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技術革新

研究開発

1.産業プラント向け高効率運転支援技術

1.データ分類技術ARTを用いた異常診断システム

発電・産業プラントでは,燃料や原料のロット変更,設備の経年劣化などの変化に応じた運転条件の最適化による,運転効率の最大化が求められている。日立は,日々変動する運転状態の中で,装置の異常や不適切な稼動状態を早期に発見し,最適な状態へと導く産業プラント向け高効率運転支援技術を開発し,ペトロナス工科大学と共同で有効性を検証した。

初期状態を基準とする従来の異常診断技術では,正常な範囲内での変動も「異常」と判断されるため,適正な状態が日々変化するプラントへの適用は困難であった。一方,今回開発した技術は,逐次学習型のデータ分類技術ART(Adaptive Resonance Theory:適応共鳴理論)を用いており,多様な運転状態をそれぞれ「正常」と学習させることができるため,異常を精度よく検知できる。今回,原油精製プラントの主要装置である蒸留塔のパイロットプラントを用いて本システムの検証を行い,原料組成が変動する中でも,流量調節弁の不具合やセンサードリフトなどの異常が検出できることを実証した。

今後は本技術を通して,顧客プラントにおけるロスコスト削減を実証していく。

2.信頼性と経済性を向上する発電プラント保全技術

2.音響レンズを用いた配管溶接部の超音波検査技術

原子力・火力発電プラントの信頼性と経済性の向上に貢献する二つの保全技術を開発した。

一つは,プラント配管・機器の健全性維持のため,高感度に欠陥を検出できる超音波検査技術である。配管溶接部の長軸方向に発生する割れに対しては,溶接部の両側に一対の超音波センサーを対称に配置する方法が有効である。超音波ビームは配管長軸斜め方向へ送受信するが,配管材内部でのビームの伝播経路は,三次元超音波シミュレーションを用いて予測する。配管曲率によって生じるビームの広がりを音響レンズで制御し,高強度のビームを照射することで,深さ1 mmの微小な割れを検出できる。

もう一つは,ガンマ線照射によって製造した白金ナノコロイド溶液を用いた防食技術である。平均粒径2nmの白金粒子を原子炉冷却水に注入して材料表面に付着させ,材料表面の腐食電位を低くすることで,材料の腐食劣化が抑制され,配管・機器寿命を延長できる。

これらの保全技術により,発電プラントを構成する機器や構造物の劣化に伴う計画外停止の防止,および設備利用率の向上に貢献する。

3.現場作業員の逸脱動作を検知する映像解析技術

3.逸脱動作検知の実行画面

製造現場における品質確保への要求が一層高まる中,人(Man),設備(Machine),材料(Material),方法(Method)の4M管理による現場改善が重要となっている。今回,人の管理の強化策として,正常な作業からの逸脱動作を検知する技術を開発した。

従来の技術では,三次元カメラで計測した作業者の手・肘・肩などの関節位置情報を入力として用いる際,作業結果に影響を与えない情報も含まれているため,逸脱動作との区別が困難であった。そこで,体の大きさに起因する個人差を正規化し,現場観察に基づく関節選択によって作業に関係する情報のみを抽出したうえ,事前に作成した正常な動作のモデルと現在の動作とを統計的に比較することにより,逸脱動作検知を実現した。

株式会社ダイセルと共同で本技術の有効性を確認するとともに,これを活用した製造管理システムを同社の播磨工場をはじめ海外6工場へ展開する。さらに,日立のIoT(Internet of Things)プラットフォームLumadaのソリューションコアとして国内外の製造業へ提供をめざしていく。

4.三次元映像解析による人の行動計測と属性推定技術

近年,多様化する個人のニーズに対して,オフィスや商業施設の人の流れや行動を計測することで,利用者の体験価値を高めるサービスが注目を集めている。

今回,ステレオカメラによる三次元映像解析を用い,人の行動を計測することで,介助が必要な高齢者や子ども連れなどの属性の推定を,リアルタイムかつ高精度に行う技術を開発した。通常の監視カメラは,人が密集した場所など,撮影環境によって計測精度が低下し,一定の性能を得るために現地でのパラメータ調整に時間を要した。一方,新開発の技術では,三次元データの解析とパラメータ調整を簡略化する機能により,混雑時における人物の追跡率を従来比で30%向上しつつ,カメラ設置から運用開始までの期間を75%短縮した。また,人物付近の形状情報から車いすなどを認識し,特定の属性を推定することで,個人に応じたサービスの提供を可能とした。

今後は本技術の実用化を推進し,より快適な都市空間の実現や社会インフラの高度化に貢献していく。

4.ステレオカメラによる属性推定とサービス提供の例

5.人・ロボット協調フレキシブル生産システム

生産のグローバル化と消費者ニーズの多様化に伴い,多品種変量生産や製品短命化への対応が求められている。そこで,ライン構成などの生産準備情報を自動生成するシステムに人とロボットセルの組み合わせを最適化する機能を追加することにより,生産量変動に対して短期間で生産能力を調整可能な人・ロボット協調フレキシブル生産システムを開発した。

