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地球環境との共生をめざす次世代エネルギーソリューション

大容量太陽光発電設備向けリアルタイム出力制御システム

ハイライト

電力の安定供給を確保しつつ太陽光発電を系統に接続することを目的に,出力制御機能付きPCSの導入が改正FIT法によって義務づけられた。2015年度には「次世代双方向通信出力制御緊急実証事業」でこのPCSの開発が公募された。日立製作所はこれに採択され,大容量太陽光発電設備向けのリアルタイム出力制御を実現できるシステムを開発した。

システムは,電力会社の総合制御所との送受信を行う給電情報装置,受配電設備との入出力を行うリモートステーション,発電設備の監視制御ネットワークを統括するコントローラ群,複数台の出力制御機能付きPCSという構成になっている。稼働中の大分ソーラーパワー太陽光発電設備にこれを適用し,現地での実証試験で九州電力からの制御指令どおりに発電出力を制御できることを確認した。

目次

執筆者紹介

須々木 晃Susuki Akira

  • 日立製作所 電力ビジネスユニット 新エネルギーソリューション事業部 新エネルギーシステム本部 太陽光発電推進部 所属
  • 現在,メガソーラーの機器,ソリューション開発,拡販事業とEPC(Engineering,Procurement,Construction)取りまとめに従事
  • 日本機械学会会員

竹ノ下 均Takenoshita Hitoshi

  • 日立製作所 電力ビジネスユニット 電力生産統括本部 自然エネルギー発電システム生産本部 太陽光発電システム部 所属
  • 現在,メガソーラー発電設備のシステム設計業務に従事

大屋 徹治Ohya Tetsuharu

  • 日立製作所 電力ビジネスユニット 電力生産統括本部 自然エネルギー発電システム生産本部 太陽光発電システム部 所属
  • 現在,メガソーラー発電設備のシステム設計業務に従事

原田 裕基Harada Hiroki

  • 日立製作所 電力ビジネスユニット 電力生産統括本部 自然エネルギー発電システム生産本部 太陽光発電システム部 所属
  • 現在,メガソーラー発電設備のシステム設計業務に従事
  • IEEE会員

園部 薫Sonobe Kaoru

  • 日立製作所 インダストリアルプロダクツビジネスユニット 電機システム事業部 パワーエレクトロニクス本部 パワーエレクトロニクス設計部 所属
  • 現在,太陽光発電PCSの設計開発業務に従事

宮崎 晃一Miyazaki Kouichi

  • 日立製作所 インダストリアルプロダクツビジネスユニット 電機システム事業部 パワーエレクトロニクス本部 パワーエレクトロニクス設計部 所属
  • 現在,太陽光発電PCSの設計開発業務に従事
  • 技術士(電気電子部門)
  • 電気学会会員

伊藤 智道Ito Tomomichi

  • 日立製作所 研究開発グループ エネルギーイノベーションセンタ エネルギーマネジメント研究部 所属
  • 現在,大型電力変換器の研究開発業務に従事
  • 電気学会会員
  • IEEE会員

1. はじめに

再生可能エネルギーのうち太陽光,風力といった自然エネルギーによる発電は,国産エネルギーの有効活用,ならびに地球温暖化対策・低炭素社会の実現へ向けての有力な電源である。一方でその供給能力は日射,風力などの天候変化の影響を受け,電力需要に合わせてそれをコントロールする点では不利な一面を持っている。

日本では,2012年7月の再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT:Feed-in Tariff)開始以降,太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入が急速に進んだ。その結果,それまでに設備認定を受けた太陽光発電設備を電力会社の系統に接続すると,冷暖房の使用が少ない春や秋の晴天時などに,昼間の消費電力を太陽光・風力などの自然エネルギーによる発電電力が上回り,電力の需要と供給のバランスが崩れ,最悪の場合には安定した電力供給ができなくなるおそれが出てきた1)。これを回避するため,一部電力会社では接続申し込みの回答を保留する事態となったが,再生可能エネルギーの導入を妨げないようにするため,30日を超える無制限の出力制御を再生可能エネルギーの発電事業者が受け入れ,きめ細かな出力制御システムをその発電設備に導入することを条件に,接続申し込み回答が再開されることとなった。

