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COVER STORY:CONCEPT

OT,IT,プロダクトの融合による魅力あるまちづくり

日立のアーバンソリューション

ハイライト

日立はデジタル技術を活用し,ビルや駅,生活・社会インフラ,モビリティなど「まち」を支える多彩な分野の顧客と協創し,新たな価値の提供を支援している。「まち」に暮らす人々,利用する人々のQoLや体験価値の向上,魅力あるまちづくりをめざす日立の取り組みについて紹介する。

目次

求められる新たな都市開発のあり方

近年,日本では「まちづくり」という言葉が広く使われるようになっている。この言葉の意味は明確に定義されているわけではないものの,単に公園や建物などの都市空間を整備することだけでなく,文化や経済,環境などの要素も含め,自治体や企業と市民が連携して新しいコミュニティを創造していくという文脈で用いられることが多い。

日本における主要都市の多くは近世の城下町や門前町を起源とし,その周辺地域に街道筋の宿場町,水運の拠点となった湊町,商品生産を生業とした在郷町などが自然発生的に形成され,それぞれが地域の結びつきを保ちながら発展してきた。

その後,人口増加と高度経済成長を背景に郊外の造成地へと居住エリアが拡大され,職住の分離が進んだことにより,旧来から日本のまちを支えてきた住民自治の力や共同体意識が希薄になっていった。そして,バブル経済の崩壊や度重なる自然災害を経ることで,さまざまな都市の課題が顕在化し,「まち」というもののあり方への関心が高まっている。最近では,急速に進む少子高齢化の影響で過疎化と都市への人口流入が進み,まちの機能維持や活力・価値向上への取り組みが急務となっている。

世界全体を見ても,都市への人口集中は加速している。国連の「世界都市化予測2014」によれば,新興国を中心とした人口増加によって2030年には世界人口が約85億人に達し,そのうち6割の約51億人が都市に住むと予測されている。都市への人口集中は,交通渋滞やエネルギー・水不足,環境汚染などの問題を生じさせ,大規模災害への対応も難しくしている。

これからの都市には,単に住居や職場としての機能だけでなく,上述の課題を克服し,日々の生活やビジネスをよりよいものにする基盤であることが求められる。そこに暮らす人々のQoL(Quality of Life)向上や,そこを利用する人々の体験価値に着目した技術やサービスによる,「まちづくり」の考え方を取り入れた都市開発が必要となっているのである。

まちのデジタルトランスフォーメーションを促進

現在の社会では,IoT(Internet of Things)技術であらゆるものをネットワークにつなぎ,取得したさまざまなデータをビッグデータ解析,AI(Artificial Intelligence)などの技術を用いて利活用することによって,ビジネスモデルや経済・社会システムを変革するデジタルトランスフォーメーションが進んでいる。その代表がSociety 5.0,日本政府が未来の姿として掲げる超スマート社会の実現へ向けた取り組みであり,急速に発展するデジタル技術を活用することで,これまで以上にきめ細かく利用者のニーズに応えるサービスなどが提供され始めている。

こうした潮流をいち早く捉え,日立は2010年から社会イノベーション事業を推進している。社会イノベーション事業では,日立が社会インフラシステム事業を中心に培ってきた制御・運用技術のOT(Operational Technology)と,最先端のIT,プロダクトをかけ合わせたソリューションを顧客と協創することにより,顧客や社会が直面する課題の解決をめざしている。これは,デジタルトランスフォーメーションによる業務変革や価値創出を支援する事業と言い換えることもできるであろう。

2016年4月には,顧客との協創をさらに加速するため,ビジネスユニット(BU)単位での事業運営を行う体制を導入し,事業構造改革に取り組んできた。さらに,「電力・エネルギー」,「産業・流通・水」,「アーバン」,「金融・公共・ヘルスケア」の4分野を社会イノベーション事業の注力分野として位置づけ,それぞれに担当BUを配して分野別の一体運営を強化している。アーバン分野では,ビルシステムBU,鉄道BU,生活・エコシステム事業,およびオートモティブシステム事業が配置されており,みずからの事業を成長させ拡大するとともに,他事業とのシナジーによって,「まち」における新たな価値創出をめざしている(図1参照)。

図1|アーバンソリューションがめざすもの

まちに関わる事業者が直面する課題

多くの人が住み,働く場所であるまちは,ビル,モビリティ,商業・生産,行政,観光,教育,通信,エネルギー供給など,多様な都市機能によって構成されている。前述のようにまちのあり方や価値が問い直されている中で,それぞれの機能に関わる事業者は,多くの課題に直面している。

例えば,商業ビルやオフィスビルの運営においては,エレベーターや空調の運転最適化による管理コストの削減,安定的なテナント契約につながる付加価値向上が求められている。通信やエネルギーなどのインフラでは,災害対応や安全・安心な供給の維持とコストの最適化が,まちの母体となる自治体では,住民満足度を高めるための施策が模索されている。都市機能の中核となるモビリティでは,鉄道や道路における混雑を緩和して快適な移動を実現することや,エキナカ施設などの集客力アップによる収益拡大などのニーズがある。

