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ASEANの中でも政治と経済の安定を両立する国として注目されるマレーシアでは,一層の産業の高度化と都市化が進められている。イスカンダル開発区やSunway Cityを例に,マレーシアでの都市化の実態と日立の取り組みについて,現地マレーシアで事業推進を指揮するChew Huat Sengが報告する。

目次

執筆者紹介

周 発盛Chew Huat Seng

  • 日立アジア(マレーシア)社
  • マネージングディレクター
  • 1993年日立製作所入社,調達,海外営業を経て,グローバル事業推進本部に所属。
  • 2013年Hitachi Asia (Malaysia) Snd. Bhd. のGeneral Manager,2017年より現職。

はじめに──マレーシアの概要

マレーシアは,政治と経済の安定を両立する国としてASEAN(東南アジア諸国連合)の中でもクローズアップされ,日本人が海外移住したい国で2006年より11年連続1位となっていることでも有名である。国土面積は約33万km2で日本の約0.9倍,人口は約3,100万人で三大民族(マレー系,中国系とインド系)を中心に構成される多民族国である。マレーシア経済は2016年に成長率4.2%と減速していたが,2017年に5.4%と大きく回復する見込みであり,今後もさらなる成長が期待される。

政府は,2020年までに先進国の基準とする国民平均年収1万5,000米ドルに達することを目標に,産業の高度化と都市化を進めている。その中で注目すべきは,「国家の成長において都市が重要な役割を果たしており,かつ投資と人材をめぐる競争が都市間で激しさを増している」という認識の下,クアラルンプール,ジョホールバル,クチン,コタキナバルの主要4都市において競争力を高めるためのマスタープラン作成が国家開発政策に含まれていることである。

都市化された国土面積は約4,600 km2で,10年間の増加率は僅か1.5%であり,ASEAN地域平均の2.4%より低い。しかし,マレーシアの都市人口は年平均4%で増加し,都市人口密度は75%(94.21人/km2,2016年統計)で,一部の都市に集中する傾向にある(図1参照)。この状況の中,都市化に伴った諸課題も表面化しつつある。

図1│マレーシアの人口分布

マレーシアの都市化の特徴

マレーシアでの都市開発は主に,(1)政府や州などの官主導による大規模グリーンフィールド開発型,(2)デベロッパーや財閥など民間主導による中規模グリーンフィールドまたは既存タウンシップの再開発,いわゆるブラウンフィールド開発型という2つのタイプに分類される。それぞれの概要などについて以下に述べる。

官主導の開発│イスカンダル開発区

図2│イスカンダル開発区

官主導による大規模開発は,マレーシアの国家ビジョンや国家計画に沿って実施され,マレーシア政府の資金注入のほか,外国資本も含めて広く企業を誘致することをめざす都市開発であり,中国からの投資が大きい点が特徴的である。以下,代表的な経済地域(街区)開発であるイスカンダル開発区の概要についてまとめる。

図2に示すイスカンダル開発区は,マレーシア半島南部,ジョホール州の南部地域約2,300 km2が開発エリアであり,この面積はシンガポールのおよそ3倍に相当する。イスカンダル開発区は,東南アジアの中心に位置し,またセナイ(Senai) 空港,タンジュンペラパス(Tanjung Pelepas)港やジョホール(Johor)港といった物流拠点を近隣に擁し,東西貿易の拠点として機能する最適な立地条件を持つ。また,シンガポールの近傍であることも魅力の一つとして,積極的な投資誘致を行っている。

イスカンダル開発区のビジョンは「国際評価に値する強固かつ持続可能なメトロポリス」であり,政府の強力なサポートの下で,インフラ整備を実施しながら国際都市の実現をめざしている。2006年から2015年にかけ,この地域のインフラ整備に93億リンギット(約2,600億円)の政府投資が実行された。

この地域の開発は,2007年に設立されたイスカンダル地域開発庁(IRDA:Iskandar Regional Development Authority)によって主導されている。このIRDAは,マレーシア首相およびジョホール州長を議長とし,その下にボードメンバーが配置される官主体の組織構成となっている。

イスカンダル開発区は,5つのテーマ(教育・医療,商業・歴史,工業・貿易,石油化学関連と物流ハブ)を持つ地域から成り,世界的にも珍しい大型複合開発区となる。近年では食品分野の誘致も積極的に行われており,ハラルフード(イスラム戒律で食べることが許される食べ物)などの新産業の誘致も計画されている。

イスカンダル開発区への投資国としては,1位が中国,2位がシンガポール,3位が米国,次いで4位が日本となっており,中国の影響が大きいことがうかがえる。この傾向はマレーシアの他の開発においても同様である。例えば,クアラルンプールで現在開発が計画され,高速鉄道の発着駅建設も予定されているバンダル・マレーシア(Bandar Malaysia)と呼ばれる大型開発エリアについても,中国資本の参入計画の話題が多い。

また,イスカンダル開発区のもう一つの特徴として,低炭素社会をめざした取り組み(2025年までに50%の温室効果ガス削減が目標)が実施されていることも挙げられる。住民の生活行動の改善への取り組みや,再生可能エネルギー比率を高めることなどが具体例として掲げられている。

民間主導の開発│Sunway City

図3│Sunway City露天掘り跡の窪(くぼ)地を活用したテーマパーク(Sunway Lagoon)を囲む形で,病院(Sunway Medical Centre),大学(Sunway University),ホテル(Sunway Resort Hotel & Spaなど),ショッピングモール(Sunway Pyramid),オフィス棟,集合住宅などが建ち並ぶ。

