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バリューチェーンを革新するグローバルロジスティクスサービス

小口宅配物流を支える安全な輸配送技術の開発

ハイライト

物流業界では走行中の車両の情報を利用した安全運転の高度化が求められている。日立製作所では車載端末から車両情報,ドライバー情報などを収集し,それらを組み合わせ分析・診断することにより,物流事業者のニーズに応じた各種サービスを提供するスマートモビリティサービスを開発した。

目次

執筆者紹介

相川 哲盛Aikawa Tetsumori

  • 日立製作所 産業・流通ビジネスユニット 産業ソリューション事業部 モビリティ&マニュファクチャリング本部 所属
  • 現在,スマートモビリティサービス拡販に従事

藤井 善文Fujii Yoshifumi

  • 日立製作所 産業・流通ビジネスユニット 産業ソリューション事業部 流通システム本部 第二システム部 所属
  • 現在,物流事業者向けのロジスティクスソリューションの拡販に従事

森川 友雄Morikawa Tomoo

  • 日立製作所 産業・流通ビジネスユニット 産業ソリューション事業部 流通システム本部 第二システム部 所属
  • 現在,物流事業者向けのロジスティクスソリューションの拡販に従事

澤尻 晴彦Sawajiri Haruhiko

  • クラリオン株式会社 技術開発本部 クラウドサービス開発部 所属
  • 現在,車載端末の商用車向けソリューション開発に従事

木山 昇Kiyama Noboru

  • 日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ 顧客協創プロジェクト 所属
  • 現在,コネクテッドカーサービスの研究開発に従事
  • 博士(情報科学)
  • 情報処理学会会員

1. はじめに

物流業界を取り巻く環境として,eコマース(Electronic Commerce)市場が伸長しており(2015年度:12兆円→2019年度:20兆円)1),またTPP(Trans-Pacific Partnership:環太平洋パートナーシップ協定)関税自由化での「消費・輸入・輸出」の拡大もあり,今後も一般消費者向けの荷物取扱量の増加が見込まれている。また,消費者ニーズは多様化しており,eコマース事業者が物流サービスを他社との差別化要因と位置づけていることもあって,定時配送や即時配送,少量多頻度配送など,物流業者へ要求されるサービスレベルが一層高くなってきている。

一方で業界内部では,少子高齢化によるドライバー不足が問題となっており,18歳以上が車両総重量3.5 t以上7.5 t未満などの自動車を運転できる「準中型免許」が新たに設けられるなど,国を挙げての対策も採られている。物流事業者は,求められるサービスレベルを実現するため一定数のドライバーを確保する一方で,経験の浅いドライバーによる事故を未然に防止するための取り組みを進めている。

このような社会的環境の中,日立製作所は車両走行状態から得られるビッグデータを活用して支援するスマートモビリティサービスを開始した。本稿では,安全運転の高度化に寄与するクルマ向けサービスおよびニーズに合わせて自由に機能を追加できる車載端末に対する取り組みについて述べる。

2. スマートモビリティサービス

日立製作所ではドライバーの安全運転を支援するために,車載端末やスマートフォンに内蔵されている各種センサーから車両の情報(車両速度,走行距離,加速度,位置情報,映像など)やドライバーの情報[運転時間,業務状態,ヒヤリハット(=事故が起きそうな状況)など]を収集し,それらの情報を組み合わせ分析・診断するスマートモビリティサービスを提供している。これには,危険な地点に近づいた際に,ドライバーへ音声で注意喚起したり,運転結果からドライバーの事故リスクを診断・アドバイスしたりするサービスが含まれる。また,それ以外にも,商用車や物流事業者のニーズに応じた各種サービス(ルート探索,車両管理,地図更新など)を提供している(図1参照)。

図1|スマートモビリティサービスの全体像車載端末やスマートデバイスから取得したデータを蓄積し,各種事業者向けサービスとして利活用するサービスの概要を示す。

2.1 商用車向けサービス

バスやタクシー,トラックなどの商用車を扱う事業者向けには,一般消費者向けのカーナビゲーションよりも高度な交通情報を加味したナビゲーションシステムが求められる。

日立製作所では,リアルタイムに収集される位置情報の変化や,SNS(Social Networking Service)で登録される情報,ドライブレコーダーから取得される映像情報などを基に,地図コンテンツ,および渋滞情報などを生成し,これらを車両に配信するサービスを提供する。

2.2 物流事業者向けサービス

図2|危険アラートの通知までの流れ地図上に危険ポイントとして投稿した情報がサービスを経由して共有され,アラートとして通知される仕組みを示す。

配送トラックを使う事業者では,保有している車両台数やドライバー数が一般的に多く,サービスレベルの向上と交通事故抑止の両立が求められている。

日立が提供する代表的なサービスを以下に説明する。

(1)危険アラートサービス
地図上に運転上の危険がある地点を表示し,ドライバー間で共有し,車載端末より音声にてドライバーへ通知するサービスである。また,ドライバーが,自分が知っている「飛び出し注意」や「事故多発地点」などのポイントを地図上に登録することができ,その地点に車両が近づいた際にアナウンスし,ドライバーに注意喚起することができる。
これらの情報を適切なタイミングでドライバーへ警告するためには,従来は単純な座標でしか扱えなかった地点ポイントを,地図上の正確な位置とひも付けて管理する必要がある。これを実現するため,クラリオンのカーメーカー向けカーナビゲーションで実績のある高精度な自車位置測位技術を使用している。
各種センサーに対してしきい値を設定し,条件成立時に車載端末から現象と位置情報をサービス側へ送信し,地図上にその発生場所や種別を自動登録することもできる(例:急減速,急停止発生地点など)。登録した内容は地図上で共有され,他のドライバーもリアルタイムに確認することが可能である(図2参照)。
(2)運転特性診断サービス
事故経験者の膨大な運転情報から,機械学習(SVM:Support Vector Machine※1))を用いて,事故歴と相関関係のある運転挙動を抽出し,診断・アドバイスするサービスである。
事故を起こす可能性の高いドライバーを特定し,的確に運転指導を行うことで事故を未然に防止することができる。事故歴を利用しない従来の手法(急加速の回数など,独自しきい値での判定)に比べ,機械学習を適用することにより正確な運転特性診断を実現することができる(図3参照)。

