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基礎探索

研究開発

1. シリコンCMOS量子コンピュータ向け高感度読出し検出技術

1.シリコンCMOS量子ビットのイメージ図シリコンCMOS量子ビットのイメージ図

日立ケンブリッジラボでは,複雑かつ高速な計算を必要とする社会課題解決のため,超高速計算が期待できる量子コンピューティング技術を研究している。将来的なスケーラビリティや従来回路との接続性を考慮し,シリコンCMOS(Complementary Metal-oxide-semiconductor)による量子技術をめざしている。

今回,ケンブリッジ大学,UCL(University College London),CEA-LETI(フランスの原子力代替エネルギー庁-電子情報技術研究所)との共同研究で,シリコン量子ビットで最高感度の読出し技術を実証した。電荷検出感度は1.3μe/で,これまで報告されているシリコンベース量子ビット読出し感度と比較して5倍高いものであり,この成果は,量子コンピューティングの実現に一歩近づくものである。

この研究は,欧州連合(European Union)のHorizon 2020研究およびイノベーションプログラムからの助成金(No 688539:MOS-Quitoプロジェクト)で実施されたもので,2018年7月19日,Physical Review AppliedオンラインよりEditor's Suggestion(要注目論文)として掲載された。

2. 事実上解読が不可能なレベルの暗号通信装置

2.試作した暗号通信装置本体(右)およびノイズ発生部(左)試作した暗号通信装置本体(右)およびノイズ発生部(左)

情報セキュリティは現代社会における最重要課題の一つである。そこで,ランダムなノイズ(ビット誤り)が予測できないことを利用して,宇宙年齢(138億年)をかけても暗号解読が事実上不可能なレベルの安全性を有する暗号通信装置を試作した。

この装置では,メッセージ伝送に先立ち,ノイズを重畳した乱数を送受信し,それを基にしてノイズに相当する分量の暗号鍵を生成して,メッセージを安全に暗号通信する。正規受信者だけはノイズを除去できる必要があるので,誤り訂正符号と呼ばれる技術と送受信者間であらかじめ共有した共通鍵を利用する。

本装置はLAN(Local Area Network)ケーブルを差し込むだけで伝送距離無制限で使用可能であり,これによりオープンネットワーク上に世界規模の安全な閉じたネットワークを構築できる。適用先はエネルギー,鉄道管理,防衛,金融,病院間ネットワークなどが考えられる。

3. 日立神戸ラボにおける再生医療研究の取り組み

3.iPS細胞大量自動培養装置iPS細胞大量自動培養装置

神戸医療産業都市は日本最大級のメディカルクラスターであり,同推進機構理事長の本庶佑先生が,2018年のノーベル医学・生理学賞を受賞したことは記憶に新しい。2017年で構想開始から20周年を迎え,330を超える国内外の企業や団体が集積し,再生医療の重要拠点として成長を続けている。

日立はこれまで再生医療向け細胞自動培養技術の研究開発を行ってきたが,2017年に神戸医療産業都市に日立神戸ラボを設立し,その拠点を神戸に移した。現在は,京都大学・大日本住友製薬株式会社と共同で,パーキンソン病の再生医療用細胞製造に向けた基盤技術開発を行っている。大日本住友製薬の実験室に日立が開発したiPS(induced Pluripotent Stem)細胞大量自動培養装置を設置して双方が率直に議論できる環境を構築し,研究の加速を図っている。なお,この装置は日刊工業新聞社主催の2017年第60回十大新製品賞本賞を受賞した。

また,2017年から眼科領域の統合ケアを提供する神戸アイセンターのオープンラボに参画し,再生医療やロービジョンケアにおける新規シーズの探索に取り組んでいる。国立研究開発法人理化学研究所とも共同研究を推進中であり,トップリーダーと共にオープンイノベーションによる再生医療への貢献をめざす。なお,本研究の一部は国立研究開発法人日本医療研究開発機(AMED)の「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業」の支援により行った。

4. 尿中腫瘍マーカーによるがん検査技術

4.尿中腫瘍マーカー抽出の様子尿中腫瘍マーカー抽出の様子

現在,血液を中心に次世代がん検査技術の開発競争が世界中で行われている。血液を用いた場合には病院での採血が必須となるが,日本におけるがん検診受診率が低い主な理由は病院に行く時間がないことであり,この課題を解決するには,血液を自分自身で採取可能な検体に変えることが一つの有効な手段である。この観点から,尿中代謝物を用いた新たながん検査技術の開発を進めている。

この開発では,できるだけ多くの尿中代謝物を検出して,その中から健常者に対してがん患者で有意に増減している代謝物を抽出する必要がある。このため,複数の分離モードを有する液体クロマトグラフ質量分析計による代謝物の網羅的解析技術と,統計解析/機械学習/多変量解析より成る腫瘍マーカー抽出技術から構成された解析フローを開発し,尿中腫瘍マーカーを用いたがん検査モデルを新たに構築した。これまでに小児がん,胆道がんなどへ適用したところ,健常者とがん患者が明確に識別でき,提案したがん検査モデルの妥当性が検証できた。