日立製作所は,九州電力が実施した「次世代双方向通信出力制御緊急実証事業」に応募し,大容量特別高圧連系の太陽光発電設備でリアルタイム出力制御を実現するためのシステムを開発した。ここではそのシステムを紹介する。

2. 出力制御機能付きPCSの概要

2.1 電力会社からの制御指令受信方法

太陽光発電設備において,出力制御は電力会社からの出力制御指令を基に行う。電力会社からの制御指令受信方法を図1に示す。出力制御指令の受信方法は,特別高圧の電力系統(66 kV以上)に連系する太陽光発電設備の場合,電力会社と専用線で直結している2)。出力制御指令は,発電設備の容量を100%としたときの比率が送信される(例:設備容量10 MWの発電所を5 MWに制御する場合,50%が送信される)。

図1│電力会社からの制御指令受信方法電力会社からの出力制御指令は,専用回線経由で各発電設備に送信される。

2.2 開発したシステム構成

日立製作所で開発した太陽光発電設備の出力制御システムを図2に示す。システムは,電力会社の総合制御所との送受信を行う給電情報装置3台[CDT(Cyclic Digital Data Transmission)1,CDT2,HYB(Hybrid CDT)],受配電設備との入出力を行うリモートステーション,発電設備の監視制御ネットワークを統括するコントローラ群,複数台の出力制御機能付きPCS(Power Conditioning System)で構成される。

従前の出力制御をしない太陽光発電設備の場合であっても,発電設備の出力値や系統と発電設備が連系されている/いないといった情報を総合制御所に送信するため,CDTは1機装備していた。しかし,出力制御をする場合は,総合指令所からの出力制御指令などを受信する必要があるため,CDTを2台並列して用いる。また,送受信双方向の通信を1本の専用線で行うにあたって情報を統合して扱うHYBを追加し,発電設備との双方向通信を実現する。CDTを経由して入力された電力制御指令は,リモートステーションで発電所内の監視・制御ネットワークに接続しているコンピュータ(コントローラ01〜03)で扱える信号の形式に変換する。

図2│特別高圧連系用太陽光発電設備出力制御システムの構成CDT2台,HYBのほか,リモートステーション(受配電設備との入出力を行うコンピュータ),コントローラ(監視制御ネットワークの統括を行うコンピュータで電力会社からの出力制御信号のPCSの出力リミッタ値への変換を行い,PCSへ送信する役目を担う),監視制御端末(設備の発電状況,警報情報を一括監視するモニタ,手動入力による発電設備の操作を行う端末)から構成される。

総合制御所の指令値を各出力制御機能付きPCSへ与える最大出力リミッタ値へ変換した例を図3に示す。指令値は前述のとおり設備の容量に対する比率であるため,設備内にある各PCS(定格容量500 kW)の最大出力リミッタにキロワット単位で指示できるように変換する。出力制御の速度は,100%→0%出力(0→100%出力)までの出力変化時間は5〜10分の間で1分単位で調整可能とする規定になっている3)。この速度に出力制御機能付きPCSのインバータの出力追従を同期するため,当該の変化率をコントローラで階段状(ランプ)に作り出し,これを各出力制御機能付きPCSにコントローラ02,03から配信することでPCSの最大出力リミッタの指示を与えている。

最大出力リミッタ値に基づき,出力制御機能付きPCSで太陽光パネル出力をどのように制御しているかを図4に示す。出力制御機能付きPCSは,交流出力電力を制限するリミッタを有しており,リミッタ値をパラメータとして与えることでPCS出力電力の上限を定格出力以内で変更することができる。コントローラから入力された最大出力リミッタ値は,同図の「交流電流制御」部に記憶され,これを超える出力を出さないように制御を行う。

