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COVER STORY:ACTIVITIES2

グローバルな社会インフラとなるIoT構築に向けて

組織やマインドの壁を越えて連携していくために

ハイライト

デジタル技術の飛躍的な発展により,あらゆるものがインターネットにつながることによって新たな価値を創出するIoT時代を迎えている。膨大なデータを社会課題の解決に生かすには,高度な分析・解析結果を現実世界にいかにフィードバックしていくかが最大のカギとなる。そしてその解はデジタル技術の先の多種多様な「現場」にある。

Googleは検索エンジンをはじめ,多くのサービスをグローバルに提供するとともに,世界を変えるイノベーションを生み出し続けている。その日本法人でテクニカル部門を取りまとめる佐藤聖規氏を迎え,「オープン」や「安全と信頼」などのテーマを巡ってシステム開発の新しい形について語り合った。

目次

社会課題の解決とQoLが両立する未来へ

佐藤 聖規
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 Google Cloud カスタマーエンジニア 技術部長

岩嵜Google※1)と言えば,今や世界中の子どもたちもよく知っている会社です。私自身,研究者としては論文や資料を探すために毎日利用していますし,個人ユーザーとしてもYouTubeの映像を楽しんだりニュースを見たり,また国内外のどこへ行くのにもGoogleマップは欠かせません。まさに生活の隅々まで行き届いたGoogleのサービスはすでに社会インフラの一部と言えると思います。

佐藤ありがとうございます。Googleは,「世界中の情報を整理し,世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」をミッションに,製品を通じて世界中の皆さんに情報へのアクセスや便利な機能を提供しています。私たちのチームは,そうした多くのGoogleプロダクトを支えているテクノロジーを,お客様がビジネスで利用できるようにするGoogle Cloudを担当しています。例えば,Googleは,一般の利用者向けに無償でGmailやGoogleカレンダー,チャット,ビデオ会議などを提供していますが,Google Cloudでは,これをビジネスユースに最適化し,G Suiteとして提供したり,Google Cloud Platformでは,コンピュータリソースやデータ分析,AI(Artificial Intelligence)といった各種サービスをを“Pay as you go(従量課金)”で提供しています。これらのサービスを企業のお客様にも快適に,安心して利用していただき,高い経験価値を迅速に提供していくための改良や性能向上に日々取り組んでいます。

岩嵜一方,日立は電力,鉄道・交通,ビル,水道などを支える機器や制御システム,あるいは金融・公共機関などのITシステムといったさまざまな社会インフラの構築や運用を支えてきました。昨今,日本政府が掲げるSociety 5.0をはじめ,IT分野のサイバーテクノロジーと現実世界におけるフィジカルテクノロジーが融合するCPS(Cyber Physical Systems)により,現代社会が抱える課題を解決し,より良いQoL(Quality of Life)を実現する持続可能な社会が期待されています。その実現をめざすうえで,互いに得意とする分野は違いますが,新たな社会インフラを担っていく企業として,Googleと日立には共通するところがあるように思います。

佐藤Googleは創業から約20年間,インターネットを主な範囲としてきましたが,最近は,IoT(Internet of Things)の分野に関わるプロダクトの提供も本格化しています。私たちは鉄道や交通・ビルといった特定の産業に特化したプロダクトは用意していませんので,日立をはじめパートナー企業と協力しながら,より良い未来社会の実現に貢献していきたいと考えています。

※1)
Googleおよび本文中に登場する同社のサービス,製品名称は,Google LLCの商標または登録商標である。

サイバーとフィジカルの融合によって生まれる新しい価値

岩嵜デジタルトランスフォーメーション,デジタルツイン,先ほどのCPSなど,さまざまな呼び方はありますが,以前から予想され,部分的には実現していたIoTの世界がいよいよ現実味を帯びてきています。特にAIをはじめとするデジタル技術の飛躍的な進化が大きな要因となっていますが,この分野をリードするGoogleの最新の取り組みをご紹介していただけますか。

