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世界は今,水不足の大きなリスクにさらされている。とりわけアフリカおよびサハラ以南の地域の状況は深刻である。衛生的な食糧と飲料水の不足によるコレラの流行,少雨による作物収穫量の減少など,アフリカの干ばつとその影響について,ヨハネスブルク事務所からレポートする。

目次

執筆者紹介

Olufemi Alexander Fasemore

  • 日立ヨーロッパ社 ヨハネスブルグ事務所 所属
  • Senior Technology Specialist
  • 現在,水ビジネスに従事

序論・概要

水不足の影響により,世界は今,大きなリスクにさらされている。とりわけアフリカおよびサハラ以南の地域の状況は深刻である。最近の南部アフリカ開発共同体(Southern African Development Community:SADC)の報告書は,2017年半ばまでにレソト,マラウイ,スワジランド,ジンバブエの4か国が国家レベルの干ばつ非常事態を宣言しなければならなくなると示唆している。またアフリカ南部のモザンビークや南アフリカ共和国などの国々は,すでに地域的な干ばつ非常事態宣言を出している。2015年10月から12月までの雨量は過去35年で最低を記録し,特に12月は近年最高レベルの暑さとなった。衛生的な食糧と飲料水の不足によって,コレラの流行が引き起こされた。

同報告書によれば,2015年〜2016年は雨量が少なく,高温になるであろうと予測されていたため,各国政府は干ばつの影響を緩和するための措置として,備蓄食糧の増量,取水制限,水の使用法に関するキャンペーンなどのプログラムを実施した。しかし,干ばつの被害はこれらの施策を圧倒するものであった1)

干ばつへの対応が難しい主な理由としては,第一に貯水・送水インフラの老朽化や未整備などの要因が挙げられる。ダムなど既存の貯水インフラはいずれも1960年代から1970年代に建設されたものであり,大陸人口の急速な増加にもかかわらず,今世紀に入ってからは新たに開発されていない。これは,大半の国の中央政府が資金不足に悩んでいることが原因と考えられる。

ただし南アフリカ共和国ではクワズール・ナタール州Inkomaziのダム新設計画※1),東ケープ州のUmzimvubuダムのパイプライン開発の動きなども見られる。

古い送水管網などの老朽化したインフラも,貯水システムに溜めておけるはずだった大量の水を失う原因の一つとなった。図1に示す各国の無収水率を見ると,南アフリカ共和国では約35%,マラウイでは約40%,ボツワナでは約20%,ジンバブエでは53%超と推定されている。アフリカの他の地域でも,同様の傾向が見られる2)

図1│アフリカ大陸諸国一部*)における無収水率

図2│破損し,放置されているスーダンのダム

アフリカ大陸のインフラ整備は,総じて大幅に遅れている。十分な降水量がある時期には,飲料水へのアクセスは困難とは言え可能だが,干ばつ時に水を入手することは事実上不可能である。ソマリア,レソト,ジンバブエの農村部,マラウイ,南スーダンなどでは,水不足,水関連インフラの破損や未整備が原因で,干ばつの影響がより顕著に表れている(図2参照)。

United Nations International Decade for Action ‘WATER FOR LIFE’ 2005-2015によると,これらの国々では干ばつが発生する前の段階で,すでに飲料水へのアクセスが危機的な状況にあったとのことである3)

真水の水源への過剰な依存も,干ばつ被害に拍車を掛けている。大陸全体の雨量が減少するにつれて,河川が十分な水量を取り戻すことが困難になるからである。河川の水位が極めて低いため,飲料水処理用の引水や農業のための灌漑が困難を極め,目標の水質レベルを達成するための費用もより高額になった。例えば,マラウイのリロングウェ水道委員会の場合,同地域の河川の水位が低くなり,水中の有機物質が相対的に増加したことに伴い,これに対応するための化学薬品の購入費用がかさんでいる。

水を求める人々の需要に応えるべく,アフリカ諸国は新たな水源,および河川水の引水という手法以外にも,視野を広げていかねばならない。このためには,適切な水質目標を確保する高度な技術を採用することも検討すべきであろう。