実際に発電される電力のコントロールは同図中の「最大電力追従制御(MPPT:Maximum Power Point Tracking)」で行う。この概要を図5に示す。MPPT制御は,PV(Photovoltaic)パネル電圧(=PCSの入力直流電圧)を調整し,基本的にはPVパネルの電力が最大となるように動作する。しかし,同時に交流側で出せる出力は「交流電流制御」部で持つリミッタの制限値で決まっている。そのため,たとえある時点の日射での太陽光パネルの電力‐電圧特性(P-V特性)でこのリミッタ値より上のところに上に凸の箇所があっても,そこで電力を取り出さず,リミッタ値とP-V特性カーブの交点になる電圧の箇所で電力を取り出すように制御される。

図3│総合制御所の出力制御指令値のPCS最大出力リミッタへの変換例出力制御指令値はパーセントであるが,コントローラでPCSの実際の最大出力値に変換する。

図4│PCSの単線結線図出力リミッタ制御演算は,「交流電流制御」部と「最大電力追従制御(MPPT)」で行う。

図5│出力制御時のMPPT動作点MPPTでは最大の出力になるように電圧を探索するが,最大出力リミッタ値で探索を止めるように動作
する。

3. 工場内試験でのシステム検証

工場内試験では,開発用PCS1台が実際に監視・制御装置と連動できる構成を組み,出力が制御できるかを確認した。試験結果の一例を図6に示す。出力制御機能付きPCSの精度は定格出力の±5%以内とすることが求められており3),これを達成していることが確認できた。

図6│工場試験の結果例100%→0%を10分間で制御したときの監視端末画面結果表示例を示す。定格出力(500 kW)の±5%以内で制御ができている。

4. 現地実証試験

図7│実証試験の結果例総出力61 MWの発電設備で,要求仕様どおり指令値の±5%以内の制御を実現した。

九州現地での実証試験では,運転している発電設備において,九州電力の総合制御所からの出力制御指令を実際に受信する形で発電出力を制御できるかを確認した。現地での検証にあたっては,日立が設計・調達・製造・据え付け・調整までを一括受注した大分ソーラーパワー太陽光発電設備の協力を得ることができ,今回開発したシステムを適用した。大分ソーラーパワー太陽光発電設備の概要を表1に示す4)

試験結果の一例を図7に示す2)。九州電力からの制御指令どおりに発電出力を制御できることを確認した。これにより,出力制御機能付きPCSの技術仕様を満足するシステムの開発を実証事業の年度内に無事完了した。

表1│大分ソーラーパワー太陽光発電設備の概要4)大分ソーラーパワー太陽光発電設備の概要を示す。

5. おわりに

ここでは,九州電力が実施した「次世代双方向通信出力制御緊急実証事業」で日立が開発した太陽光発電設備のリアルタイム出力制御システムを紹介した。

このシステムを今後展開することで,系統の要求に応えつつ太陽光発電設備の連系量を増やすことが期待できる。日立製作所は,低炭素社会の実現と系統安定化を両立するソリューションの開発に引き続き取り組んでいく。

参考文献など

1)
九州電力株式会社プレスリリース,九州本土の再生可能エネルギー発電設備に対する接続申込みの回答保留について(2014.9),http://www.kyuden.co.jp/press_h140924-1.html
2)
九州電力株式会社:出力制御実証事業,http://www.kyuden.co.jp/effort_renewable-energy_project.html
3)
一般社団法人太陽光発電協会:出力制御付きパワーコンディショナ(PCS)の技術仕様について,http://www.jpea.gr.jp/topics/150525.html
4)
永山,外:国内最大規模の太陽光発電設備―「大分ソーラーパワー」の工事一括請負・運転開始―,日立評論,96,5,328〜331(2014.5)
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