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1.Hyperledger Fabric v1.0 への開発貢献

1.ブロックチェーンシステムの概念ブロックチェーンシステムの概念

ブロックチェーン(BC:Blockchain)技術は分散,改ざん耐性,情報の透明性確保といった特長を持ち,決済処理高速化,サプライチェーン管理,トレーサビリティ管理,エネルギー管理など,さまざまなシステムへの応用が期待されている。エンタープライズ向けブロックチェーンでは,Linux Foundation傘下のHyperledgerが,ブロックチェーン基盤Hyperledger FabricをOSS(Open Source Software)として開発している。

日立は,デファクトスタンダードとして有力視されているHyperledgerにプレミアメンバーとして加盟し,Board Memberおよび初代Technical Steering Committeeに就任した。また2017年7月のHyperledger Fabric v1.0リリースに向け,OSSコミュニティ貢献を通じてブロックチェーン基盤の信頼性実現に大きく寄与した。日立はFabric開発のノウハウを活用し,顧客の次世代システムの構築をサポートしていく。

2.ブロックチェーンを活用したトレーサビリティ管理システム

BCは高い改ざん耐性を備える新技術として注目されており,日立では金融,製造などエンタープライズ分野での実用化を進めている。

特に自動車に代表される製造業では,グローバルにまたがる事業者間での部品調達により,リコール発生時の影響範囲特定と部品受発注情報や製造情報の正当性確認に2か月を要するなど,リコール時の影響範囲が年々拡大し,問題となっていた。

日立は,部品受発注や製造の履歴から部品トレースに必要なメタ情報を抽出し,互いにひも付けながらBCに格納するトレーサビリティ管理システムを開発した。このシステムでは,高い改ざん耐性を持つBCを活用することで情報の正当性確認を不要とし,影響範囲特定時間を1分に短縮できる。

今後はエンタープライズ分野での商用化に向け,BC活用システムの運用管理技術(監視,バックアップなど)を開発するとともに,顧客協創を通じBC活用システムの開発方法論を確立し,実用化を加速する。

2.ブロックチェーン活用によるトレーサビリティ管理のイメージブロックチェーン活用によるトレーサビリティ管理のイメージ

3.マテリアルズインフォマティクスを支える実験予測技術

従来,材料科学分野の研究開発は実験の試行錯誤を幾度も繰り返して成されてきたが,近年,ICT(Information and Communication Technology)を用いて実験の期間を短縮するマテリアルズインフォマティクス(MI:Materials Informatics)の技術開発,試行が活発化してきた。日立は,幅広い事業領域で実績のある種々のアナリティクスの技術を活用しMIを支えるICT基盤を提供する事業を進めており,ICTの知識に詳しくない材料科学の研究者でも実験結果の予測などのデータ分析ができるよう整備を進めている。

MIに求められるものの1つは,多数の実験データから材料特性に関係ある要素を見いだす機能であるが,現実的には関係性を見いだすのに十分な回数の実験をすることは難しい。そこで,短期間の実験データを実験過程の確率モデルに当てはめて実験のその後を予測し,予測の不確定性を評価して実験結果が十分確定的であれば実験を終了する方式を開発した。これにより,散乱実験では従来の1/5に実験時間を短縮できることが確認できた※)

今後は,この実験予測技術の適用範囲を拡大することにより,材料科学分野の研究開発加速に貢献していく。

(サービス開始時期:2017年10月)

※)
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構およびトヨタ自動車株式会社の協力により実施。

3.予測に基づく新材料の計測実験期間短縮の例予測に基づく新材料の計測実験期間短縮の例

4.EMIEW3とロボットIT基盤

近年,少子高齢化をはじめとする社会課題の解決に向けて,ロボティクスやAI(Artificial Intelligence)を活用した超スマート社会の実現が期待されている。これに対し日立では,顧客協創を通じてロボティクスを活用した新たなサービス事業を創生するため,人間共生ロボットEMIEW3と,ロボットの知能処理と多拠点・複数ロボットの運用監視・制御を遠隔で行うロボットIT基盤を開発した。

EMIEW3は高さ90 cm,重量15 kgの小型軽量ボディで安全かつスムーズな移動を実現し,ロボットが収集したデータや外部のデータを活用し,人と能動的なコミュニケーションを行うことができる。これらを用いて,2016年より顧客と共同で実証実験を進め,顧客サイトでの課題抽出と,ロボットの動作性能や対話性能などの実用化を見据えた技術レベルの向上を図っている。