※1)
2017年7月現在,実施時期は未定である。

干ばつに対する介入と準備

干ばつの発生に際しては,中央政府レベルから地方自治体・市町村レベルまで,アフリカ各地のさまざまな行政機関によって,複数の介入措置が実施された。

南アフリカ共和国では,同国のあらゆる行政機関や水道局によって正しい水の使い方に関する国民への教育キャンペーンが展開された。さらに,既存のインフラの維持,貯蔵された水の節約を促し,水漏れや水損失を抑制するための取り組みを行った4)

ナミビアなどでは,Integrated Water Resources Management Plan(総合的水資源管理計画)と呼ばれる既存の開発計画や,将来の開発計画に重点を置いたプログラムが発表された。このプログラムでは,既存の水源をいかに維持するか,水需要管理の課題をいかに解決するかについて重点的に取り組んでいる5)

エチオピアなどの東アフリカ諸国では,農村地域の住民が使用する必要最小限の水を確保するため,政府が複数の調整プログラムを立ち上げている。しかし,農村部の各地に給水拠点を設置し,移動式の水源を使用して人々に水を供給している同国でも,厳しい干ばつにより農業は深刻な影響を受け,政府は食糧および医療の緊急援助を国際社会に要請することとなった6)

世界で最も若い国の一つである南スーダンでは,国内の課題に追われて干ばつへの対応が進んでいない。それにもかかわらず,多くの非政府組織が水へのアクセスを支援するため,同国で活動している7)

干ばつが民衆に与える直接的影響

図3│リロングウェ郊外のKamuzu 2 ダム(2016年5月の干ばつ時に撮影)

干ばつは,世界中で周期的に発生する現象であると考えられている。現在のアフリカ大陸では,干ばつによってダムの水位が下がり,一部のダムにいたっては枯渇している状況にある。2015年10月,クワズール・ナタール州(南アフリカ共和国)のHazelmereダムの貯水率は29%という過去最低水準を記録し,2016年5月のピーク時には,リロングウェ(マラウイ)のKamuzuダムで貯水率が40%以下にまで下がった(図3参照)。ダムの貯水率が低下したことにより,複数の国において水利用者に対する送水制限が実施された。

干ばつによる影響としては他にも,少雨や日照り続きによる作物収穫量の減少が挙げられる。これによって灌漑用水が利用できなくなったり,家畜が死亡したりする。今回の干ばつは主に,エルニーニョ※2)に起因するものと考えられており,国連の推計によると,アフリカ東部および南部の飢餓と給水不足により危険にさらされている子どもの数は1,100万人にのぼるという。

トウモロコシ栽培で知られる南アフリカ共和国のフリーステイト州ほか5つの州では,干ばつが原因で十分な量のトウモロコシを栽培できない状態となり,政府が非常事態宣言を発令した。

またAfrican Business Magazine誌によれば,ボツワナのオカバンゴ・デルタの水位もまた,干ばつのピーク時に近年最低水準を記録したとされている。オカバンゴ・デルタは,アンゴラの高地で毎年降った雨が最終的に流れ込んでくる場所であるが,少雨により観光客や家庭用のボートで観光コースの水路を進むことが不可能となり,移動手段はmakorro(ダグアウトカヌー)に限られた。

また干ばつは,食品価格にも大きな影響を与える。例えば,肉や家禽類など人気のタンパク質源の価格が高騰し,低所得者には入手困難となっている。政府はこれまで国内で生産されてきた食材を補填するために,食糧や家禽類の輸入に頼っている。

suburbs(郊外)と呼ばれる最高級住宅地では,水の使用制限が実施され,庭の水まきや洗車が禁止された。水の使用量が1日の限度を超えた場合には,追加料金を支払わなければならない。また一部の市町村では,清潔な水道水で洗車していることが発覚すると,さらに厳罰が科されることもある。

干ばつが原因の越境移民も増加している。ナミビアは,国境地域の雨不足により,アンゴラからの移民が増えていると報告した。ボツワナにはジンバブエから,南アフリカ共和国へはジンバブエ,マラウイ,レソト,モザンビークなどの近隣諸国から多数の人口が流入している。これは,干ばつにより,アフリカの農村経済の中心である農業が不安定化しているためである。