本システムは,3D-CAD(Computer-aided Design)の部品間の拘束関係から組み立て順序を決定し,複雑な作業が可能な人と,繰り返し作業を正確に実行するロボットに対して適切に作業を分配することで,設備投資と人件費を抑制しつつ,生産性の高いライン構成を自動生成することができる。本システムにより,従来40日かかっていた生産準備時間を5日へと大幅に短縮できた。

今後は,社内の製造現場への適用拡大を進めるとともに,自動車業界,精密機器業界など社外顧客向けの製造ソリューションとして事業化を進める。

5.人・ロボット協調フレキシブル生産システムの概要

6.高品質な解析モデルを自動生成するCAE自動化技術

自動車衝突解析などのシミュレーションの高精度化と工数削減を目的に,実績のある高品質解析モデルを活用して新設計形状の全体解析モデルを自動生成する技術を開発した。

従来の解析モデル作成作業はノウハウを要するために属人性が高く,作業者によって品質が異なるうえ,工数も要することが課題となっていた。そこで,過去の解析モデルから類似の部分形状を検索する類似部分形状検索技術と,検索された部分形状のメッシュを新設計形状に沿って配置・結合する解析モデル結合技術を開発した。実績のある解析モデルを再利用することで,過去と同じ水準の品質でメッシュ生成が可能であり,作成工数の削減に貢献する。本技術を自動車樹脂部品で検証した結果,解析モデル作成工数を30%以上削減することに成功した。

この解析モデル生成システムを採用したHICAD/CADAS CAE(Computer-aided Engineering)Modeling Platformを,すでに国内の複数の自動車メーカーに提供している。さらに今後はクラウドサービスとしても提供する計画である。

(製品化時期:2015年12月)

6.メッシュ自動生成プロセス

7.超高速エレベーターの乗り心地を向上する振動制御技術

分速1,200 mの超高速エレベーターにおいて,乗りかごの横振動を低減するアクティブ制振システムを開発した。

従来の分速600 mクラスのアクティブ制振システムでは,加速度センサーとアクティブガイド装置をかごの下側2か所に設置していた。本開発では,わずかなレールの曲がりや段差によって水平モードに回転モードも加わった複雑な振動が生じるため,かごの上下左右4か所に加速度センサーとアクティブガイド装置を設置し,乗り心地の向上を図った。

この技術の課題は,アクティブガイド装置の増加に伴って制御パラメータが増加し,現地での調整作業が増大することである。今回,実稼働中の加速度データから発生している振動モードを特定し,重み付けを行って制御調整量を自動で導出するアルゴリズムを開発した。現地でこの調整方法を適用することにより,短時間でかごの制振性能要求を達成した。

今後,拡大するグローバル市場に向けて,この手法を順次適用する計画である。

7.アクティブ制振システムと振動モード

8.鉄道インバータ用ダイオードレス・オールSiCモジュールのための高信頼SiC MOSFET技術

8.低欠陥内蔵PNダイオード形成プロセス開発による高信頼化

インバータなどの電力変換器を小型・省エネルギー化するキーデバイスとして,炭化ケイ素(SiC)を用いたパワーデバイスが注目を集めている。SiCは優れた材料物性を有することから,高耐圧・低損失のパワーデバイスが実現可能である。

今回,3.3 kV鉄道インバータ用パワーモジュール向けに,デバイスの信頼性向上とコスト低減の観点から以下の技術を開発した。

  1. ゲート絶縁膜の長寿命化およびストレスの少ないゲート電極を形成する技術
  2. 電界の緩和とオン動作時の抵抗低減を両立する不純物拡散層形成技術
  3. モジュールの保護素子である外付けダイオードを削除し,内蔵PNダイオードで代替するための高品質製造プロセスとスクリーニング技術

これらの技術を適用した高信頼SiC MOSFETデバイスと,低インダクタンスの実装パッケージ技術と組み合わせることで,ダイオードレス・オールSiCモジュールの開発に成功した。

9.低損失・低ノイズIGBTサイドゲートHiGT

9.IGBTのデバイス構造の歴史的な変遷(上)とサイドゲートHiGTによる低損失・低ノイズ効果(下)

COP21(2015 United Nations Climate Change Conference,Conference of the Parties:第21回気候変動枠組条約締約国会議)が求めるCO2削減には,インバータなどの省電力な電力変換器の大幅な普及が必要であり,変換器のキーデバイスであるパワー半導体には,機器の小型化・高効率化および高信頼化のため,低損失でかつ低ノイズな特性改善が継続的に求められている。パワー半導体の主力であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)は,開発から約35年間にわたり,プレーナ構造,トレンチ構造とゲート構造を改善し,性能を向上してきた。

今回,約20年ぶりに新たなゲート構造のIGBTとして,サイドゲートHiGT(High-Conductivity IGBT)を開発した。サイドゲートHiGTは,ゲートをサイドウォール構造とすることで,ゲートとコレクタの対向面積を小さくし,ノイズの原因となるゲートの帰還容量(Cres)を従来のトレンチ構造と比較して14に低減した。また,スイッチング時の損失と電圧変化率(dv/dt)のトレードオフ関係を改善することで,同一のdv/dt条件でスイッチング損失を34%低減し,低損失化と低ノイズ化を両立した。