5. 原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡の高性能化と新しい二重スリット実験

5.世界最高分解能で観察に成功した材料内部の磁場分布(上),観察に使用した原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡(下)世界最高分解能で観察に成功した材料内部の磁場分布(上),観察に使用した原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡(下)

持続可能な社会の実現に向けて,エネルギー効率を革新する磁石や天然ガス利用化学プラントの生産性を革新する触媒など,高機能性材料の進化が求められている。そのために,電子顕微鏡には原子レベルの反応過程を鮮明な高分解能画像で観察することが期待されている。日立は,原子分解能・超高圧ホログラフィー電子顕微鏡※)において,材料内部の磁場分布を0.67 nmの世界最高分解能で観察することに成功し,さらに試料を照明する電子ビームの指向性と明るさを示す性能指標である「輝度」の世界最高値3x1014A/m2srを実現した。これにより材料の反応過程における電磁場や構造を原子レベルでより鮮明に観察できるようになった。

一方,高輝度の電子ビームを応用して量子力学の根幹に迫るべく,理化学研究所と大阪府立大学との共同で,電子の持つ波動/粒子の二重性の理解を深め,不確定性原理と干渉現象との関係を実験的に捉える新しい二重スリット実験に挑戦している。

※)
「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」の助成を受けて開発

6. 三次元X線サーモグラフィー

6.ヒーターで加熱された水の三次元温度分布像ヒーターで加熱された水の三次元温度分布像

持続可能な低炭素社会の実現には熱の効率的な制御(サーマルマネジメント)が不可欠である。本研究では,同制御技術の実現に向けて,物体内部の温度を非破壊で計測できる「三次元X線サーモグラフィー」の開発を行っている。

これは,物質に対するX線の高い透過能と,X線の位相情報を用いた高感度なイメージング法(位相イメージング法)を組み合わせ,熱膨張に伴う電子密度の変化から温度の変化を検出する新しいタイプのサーモグラフィーである。これまでに,放射光を光源とする日立独自の撮像システムを用いて,加熱に伴う水やオイルの温度変化の経時的な二次元観察などを行っている。今回,CT(Computed Tomography)の原理を適用することで,ヒーターで加熱したチューブ内の水の温度を世界で初めて三次元的に計測することに成功した。

今後,パワーデバイスや電池のオペランド状態でのリアルタイム温度計測などへの応用を進めると同時に,有機材料やバイオメディカル分野への展開も行っていく。

7. なりすまし防止機能を搭載したクラウド連携型呼気アルコール検知器を用いた社会実証実験

7.呼気アルコール検知器と実証試験の概要呼気アルコール検知器と実証試験の概要

2018年5月26日に国家戦略特区の兵庫県養父市で開業した自家用有償旅客運送事業「やぶくる」において,クラウド連携型呼気アルコール検知器を用いた実証試験を開始した。

「やぶくる」は,市内指定地域の短距離輸送手段として,市民ドライバーの自家用車を活用し,市民,観光客を輸送する取り組みである。日立は,市民ドライバーへアルコール検知器の貸し出しと,運行管理者へ各ドライバーの配車支援およびドライバー呼気計測結果をチェックするクラウドシステムを提供している。アルコール検知器は,独自の呼気認識機能と顔画像の取得により,なりすましなどの不正利用を防止する機能を有している。

この実証結果を活用して検知器の改良を進めるとともに,養父市と同様のニーズを有する自治体のほか,バス・タクシーといった旅客運送のみならず貨物などの運送事業者において,ドライバーの働き方改革も視野に入れながら,安全運行体制の構築に寄与するシステムの開発を進めていく。

8. 一人ひとりに合わせた働き方改革を支援するHappiness Planet

Happiness Planetはテクノロジーと人の力を組み合わせて世界を活性化するための取り組みである。2018年9月に公開実証実験を行い,約100社175チーム1,623名の参加を得て,働き方改革が能動的に楽しく続けられることを確認した。

スマートフォンのアプリ上で働き方に関心のある人が集まり,毎日の働き方チャレンジを宣言することでワクワクする気持ちが連鎖するバーチャルな空間を提供する。さらに,ハピネス度計測技術によって,働き方チャレンジに対するハピネス度向上効果を客観的な指標で付与する。

ハピネス度とは,加速度センサーによって計測した身体のリズムによって算出される客観的な指標であり,活発に人と議論したり執筆に没頭したりしていると高くなる傾向がある。これを毎日の体温を測る温度計のように利用することで,一人ひとりが自分の強みを生かす働き方を見つけ,さらには組織や社会全体が活性化していくことを支援する。

