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快適な「まち」の移動を実現するモビリティ

次世代のモビリティを実現する都市交通情報基盤

ハイライト

コンパクトシティ化や交通インフラの維持・更新の効率化など,都市交通の再構築が求められている。一方,自動運転技術や,シェアリングエコノミーの進展など,交通を取り巻く市場環境が激変しようとしている。

社会ニーズの変化に対応し,次世代の交通情報基盤を構築するための日立の活動を報告する。

目次

執筆者紹介

可児 明生Kani Akio

  • 日立製作所 アーバンソリューションビジネスユニット 街づくりソリューション本部 スマートモビリティ推進センタ 所属
  • 現在,都市モビリティ分野の事業企画に従事

矢野 浩仁Yano Kojin

  • 日立製作所 研究開発グループ システムイノベーションセンタ システムアーキテクチャ研究部 所属
  • 現在,交通分野におけるシミュレーション研究に従事
  • 博士(工学)
  • 電気学会会員
  • 社会情報学会会員
  • 情報処理学会会員
  • 日本オペレーションズ・リサーチ学会会員

住谷 司Sumiya Tsukasa

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット IoT・クラウドサービス事業部 サービスインテグレーション部 所属
  • 現在,オープンデータ利活用の事業推進に従事

松下 孝弘Matsushita Takahiro

  • 日立製作所 アーバンソリューションビジネスユニット 街づくりソリューション本部 スマートモビリティ推進センタ 所属
  • 現在,都市モビリティ分野の事業企画に従事

手島 久典Teshima Hisanori

  • 日立製作所 研究開発グループ システムイノベーションセンタ システムアーキテクチャ研究部 所属
  • 現在,鉄道運行管理システムおよび自動運転車両管制システムの研究に従事

1. はじめに

少子高齢化に伴い都市交通機能の再配置が求められている。都市部では訪日外国人やアクティブシニア層の増加など,移動に対して求められるサービスが多様化している。都市のサイズや需要にマッチした交通モードの選択や,事業者ごとなどに分散している交通情報を集約・加工・提供することで,公共交通の利用機会向上に貢献すると考えられる。一方,地方部では高齢化や過疎化,ドライバー不足など交通機関に関する諸問題に対して,駅やバス停など既存の公共交通拠点から病院や商業施設,自宅など,行きたいところへ自由に移動できる手段を提供するラストマイル交通サービスへの期待が高まっている。

また,自動走行が一般化する社会では,自動走行技術に加え,的確な情報提供,運行管理機能,および気象や突発事象などの関連情報を加えたモビリティサービスにより,安全な交通環境の提供や渋滞低減が期待されている。

日立は来る自動運転社会を考慮し,快適で便利な交通環境を実現するため,さまざまな交通モードによるシームレスな移動や,多様な利用ニーズに対応した自由な移動を支える基盤を提供すべく,要素技術の開発や適用事例の開拓に取り組んでいる。図1に都市交通情報基盤のイメージを示す。公共交通とパーソナル交通の情報に加え,個人の経路案内や商業輸送,物流などの情報を集約することで,幅広い事業者に付加価値の高いサービスの提供をめざしている。

本稿では,都市交通情報基盤イメージのうち,公共交通とパーソナル交通の観点から取り組み事例を紹介する。

図1|都市交通情報基盤のイメージマルチモーダル移動データの収集・分析による交通事業者の運用支援や,公共交通利用者の嗜(し)好や交通状況に応じた自由な移動を支援する。

2. 都市の公共交通を支える交通情報基盤

国の科学技術政策の一環として設置された戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の1テーマである「自動走行システム」では,交通事故の低減や自動走行システムの実現と普及に加え,2020年の国際スポーツ大会を一里塚とした次世代都市交通システム(ART:Advanced Rapid Transit)の実用化が目標とされている。

日立は,都市の公共交通を支える交通情報基盤と位置付けられるART情報センターに関する業務を国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より受託した。以下,ART情報センターの概要と主な機能,ART情報センターと連携する統合交通シミュレーションについて紹介する。