今後も実証実験を継続し,ロボティクスサービスの事業化を推進するとともに,ロボットが収集したデータを活用した新たなデジタルソリューションの創生をめざす。

4.人間共生ロボットEMIEW3と実証実験の様子人間共生ロボットEMIEW3と実証実験の様子

5.人流データの三次元可視化技術

近年,オフィスや商業施設の設計,都市開発において,人やモノの流れをセンシング技術により把握し,より快適な空間設計に反映するデータ活用技術の取り組みが盛んである。

今回,人やモノ,環境情報を建物ジオラマに三次元的に可視化する三次元ジオラマインタフェースを開発した。従来はこれらの情報をPC(Personal Computer)上の画面で確認する方法が取られていたが,取得したデータに基づく人流予測情報や消費電力,温度などの情報をジオラマに投影することで,複数名で同時に俯瞰(ふかん)的な状況評価が可能となり,顧客と相互に深い理解をしながら協創できる。さらに,ジオラマへの投影だけでなく,三次元センシングによるジェスチャー操作により,建物の配置や提示情報の切り替えなど,ユーザーがその場で知りたい情報をリアルタイムに反映させ,臨場感を高めることも期待できる。

今後は建物内の人やモノの情報を広範囲に収集し,実証実験を進めながら実用化および幅広い分野への適用を図る。

5.三次元ジオラマインタフェース三次元ジオラマインタフェース

6.Society 5.0の実現に向けたサイバーセキュリティ

Society 5.0の実現に向けたシステム連携が進むにつれ,サイバー空間と現実空間をつなぐネットワークを介したサイバー攻撃のリスクが高まっている。これに対し,サービス提供の継続(可用性)が重視され,かつ複数のシステムと連携する重要インフラシステムでは,サイバー攻撃発生時の事業的影響および最新の脅威をあらかじめ把握しておく必要がある。また万一のサイバー攻撃発生の際には,攻撃を早期に検知し,事業的影響が顕在化する前に対処することが不可欠である。これらの課題を解決するために,以下の技術を開発した※)

  1. 事業の構成要素(業務,人,システム,サービス,製品など)に着目して汎用的に事業上のリスクを抽出する上位リスク分析モデル
  2. 利用組織や事業者が情報共有を通じて連携し,サイバー攻撃の二次被害を未然に防止する情報共有プラットフォーム技術
  3. 多角的な視点で業務通信の小さな変化を捉え,早期に攻撃を検知する統合健全性判定技術

今後は,これらの技術を重要インフラシステムの設計および運用に適用し,セキュリティ向上に貢献していく。

※)
これらは,総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「重要インフラ等におけるサイバーセキュリティの確保」(管理法人:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)によって実施されています。

6.統合健全性判定技術統合健全性判定技術

7.働き方のアドバイスを提示する組織活性度活用技術

7.名札型ウェアラブルセンサーによる組織活性度とアドバイスの例(上),センサーを装着した様子(下)名札型ウェアラブルセンサーによる組織活性度とアドバイスの例(上),センサーを装着した様子(下)

人や組織の活性度,幸福感と生産性の関係に着目し,人工知能Hitachi AI Technology/H(AT/H)とコミュニケーションなどの人間行動を計測する名札型ウェアラブルセンサーの活用による組織活性度を計測・分析する研究開発を推進している。

名札型ウェアラブルセンサーから収集した行動データを時間帯・会話相手などの項目で細分化し,これをAT/Hに入力することで,各個人の強みとなる働き方のアドバイスを自動的に配信する技術を開発した。働き方と業績・社員満足度の関連を検証するための社内実証を営業部門26部署(約600人)で行った結果,組織活性度の変化量が受注達成率と相関性があることを確認した。具体的には,実証実験期間において組織活性度が上昇した部署は,下降した部署に比べて,翌四半期(10〜12月)の受注額が平均27%上回ることを確認した。

従業員が働き方を考えるうえでの一助となるフィードバック技術の開発と試行を進め,働き方改革の推進および企業の生産性向上を支援していく。

8.ロボティック・プロセス・オートメーション

労働力不足の解消や労働生産性の向上を目的に,間接業務をソフトウェアロボットによって自動化するRPA(Robotic Process Automation)の導入が,さまざまな企業で進みつつある。ソフトウェアロボットは,一般的なロボットと同様,人間と同じように業務するソフトウェアに由来する言葉である。現在,導入が進んでいるRPAは,クラス1「明確にルール化できる業務の自動化」であるが,今後はクラス2「認識や判断など知的な処理を必要とする業務の自動化」への期待が高まると考えている。