そうした課題やニーズに応えるため,アーバンソリューションを提供するにあたっては,事業分野を「ビル街区サービス」,「タウンマネジメント」,「アーバンモビリティ」の3つに大きく分け,他のBUや都市開発・運営のノウハウを持つパートナー企業とも連携しながら,デジタル技術を活用したソリューションを協創している。

3分野それぞれで価値の最大化をめざす

ビル街区サービス事業では,IoT技術を活用してビルの価値を高めるさまざまなサービスを提供する。例えば,空調,照明,防犯カメラ,昇降機などのビル内のさまざまな設備をネットワークにつなぎ,取得した各種のデータと,ビル内の人流データを合わせてリアルタイムに解析することにより,空調や昇降機などの最適な制御を可能にする。また,電力使用量や,温度・湿度などのセンサーデータの分析により,エネルギー使用状況の可視化や省エネルギー化に加え,設備のオペレーションとメンテナンスの最適化を図るファシリティマネジメントサービス,デスクや会議室,オフィススペースの利用状況をセンサーで把握し,稼働効率の最適化を提案するワークプレイス最適化サービスなども提供する。

さらに,テナント企業の働き方改革を支援するソリューションを協創するなど,ビルを所有・管理する人,利用する人の双方にとって快適で価値のあるビル街区をつくり出すことに貢献する。

タウンマネジメント事業では,まちのステークホルダーと連携しながら,商業エリアや地域全体の活性化に向けた課題の抽出から解決まで,顧客と一体となって取り組んでいる。日立は,千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」において,地域全体を効率的に運用・監視・制御できるエリアエネルギー管理システムを開発・提供したほか,最新設備やサービスの導入を継続的に支援し,居住者や来訪者の満足度を向上させる魅力的なまちの整備と運営をサポートしている。こうした事例をはじめとするスマートシティ事業の実績を生かし,先端技術を活用した省資源化の徹底や再生可能エネルギーの効率的な利用など,持続可能なまちの実現に貢献する。

大型商業施設やエキナカを運営する顧客には,鉄道運行システムなどと連携しながら,エリア内の人流をリアルタイムに分析し,デジタルサイネージによる混雑緩和ルートへの誘導,利用者へのタイムリーな情報配信,決済サービスとの連携などにより,売り上げやリピート率を高める活性化ソリューションを提供している。

アーバンモビリティ事業では,鉄道や自動車などの交通インフラ間の連携高度化,マルチモーダルな交通ネットワークの構築により,都市の移動をより快適にすることをめざしている。日立は,鉄道分野では車両から座席予約・運行管理・旅客案内などの各種システムまで総合的に提供しており,自動車分野では基幹部品から自動運転を支援する重要なコンポーネント群やナビゲーションシステムまで,またETC(Electronic Toll Collection System)や交通管制システムなどのITS(Intelligent Transport System)を支えるシステムを提供してきた実績がある。

それらをベースに,デジタル技術を活用して交通機関の運行データや交通需要,混雑状況などのデータを集め,分析することにより,スムーズな乗り継ぎや渋滞緩和,オンデマンドの快適な移動を実現し,駅やまちの集客力の向上を支援する。訪日外国人も増加する中で,さまざまな利用者の利便性を高めるマルチモーダルなナビゲーションサービス,ライドシェアやカーシェアなどのMaaS(Mobility as a Service)にも顧客と共に取り組み,モビリティ分野でもまちの価値最大化に貢献していく。

グローバルな協創で未来のまちづくりに貢献

そうした価値創出を実現するうえで,日立の強みとなるのは,事業を支えるOTを,社会・産業インフラを中心としたさまざまな業界の顧客と共に開発し,運用してきた経験と実績である。顧客の現場を理解し,リアルな課題を把握して解決に導くノウハウも豊富に蓄積しており,OTにITを効果的に融合させたソリューションを提供することができる(図2参照)。

価値創出の基盤となるのは,IoTプラットフォームLumadaをベースとした「アーバンサービスプラットフォーム」である。ここにはエネルギー,ファシリティ,セキュリティ,交通需要分析,送客・誘導,マルチモーダルなどに関して効果実証済みのソリューションをテンプレート化したソリューションコアをそろえており,顧客の課題に応じたデジタルソリューションの協創を短期間で実現する。

アーバンソリューションの提供にあたっては,今後,日本市場はもちろん,北米,欧州,東南アジア・中国などのアジア太平洋地域においてもグローバルに事業を展開し,これまで実績を積み上げてきた日立グループの製品・サービス,ノウハウを,国内外のパートナー企業のソリューションとつなぐことで,それぞれの地域の課題に応えていく。国内・国外を問わず,めざしているのはよりよい利便性や快適性の提供と,持続可能な都市開発である。

人々が暮らし,働き,憩い,楽しむ空間において,デジタル技術の活用による心地よい体験という価値の提供を通じて,超スマート社会を見据えた未来のまちづくりに貢献していく。

図2|アーバン分野の事業戦略

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