効率の向上が重要となる。

日立は,不安定な設置状況下でも作業の成功率が高く,またエラー発生時においても工程組み替えを自動かつリアルタイムで行う,双腕型施工ロボットシステムを開発した。

本システムでは機械学習を用いたロボット制御技術を搭載しており,足場が不安定で,コンクリート壁面の穴の位置を正確に測定できない状況でも,アンカーボルトの打ち込みが可能である。また,ロボットの片方の腕で作業エラーが発生した場合でも,両腕の工程を自動で組み替えることによりリトライによる時間増加を抑制し,作業効率低下を最低限にする。

今後,本施工ロボット制御技術の効果を実際のフィールドで検証し,安全・高効率な作業現場の実現に貢献する。

※)
部品や配管の支持具,構造部材,設備機器などをコンクリートに固定するために,コンクリートに埋め込んで使用されるボルト。

[10]開発した双腕ロボットシステムの外観とエラー発生時のリアルタイム工程組み替え技術[10]開発した双腕ロボットシステムの外観とエラー発生時のリアルタイム工程組み替え技術

11. モデル予測制御を活用したシステム制御技術の物品搬送への適用

デジタル化の進展により,複数システムが連携可能になり,各システムの運用方法を状況に応じて自動調整する技術が求められている。そこで,所望の運用方法を記述する評価関数を自動構築し,この評価関数を用いたリアルタイムで実行可能なモデル予測制御を開発した。モデル予測制御では,数理最適化で制御動作を自動生成するため,個別の動作設計を必要としない。本技術は,複数システムの全体制御から個別システムの動作制御まで,多様な制御に適用できる。

開発技術の適用例として,トラック到着遅延などの状況変化に応じて,運用計画を変更する物流センターの物品搬送制御システムを構築し,シミュレータで有効性を検証した。複数のKPIを考慮した評価関数による管制制御により状況変化に対応する運用計画を自動生成できる。さらに,個別の搬送車両の車体制御では,車両周辺の障害物を自動回避しながら,管制制御の指令に従う動作を実現できた。これにより,少ない設計工数で安全かつ効率的な運用を実現できる見込みである。

今後は,物流センターへの実適用を進めるとともに,地域交通システムなど別システムへの展開を検討する予定である。

[11]状況変化に柔軟に対応可能な制御アーキテクチャ[11]状況変化に柔軟に対応可能な制御アーキテクチャ

12. 高分子材料の現場劣化診断・寿命推定技術

国がめざしている2030年度の国内電源構成における原子力発電の割合は20%〜22%である。この数値を達成するには,既設発電所の再稼働に加え,安全性を維持しながら設備利用率を向上することが重要である。定期検査の期間短縮に向けて機器の性能や安全性を維持しながら点検・交換物量を低減することは,設備利用率を向上する有効的な手段の一つである。そこで,定期検査時に数多く交換される高分子材料の消耗品を現場で非破壊的に測定し,劣化状態や寿命を評価可能な劣化診断技術を開発した。

本技術では,高分子材料の劣化要因となる熱,応力の他に,原子力発電所特有の課題である放射線劣化との複合要因による劣化機構を推定するとともに,現場測定で想定される外乱を除去する手順を確立させることで,短時間かつ定量的な現場評価を可能とする見通しを得た。

今後,日立が保有する材料の知見を活用しつつ,高分子材料の劣化状態のデータを測定,蓄積,評価し,発電所の安全性向上のための点検・保守と設備利用率の向上に貢献する。

(日立GEニュークリア・エナジー株式会社)

[12]原子力発電所で使用される高分子材料の現場劣化評価[12]原子力発電所で使用される高分子材料の現場劣化評価

13. 3DCADデータを用いた製品環境負荷の予測技術

[13]3DCADを用いたCO2排出量予測[13]3DCADを用いたCO<sub>2</sub>排出量予測

低環境負荷製品の実現のため,製品の環境指標を評価するLCA(Life Cycle Assessment)を基に製品設計を改善することが求められている。このLCAは,通常,環境評価の専門家が製品設計後に実施するため,設計と同時進行で行うことができず,手戻りの原因となる。そこで,3DCAD(Three Dimentional Computer Aided Design)上で形状のモデリングを行いながら,同時に自動でLCAを行う製品設計技術を開発した。

3DCADからの自動LCAは,膨大な量の設計要件と環境要件を結びつけたデータベースから評価に必要なデータを自動取得し,このデータを活用したCAD形状の認識によって環境指標を予測することで実現した。特に,形状認識について,これまで点群やメッシュなどの変換後データを介した間接的な学習で行っていたものに対して,CAD形状を直接学習可能な独自のグラフ深層学習手法を適用することで,LCAに必要な形状認識精度を実現した。

本技術を用いることで,製品設計とLCAを同時に進行させることができ,少ない労力とコストで環境負荷の低い製品を開発することが可能となる。

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