日立は,クラス2のRPAの中でも,(1)「多様な形式の入力データを認識」し,(2)「ルール化が難しいさまざまな状況での判断」を自動化するシステムを研究している。これまでに開発してきた文字・画像・音声・言語・人行動などの認識技術をベースにして(1)の自動化を実現し,業務で処理されたデータを蓄積・学習することで(2)の自動化を実現した。これまでに,日立グループの業務をフィールドとして,以下の3つの業務を素材に実証実験を実施した。

(1)帳票確認業務
出納業務における証票の読み取りから承認までの業務を自動化するシステムを開発した。このシステムでは,金融機関向けの帳票認識技術を応用して,過去の出納業務の実績から取得したデータを基に学習した知識を使い,帳票から振込先,金額などの値を判断する確認業務の自動化を実現した。従来は,人手による帳票データの確認が必要であったが,実績データから帳票確認のための知識を取得できるため,低コストで帳票確認のシステムを作成できる。日立グループ内の出納業務での実証実験の結果,70%の帳票を自動的に確認することができた。2017年10月から業務システムに組み込んでの運用を開始し,2018年度からの本格稼働をめざしている(図8-1参照)。
(2)問い合わせ回答業務
社内手続きの問い合わせに対して,自動的に回答するシステムを開発した。これまでに社内に蓄積してきた問い合わせ回答実績から,問い合わせのためのデータベースを効率的に作成する技術と,答えられない問い合わせに対して問い返すことで自動的に問い合わせ回答知識を拡充する成長型対話技術を開発した。問い合わせ回答業務の自動化には,問い合わせ回答データベースを効率的に構築する必要があったが,この技術により,コンピュータによって半自動的にデータベースを構築することが可能となる。この問い合わせ回答システムは,社内の実際の問い合わせ業務における予備実験にて,60%以上の問い合わせに対して自動回答できることを確認し,2017年10月から実証実験を開始した(図8-2参照)。
(3)品質保証業務
設計レビューの際に,関連する過去の不適合事例を提示するシステムを開発している。過去の不適合事例データベースを事前に学習させたシステムに,設計レビュー対象の設計文書を読み込ませることにより,設計者の観点から気付き支援,過去事例の抽出支援を行う。また熟練者の検索結果選択行動の継続的な学習により,システムの精度向上をめざしている。現在,実証試験を事業部と連携して進めている。関連する過去の失敗事例を効率的に探すことで,設計レビュー業務の効率化への効果を実証する実験を2017年10月から開始した(図8-3参照)。
開発したRPAシステムで「判断・認識などの知的処理」を担うAI技術は,間接業務において普遍的に必要となるものであり,社内外の業務に展開活用するべく,Lumadaユースケースとして登録した。AI技術は,業務特性に合わせて方式を調整するなど,学習フェーズに時間がかかるのが課題であるが,今回,社内業務データで効果検証の済んでいる技術を横展開することで,AI技術を適用したソリューション開発を加速する。

8-1.帳票確認自動化後の出納業務フロー帳票確認自動化後の出納業務フロー

8-2.システムが抽出した確認観点の表示とその結果システムが抽出した確認観点の表示とその結果

8-3.成長型対話技術を適用した対話ソリューション成長型対話技術を適用した対話ソリューション

9.IoT/制御システム向けセキュリティ設計支援技術

IoT(Internet of Things)/制御システムに対するサイバー攻撃の脅威が増加してきており,システムに内在するセキュリティ脅威の把握,適切なセキュリティ対策の導入が必要不可欠となっている。しかし,IoT/制御システムは多種多様なコンポーネントから構成されているため,脅威分析や対策立案に莫大な工数を要するという課題があった。これに対し,これまで日立が培ってきたセキュリティ設計技術をベースに,脅威分析に必要なデータ項目を絞り込み,過去事例から関連する脅威を抽出することにより,短時間で脅威分析と対策立案を実現する技術を開発した。この技術は電力,鉄道,産業,医療分野のシステムへの適用を進めており,200規模のコンポーネントから成る電力系システムの例では,セキュリティ設計工数を従来比で約80%低減することに成功した。

今後,この技術を上下水,ガスなど他の分野へも展開することにより,社会インフラの安全性・信頼性向上に寄与していく。

9.IoT/制御システム向けセキュリティ設計支援技術の概要IoT/制御システム向けセキュリティ設計支援技術の概要

10.OSS Node-REDとの相互連携技術

顧客の既存システムから収集したデータを,AIや機械学習を活用して分析し,業務改善を行うデジタルソリューションへの期待が高まっている。機械学習の適用には,顧客データを理解する業務SE(System Engineer),データ分析を専門とするデータサイエンティストなど複数のメンバーがチームを組み,解くべき課題に合わせてさまざまな機械学習エンジンを試すなど,多くの試行錯誤が必要となる。

