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新たなワークスタイルに向けた日立の取り組み

成長型RPAによる業務自動化領域の拡大

ハイライト

労働力不足の解消や労働生産性の向上を目的に,さまざまな企業でRPAの導入が進みつつある。RPAとは,一般的なロボットと同様,人間と同じように業務を行うソフトウェアロボットによって,間接業務を自動化する仕組みである。

日立は,ソフトウェアロボットによって複数の問い合わせを処理し,確信度に基づいて問い合わせを振り分け,確信度の低い問い合わせは人手で処理して,その結果をソフトウェアロボットが学習することで業務自動化の範囲を広げていく「成長型RPA」を研究している。日立グループの業務をフィールドとして,「帳票確認業務の自動化」と「問い合わせ回答業務の自動化」を対象に実証実験を実施し,それぞれ人手代替率74%および72%を達成した。

目次

執筆者紹介

小林 義行Kobayashi Yoshiyuki

  • 日立製作所 研究開発グループ デジタルテクノロジーイノベーションセンタ メディア知能処理研究部 所属
  • 現在,自然言語処理の研究マネジメントに従事
  • 博士(工学)
  • 人工知能学会会員
  • 情報処理学会会員
  • 言語処理学会会員
  • ACM(Association for Computing Machinery)会員

鈴木 康文Suzuki Yasufumi

  • 日立製作所 研究開発グループ システムイノベーションセンタ システム生産性研究部 所属
  • 現在,システムアーキテクチャの設計・検証技術に関する研究に従事
  • 博士(科学)
  • 情報処理学会会員

本林 正裕Motobayashi Masahiro

  • 日立製作所 研究開発グループ デジタルテクノロジーイノベーションセンタ 知能情報研究部 所属
  • 現在,業務自動化に関する研究開発に従事
  • 博士(工学)
  • 電子情報通信学会会員

岩山 真Iwayama Makoto

  • 日立製作所 研究開発グループ デジタルテクノロジーイノベーションセンタ メディア知能処理研究部 所属
  • 現在,自然言語処理の研究に従事
  • 博士(工学)
  • 人工知能学会会員
  • 情報処理学会会員
  • 言語処理学会会員
  • ACM会員

浅野 優Asano Yu

  • 日立製作所 研究開発グループ デジタルテクノロジーイノベーションセンタ メディア知能処理研究部 所属
  • 現在,対話システムの研究開発に従事
  • 博士(情報科学)
  • 人工知能学会会員
  • 情報処理学会会員
  • セマンティックウェブとオントロジー研究会専門委員
  • LOD(Linked Open Data)チャレンジ実行委員

1. はじめに

労働力不足の解消や労働生産性の向上を目的に,間接業務をソフトウェアロボットによって自動化するRPA(Robotic Process Automation)の導入が,さまざまな企業で進みつつある。ソフトウェアロボットは,一般的なロボットと同様,人間と同じように業務を行う,ソフトウェアに由来する言葉である。

日立は,導入が進んでいるRPAをレベル1「明確にルール化できる業務の自動化」と分類し,今後はレベル2「認識や判断など知的な処理を必要とする業務の自動化」への期待が高まると考えている。

このたび,レベル2のRPAとして,業務成果から徐々に知識を獲得することで業務自動化の範囲を拡大できる「成長型RPA」を開発し,実証実験を行った。本稿では,その成果について報告する。

2. 成長型RPA

成長型RPAは,画像や言語などの非構造化データを入力として受け付け,業務知識に基づいて,適切に処理する業務の自動化を対象とする。業務の自動化における課題は,以下のとおりである。

  1. 非構造化データから業務に必要なデータを抽出できること
  2. 業務をシステム化するうえで,許容できる誤りレベルに応じて自動化率を調整できること
  3. 業務を適切に処理するための知識を,ルール以外の方法で,システムに与えられること

