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新たなワークスタイルに向けた日立の取り組み

デジタル化で楽しく続ける働き方改革

従業員の成長を支援するHappiness Planet

ハイライト

生産性の高い働き方への変革が必要とされているが,決定的な解がないのが現状である。今後,働き方はますます多様化し,従業員が仕事に求めるものも共通ではなくなる。

日立は,従業員が自ら「よりよい仕事をしたい」と思う意思を尊重し,楽しく働き方を改善することを支援するアプリケーション「Happiness Planet」を開発し,62社1,475名の参加者を迎えて公開PoCを行った。このアプリの特長は,毎日働き方に関する小さなチャレンジを宣言させ,その結果をハピネス度などの客観的な指標でフィードバックしたことである。この結果,67%が自主的に働き方チャレンジを実行したと回答し,2週間の参加率も70%前後を維持しており,主体性と継続可能性の効果を確認した。

目次

執筆者紹介

佐藤 信夫Sato Nobuo

  • 日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 所属
  • 現在,信号処理,機械学習および人間行動分析の研究に従事
  • 博士(コンピュータ理工学)
  • IEEE会員
  • 電子情報通信学会会員
  • 情報処理学会会員

辻 聡美Tsuji Satomi

  • 日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 所属
  • 現在,ウェアラブルセンサーによる行動計測データの企業マネジメントへの応用技術に関する研究に従事
  • Academy of Management会員

徳永 竜也Tokunaga Tatsuya

  • 日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ 所属
  • 現在,情報・デジタルソリューション分野に関するUI/UXデザインおよび行動変容デザインの研究に従事

賀 暁琳He Xiaolin

  • 日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ 所属
  • 現在,情報・デジタルソリューション分野に関するUI/UXデザインおよび行動変容デザインの研究に従事

矢野 和男Yano Kazuo

  • 日立製作所 所属
  • 現在,IoTや人工知能などの研究開発に従事
  • 博士(工学)
  • IEEEフェロー
  • 電子情報通信学会会員
  • 応用物理学会会員
  • 日本物理学会会員
  • 人工知能学会会員

1. はじめに

図1|生産性向上のための働き方改革のターゲット制度設計に加え,現場で従業員が成長する仕組みづくりが必要である。

多くの企業が生産性向上のための働き方改革に着手している。その内容として,「長時間労働の是正」,「家庭事情と両立できる職場環境整備」が上位に挙げられており1),健康かつ自由度を高めた働き方を支援するための制度の整備が中心となっている。さらに次のステップとしては組織風土の変革が期待されるが,その方法については決定的な解がないのが現状である。デジタル化や人口減少により労働を取り巻く状況が大きく変化し,さらに多様化が進んでいる現在,現場の従業員それぞれが主体的に必要な方向を判断し,成長するための仕組みづくりが求められている。日立は2004年以来,名札型センサーを用いて1万人分以上の職場のコミュニケーションや組織活性度(ハピネス度)のデータを蓄積・分析してきた2)。ハピネス度は体の揺れから計測する,組織が生き生きしている度合いを示す指標であるが,ハピネス度の高い職場の共通の傾向としては,「権限が委譲されていること」,「新しいことにチャレンジしていること」があり,結果として生産性が高いことを確認した3)。しかしながらハピネス度を上げる具体的な方法には共通点がないことも分かった。早く出社した日の方がハピネス度が高い職場もあれば逆もあり,会話が多い日の方がいい職場もそうでない職場もあった。つまり,職場の文化や業務内容によって活性化する方法は異なるため,試してみないと分からないということである。

そこで,現場の成長を支援する新しい働き方改革のターゲットを定め,従業員が自ら成長するための支援アプリケーション「Happiness Planet」を開発した(図1参照)。本稿では,アプリの概要と,62社1,475名の参加者を迎えて行ったPoC(Proof of Concept)について紹介する。

2. 提案コンセプト

図2|従業員の成長のためのWACモデル従業員一人ひとりがすでに持っている「よりよく仕事をしたい」という意思(Will)を起点として,その実行(Action)と自信の獲得(Confidence)を毎日繰り返すことによって仕事の中での成長をめざす。