佐藤ご指摘のトレンドの中で,現実世界にあるエッジ端末,つまりさまざまな機器や制御システム,これらをクラウドコンピュータにつなぎ,そこから集められたデータを活用したいというニーズが高まっています。これに応えるのが私たちが手がけるCloud IoTです。さまざまなプロダクトを含むソリューションマップのような製品なのですが,これにより,エッジデータをクラウドにリアルタイムかつ高速につなぎ,データを効率的に分析し,ビジネスの迅速な意思決定を支援する洞察を得ることができます。またEdge TPU(Tensor Processing Unit)というTensorFlow専用のハードウェアアクセラレータチップを用いれば,エッジ側でAI機能を拡張し,詳細かつ迅速なデータ分析をローカルで行うことも可能になります。製造現場での装置の異常検知やメンテナンス時期の自動予測,ロジスティクスシステムでの車両・在庫・荷物管理など,さまざまな応用分野で実績を上げています。

岩嵜私たちがOT(Operational Technology)と呼んでいる制御の領域でもこれまで何度かクラウド導入が検討されてきましたが,これらのシステムには極めて厳密なリアルタイムレスポンスが求められることが多く,その制約条件を満足させるのは容易ではありませんでした。また,セキュリティなどの用途で監視カメラの大量の映像データを扱う場合,膨大な高精細ビデオデータをクラウドにすべて上げるのは現実的ではない。かと言ってエッジ側で処理するとなると今度は計算機パワーが不足してしまうといったあたりが最後まで障害になります。ご紹介のEdge TPUはこうした課題を乗り越えるテクノロジーとして注目しており,まずは効果検証を重ねながら私たちが展開するLumadaの中にも組み込んでいきたいと思っています。

佐藤私たちが行った画像認識の実証デモの一つでは,従来のクラウド環境より,エッジ側で処理したほうが100倍近く高速だったという結果が出ています。効果検証については評価キットを提供していますし,映像データの場合でも,例えばエッジ側の処理により特定のシーンだけを選別することなども可能になると思います。

常にオープンであるという前提条件

岩嵜 正明
日立製作所 研究開発グループ 技師長

岩嵜人々の生活や社会全体の営みに関わるさまざまなシステムがつながり合うためには,それらを接続するインタフェースが共通化されることが不可欠です。そのために現在,私たちを含め多くの企業がソフトウェアのOSS(Open Source Software)化やOSSの取り込みを積極的に進めています。特にGoogleは自社のクラウドサービスで実績のあるコンテナ技術をOSS化し,業界のデファクト標準の確立に大きく貢献されていますね。

佐藤オープンであることはGoogleの企業文化であり,社内で使われている技術の多くを論文やOSSといった形で公開しています。なぜならテクノロジーはオープンにしたほうがお客様をはじめとしたユーザーの皆様に「快適なエクスペリエンス」をいち早く実現できると考えるからです。

Googleでは15年以上前からBorgというコンテナ技術を自社のプロダクトで使っており,Borgを基に設計されたOSSプラットフォームがKubernetes※2)です。これをGoogleのクラウド上で運用すれば,もちろん多くのメリットを得られますが,OSSで公開したことでそれ以外のオンプレミスやクラウドでも運用することが可能になりました。つまり,オープンソースであれば場所を選ばず,世界中のどこでもシステム運用が可能になるわけです。現在,KubernetesはGoogleだけで開発してるのではなく,Cloud Native Computing Foundation(CNCF)という団体でさまざまな企業,開発者とともに開発が行われています。Googleからも常に実績をフィードバックし,これを中心とするエコシステムのさらなる拡充を図っています。

岩嵜コンテナ技術は,ソフトウェア開発の迅速化に重要な役割を果たしており,新しいアイデアをソフトウェアとして実装し,実用化するスピードを格段に向上させていますね。

日立を含めて従来のモノづくり企業では長い間,自分たち自身が知り尽くした技術で作った確かなプロダクトをお客様に納めるという自前主義の考え方が主流でした。しかし大規模かつ複雑に広がった現在の社会システムを一社だけで提供することは到底不可能ですし,システム単体よりも他のシステムと「つなぐ」ことで生まれる価値へとビジネスの中心が移ってくる中,デファクト標準を前提に,他社やパートナーのシステムや技術と連携し,自分たちの得意な面も生かしながら全体システムとしての最適解をお客様に提供していくことが求められるように変わってきています。

