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「まち」のQoL向上を実現するスマートライフ・ビジネス

ビル統合管理ソリューションの最新事例と今後の展望

ハイライト

日立ビルシステムが提供するビル管理クラウドサービスとビル管理会社向けソリューションサービスを中心に,データを統合・活用し,ビル利用者のニーズに沿ったデジタルソリューションを提供する「スマートビルディング」など,ビルを利用する「ヒト」にフォーカスしたサービス対応を紹介する。

目次

執筆者紹介

宮地 純司Miyaji Atsushi

  • 株式会社日立ビルシステム グローバルソリューション事業部 事業企画部 所属
  • 現在,事業企画業務に従事

長谷川 篤史Hasegawa Atsushi

  • 株式会社日立ビルシステム グローバルソリューション事業部 ファシリティソリューション部 所属
  • 現在,ビルメンテナンス事業に従事

佐賀 剛Saga Takeshi

  • 株式会社日立ビルシステム グローバルソリューション事業部 システムソリューション部 所属
  • 現在,システムソリューション事業に従事

1. はじめに

先進国を中心とした労働人口不足,グローバル化,「モノ」から「コト」への消費者ニーズの変化など社会潮流の変化を受け,ビル管理においても単純な役務提供ではなく,運用の改善に向けたソリューションの提供が求められている。

株式会社日立ビルシステムでは,これまでも社会潮流に合わせたソリューションを提供してきた。

相次ぐ個人情報漏洩(えい)事故に伴うセキュリティニーズの高まり,地球温暖化への懸念をはじめとするエコ・省エネルギーへの意識の高まりを踏まえ,ビル管理クラウドサービスBIVALEを開発した。

また,データ改ざんなどの報道に注目が集まっていることを例示するまでもなく,消費者(利用者)のサービス品質に対するニーズはますます高くなってきており,ビル管理業務において作業品質を確保するソリューションとしてBuilShareの提供を開始した。

今後,より利用者目線で利便性・快適性を高めるソリューションを提供するためには,これまで蓄積してきたビルの稼働状況データを活用していくことが重要である。

2. BIVALEのサービス概要

ここでは,日立ビルシステムが2011年に提供を開始したビル管理クラウドサービスBIVALEの概要について述べる。

図1はBIVALEの構成図である。BIVALEは以下の3つのサービスを同一システムで管理し,クラウドで顧客に提供できることに特徴がある。

  1. ファシリティ:設備故障や運転状況の遠隔監視,制御
  2. セキュリティ:入退室管理システムや防犯カメラの遠隔モニタリング
  3. エネルギー:電気使用量の計測,データ収集

従来これらのサービスは個別のシステムが必要であったが,統合することでコストメリットが生まれ,2017年12月現在,全国約6,000件の導入実績がある。

特に,多拠点の設備状態やデータを一元管理できる点が,全国に複数拠点を持つ顧客(主にビル管理会社)に評価されており,クラウドサービスの利点を生かし,顧客の管理部門の業務効率化・コスト低減に寄与してきた。

図1|BIVALE構成図顧客ビルにコントローラーを設置し,各種情報を収集する。クラウド上で顧客が閲覧・操作可能である。

3. ビル管理会社向けBuilShareの概要

2章で述べたBIVALEは設備稼働情報をシステムで遠隔収集できるが,一方でビル管理においては日常点検やトラブル対応といった人的作業の情報も重要である。

2017年9月に販売開始したBuilShareは,この人的作業の情報をデータとして取り込むソリューションであり,本章で概要を述べる。

BuilShareは保守作業の計画策定から作業結果入力,報告書作成,未完了作業の管理までをクラウド上で一元管理できるシステムとなっている。図2はBuilShareの構成図である。

特徴として,現場作業におけるタブレット端末の活用がある。

図2|BuilShare構成図現場ではタブレット端末を活用し,点検結果などを入力する。クラウドを活用し,管理部門での状況把握が容易となる。

図3|BuilShareタブレットイメージタブレット端末に登録した手順書に従い現場作業を実施できる。作業結果はそのままタブレットで登録可能である。また,トラブルへの対応指示などを書き込んだ画像を共有することができる。

作業手順書(兼点検結果チェックシート)を電子データとしてタブレット端末に登録しておき,その作業手順書に沿って現場作業者が作業することで,点検方法の標準化を図ることができる。点検結果の報告もタブレット入力で完了するため,従来の紙片管理に比べて作業者が報告書を作成する手間が削減できる。また,管理者にとっては,点検状況の即時把握が可能となる。

点検結果は作業報告書に自動反映されるとともに,データ蓄積し傾向分析に活用される。例えば,特定の設備でトラブル対応が頻発している場合には,設備更新などにより早期対応することで,故障による突発的・長期の不稼働を避けることができる。

もう一つの特徴に映像共有機能がある。タブレット端末などのカメラを使用し,現場の作業状況を遠隔地の管理者がリアルタイムで視聴できる。作業者の経験値が低い場合なども,遠隔からのサポート・指示により熟練者に近いレベルの作業が可能となる。また,作業者はウェアラブルカメラを使用することで,指示を見ながら両手で作業することも可能となる。図3はタブレットイメージである。