さらに干ばつの発生以来,アンゴラなどでは黄熱やコレラの発生が報告されている。最低限のインフラしか整備されていない南スーダンは給水という大きな課題に直面しており,非衛生的な飲料水源によって,かつてない規模でコレラが流行している。水源の不足に対して水の需要は高いため,現地の水供給業者はあらゆる供給源から水を供給しようと躍起になり,需要と供給の法則に従い,水の販売コストは上昇している。

ソマリアおよびケニアの一部地域では,主食の購入費が増加している一方で,タンパク質源の購入費が減少している。これらの地域の人々はアフリカ大陸における危機を考慮して,バランスのとれた食生活を送ることをやめ,食物を摂取することを憂慮しているのである。また,耕作地を獲得しようとする競争が,とりわけアフリカ西部地域(ナイジェリア,カメルーン,ニジェールなど)で発生しており,作物農家と移住してきた放牧民との間で季節ごとに争いが発生していると報告されている。

図4にアフリカ諸国の干ばつ状況について示す。

※2)
自然な降雨が妨げられる極端な気象パターン。しばしば高温と熱波を伴う。

図4│アフリカ諸国の干ばつ状況

アフリカの水政策と水安全保障

ネルソン・マンデラ元大統領は,「水へのアクセスは共通の目標だ。これは,わが国,アフリカ大陸,そして世界中の社会,経済,政治の中心に位置する課題である。水へのアクセスを,世界の発展のための協力の主要分野とすべきである」と述べている。

将来世代のためにも,今こそ水,農業,エネルギーの未来を描かねばならない。南アフリカほか複数のアフリカ諸国は,将来的な水資源を確保するための政策やマスタープランを作成し,重要なステップを踏み出しつつある。また,国境を越えたインフラ整備も検討されており,アフリカ連合(African Union:AU)においては,大陸のすべての人々が容易にアクセスできるサービスの提供を目的とした,Agenda 2063が広範に議論されている。

国連によるThe Africa Water Vision for 2025などの戦略的議論では,社会の経済的発展と成長のため,アフリカ大陸における公平かつ持続可能な水の利用に取り組んでおり,脅威,課題,現在のガバナンス構造,ボトルネック解消についての議論が交わされた。またアフリカ大陸への飲料水の供給を確保するため,水インフラ整備を促進する実践的アプローチも提案された。

広範囲に広がる都市人口に対して供給する水の安全を確保するため,アフリカ大陸では水安全保障が検討されている。水源の確保を降雨という自然現象に頼るだけではなく代替的水源を見つけようという議論が進められている。具体的には,大小さまざまな規模の海水淡水化がトピックとなっており,各行政機関の意思決定者および政策立案者の議論が進んでいる。水安全保障は人類の未来にとっての関心事であり,今や単なる議論や話し合いの段階にはない。アフリカは,行動と結果を必要としているのである。

さらに,かつて多くのアフリカ市民がタブーとみなしていた処理済み廃水の産業・灌漑・家庭用水としての再利用についても,率直な議論が交わされている。この政策の普及には地域住民への教育アプローチが不可欠であるが,ナミビアのウィントフック市などいくつかの国と地域が先導的役割を果たし,過去40年間にわたって再利用を成功裏に実施してきた。この点においては,アフリカは目標とする成長と発展に向けて前進していると言えるだろう。

干ばつおよび給水に関する政治

インドのナレンドラ・モディ首相は南アフリカ共和国への訪問の際,干ばつおよび水問題に関してさまざまな議論を行った。議題の中には,水問題の解決のために南アフリカ共和国をいかに支援していくかというテーマも含まれていた。インドのIon Exchange社などは,水関連プロジェクトにおける協力に関する合意を南アフリカの建設会社Stefanutti Stocks社との間で締結した。また,イラン政府と南アフリカ共和国政府との間では,南アフリカの海水淡水化の可能性を共同調査するための二国間協定が締結された。