10.標的型サイバー攻撃の拡散活動検知技術

近年,情報漏洩(えい)やシステム破壊を目的とし,官公庁や企業の組織ネットワークに対する標的型サイバー攻撃が増加している。OS(Operating System)標準コマンドの正規ツールを悪用するなど,攻撃の手口はますます巧妙化しており,個々の端末を個別に監視・分析するアンチウイルスなどの従来対策による検知が困難になりつつある。

こうした巧妙な攻撃の兆候を発見するには,複数の端末の動作を関連付けた統合的な分析が必要と考えられる。そこで,攻撃者が目的達成のために近隣の端末に侵入していく拡散活動の過程で,通常時には見られない不審な動作を繰り返す端末が次々と発生する点に着目した。今回開発した技術では,機械学習を活用して不審動作を特定し,侵入の疑いがある不審端末を検出するとともに,通信履歴を基に複数の不審端末が連鎖的に発生する事象を捕捉することで,拡散活動を検知する。これにより,従来困難であった正規ツールを悪用した標的型サイバー攻撃の検知が可能となる。

今後は,社会インフラやIoTなど,幅広い分野に本技術を適用していく。

10.拡散活動検知技術による攻撃検知の概要

11.業種連携サービスを実現する高信頼ブロックチェーン技術

社会課題の複雑化に伴い,単一業種での課題解決が困難になりつつある中,業種をまたいでオープンかつセキュアな取引を実現するブロックチェーン(BC:BlockChain)が注目を浴びている。そこで,社会課題を解決する方法の一つとして,多様な電力需給ニーズをマッチングし,電力の安定化を実現するトランザクティブエナジーなどの業種連携サービスとそれを支える高信頼BC基盤を開発し,社会インフラへの適用をめざしている。

BCは利用者全員で取引内容を承認・共有して合意を得るため,処理性能とプライバシー保護が課題である。この課題の解決に向け,グローバル標準のBC基盤に高信頼化機能をアドインし,高速・高信頼のBC基盤を確立する。具体的には,合意形成を行う処理ノードを複数のグループに分けて並列処理することで,処理を高速化するとともに,ゼロ知識証明と呼ばれる暗号方式を活用したデータの匿名化により,利用者のプライバシーを保護する。

今後は,データを匿名化した状態でスループットを従来の100倍に向上させ,通常のオンライン取引に必要な性能要件を達成することでBCの社会実装を通じ,業種連携ビジネスに貢献する。

11.高信頼ブロックチェーン基盤の概要

12.油田開発ソリューション向け技術文書解析技術

石油・ガス開発の上流事業におけるオペレーターおよびサービスプロバイダは,採掘オペレーションのコスト削減に取り組んでいる。しかし,従来の方法では,限られた種類のセンサーデータを用いて構築した地層モデルに基づいてミュレーションを行うため,コストの削減が不十分であった。

これに対し,日立は多様なデータを活用するデータドリブンな油田開発向けソリューションHitachi LiveInsight for Oil Field Operations(HiLIOO)を開発した。HiLIOOにおいては,地質報告書が画像文書の形式で保管されているため,画像からのデータ抽出を可能とする技術文書解析技術がキーとなる。

本技術は,政府が公開する大量の地質報告書に対して,規則や深層学習によってレイアウトを解析した後に,OCR(Optical Character Recognition)技術や言語処理技術を用いて,色や油染みの有無などの岩石に関する特徴量を抽出する。抽出した特徴を活用し,既存油井の生産量の予測精度が3割程度向上することが既に確認されており,油井探索効率の大幅な向上が期待できる。

この技術文書解析技術により,油井の生産量予測にこれまで活用していなかったデータを加えることが可能になった。本技術をHiLIOOの中核技術とし,石油・ガス開発上流事業の顧客に対して,データを活用したコスト削減ソリューションを展開している。今後は,この技術文書解析技術をIoTプラットフォームLumada上で利用可能とすることで,火力発電や建設機械などの分野における保守事業にも展開していく。

12.技術文書解析技術の概要

13.多種センサー混在環境向けIoTデータモデリング技術

近年,製造業や電力事業などにおいて,IoTで生まれるビッグデータを活用した業務課題解決の取り組みが拡大している。温度,湿度,圧力など多種多様なセンサーを設置し,製造品質データや発電設備の稼働データをきめ細かく取得することで,仕損費削減や生産性向上を実現する企業が増えつつある。

しかし,多種多様なセンサーを対象としたビッグデータ分析は必ずしも容易ではない。センサーの種別やデータ量の増大により,分析目的に見合ったデータ種別の抽出や,欠損部分の補間,重複データの削除などに膨大な時間がかかるためである。

日立は,特徴抽出型人工知能により,数千種別のビッグデータから分析目的と相関の高い数十種別のデータのみを抽出するIoTデータモデリング技術を開発した。本技術では,データの抽出時間だけでなく,その後のデータ分析時間も数百〜数千分の一に削減することができる。また,分析に不要なデータを排除することにより,分析精度の向上も期待できる。これにより,例えば,製造業では早期の品質改善および仕損費削減に,電力事業では送電線や電力設備の予防保守による設備安定稼働に貢献する。