8.クラウドサービス「Happiness Planet」の利用画面と働き方改革の取り組みクラウドサービス「Happiness Planet」の利用画面と働き方改革の取り組み

9. 燃料の種別や混合状態に応じたエンジン制御を行うAI技術

9.評価用エンジンシステム評価用エンジンシステム

低炭素社会の実現に向けて,バイオ燃料(エタノールやメタンなど)や水素の利用拡大が期待されている中,日立は燃料の種別や混合状態に応じて発電用エンジンの燃焼制御を行う,AI(Artificial Intelligence)技術を開発した。

本技術は発電用エンジンのシリンダー内の圧力データを利用し,多種の燃料を用いた場合でも安定したエンジン燃焼を可能とする。具体的にはニューラルネットワークを用いた燃料の状態に即した制御値の調整方法の学習と,学習用の圧力データなどのデータ収集を繰り返す自己学習により,燃料の種別や混合状態に応じたエンジン制御を行う。開発したAI技術により,エンジン燃料としてバイオ燃料や水素などを混合した条件において,燃焼変動率3%以下の安定したエンジン燃焼を達成した。

今後は,この技術を活用し,低炭素社会に向けた地域エネルギーシステムの早期実現をめざす。

10. 日立東大ラボ:ハビタット・イノベーション

10.2018年6月13日に開催した産学協創フォーラムの様子2018年6月13日に開催した産学協創フォーラムの様子

先進国を中心に環境,高齢化,インフラ老朽化などの社会課題が顕在化している。データの活用によりこれらを解決するSociety 5.0の実現をめざし,日立は東京大学との協創によって創生したビジョンの下で,社会課題解決を図る。

日立東大ラボでは,社会課題を,社会構造の転換,技術革新,個人のWell-Beingの3項で解決していくことで,未来の都市を創る(ハビタット・イノベーション)という考え方の下,文理の枠を越えた継続的な議論と,ソリューションの創生を行っている。

2018年6月に開催したオープンフォーラムでは,開発技術の進捗を報告するとともに,有識者をパネラーに招いたパネルディスカッションを通し,データ活用により広がる世界と課題について議論した。さらに共同研究の成果や討論内容を基に取りまとめた書籍を発刊した。

今後,継続して情報発信を行うと同時に,得られた知見も含めて未来の都市像やサービスの具体化,課題の共有を進める。加えてデータ駆動型社会実現へ向けた提言,事業化へ向け社内外の関係者との協創を進める。

11. 日立京大ラボ:「AI政策提言」未来シナリオの導出

11.未来シナリオが分岐する過程(2018〜2052年)未来シナリオが分岐する過程(2018〜2052年)

日本では,少子高齢化や産業構造の変化に伴って,成長・拡大時代からポスト成長(非成長・非拡大)時代へのパラダイム・シフトが起こりつつあり,(1)人口や出生率,(2)財政や社会保障,(3)都市や地域,(4)環境や資源などの持続可能性や,(5)雇用の維持,(6)格差の解消,およびそこで生きる人間の(7)幸福,(8)健康の維持・増進が大きな社会課題となっている。

今回,社会モデルを基に起こりえる多様な未来シナリオ間の分岐構造と分岐の要因を示す「政策提言AI」を開発した。開発したAIにより,京都大学の有識者と協力して2050年の日本の持続可能性について解析を行った結果,将来の日本には,都市集中シナリオと地方分散シナリオの2つの可能性があり,2つのシナリオの分岐が今から10年程度後に起こることが明らかになった。

今後,京都大学との連携を起点として政府・地方自治体などと協力し,開発した「政策提言AI」を実際の政策決定プロセスの中で利用していきたいと考えている。

12. 日立北大ラボ:「女性,子どもと高齢者にやさしい社会」の実現に向けた協創

12.岩見沢市における母子健康調査の概要岩見沢市における母子健康調査の概要

少子高齢化と人口減少の進展に伴い,社会保障の再構築,地域活性および地方創生は喫緊の課題である。日立は共同研究企業などと共に,将来を担う子どもたちの健やかな成長と発達をめざした「岩見沢市における母子健康調査」に協力している。

この調査は,事業主体である北海道岩見沢市が北海道大学COI「食と健康の達人」拠点と共同で企画,実施するものであり,岩見沢市で暮らす妊婦とその子どもを対象として,妊娠中の環境や,出産から学童期に至る子どもの生活習慣および健康状態を継続的に調べる,世界的にも前例のない取り組みである。その目的は,子どもの成長発達に影響を与える因子やさまざまな疾患の原因を明らかにして,出生率の向上や低出生体重児の減少に寄与することである。

子どもの健康支援は本人の幸せや健康寿命の延伸とともに,子育て支援や医療費削減の礎になり得る。社会システムの再構築に向けて,日立は産学官地域との協創活動も進めていく。

この研究は,文部科学省・国立研究開発法人科学技術振興機構による「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」によって行われている。

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