日立のLumadaにもOSSのデファクト標準としてKubernetesのコンテナ技術を採用していますが,今後は多様なお客様ごとのニーズにきめ細かく応えるソリューションを展開していきたいと考えています。

※2)
Kubernetesは,The Linux Foundationの商標である。

IoT時代の「安全と信頼」を確立するために

岩嵜日立が長年,手がけてきた社会インフラを支えるシステムには絶対的な安定性,そして長期間にわたる持続性が求められます。「安全と信頼」を第一とする考えは創業以来の企業文化とも言えるものです。しかし安定稼働を優先する結果,完成してお客様に納品後,稼働しているシステムに機能拡張やバージョンアップなどの変更を加えることが容易ではない場合が多々あります。一方,ソフトウェアがオープン化し,さまざまな外部リソースを活用する昨今ではバージョンアップが欠かせません。世界中のサービスが次々に変わり続ける中,今までとは根本的に異なる発想で安全と信頼を考え直さなければいけないと感じています。

佐藤システムは変更し続けなければ,イノベーションを起こすことはできません。強固なセキュリティを確保しながら,お客様へ新しい価値を提供するためにソフトウェアのバージョンアップは必須と考えています。

安全と信頼を損なうことなく,いかにシステム変更を実行するか。先ほどのKubernetesはそのための技術を多く備えています。例えば,変更を加えたことでシステムに何らかの不具合が生じた際,いかに速く,いかに的確に復旧させるかという切り戻し手順に関する技術や,何が起こってもシステムを決して止めない絶対的な安定性のために,複数のデータセンターを一つのコンピュータとして捉えて分散処理を行う「Data Center as a Computer」といった手法を開発し,その実績も論文やOSSとして公開しています。

もう一つは,やはり人財です。GoogleではSite Reliability Engineerというエンジニアをおいています。彼らの役割は,サイト運用をソフトウェアの問題として扱いながら信頼性を上げることであり,安定性か迅速さか,運用作業かSoftware Engineeringか,プロアクティブかリアクティブかといった二律背反をいかに高次で解決するかという課題に常に取り組んでいます。

そして最後は組織と企業文化です。これは一朝一夕に作られるものではありませんが,Googleは組織全体の生産性とともに一人ひとりのマインドに関する研究を行っています。例えば,パフォーマンスが高いチームに関する研究では各人の「心理的安全性」が重要だという結果が出ています。つまりどれほど突飛なアイデアでも遠慮せずに発言できるような人間関係や環境が重要だということです。また変化に対して誰もが抱く心理的抵抗を解消するために,変化に伴う効用を丁寧に説明するChange Managementにも積極的に取り組んでいます。

岩嵜組織と企業文化は非常に重要ですね。日立でも特に高い安全と信頼が求められる鉄道や金融などのシステムを調べると,何十年も前から三重系ロジックが採用されていたり,ローリングアップデートが行われていたりと多くの工夫が施されています。これらのシステムを手掛けた先人たちの尽力に改めて敬意を払いながらも,ソフトウェアの進化が速いIoT時代においては,一つのシステムを精緻に作り込むアプローチのみでは要求水準の安全と信頼を確保することはできないでしょう。

これからの日立は安全と信頼を第一とする考え方はそのまま保ちながら,まったく新しい技術を駆使してそうした価値を実現できる企業に進化していきたいと思います。そのためには,Googleをはじめ若くて活気あるパートナーと組み,新しい技術や手法だけでなく,スピード感やオープンな姿勢も含めて学んでいくことが重要だと考えています。ぜひオープンに技術や文化の交流を深めていきたいと思います。本日はありがとうございました。

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