13.多種センサー混在環境向けIoTデータモデリング技術(製造業・電力事業向け)

14.アクセラレータを活用した大量データ高速分析技術

14.分析システムの構成

IoTによって次々と生み出される大量のデータの活用がさまざまな企業で始まる中,膨大なデータの中から価値を抽出する分析システムには,ビジネスのスピードに対応した迅速性が求められている。

データ分析システムは,データを格納するストレージ装置と,データ分析を実行するサーバー装置で構成される。このうちストレージ装置においては,フラッシュストレージの普及により,データの読み出し性能が従来に比べて100倍に高速化されている。そこで,日立は分析処理の並列実行が可能なハードウェアアクセラレータをサーバー装置に設置し,フラッシュストレージに格納するデータの管理サイズをアクセラレータに合わせて最適化することで,データ分析システム全体の処理性能を最大100倍に高速化した。

今後は,日立の超高速データベースエンジンHitachi Advanced Data Binderプラットフォーム※)やオープンソースデータベースを使ったデータ分析システムに本技術を導入し,分析処理の一層の高速化をめざすとともに,ビジネスの現場において検証を行っていく計画である。

※)
内閣府の最先端研究開発支援プログラム「超巨大データベース時代に向けた最高速データベースエンジンの開発と当該エンジンを核とする戦略的社会サービスの実証・評価」(中心研究者:喜連川 優 東京大学生産技術研究所教授/国立情報学研究所所長)の成果を利用。

15.オールフラッシュアレイVSP Fシリーズ向けデータ量削減技術

15.Hitachi Virtual Storage Platform Fシリーズのデータ量削減機能と容量管理

大量の情報を高速で分析可能なシステムを実現するため,データアクセス性能に優れるフラッシュメモリのみでストレージ装置を構成するオールフラッシュアレイが注目されている。フラッシュメモリのビットコストは年々低下してきているものの,HDD(Hard Disk Drive)に比べて依然として高い。

日立は,Hitachi Virtual Storage Platform Fシリーズに搭載される複数の自製フラッシュモジュールHitachi Accelerated Flash DC2内部の専用ハードウェアでデータ圧縮を分散実行し,アクセス性能とデータ量削減を両立する高速データ圧縮機能を開発した。また,さらなるデータ量削減に向け,複数ドライブ内に存在する同一データをストレージコントローラで検出し,一つにまとめるデータ重複排除機能も提供していく。これらの機能により,従来比1/5以下の容量でデータを保管することが可能となるほか,スペースや消費電力などトータルコストの削減にも貢献する。

今後も増大するデータの利活用を支える技術開発を進めていく。

16.信号品質が劣化したデータセンター内通信での高速データ送受信技術

16.10 mケーブルでの25 Gbps信号伝送

大量のデータを解析してユーザー価値を高めるIoTの実現には,サーバーやストレージなど,データセンターにおける情報機器の高速化が必須である。しかし機器の高速化に伴い,銅線ケーブルでは損失が増加し,長距離の通信が困難となる。例えば情報機器同士を接続するには10 mの通信距離が必要であるが,10 mの銅線ケーブルで25 Gbpsの信号を伝送すると,信号振幅が送信時の1/300にまで小さくなる。

そこで,微小信号を増幅する高感度データ再生技術と,製造時のばらつきや環境変動による信号劣化を抑制する動的信号補正技術を適用し,最小受信感度を従来製品から10 dB改善した有線用送受信IC(Integrated Circuit)を開発した。この送受信ICを用いて,10 mの銅線ケーブルで25 Gbpsの信号伝送を行った結果,データに誤りがないことを確認した。本技術により,高価な光ケーブルを使用することなく,安価な銅線ケーブルによって情報機器間の25 Gbps通信を実現することができ,データセンターのコストダウンが可能となる。

17.アルツハイマー型認知症に特有の指タッピング運動パターン抽出

高齢化社会の進行により,アルツハイマー型認知症の患者は年々増加している。同疾患は早期発見すれば投薬で進行を遅らせることができるため,簡易なスクリーニング検査が求められている。現状では血液検査や嗅覚テストなどの簡易検査が知られているが,採血時の痛みや検査時間が課題となっていた。

日立は,国立研究開発法人国立長寿医療研究センターとの共同研究により,短時間で実施可能でかつ非侵襲的な検査として,親指と人差し指を繰り返し開閉する指タップ運動の計測を提案してきた。同センターは,日立が開発した磁気センサー型指タッピング装置を用いて,アルツハイマー型認知症などの患者を対象に両手の指タップ運動を計測し,専用の解析ソフトウェアを用いて同疾患に特有の運動パターン(2指の接触時間のばらつきなど)を抽出した。その結果,これらの運動パターンは,医師が評価した認知機能の障害を表す指標と相関が高いことが判明した(相関係数−0.71)。