民間主導による開発は,マレーシアの財閥や大手デベロッパーにより独自に展開されている。政府主導の都市開発とは異なり,中規模のタウンシップ開発が主流である。近年,日本の大手デベロッパー(三井不動産株式会社,大和ハウス工業株式会社など)も,現地資本との合弁会社を通じてタウンシップの開発(商業・住宅エリア)に参入した。

デベロッパー間の競争が激化し,自社が開発した住宅および商業施設の付加価値を高めるため,個別ビルの開発よりも,住居,商業,教育,医療や娯楽などを含めた複合施設開発を進める傾向が強い。自社でタウンシップ開発を実施することで,保有するプロパティの価値向上を目的としている。

以下に,代表的なデベロッパーであるSunwayグループによるSunway City開発の概要についてまとめる。

Sunwayグループは錫(すず)採掘跡地を活用した都市開発に乗り出し,約2 km2のエリアに,40年をかけて,病院,大学,ホテル,ショッピングモール,オフィス,テーマパークなどから成る独自のタウンシップを開発した(図3参照)。タウンシップはすべて,Sunwayグループの創業者であり現会長でもあるTan Sri Cheah氏の主導によって開発されており,政府の資本は注入されていない。このようにマレーシアにおける民間主導の開発は,創業者のリーダーシップと思いにより実現しているケースが多い点が特徴である。

Sunway Cityは,「住居・商業・教育・医療・娯楽」の5テーマを取り込んだマレーシア初の総合独立タウンシップでもある。また,近年では,Sunwayグループは国連とパートナーシップを結んでSDGs(Sustainable Development Goals)の活動に参画するなど,持続可能な開発をめざしている点も特徴と言える。

以上,マレーシアでの都市開発を2つのタイプに分類して分析した。双方のタイプの開発に共通して言えることは,単に都市化構想の中,利便性や快適性を高める活動にとどまらず,環境や社会に配慮したスマートシティまたは持続可能な開発に取り組もうとしている点である。この傾向はマレーシアにおいて,より一層広まってくると想定される。

マレーシアの「都市化」実態と日立アジア(マレーシア)社の取り組み

都市開発が進んでくる一方,他の国々が直面している都市化の弊害はマレーシアでも起きている。都市の競争力強化をめざしているマレーシアでは「質への転換・効率化重視段階」,「生活の質追求段階」への移行のため,3E+S課題(Energy efficiency, Economic efficiency, EnvironmentとSafety)の対策の必要性を官民とも認識している。開発業者は環境対応などを意識しながら都市開発を計画する傾向が見られる。日立の都市化向けソリューション,例えば,省エネルギーソリューション,スマートファシリティ&アセットマネジメントソリューションなどは,潜在市場に合致するソリューションである。ただし,マレーシアでは外国からの技術と資本の参入障壁が低く,市場参入しやすい反面,競争も激しい。そのため日立アジア(マレーシア)社[Hitachi Asia (Malaysia) Sdn. Bhd.]では,製品販売の,いわゆるプロダクトアウトのビジネス手法ではなくマーケットインの発想で市場に参入すべく,「Customer Concentric」,「Collaborative Creation」と「Co-business」のセット発想で顧客とのパートナーシップを構築し,ソリューションとサービス提案型の社会イノベーション事業を開拓してきた。

Sunwayグループとの協創関係構築による市場参入

前述のSunwayグループは,自前の大型タウンシップを持ち,環境対応とエネルギー効率化による持続可能な都市開発を積極的に推進してきた。日立アジア(マレーシア)社は,単発的なビジネス提案ではなく,日立が優位性を持つ省エネルギー技術をベースに,オーナーの立場と視点でSunway Cityの全主要施設にまたがる一貫性のある中長期エネルギー管理導入計画を提案した(図4参照)。まずは小型案件(ステップ1)から信頼関係を構築し,技術提案型の受注(ステップ2)につなげた。そこから技術指導の協創プロジェクト(ステップ3)に進み,技術協力・共同ビジネス(ステップ4)までをカバーする共同成長ビジネスモデルをめざしている。このような一貫性のある中長期協創計画活動は,Sunwayグループから高く評価されている。

One Hitachiでの対応

Sunwayグループとの協創活動では,複数の技術と製品を含むパッケージ提案が求められたが,単一の事業部やグループ会社での対応には限界があった。そこで,One Hitachiの概念を通じて,日立の総合力を生かしたソリューションパッケージとビジネスモデルを提供し,顧客ニーズに応えた。

図4│Sunwayグループへの中長期エネルギー管理導入提案

おわりに

マレーシアの都市化は環境・経済効率や生活の質への要求が高くなる「高度化フェーズ」に入りつつあり,先進国企業の知見・経験を生かしやすい。特に,急速な都市化を経験した日本の官民の経験と技術は,ビジネス開拓への貢献度が高いと考える。他方,欧州・米国・中国のグローバル企業の参入や地場有力企業の台頭で競争は激化している。

こうした厳しい競争環境の中,我々はマレーシアの都市化過程で起こっている市場ニーズの変化を捉え,日立の持つ総合力を生かして,顧客課題を解決するソリューションの的確な提供と協創のビジネスモデルにより,マレーシアの社会発展に貢献していく考えである。

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