2.1 ART情報センターの概要

ART情報センターは,公共交通に関する情報の収集と活用が一体となったオープンプラットフォームであり,ARTを含む公共交通の運行事業者とその利用者双方に有益な情報や機能を提供することで,交通課題の解決に貢献することを目的とするものである(図2参照)。

図2|ART情報センターの概要ART情報センターはさまざまな公共交通機関と連携し,運行事業者へ情報提供するとともに,利用者の利便性向上に貢献する。

2.2 ART情報センターを支えるプラットフォーム

ART情報センターは,外部から情報収集を行う(1)データ受信基盤,交通事業者などへ情報提供を行う(2)データ公開基盤,(3)データ蓄積・分析基盤,(4)アプリケーション開発者支援基盤,およびシステムの(5)統合運用基盤から構成される(図3参照)。

  • (1)データ受信基盤,(2)データ公開基盤は,連携するシステム,アプリケーションなどとのデータ授受を行うためのゲートウェイとして機能する。複数の連携先事業者やシステム,アプリケーションとのデータの送受信を確実に行うことを目的として,API(Application Programming Interface)を規定し,統一インタフェースを用意したうえで検証を進めている。
  • (3)データ蓄積・分析基盤のうち,データ蓄積はデータの種類や用途に応じたデータベースの階層化を採用している。また,APIを通じて取得したデータをセンター内で目的に合わせて加工・変換し,アプリケーションへの提供を行っているが,将来的にはデータの加工や変換だけではなく,データを用いた分析・可視化などを実装し,社会にとって有益な情報を提供できるよう段階的な機能追加をめざすものである。
  • (4)アプリケーション開発者支援基盤は,ART情報センターに蓄積されるデータを利用したアプリケーションを開発したいと考える事業者や開発者に対して,開発・実行環境を提供することで,データ利活用の促進をめざすものである。
  • (5)統合運用基盤はART情報センターの信頼性,可用性を確保するため,システムのリソース管理やセキュリティ機能を提供するものである。

オープンプラットフォームは,スケーラビリティを確保する必要がある。連携するシステムや処理負荷に応じて拡張できる利点を生かすことで,種々の情報提供を担うプラットフォームとして利用でき,統合交通シミュレーションやラストマイル交通システムなどとの連携が期待できる。日立がこれまで培ってきたシステム設計・構築・運用のノウハウを適用するだけではなく,各機能にオープンかつ最新の技術を適用し,安全・安心で快適な移動をサポートできるプラットフォームの実現をめざしている。

図3|ART情報センターの概略図ART情報センターはバス情報や事業者情報を収集し,加工することで,公共交通管理者への運行支援情報を提供するほか,オープンAPIを介してアプリケーション事業者などに情報提供を行う。

2.3 統合交通シミュレーション

鉄道やバス,タクシーなど都市の交通手段は,今後ますます連携していくと予想される。より自由で便利な交通社会が実現する一方で,ある地点における交通状況の変化が及ぼす影響範囲も拡大することとなる。例えば利用者の一時的な集中に伴う混雑が波及し,鉄道遅延に至る場合など,交通状況がどのように変化していくかの予測情報を提供することで,利用者と管理者の双方で対策を講じることができ,結果として交通混乱の早期解決に貢献できるものと考えられる。

周辺の道路交通や鉄道輸送状況に基づく交通流変化のシミュレーションを検討した。その概要を図4に示す。一つのシステム内で鉄道シミュレーションと道路交通シミュレーションが存在し,それらの連携により都市交通の変化を予測している。こうした鉄道や道路交通の現在状況をART情報センターに格納されたデータから取り出し,鉄道,道路交通のシミュレータにインプットし,それぞれを動かして結果を出力する。このシミュレーション連携部により,鉄道と道路交通の間での交通集中の影響伝播(ぱ)の様子を推測できる。また,鉄道や道路交通シミュレータが将来拡張されても,シミュレーション連携部で改修部分を吸収することで将来の拡張性を確保できる。

図4|統合交通シミュレーションの活用イメージ鉄道と道路の双方の交通状況を統合した交通予測を行い,ある地点の交通状況変化が及ぼす影響を推定する。

3. ラストマイル交通システム

日立は経済産業省が進める2016年度からの3か年実証事業「高度な自動走行システムの社会実装に向けた研究開発・実証事業:専用空間における自動走行等を活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」の受託者である国立研究開発法人産業技術総合研究所からの再委託として,ラストマイル交通システムの運行管理システムと配車ロジックに関する研究を受託している。本章ではその取り組みについて紹介する。