今後はさらにデータを蓄積し,より信頼性の高い検査法をめざす。

17.アルツハイマー型認知症患者と高齢健常者の指タップ運動

18.産業向け低圧インバータのモータドライブ技術

18.インバータの外観とトルク特性

近年,産業向け低圧インバータの用途は多様化しつつあり,昇降装置や巻き取り機などへの適用が広がっている。これらの用途では,秒オーダの低速域で安定した高トルク駆動が必要とされる。

そこで,モータドライブ制御系の電圧指令からトルク増大に寄与する周波数成分を演算し,これを指令周波数にフィードバック制御することで,低速域でのモータのすべり変動を抑制する新制御方式を開発した。これにより,インバータの最低出力周波数0.3 Hzにおいて,従来に比べて少ない調整工数で安定した最大トルク駆動(200%トルク)を実現した。本技術を採用したインバータSJシリーズ・タイプP1を昇降装置に用いた場合,荷物昇降時の位置決めを正確かつ迅速に行えるようになる。

今後,このようなモータドライブ技術とIoT技術を融合し,産業向けドライブシステムに対して新たな機能を創生していく。

(株式会社日立産機システム)(販売開始時期:2016年7月)

19.空調機用高効率熱交換器システム

19.ビル用空調機の室外機

空調機においては,省エネルギーの指標である通年エネルギー消費効率(APF:Annual Performance Factor)の向上が最も重要な競争軸である。そこで,ビル用空調機のAPF向上のために室外機の高効率熱交換器システムを開発した。

製品システム全体の性能を予測するマルチフィデリティ全体統合解析を活用し,室外機の側面から流入する空気の風速分布の不均一性を改善することで,伝熱性能を向上させたΣ(シグマ)形状熱交換器を開発した。さらに,この熱交換器の効果を最大限に引き出す2ファン構造と,多段拡大部を有する高効率ロングベルマウスを開発し,送風動力を50%低減した。

これらの技術は,日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社が2016年4月に製品化したビル用空調機に適用され,業界トップクラスのAPF(代表機種280型にて6.3)を実現した。

20.医薬プラント向け微生物迅速検査装置

20.微生物迅速検査装置Lumione BL-1000の計測機と消耗品

医薬品の製造工程に使用する製薬用水の微生物検査を最速1時間に短縮する微生物迅速検査装置Lumione BL-1000(株式会社日立ハイテクソリューションズ)を製品化した。

製薬用水では,管理の一環として薬局方で定められた微生物検査を実施するが,その検査方法は1週間以上の検査時間を要する培養法が主流であり,医薬品の製造効率の低下要因となっていた。これを解決する迅速な検査法として,微生物に含まれるアデノシン三リン酸(ATP:Adenosine Triphosphate)を計測するATP生物発光法が提案されているが,検査時間を短縮可能な一方で培養法と同等の感度は得られず,時間短縮と感度向上を両立する手段が求められていた。

そこで,ATP生物発光法の感度において問題となっていた検出系ノイズを低減する装置を開発し,さらに,微生物やATPの汚染を避けることで高精度な検出を可能とするサンプル濾(ろ)過フィルタおよび専用試薬の製造法を確立した。これにより,検査時間短縮と感度向上の双方を達成することができた。

今後は,医薬品の製品現場から品質管理まで幅広い工程における製造リードタイムの短縮,製造工程内在庫の削減のほか,微生物汚染発生時の汚染源特定,対策期間の短縮に適用していく。

21.電子顕微鏡用電子源の高性能化技術

21.光励起方式電子銃

走査電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)は新材料や先端デバイスの微細構造観察などに広く用いられており,さらなる高分解能化が要求されている。このためには,エネルギーばらつき(僞)が小さい電子線を,高輝度で安定して放出する電子源が必須である。

日立は世界に先駆け,僞が0.3 Vと小さい冷陰極電界放出電子源を使った電子銃を開発し,高分解能SEMに搭載してきた。今回,電子銃に水素排気ポンプを追加することで,ガス吸着を低減し,より高輝度で長時間の安定化を実現した。SEM観察では,従来に比べ2倍以上のプローブ電流が得られ,明るくS/N(Signal-noise Ratio:信号雑音比)に優れた画像取得を可能としている。また,新たな僞低減技術として,半導体薄膜に光を照射し電子線を放出する,光励起方式電子源の研究に取り組んだ。半導体薄膜表面を制御する準備室と励起光の集光レンズを電子銃に組み込むことで,高輝度化と0.1〜0.2 Vの僞を実現した。

今後も,さらなる電子源の高性能化に取り組んでいく。

22.アイドリングストップ車用次世代バッテリーTuflong G3

22.アイドリングストップ車用鉛蓄電池に適用した新型セパレータの構造

アイドリングストップ車向けに,耐久性を高めた鉛蓄電池を開発した。

燃費向上とCO2削減が期待されるアイドリングストップ車に搭載される鉛蓄電池には,より多くの回生電流を受け入れるための高い充電受入性と,充放電の繰り返しに対する高耐久性が要求されている。従来のセパレータと親水処理を施した不織布を組み合わせた新型セパレータを鉛蓄電池に適用することで,成層化※)の抑制を実現した。これにより,電池反応の偏在が緩和され,開発した鉛蓄電池の耐久性は従来品の1.5倍に増大した。さらに,多孔性の膜体である不織布では硫酸の拡散性が維持されるため,鉛蓄電池の内部抵抗の上昇が抑制され,従来品と同等の充電受入性を保持した。