このように,現場作業をサポートするとともに蓄積したデータを有効活用することで,管理の効率化・品質確保のメリットが得られる。

特に,複数ビルを対象とするビル管理会社にとっては,現場管理の効率化に加え,クラウドを活用することで自社管理センターの設備投資が不要となることが大きなメリットになる。

4. 社会潮流の変化

2章,3章ではこれまでに日立ビルシステムが開発してきたビル管理ソリューションの概要を述べた。これらはビル管理に関する,システム・人的作業の情報を収集し,主にビル管理会社のコスト低減・作業品質確保に有効であった。しかしながら,社会情勢の変化に伴い,ビル管理も変革が求められている。本章ではその社会潮流について述べる。

最大の懸念として,生産年齢人口の減少が挙げられる。直接的には労働者確保が困難となり,すでに保守員・清掃員などに影響が出始めている。また,間接的にはビル利用者が減少することで,オフィスビルやマンションといったビル全般が供給過多となり,ビルオーナーやデベロッパーはテナント獲得のために,他社との差別化を図る付加価値向上を求められることが予想される。従来の立地・面積・設備といった単純な条件だけを訴求点としていては空室となる可能性が高い。

これらのことから,ビル管理においては,サービスの省人化と付加価値向上の両立という困難な課題に直面していると言える。

一方,総務省は「平成28年版 情報通信白書」の中で,少子高齢化などの課題に対し,IoT(Internet of Things)・ビッグデータ・AI(Artificial Intelligence)などのICT(Information and Communication Technology)が解決につながると述べている。

ビル管理に関してはデータ通信企業などが参入を表明するなど,従来どちらかというと役務提供型だった業界に,急速にICTが浸透し始めている。

5. 将来のサービスの方向性

4章で述べた社会潮流を受け,今後あるべきサービスの方向性を端的に表現すると,省人化・付加価値向上をICTで実現するということになる。

まず,2章・3章で述べた現状の省人化とは,例えば,「3人で行っている作業を2人にする」というアプローチである。しかし,今後さらに生産年齢人口の減少が進めば,「2人すら確保できない」という事態も想定される。

この課題に対応するためには,現状よりさらに詳細なデータを取得し,高度な分析に基づく省人化の検討を行うとともに,人手を代替するソリューションが必要となる。

次に,付加価値向上について,オフィスであれば勤務者,マンションであれば居住者がより快適に,安全に利用できるという利用者目線でのサービス提供こそが差別化の必須条件である。

オフィスを例に取ると,政府が主導する働き方改革を推進していくためにはオフィスワーカーの業務状況を詳細に分析して効率を上げる必要がある。ビル管理の視点から見た場合,「暑い・寒い」といった環境要因で効率を下げるようなことがないよう,細やかな設備制御が求められるが,フレックス勤務や執務スペースの共用化(自由化)も進んでおり,従来のような画一的な運用では対応できない。

このような状況下で利用者個々に安全・快適な環境を提供していくためには,ビル設備の稼働状況などの情報に加え,入退室履歴や勤怠情報などの利用者に関する個の情報を入手することが重要となる。

まとめると,今後あるべきサービスを実現するためには,個の情報取得と人手の代替策がキーになると考える。

日立ビルシステムではセンサーや画像分析などの技術を用いて現在取得できていない位置情報など個の情報を取り込み,従来持っていた入退室履歴や設備の稼働情報と合わせて活用し,最適なソリューション提案を実施していく。

また,ソリューションの一つとして,サービスロボットの活用を行っていく。省人化のためには人の代わりにロボットを活用することは有効な手段であり,今後グローバル化が進み多言語対応を行う場合は大きなメリットがある。

日立ビルシステムはEMIEW3の実証実験を進めている。自律移動・対話が可能であり,受付などの業務代替サービスを展開していく。

6. 今後の展望

5章で,従来のビル設備情報に新たに利用者の個の情報を加え,ソリューションとしてロボットを活用するサービスの方向性について述べた。

今後,利用者目線でのソリューションはますます広がっていくことが予想される。

総務省「平成28年版 情報通信白書」において,2015年時点でインターネットにつながるモノの数は154億個であり,2020年までにその約2倍の304億個まで増大すると記載されているとおり,あらゆるモノの情報を取り込むことができるようになる。

ビル管理においても,従来の延長線にある設備制御に加え,ビル内のあらゆるデータを活用しソリューションを提供していくことが必要となる。

日立ビルシステムではIoTプラットフォームLumadaを活用し,蓄積したビッグデータを基に進化するビル,すなわちスマートビルディングを構想している。

オフィスを例に取ると,勤務者が通勤してきた際,本人情報と当日のスケジュール情報を使用し,エレベーターの配車を調整する。ランチタイムには過去の履歴から行く確率が高い店の情報を提供する。また,会話のトーンや顔色から体調を判断し,医療機関を紹介するといった従来のビル管理の枠を超えたソリューションの提供を検討していく。

7. おわりに

本稿では,日立ビルシステムのこれまでの取り組み事例とビル管理の今後の展望について述べた。

「ビルを利用するすべての人々に,安全で,快適な環境を提供し,社会に貢献する。」

これはわれわれの企業理念の一節である。

これまで培ってきた経験,管制センター・技術員といった従来から持っているインフラ資源に加え,新たに開発するデジタル技術・ロボットなどを活用し,よりよい環境作りに貢献していく。

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