3.1 実証事業

本実証事業では電磁誘導線による自動走行小型電動カートをベースとし,自動走行車両制御,追従走行のための電子連結技術,遠隔監視・操縦,運行管理システムなどを開発実証する。電磁誘導線などのインフラを用いた車両制御技術などを活用することで,GNSS(Global Navigation Satellite System)位置情報の取得困難な環境なども想定し,完全自律型の自動運転車両だけでなく,環境条件に応じた各種自動運転技術の選択を可能とする。

社会実装時の利用形態として想定する実証評価3地域(沖縄県北谷町:観光地モデル,石川県輪島市:市街地モデル,福井県永平寺町:過疎地モデル)において,2017年度は技術検証を中心に実施し,2018年度は事業性評価を含めた実証実験が計画されている。

ラストマイル交通サービスは,自動走行車両による新たな交通システムであり,社会ニーズの確認や課題抽出など,事業化に向けた検討を推進している(図5参照)。

図5|ラストマイル交通サービスと管制センターのイメージラストマイル交通サービスは,既存の公共交通機関から公共施設や商業施設,自宅などへ自動走行車両による移動手段を提供する新しい交通システムである。ラストマイル交通管制センターは,その交通システム運行を管理・管制する。

3.2 運行管理システム

ラストマイル交通システムの中で,旅客需要による車両の増減,道路状況や車両故障による予定外の事態に対応するための不可欠な要素として,車両や車両群の運行を適切に管理する運行管理システムを定義している。

運行管理システムが持つ基本機能構成は,運行計画の立案・修正,運行監視・指示,旅客案内の3構成であり,配車ロジックは,運行計画の立案・修正を行う論理として運行管理システムに含まれる(図6参照)。

実証事業においては,電磁誘導線による自動走行と電子連結技術による追従走行可能な車両群によるラストマイル交通輸送サービスを想定し,その車両群から成る編成運行に対する運行管理機能を実装する。将来の完全自律型の自動運転車両による個車走行,編成運行など社会実装時に想定しうるさまざまな車両,サービス形態に対応できるように中核機能のモデル化を行った。また,運行形態ごとの固有機能を容易に差し替え可能なアーキテクチャを設計することで,フレキシビリティの高いシステムの開発を進めている。

図6|ラストマイル交通運行管理システム概要運行管理システムと遠隔操縦(監視)によりラストマイル交通の中央システムを構成する。運行管理は配車ロジックを中心に運行計画立案・修正,運行監視・指示,旅客案内を基本構成とし,車両および車両群の運行を適切に管理する。

4. おわりに

日立グループは,開発を要素技術のみにとどめず,社会システムの一部となるよう,さまざまなステークホルダーの観点から効果測定を行うべくパートナーとの連携を深めていき,社会の交通課題解決に貢献すべく取り組んでいく。次世代の交通情報基盤の構築をめざし,ART情報センターおよびラストマイル交通サービスの社会実装を推進していく予定である。

本研究の一部は経済産業省の委託研究「戦略的イノベーション創造プログラム(自動走行システム):ART情報センターの構築に必要な機能の開発」(2016年度),および実証事業「高度な自動走行システムの社会実装に向けた研究開発・実証事業:専用空間における自動走行等を活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」,ならびにNEDOの委託研究「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システム/大規模実証実験/次世代都市交通/ART運行関連情報のデータ集約・蓄積とART利用者等への情報提供の仕組み構築および大規模実証実験の実施・管理」の一環として実施された。

参考文献など

1)
内閣府ニュースリリース,「自動走行システム」の大規模実証実験の実施について
2)
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構ニュースリリース,自動走行システムの大規模実証実験を開始
3)
国立研究開発法人産業総合研究所ニュースリリース,ラストマイル自動走行の実証評価(北谷町)を開始
4)
日立ニュースリリース,ART(次世代都市交通システム)の実証実験をNEDOより受託
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