本製品は軽自動車向けに,2016年6月に先行して市場投入された。さらに今後,普通乗用車向けにも発売を予定している。

※)
電解液である硫酸の沈降に起因する電解液の濃度差。

23.安全・快適な運転支援と自動運転を実現する走行制御技術

クルマのさらなる安全性・快適性を実現する走行制御技術として,G-Vectoring制御および歩行者行動予測制御を開発した。

G-Vectoring制御は,熟練運転者の運転行動から抽出された,操舵に連係した加減速アルゴリズムであり,カーブ走行時のライントレース性を高めるとともに,発生する加速度を滑らかに変化させることで,乗り心地向上を実現する。また,量産化されている高応答エンジンを用いた制御では,これらの効果に加え,直進性向上による運転負荷軽減効果も報告されている。

歩行者行動予測制御は,走行路周辺の障害物情報から作成されるリスクポテンシャルを用いて歩行者の行動を予測したうえで走行を制御するものであり,歩行者に対して過度な減速をすることなく,状況に適した速度制御を実現する。

これらはいずれも人を中心としたクルマの走行制御を実現するうえで重要な技術であり,日立が提供するモビリティシステムの基盤技術として,運転支援から自動運転まで幅広く展開していく。

23.カーブ走行時におけるG-Vectoring制御の効果とポテンシャル法による歩行者行動予測

24.IoT向け超薄型レンズレスカメラ技術

24.レンズレスカメラデバイスの構成

小型・薄型化,高機能化が続く撮像カメラはIoT時代のキーデバイスである。今回,究極の薄型化と従来のカメラにはない新機能の両立をめざし,レンズレスカメラを開発した。

まず,画像センサーの直前にフレネルゾーン開口(FZA:Fresnel Zone Aperture)と呼ばれる同心円環状の格子パターンのフィルムを配置する。次に被写体を構成する各点からの光に照らされたFZAの影を画像センサーで検出し,さらに仮想的なFZAを画像処理によって掛け合わせると,点の位置に応じた方向とピッチの等間隔な直線状のモアレ縞画像を得ることができる。これを高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理すると,点像の合成として被写体像が再生できる。

原理確認実験では,液晶ディスプレイに表示したカラースライド画像を,2048×2048画素のセンサーで4 mm離れたフィルム越しに撮影し,30 fps程度のフレームレートでリアルタイムに再生することができた。掛け合わせる仮想FZAの大きさや位置を変えることで,撮影後であっても任意のフレームでピントや視点を変えることができ,リアルタイム複数ピント再生も可能である。

今後は,自動車やロボットなどの周囲センシングへの活用をめざす。

25.無線の死角を低減する回転偏波無線技術

社会インフラシステムにおいては高効率かつ安全な保守・運用が求められており,モノのインターネット,すなわち多数のセンサー類をネットワークで結んで機器の状態を監視・制御するIoTが注目されている。日立は,IoT向けネットワークの導入と保守コストの低減に貢献する,高信頼で高セキュアな情報伝送が可能な回転偏波無線通信技術を開発した。

回転偏波は,伝搬周波数とは異なる周波数で無線偏波が回転する新しい電磁波利用方式である。回転偏波を用いる無線機は,通信環境に応じた反射到達波と直接到達波から最適な偏波(最適伝搬経路)を選択して通信する。今回,伝搬周波数400 MHzおよび900 MHzの実験機を試作し,日立インド社R&Dセンターとインド工科大学との共同研究においてフィールド実験を行い,ビット誤り率10-5において,従来の機器間相互通信(M2M:Machine to Machine)技術に比べ10 dBの感度向上を確認した。

今後は,プロトタイプ機を用いて顧客のフィールドにおける実証を進め,本無線方式を活用したインフラ機器監視・制御ソリューションを提供していく。

25.回転偏波による高信頼・高セキュア通信

26.高温超電導MgB2線材

26.10芯MgB2線材の断面写真(上),長尺均一な300 m線材で作製したMgB2コイル(下)

超電導線材は電気抵抗が極小であるため,銅線の電流密度の100倍程度に相当する数百A/mm2での通電が可能である。この特性を生かすことで,超電導線材を用いた電磁石は強力な磁場を発生することができ,MRI(Magnetic Resonance Imaging)などに活用されている。従来の超電導線材は液体ヘリウムなどで4 K程度に冷却する必要があったが,今回開発した二ホウ化マグネシウム(MgB2)線材は,10 K〜20 Kで数百アンペアの通電が可能である。

これらの線材は伸線加工で引き伸ばすことで作製するが,線材長さは数メートルにとどまっており,長尺均一化が課題となっていた。今回開発した長さ300 mのMgB2線材では,線材の断面構成や伸線加工条件を工夫することで,複雑な断面構造を維持しつつ全長にわたって均一に伸線することに成功している。この線材をコイル化し,温度約20 Kまで冷却して評価した結果,300 Aを通電し,一般的なMRIと同じ磁場強度である約1.5 Tを発生することができた。