日立は,チーム開発や試行錯誤を支援するための開発環境として,顧客システムとの連携や機械学習エンジンの組み合わせ変更をプログラムレスで実現できるOSS開発ツールNode-REDを採用した。さらに,Node-REDを拡張してチーム開発を容易にする「プロジェクト管理機能」と,機械学習エンジンなどとNode-REDの連携を容易にする「相互連携技術(Flow Connection Gateway)」を開発した。

今後は,この開発技術を開発基盤Lumada Studioへ適用し,Node-REDコミュニティへの貢献を推進する。

10.Lumada Studioと開発技術の位置付けLumada Studioと開発技術の位置付け

11.時系列データ分析コラボレーション技術

社会インフラ機器の長期安定稼働に向け,現場機器の稼働データを収集して故障リスクを定量化し,早期対策を行うことで,信頼性を確保するシステムが求められている。一方,機器面では疲労破壊や災害破損などの多様な故障リスクがあること,分析面では障害予測や保全計画などの多彩な分析が必要であることから,複数の分析者が協調して高度な分析を構築する環境が必要となる。

そこで,分析データ構造と分析手法の統一により協調分析を容易にする「時系列データ分析コラボレーション技術」を開発した。分析データは時系列データと,開始終了時刻を持つ区間統計データの構造に整理して一元管理した。分析手法は,ワークフロー型プラットフォームのKNIME※)を活用し,損傷解析をはじめとするリスク分析ロジックの部品化を行った。分析部品の組み合わせにより,新規案件に対しても迅速な対応が可能となる。

今後はさまざまな日立製品の信頼性を確保するO&M(Operation and Maintenance)サービスへと展開していく予定である。

※)
コンスタンツ大学(ドイツ)で開発されたオープンソースのワークフロー型プラットフォーム。

11.時系列データ分析コラボレーション技術による社会インフラ機器の協調分析時系列データ分析コラボレーション技術による社会インフラ機器の協調分析

12.学習型データクレンジング技術

IoT技術の発展により多種多様なデータが現場から収集され,その利活用による経営指標改善への期待が高まっている。しかし,現場データが整理されていないため,分析に必要なデータの準備に時間が掛かるという問題がある。例えば,製造業において,早期の不良分析による品質改善や設備の故障予測による生産性向上が期待されている。しかし,製造現場では設備や製造工程に関するさまざまな情報が混在して記録されているケースが多く,分類に時間が掛かるため,早期の対応を妨げる要因となっている。

日立は,データの文字特徴,特に文字列の長さを学習し,多様な情報が混在した現場データを短時間かつ高精度で分類する学習型データクレンジング技術を開発した。この技術を,設備IDや製品IDなど4種類の情報が混在した製造現場データに適用した結果,データ分類時間を9割削減できることを確認した。

この技術により,製造業での早期の品質改善や生産性向上に貢献していく。

12.製造業向けデータでの学習型データクレンジング技術の例製造業向けデータでの学習型データクレンジング技術の例

13.災害に強い分散ストレージシステム

13.新提案の分散ストレージシステムの特長新提案の分散ストレージシステムの特長

大規模災害後に被災地域内で必要な情報サービスを継続するための分散ストレージシステムの実現に向け,文部科学省のプロジェクト「高機能高可用性情報ストレージ基盤技術の開発」※)において基本技術を開発した。東日本大震災では,データを保管するストレージ装置の損壊に加えて,被災地域内外を結ぶ広域通信網も損壊した。つまり,遠隔地のデータセンターにデータ複製を行う従来型のディザスタリカバリーシステムでは,広域通信網が復旧するまで被災地内での情報サービスの復旧が困難であることが明らかになった。

そこでこのプロジェクトでは,地域内の複数拠点にデータを複製し,保護する分散ストレージシステムを提案・試作した。

主な特長は,以下のとおりである。

(1)リスクアウェア複製技術
被災リスクを考慮して,各拠点の安全なデータ複製先拠点を選定することで,データの保護の割合を向上させる。
(2)マルチルートリストア技術
被災後に残存した複数のデータ複製先拠点から並列にデータを送信し,復旧することで,情報サービスの停止時間を短縮する。

今後はこの開発技術を,自治体や医療機関向けの災害対策ソリューションに応用することをめざす。

※)
期間:2012〜2016年度,プロジェクトリーダ:村岡 裕明 東北大学電気通信研究所教授,従事組織:東北大学・株式会社日立製作所・株式会社日立ソリューションズ東日本
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