従業員が自分の意思で働き方を変えていくためのアプリ設計の基本コンセプトとして,WAC(Will,Action, Confidence)モデルを提案する(図2参照)。これは,従業員一人ひとりがすでに「よりよく仕事をしたい」という意思(Will)を持っているという仮説に基づき,その意思を尊重して,改善の動機にしてもらおうという考え方である。意思とは,「会議を時間どおりに終わらせるように段取りしよう」,「読み手が理解しやすいように資料を作ろう」,「経験のないことを依頼されたが,まずは詳しい人に尋ねよう」といった,仕事の質を高めようとする大なり小なりの能動的な気持ちである。従来の企業主導の業務改善活動の多くは,まず調査によって課題を見つけ,その後に対処法を決めるという手順を取っていた。これはWACモデルの考え方でいうと,Actionから始まることにあたるが,従業員にとっては「やらされ仕事」,「余計な作業が増えた」と感じることにもなりかねなかった。今回提案したモデルでは,本人が改善したいと思う意思(Will)を起点として実行(Action)し,それによって自信を獲得(Confidence)することで,また次の新しいチャレンジをしようという意思につながる。この繰り返しによって,従業員自身が主体的に働き方を変えることを期待するものである。

3. 社内PoC ハピネス運動会

3.1 実施内容

WACモデルのコンセプトを確認するため,日立製作所研究開発グループの10チームで「ハピネス運動会」と称した実証実験を行った。このルールとしては,3週間を実施期間とし,1週目は通常どおりに業務を行い,2週目と3週目にそれぞれ1件ずつ,各チームごとにユニークな働き方チャレンジを設定・実行し,名札型センサーで計測したハピネス度を1週目からの変化量で順位付けし,最も大きく向上したチームが優勝するというものである。働き方改革の一環として総務部が運用をサポートし,本実証実験で主体的にチャレンジが実行されるか,そして飽きずに楽しく続けることができるかを評価した。

3.2 結果

ハピネス度の変化量による順位とそのチームが選んだ働き方チャレンジを紹介すると,1位は「毎日10分程度,軽い運動をする」,2位は「好きな時間に自席以外の場所で作業する」,3位は「毎日職場で挨拶とハイタッチをする」となった。

参加者にインタビューしたところ,ほとんどのチームから楽しく主体的にチャレンジを実行したとの回答が得られ,コンセプトが有効であるという手ごたえを得た。この理由としては,働き方チャレンジを自分たちで考えさせたこと,なるべくユニークなチャレンジを考えるように指示したこと,ハピネス度という客観的な評価基準で競争することでゲーム性を演出したことが奏功したと考えた。働き方チャレンジの内容からも,資料の作り方やプレゼンテーションの仕方など,スキル面でのノウハウではなく,体を動かすことや気分転換を入れること,職場でのコミュニケーションを行うといった職種や担当業務に依存しない項目が有効であると考えられる。

4. 公開PoC Happiness Planet アプリケーション

4.1 アプリケーション開発

図3|Happiness Planet アプリケーション画面WACモデルに沿って設計されており,ユーザーが主体的に働き方チャレンジを宣言・実行する。チーム対抗のゲーム仕立てで楽しく続けられることをねらいとした。

表1|働き方チャレンジの選択肢(抜粋)毎朝の働き方チャレンジの宣言時には,ユーザーに選択肢を提示した。ユーザーはその日の業務を思い浮かべながら,自分でチャレンジを決定する。

社内PoCの成果を踏まえ,総務部のサポートなく従業員それぞれが働き方チャレンジを実行するためのスマートフォン用アプリケーション「Happiness Planet」を開発した。さらに,このアプリを用いて一斉に働き方チャレンジを実行するイベントを開催した。イベントは1回2週間,10名前後のチーム対抗戦とし,アプリ内ではチームは新しい惑星を開拓するために降り立った宇宙船の乗組員であるというゲーム仕立ての設定とした。ルールとしては最終的に2週間のハピネス度によってランキングを決定する方法を踏襲した。ハピネス度は,スマートフォンの加速度センサーを用いた簡易計測技術をアプリに組み込み計測した4)。これによって身体リズムのデータをサーバに集め,集計することでチームのハピネス度を算出できる。

また,毎日の実施事項としてユーザーに依頼することは以下のとおりとした。

  1. 朝に,今日の働き方チャレンジを宣言すること(選択肢から選ぶ)
  2. 午後の3時間,スマートフォンをポケットなどに入れて行動し,加速度を計測すること
  3. 1日3回のランダムな時刻に届く「今なにしてる?」の質問に回答すること(業務別の時間比率を調査するため)
  4. 夜に,今日の働き方チャレンジを実行できたかを報告すること