今後は広く応用機器の開発を進めていく。

27.製造検査装置の高信頼性を支えるモーションコントロール技術

高速・高精度が要求される製造検査装置などの製品向けに,高速演算処理と柔軟な運用が可能な分散型のRTN(Real Time Network)コントローラを開発している。

従来,製品の性能や寿命,環境にさまざまな影響を及ぼす振動・騒音の問題に対しては,ゴムなどを利用したパッシブ制振による対策が主流であった。一方,センサーとアクチュエータを用いたアクティブ制振技術は,高い振動低減効果が期待できる反面,コストが高く,設計に高度な知識と経験を要することから,大型の構造物や建築物に用いられる程度であった。

そこで,複数のセンサーとアクチュエータを適切な数,適切な場所に配置し,RTNコントローラによって制御を行う分散型汎用アクティブ制振技術を開発した。これにより,使用環境ごとに変わる対象構造物の振動を短期間で確実に低減し,高信頼化に貢献する。

今後は,社会インフラや製品の振動・騒音に関わるさまざまな問題をモーション制御技術で解決するソリューションの提供をめざす。

27.分散型汎用アクティブ制振器の制振効果

28.LSIのデータ処理能力を向上するセラミックパッケージ基板

深層学習や自動運転などの用途で利用される,大量のデータを高速に処理する必要のあるプロセッサには,PCの10倍超となる1テラバイト/秒ものメモリ間データ伝送能力が要求される。この要求を満たすため,数千本もの配線でメモリとプロセッサ間を接続してデータ伝送の並列度を上げるシリコンインターポーザ(SiIP:Silicon Interposer)技術が提案されている。しかし,シリコン基板の表裏間に信号を通すための貫通電極を形成するには特殊なプロセスが必要であり,かつ実装回数の増加によるコストが課題となっていた。そこで,パッケージ基板上に直接微細配線を形成してSiIPを省くパッケージ基板技術を日立製作所研究開発グループと日立金属株式会社が共同で開発した。

微細配線を基板上に形成するためには平坦な表面が必要となる。しかし,原料粒子を焼結して基板結晶を形成するセラミックの性質上,空孔や反りが生じることが課題であった。そこで,結晶化の際の密度低下を低減することで空孔率を下げた低温同時焼成セラミック材料(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)および高精密研磨技術を開発した。これにより配線ピッチを4 µmにまで縮小することで,SiIP技術よりも安価に1テラバイト/秒のメモリ間データ転送が実現できる見込みである。

今後,データセンター向けのHPC(High PerformanceComputing)や,車載部品への展開を図る。

28.開発パッケージの構造とLTCC基板上の微細配線

29.高電圧絶縁樹脂の高機能化を支える材料解析技術

高電圧機器の小型・高信頼化を実現するための,ナノ粒子添加による樹脂の高機能化が注目されている。現在,樹脂の高機能化をめざし,ナノ粒子分布と絶縁破壊速度を予測するため,分子集団を1粒子として取り扱う動力学解析技術の開発を進めている。

動力学解析では樹脂内の粒子間力を求める必要があり,このプロセスの高速化が課題となっている。ナノ粒子分布の予測には少なくとも,粒子間力の到達距離である数ミリメートルオーダの解析領域が必要であるが,現実的な計算時間を考慮すると,従来の粒子間力の解析においては数十ナノメートルオーダの領域を解析するのが限界であった。

そこで,天文学などの分野で活用されている高速多重極法※)を適用し,従来比105倍となる高速化を図った。従来の解析領域で求めた粒子間力を用いる計算では,樹脂内のナノ粒子の分布を予測することは困難であったが,本技術の適用により解析領域を拡大して計算を行うことで,ナノ粒子の分布が予測可能となった。親水性の修飾基を持つナノシリカは樹脂内で均一構造を持ち,疎水性の修飾基を持つナノシリカは特有の分布である網目構造をとって絶縁破壊進展を抑制する。開発技術は,ナノ粒子の微細な変化(修飾基など)により生じる粒子分布・絶縁破壊の違いを予測できることから,種々の高電圧機器の小型・高信頼化に向けた絶縁樹脂の高機能化を支える解析技術として,今後の活用が期待できる。

※)
空間を小さな立方体の集合体として,各立方体中心で粒子間力をテーラー展開する手法。

29.樹脂内のナノ粒子分布と絶縁破壊速度の予測解析結果

30.マテリアルズインフォマティクスによる高密着材料設計技術

樹脂材料は軽量化に適していることから,電子部品から電力機器にいたるまでさまざまな製品に使用されている。しかし,金属などの無機材料に対しては密着性が弱く,剥離が問題となる場合が多い。そこで,情報工学(多変量解析)によってデータを分析することで材料設計の重要因子を特定する技術,いわゆるマテリアルズインフォマティクスによって,分子動力学計算のデータを分析し,樹脂との密着強度に優れた金属材料を効率的に設計する技術を開発した。