これに対し,日立の成長型RPAでは,以下の方法によって業務の自動化を実現する。

  1. 非構造化データを認識する人工知能[以下,「認識AI(Artificial Intelligence)」と記す。]を使いデータを抽出する。
  2. 認識AIの処理結果を確信度により分類する。
  3. 自動処理できない入力データは人手で処理し,処理結果から認識AIが業務知識を学習する。

その概念的な構成を図1に示す。

入力データを受け取った認識AIが,処理結果を基に,さまざまな属性値を用い,確信度と呼ばれるスコアを出力する。確信度が所定の閾(しきい)値を超えている場合は,認識AIの出力結果のまま処理を終える。そうでない場合は,入力データを人手で処理する。このとき,人手による処理の結果を認識AIの学習用の正解データとして利用する。認識AIはこれを基に徐々に学習することで,業務の自動化範囲を拡大することができる。

図1|成長型RPAの概念図AIが認識した結果を確信度付きで出力し,確信度が高い場合は自動で処理する。確信度が低い場合は人手で処理し,その結果をAIが学習することで,処理できる範囲を広げていく。

3. 帳票確認業務の自動化

3.1 帳票確認業務

この研究では,株式会社日立マネジメントパートナーで実施している帳票確認業務を自動化の対象とした。帳票確認業務の流れを図2に示す。

申請者は取引先などから受け取った請求書の記載内容に基づき,支払い依頼をシステムにて入力・申請する。同時に申請者は,日立マネジメントパートナーへ証拠として請求書原本を送付する。送られた請求書原本は案件ごとに画像データに変換され,入力作業者へ送られる。独立した2名の入力作業者が,請求金額など請求書に記載されている内容を画像データから読み取り,入力する。2名の入力したデータが一致し,かつ,申請者自身が入力・申請したデータと一致するとき,出金処理が実行される。そうでない場合は確認作業者にデータが送られ,データの確認・修正が行われる。

一連の確認作業では,2人の入力作業者と1人の確認者の人手が必要であるため,自動化が望まれていた。

3.2 課題

帳票確認業務の自動化における課題は,以下のとおりである。

  1. 日立グループ内外から送られてくる数万種類の請求書から金額,銀行口座番号などを自動的に読み取ること
  2. 処理できなかった請求書について,同じ形式の請求書が次に送られてきた場合,処理できるようになること
  3. 人手による帳票確認作業よりも低い誤り率で自動化できること

3.3 解決方法

前述の課題に対し,成長型RPAの仕組みを使い,以下の方法で解決を図った。

  1. 「定義レス帳票認識」技術を適用する。従来の帳票認識手法では必要であった請求書の形式ごとの座標定義が不要であり,数万種類の請求書を処理できる。
  2. 正しくデータを読み取れなかった請求書については,帳票ごとに読み取り位置を業務知識として学習し,次に同様の請求書が来たときは新たに蓄積された知識を活用する。
  3. 帳票の認識結果,申請データとの一致具合などを特徴量として確信度を計算し,誤り率が人手による処理以下になるよう振り分け閾値を設定する。

帳票確認自動化後の処理の流れを図3に示す。

この帳票確認自動化システムを用いて,2016年度には日立製作所のデータを対象とした実証実験,2017年度には,日立グループのデータを対象とした実証実験を実施した。2017年度末の時点で,技術的には,毎月数万枚の帳票を確認している業務の74%が自動化できることを確認した。2018年度からは,業務への本番適用を開始している。

図2|帳票確認業務の流れユーザーが入力した支払い請求データと,請求書原本の内容が一致しているかどうかを人手で確認している。

図3|帳票確認自動化処理の流れ「定義レス帳票認識技術」により,請求書からデータを読み取り,申請者が入力したデータと照合する。

4. 問い合わせ回答業務の自動化

4.1 問い合わせ回答業務

この研究では,日立マネジメントパートナーが行っている問い合わせ回答業務の中で,年末調整に関する問い合わせ回答業務を自動化の対象とした。

現在は,コールセンターのオペレータが,ユーザーからの電話での問い合わせに対して回答している。このとき,オペレータは,自分が持つ業務知識や,業務マニュアルに基づいて回答している。ユーザーを待たせないよう,できるだけ短い時間で回答することが望まれる。そのため,オペレータはあらかじめ業務について知識を持っておく必要があり,オペレータの訓練にはコストがかかる。