アプリの画面例を図3に示す。アプリはWACモデルに沿って設計し,働き方チャレンジの宣言,働いている間のハピネス度や業務内容の記録,振り返りのためのデータ提供を行う画面を有する。上述の実施事項を行うとアプリ内でポイントをもらうことができ,トップ画面に表示された惑星が成長していく。さらに,毎朝働き方チャレンジを宣言する際には選択肢を提供した(表1参照)。ユーザーは独自の働き方チャレンジを設定することも可能である。

アプリの設計のねらいとしては,(1)ユーザーが主体性を持って働き方チャレンジの宣言を行うこと,(2)ユーザーが楽しんで継続できることを重視した。これは,他者から強制されるのではなく自発的に取り組むことで,自信を得やすくなると考えたからである。また従業員の成長のためにはWACモデルにおける毎日の小さなサイクルを継続することが重要であるため,楽しませることが必要だと考えた。一方で,1日の結果として働き方チャレンジを実施できたかどうかは重要視しなかった。実施率を上げるために簡単なチャレンジだけを選択するのでは価値が低く,今日のチャレンジを実現しようと意識して仕事に臨むことが最も重要であると考えていたためである。

4.2 PoC実施概要

このアプリによってねらいどおりの効果が得られるかを確認するため,公開募集を行ってPoCを実施した。PoCは展示会やニュースリリースなどを通じて案内した。実証実験は2018年2月8日〜2月21日の2週間にわたって行われ,その結果,最終的に62社から1,475名,117チームの参加が得られた。

4.3 結果

4.1節で述べたように,アプリの2つのねらいである,(1)主体性,(2)継続可能性に関して評価した。まず,ユーザーのログから2週間の活動状況の変化を確認すると,毎朝のチャレンジ宣言は期間を通じて約70%を維持しており,参加のモチベーションが維持されたことを確認した(図4参照)。また,PoC終了後のアンケートより,毎日働き方チャレンジを実行しようと強い意思を持っていた人が全参加者の67%と高く,受け身ではなく主体的にチャレンジを実行しようとしていたことを確認した(図5参照)。さらに,このPoCに参加したことが楽しかったと回答した人が54%であった。具体的な理由としては,「毎日目標を意識した働き方ができた」,「働き方チャレンジを行うとゲーム内でポイントがもらえるのが励みになった」,「チーム内の働き方チャレンジが一覧表示されたので,互いを応援する雰囲気ができた」,「同じ職場の参加者どうしで話をするきっかけが増えた」といった点が挙げられており,ユーザーが楽しんで働き方改革を行ったと言える手ごたえを得た。これらの結果から,従業員の主体性と継続可能性の2点について,このアプリの有効性を確認した。

図4|働き方チャレンジのモチベーションの持続2週間の期間を通して,参加者の70%前後が朝のチャレンジ宣言を実施しており,参加のモチベーションが下がらなかったことを確認した。また,チャレンジの成功率も50%前後を維持しており,適度な難易度のものが選択されていたと言える。

図5|実験終了後のアンケート回答結果日々の働き方チャレンジに関する2つの問いに対する回答を示す。

5. おわりに

時代の変化の中で,働き方については経営・人事戦略の両面から検討と実践の蓄積が必要となっている。現場に必要なものを最も理解している従業員自身の成長を支援することが,企業の生産性向上のポテンシャルを高めることにつながると考える。Happiness Planetの構想においては,一人ひとりの意思を尊重し,毎日の仕事を楽しんで経験を積むプロセスを設計したことがユーザーの主体的な参画を促したものと考えている。多くの働く人々にさらに貢献できるよう,引き続きアプリやサービスのブラッシュアップを進めていく計画である。

参考文献など

1)
エン・ジャパン株式会社:人事のミカタ アンケート(2017.5)
2)
辻聡美,外:職場を測る―社員個別の力を引き出すセンサ技術応用,精密工学会誌,83巻,12号(2017)
3)
日立ニュースリリース,AIの働き方アドバイスが職場の幸福感向上に寄与(2017.6)
4)
日立ニュースリリース,幸福感を計測するスマートフォン向けの技術を開発(2017.10)
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