今回の干ばつがきっかけで,さまざまな国の政府が自国の水供給をどのように進展させ,確保するかについて協議を行っている。アフリカにおける水供給のソリューションを探るため,水にまつわる国際関係,国際政治が展開されているのだ。日本の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO:New Energy and Industrial Technology Development Organization)も先頃,南アフリカのダーバン市の水問題解決するべく,日立が主導する省エネルギーと環境に配慮した淡水化の実施について,同自治体とのMOU(Memorandum of Understanding)に署名した。

未来を管理する:金融と技術の必要性

先進的な水技術および廃水技術を有する各企業は,水・廃水のソリューションを提供すべく,アフリカ大陸の水分野で積極的に活動している。実際の例としては,ダーバン水再利用官民パートナーシップ(PPP:Public Private Partnership)フラッグシッププロジェクトが挙げられる。この協定には,ダーバンの南部下水処理場の周辺で水を大量に使用する企業が参加しており,ベオリア社では現在,一日当たり約4.5万トンの下水排水を,トイレや工業用水として使用可能な水質レベルまで処理し,周辺の石油精製所や紙・パルプ工場で再利用している。同工場の操業開始から約20年が経過した現在,ダーバン市は水の購入および給水に関する合意を得るべく,PPP協定への参加に関心を持つ新旧のステークホルダーと再交渉を行っている。

一方で,プロジェクトを現実のものにすべく,水のPPPプログラムも実施されている。アフリカ諸国政府は壊滅的な干ばつ被害状況を考慮し,新興水源を得るための新たな資金調達モデルと,複雑な状況に対応して需要を満たすことができる先進技術の導入を検討している。

一例として,南アフリカ,ポート・ノロスの淡水化が挙げられる。これは約2,500トン/日規模の小型プラントで,資金の約80%を政府が提供し,残りの約20%を実績ある施行業者が出資して建設するものである。施行業者は工場を3年間操業し,水購入契約に基づいて自治体に水を販売することになっている。ポート・エリザベスの60,000トン/日の淡水化プロジェクトにおいても,政府によりPPPが提案されているが,ここではさらに,政府からの保証が提供される予定だ。効果的な水購入契約を通して資金調達,実施,運営の中核的責任を民間へ移転し,水処理プロセスを進歩させるべく,アフリカ各国政府はこれらのプロジェクトを強力に後押ししている。

先端技術を基盤としたソリューションを提供する国際企業が,アフリカ諸国において自社の優位性を築くためには,巨大プロジェクトの資金調達と実施に携わることが重要である。水供給という必要不可欠なサービスとそのためのソリューションについて,アフリカ諸国が戦略的展開を進めるにつれ,公的な規制は取り除かれていくことが予想されている。

結論

干ばつを巡り次々と新たな動きが生まれる中にあって,日立はアフリカ大陸のためにソリューションを提供できる十分な技術と能力,経験を有した企業である。水および廃水のバリューチェーンを深く理解し,インフラプロジェクトのコンセプト立案から実施までをサポートする能力,情報技術や水関連システムに関する最先端の専門知識と,世界中のさまざまな上下水プラントの建設・運用およびメンテナンスにおける経験豊富な人材を擁している。

日立はこれらの強みを生かすことで,干ばつがもたらしたアフリカ大陸のさまざまな社会課題に応えていく考えである。

参考文献など

1)
SADC, Regional Situation Update on El Nino-Induced Drought (2016.5)
2)
J. Bhagwan, et al.: Benchmarking of non-revenue water: experiences from South Africa (2013)
3)
United Nations Water, “Water for life decade”(2014.5)
4)
南アフリカ共和国政府, “Minister Nomvula Mokoyane announces Water Master Plan."
5)
New Era Newspaper Namibia, 農林水産省インタビュー(2016.10)
6)
国連広報センター,“As new drought hits Ethiopia, UN urges support for government’s remarkable efforts.” (2017.1)
7)
国際連合食糧農業機関,“Horn of Africa cross border drought action plan 2017” (2017.4)
8)
南アフリカ共和国政府, “National water security”.
9)
United Nations Water, “The Africa Water Vision for 2025”(2005)
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