図3|運転特性診断のイメージ日立製作所独自の運転特性診断エンジンと加速度抽出技術を使い,ドライバーの事故リスクを評価する。

(3)故障予兆診断サービス(適用予定)
故障予兆診断サービスは,日立製作所の研究開発グループが保有する機械学習技術と,顧客の車両データおよび整備履歴データから,車両の故障リスクを見える化するサービスとして適用予定である。
産業機器の故障診断で培った機械学習技術[VQC(Vector Quantization Clustering※2):ベクトル量子化法)/SVM/DBN(Dynamic Bayesian Network※3))]を活用して,車両部品の故障を高精度に予測する。
車両故障は配送業者にとって致命的であり,大手配送業者は自社で車両整備を行っている。故障前に整備をすることで稼働率を上げ,運用コストを低減させることが可能となる(図4参照)。

図4|故障予兆診断における異常診断の独自アルゴリズム機械学習によって故障発生を予知するため,しきい値を使った従来の方式で診断できなかった場合も検知が可能となる。

※1)
SVM:正常/異常データで教師あり学習をしたモデルを用いて稼働データを分類する手法。
※2)
VQC:正常データから生成したモデルとの比較で稼働データを高速に診断する手法。
※3)
DBN:条件付き確率を用いて稼働データから異常原因を推定する手法。

3. 車載端末

商用車は,一般的に10年以上の長期にわたって運用されるため,業務ニーズの変化に対応することが必須となる。カメラなどのハードウェアを増設する際やソフトウェアの更新が発生した際,従来は車両一台一台に対して,車載端末を取り外して更新する必要があった。

クラリオンの車載端末は日立製作所と共同開発したOTA(Over The Air:モバイルネットワークを用いてプログラムを更新する機能)を利用し,車両への取り付け後に自由にアプリケーションソフトを追加・更新できる。さらに,スマートデバイスなどで広く利用されているオープンなOS(Operating System)を採用しており,ベンダロックが無く,機能追加に伴うアプリケーション開発を容易にしている。また,スマートデバイス単体で動作可能な一部の機能は,車載端末を取り付けられない車両でも利用が可能である。

3.1 OTAでのソフトウェア追加・更新

図5|車載端末向けOTAソリューション概要車載端末に対するソフトウェアの論理構成とOTAでの更新方法の概要を示す。

クラリオンの開発した車載端末は,自動車の制御ソフト更新で培った高信頼な遠隔更新技術を適用し,OSやアプリケーションソフトをモバイルネットワーク経由で追加・更新することができる。このため,OSへのセキュリティパッチ適用や,増設機器に対するドライバソフトの追加,業務アプリケーションへの機能改修・操作性向上など,車載端末の運用開始後にさまざまなソフトウェアの追加・更新が自由に実施可能となる(図5参照)。また,ソフトウェア更新用のデータ領域を冗長構成にすることにより,エンジン始動時の電源変動など車載特有の環境下でも安全・確実にソフトウェアの追加・更新が可能である。

3.2 アプリケーション開発

この車載端末では,アプリケーションプラットフォームとして広く普及しているオープンな技術を基盤としている。アプリケーション開発のニーズのある顧客に対して開発キットを公開しており,車載端末上のアプリケーションを,API(Application Programming Interface)を使って構築できる環境を提供している。

4. 社員,事業者,社会に対する価値の提供

図6|社員,事業者,社会に対する価値の提供スマートモビリティサービスの利用により,ドライバー,事業者,社会に対して価値が提供される。

このスマートモビリティサービスを利用することにより,社員としてのドライバー,事業者,自動車に関わる社会の観点でどういった価値が提供されるかを図6に示す。

ドライバーには直接的に働きかけることで事故を未然に防ぐことができ,また,効率的な配送ルートを提案することで配送時間に対する心理的な余裕を生み,間接的にも安全運行を支援することができる。

事業者としては車載端末のソフトウェアを自由に追加・更新できることにより,今後の時代のニーズに合わせたタイムリーな機能追加が可能となる。また,クラウド上に蓄積した車両やドライバーの情報を新しい事業に利活用することが期待できる。

社会に対しては,安全施策を講じることで社会的責任を果たすとともに,ドライバー不足への対応,エコロジー運転診断による環境への配慮などを価値として提供できると考えている。

5. おわりに

2016年時点で日本国内だけでも約7,800万台の自動車が走っている2)。また,2020年には「高速道路での後続無人隊列走行」が実現される予定3)である。IoT(Internet of Things)化が進展し,自動運転が実現する近い将来には,車両が走行中に取得しているビッグデータを収集・分析する技術は一層重要視されると考えられる。

このスマートモビリティサービスで蓄積したデータは,現在のサービスにとどまらず,日立グループがビジネスとして展開しているカーライフサイクル全般に利活用していくことを考えている(図7参照)。自動車に関わるさまざまな場面で,日立グループが保有するITとOT(Operational Technology)を融合させ,さらにデータを掛け合わせることで,付加価値の高いクルマ向けビジネスを先導するサービスとして発展させていく。

図7|日立グループが展開するカービジネスのイメージ日立グループとしてカーライフサイクルのさまざまな場面でサービスを提供する。

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