この技術を用いて,密着強度を高めるうえで最も重要な因子について分析した結果,金属の格子定数が支配因子であり,短辺格子定数a=0.244 nm,長辺格子定数b=0.423 nmの場合に密着強度が最大となることが分かった。この知見に基づいてa,bが上述の最適値に近い金属元素を複数選定し,それらを複合化することによって格子定数を調整した。この結果,Cu(銅),Mn(マンガン),Ni(ニッケル)の複合材により,前述の最適値に最も近い格子定数(a=0.242 nm,b=0.419 nm)が得られ,Pt(白金)単体のみでできている薄膜と比較して密着強度を約40%向上できることが分かった。また,この高密着性のメカニズムとして,この複合材の場合には,ナフタレン環の中央に金属原子が覗(のぞ)き込めるような格子整合構造が,分子間結合を強め合う作用を有することを解明した。

今後は,リチウムイオン電池用電極や高強度合金などの設計にも適用していく予定である。

30.樹脂との密着強度が高い金属積層膜の設計例

31.製品システム全体の性能を予測するマルチフィデリティ全体統合解析技術

近年,産業や都市の発展に伴い,それを支えるビルの空調機などの社会インフラ製品も大規模化・複雑化が進んでいる。そうした中,信頼性の高い製品を開発するためには,製品全体の性能を高精度かつ短時間で予測する解析技術が求められている。複数のコンポーネントから成る社会インフラ製品のシステム全体の性能を予測する技術として,マルチフィデリティ全体統合解析技術を開発した。

これは従来,一次元解析や三次元解析を用いて,コンポーネント,サブシステム,全システムの各レイヤごとに実施してきた個別解析を,要求される性能予測の精度に応じて解析モデルを任意に選択・調整して組み合わせることで,システム全体を一括解析するものである。今回開発した解析技術を空調機のCOP(Coefficient OfPerformance)予測に適用し,従来約2.5日を要していた解析時間を約10分まで短縮するとともに,COP変化の予測誤差を従来の約3%から1%以内にまで改善できることを確認した。

今後は自動車機器,建設機械などの製品開発にも活用し,顧客のニーズに迅速に対応する高信頼な社会インフラ製品の実現に貢献していく。

31.マルチフィデリティ全体統合解析技術の概要

32.超音波による電子部品観察像の鮮鋭化および微細欠陥検出技術

情報化・電子化社会の進展に伴い,モバイル機器や自動車のキーデバイスとなる電子部品の高集積化が進んでいる。こうした電子部品の信頼性の確保を目的として,開発・製造の現場では超音波による部品の内部状態の高精度な検査に対するニーズが高まっている。このため,微細化・複雑化が進む回路パターンの超音波観察像に関連して,以下の技術を開発した。

  1. 撮像時の超音波ビームの広がりに起因する画像のぼやけをプローブの仕様から推定し,逆畳み込み積分することで除去する画像鮮鋭化技術
  2. 回路パターンの規則性を利用した統計処理による,製造公差と同等サイズの欠陥検出技術

本技術を株式会社日立パワーソリューションズの超音波映像装置FineSAT に搭載し,高い信頼性が要求される電子部品の観察像に対する視認性1.6倍の向上と,積層ウェーハ内部に潜むφ10 µmの欠陥の自動検出を実現した。

今後は,検査性能のさらなる高度化と解析機能の拡充を図り,電子部品を搭載した多種多様な工業製品の信頼性の作り込み,品質の安定化に貢献していく。

32.超音波画像処理技術

33.低エネルギー中性子線によるソフトエラー評価技術

33.低エネルギー中性子照射によるソフトエラー率評価の概要

半導体プロセスの微細化の進展に伴い,半導体回路は宇宙から飛来する中性子に起因するビット反転(ソフトエラー)の影響を受けやすくなり,電子機器の誤動作の懸念が高まっている。従来,電子機器の中性子耐性評価においては,地上に飛来する中性子のエネルギー分布を模擬するため,粒子加速器を用いて生成した200 MeVに及ぶ高エネルギー中性子ビームを照射していたが,コストが高く,評価設備も限られていることが課題であった。

そこで,運転が安価でかつ設置台数の多い小型粒子加速器による40 MeV程度の低エネルギー中性子ビームを用いたソフトエラー率推定技術を開発し,評価コストを1/10 に削減した。今回開発した技術では,あらかじめデータベース化した中性子エネルギー分布とソフトエラー率の中性子エネルギー依存性(ソフトエラー断面積関数)を活用した。低エネルギー中性子照射実験の結果を用いて,電子機器に固有のソフトエラー断面積関数が40 MeV以上となる高エネルギー領域を推定する。さらに,求めたソフトエラー断面積関数と,自然界の中性子エネルギーの分布をかけ合わせ,電子機器のソフトエラー率を導出した。本技術を適用した場合のソフトエラー率は,従来技術適用時と測定誤差20%内で一致した。

今後,自動車,鉄道,原子力などで扱う電子機器の中性子耐性を向上し,各事業分野への貢献をめざす。

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