一方,問い合わせ回答業務では,頻出する問い合わせがある。そのような問い合わせに対しては,あらかじめ回答を準備しておき,システムによって自動的に回答することが望まれる。

4.2 課題

問い合わせ回答業務の自動化における課題は,以下のとおりである。

  1. 自然言語で表現される問い合わせを認識し,適切な回答を出力すること
  2. 問い合わせに対して適切に回答できない場合,必要な業務知識(この場合は,「問い合わせ」と「回答」の関係)を効率よく取得できること
  3. 適切に回答できる問い合わせにだけ回答し,回答できない問い合わせは,オペレータへエスカレーションするなど処理を切り替えること

4.3 解決方法

前節で述べた課題に対し,成長型RPAの仕組みを用いて,以下の方法で解決を図った。

  1. 対話AI(チャットボット)技術を適用する。今回は,間違いなく回答できることを重視して,一問一答型の対話AIを使用した。対話AIのデータベースに,問い合わせと回答の組を登録し,ユーザーからの問い合わせに対して,データベースに登録している問い合わせの中で,類似度が高いものを探し,それに対する回答を出力する。
  2. 適切に回答できなかった問い合わせについては,管理者に,問い合わせ回答データベースへの追加登録を依頼する。次に問い合わせがあったときはこの知識を活用し回答する。
  3. 問い合わせ回答データベース内の問い合わせと,ユーザーの問い合わせの類似度や,問い合わせの文字列長などを特徴量として,回答の正しさの確信度を計算する。

問い合わせ回答自動化処理の流れを図4に示す。

なお,対話AIを適用する場合,システム利用開始時に,十分な量のデータを問い合わせ回答データベースに登録しておく必要がある。実証実験では,業務マニュアルや過去の問い合わせ回答履歴(オペレータの対応報告書)を利用することにより,問い合わせ回答データベースを効率的に構築した。

このシステムを用いて,日立マネジメントパートナーの年末調整を対象とする問い合わせ回答業務において,実証実験を2017年10月から2018年1月にかけて実施した。その結果,法改正による変更がなかったトピックに関しては,コールセンターへの問い合わせが,約72%低減した。また,過去の問い合わせ回答履歴を用いて,問い合わせデータベースへ質問表現を追加し,質問表現の追加に必要なコストの削減効果を評価した。その結果,従来比でコストを約60%削減できることを確認した。

図4|問い合わせ回答自動化処理の流れユーザーへの回答の確信度が高い場合は,回答する。確信度が低い場合は,不足している知識を管理者が追加する。

5. おわりに

日立は,人による認識・判断を必要としてきたオフィス業務の自動化をめざし,成長型RPAを研究している。帳票確認業務の自動化については,業務への本番適用を2018年4月から開始している。また,問い合わせ回答業務の自動化については,2017年度に年末調整向けに実証実験を実施し,効果を確認した。2018年度は,適用する業務の拡大を計画している。

今後は,成長型RPAの適用範囲をさらに拡張し,業務の自動化を進めていく考えである。

参考文献など

1)
浅野優,外:不明点の確認により成長する対話システム,第81回 言語・音声理解と対話処理研究会,pp.66-71(2017.10)
2)
平山淳一,外:仮説検証型アプローチを用いた定義レス非定型帳票認識技術,電子情報通信学会論文誌D,Vol.J97-D,No.12,pp.1797-1808(2014.12)
3)
白井剛,外:対話AI技術の金融サービスへの適用検証,日立評論,Vol.100,No.3,278〜284(2018.5)
4)
日立ニュースリリース,AI技術を活用したロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)システムを開発(2017.6)(PDF形式、723Kバイト)
5)
日立ニュースリリース,自発的に成長する音声対話AI技術を開発(2017.9)(PDF形式、755Kバイト)
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