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COVER STORY:CONCEPT

環境変化への柔軟な対応で成長を支える

経営革新をリードする知的財産・モノづくり・人財教育

ハイライト

グローバル化とデジタル変革が加速する中で,企業では絶えざる変化に対応するための経営改革が喫緊の課題となっている。日立グループは組織のあらゆる領域で改革を進めており,フロント部門だけでなく企業活動の基盤となるコーポレート部門の強化にも力を入れている。

企業を取り巻く経営環境の変化やマクロトレンドをみずからの優位性としていくためには,どのような変革が必要なのか。経営や組織の基盤である知的財産,モノづくり,人財育成のキーパーソンに,それぞれの分野における変革のビジョンと取り組みについて聞いた。

目次

環境変化に伴い,変わる概念

戸田 裕二

戸田 裕二
日立製作所 知的財産本部 本部長

今日,経営のグローバル化やデジタライゼーションの進展によって,企業を取り巻く環境が大きく変化しています。それぞれの立場から変化をどう捉えていますか。

戸田知財(知的財産)は無形資産ですが,これまではその中でも特許や商標のように把握しやすく,目に見えやすいものの保護が中心でした。しかし,デジタル化によってデータ,ノウハウ,経験,知見といった,把握しにくく目に見えない要素の重要性が高まり,それらも広い意味で知財と捉えられるようになっています。今後,「デジタル」と「グローバル」が企業経営に一層浸透していく中で,概念が拡大した知財はビジネスの「一丁目一番地」と位置づけられるぐらい重要な要素になると考えています。

菅原これからのビジネスでは非連続な成長,例えばM&A(Merger and Acquisition)で技術やビジネス基盤を一気に取り込むといったことが頻繁に起きると考えています。それによってモノづくりの領域では,それまで築いてきた生産方式やシステムの統合・統一などのドラスティックな変化に対応することが求められます。社会の変化するスピードも速まっており,マザー工場を中心とした従前のモノづくりという概念や体制を見直す時代になっています。

有吉人財育成,教育の領域に関わる大きな変化はダイバーシティの急速な高まりです。以前は意識してダイバーシティを高めようとしてきましたが,M&Aが行われると必然的に,かつ急激に高まるため,それにしっかりと対応しなければなりません。そのため,グローバルな視野でのリーダー候補の育成や,技術教育も世界一律ではなく各国・地域の拠点ごとに適したプログラムを設定するなど,変化に即した改革に取り組み始めています。

グローバル化の中身が変化,新たなスキルも必要に

菅原 貞幸

菅原 貞幸
日立製作所 モノづくり戦略本部 本部長

そのような環境変化をみずからの優位性に結びつけるために必要な取り組みについてお聞かせください。まず経営のグローバル化についてはいかがでしょうか。

戸田私が入社した1980年代は,知財活動のグローバル化とは海外特許を出し,権利保護やライセンス契約に役立てることでした。当時,エレクトロニクス分野では日米の企業間での特許係争などもあり,今とは異なる形でグローバル化の試練を受けていたと言えます。その後は日立の事業構造改革に伴い,よりビジネスの根幹に近い部分での知財活用が求められるようになっています。データを活用した海外企業との協創といったグローバルビジネスでは,冒頭で述べたような広い概念の知財の取り扱いが成功のカギとなります。国や地域によって異なるルールなどに対応することが欠かせないため,知財系の人財と,英語が堪能な法務系の人財がペアを組んで契約をサポートしています。

また,グローバル化を含めた昨今の環境変化によってビジネス戦略と知財の結びつきが深まり,幅広い判断が求められる局面が増えていることから,知財部門独自の人財育成プログラムに経営の要素を取り入れています。財務諸表の理解,戦略的思考の強化などの基礎教育のほか,10年ほど前からMBA(Master of Business Administration:経営学修士)プログラムの受講も奨励しています。ここ数年は事業部門との人的交流も進め,幅広い知識と人財を備えることでグローバルビジネスにおける知財活用に対応しています。

菅原モノづくりでも,これまでグローバル化と言うと日本のマザー工場を中心とした現地生産体制の構築などを意味していましたが,それが大きく変わり始めています。日立の鉄道部門のように海外企業とのM&Aでグローバルでの成長を推進する場合,設計から製造まで国内外の最適な場所で行うフレキシブルな体制を築かなければなりません。そのためには,設計情報をスピーディーに各拠点と共有する仕組みとともに,モノづくりの方法をグローバルで標準化することも必要になります。われわれモノづくり戦略本部のミッションは,グローバル製造システムのあるべき姿を事業部門に示すことであり,それを各事業部が応用しながら推進しています。日本のモノづくり現場の強みは,自分たちで工夫や改善が図れる現場力の高さにあります。一方,欧米のシステム化された生産現場には,デジタルとの相性のよさやスピードという強みがあります。双方のよさを融合した製造モデルを理想としつつ,フレキシブルなグローバル生産体制の実現に向け,オペレーションの最適化をねらったECM(Engineering Chain Management)とSCM(Supply Chain Management)の強化にも取り組んでいます。

有吉グローバル,ダイバーシティが企業活動の前提となりつつある現在,人財マネジメントの重要性がさらに増しています。そのため人財部門ではデータベース化やグレーディング統一などの大改革に取り組み,2017年にはグループ全体で人財を可視化し,グローバルに最適な人財マネジメントを実現するための統合プラットフォーム「Hi-Next」を構築しました。教育の面では,グローバル時代に対応した新しいスキルを持つ人財の戦略的な育成に取り組み始めています。先ほど知財部門で経営軸の教育を取り入れていると言われましたが,他の事業部門からも,スペシャリストだけでなく「アーティスト」を育ててほしいと要望されています。専門性も必要ですが,自分の責任で全体をまとめていく力がグローバル時代に重要なスキルの一つであると言えるでしょう。

データ利活用により,みずからも変わる

有吉 司

有吉 司
日立製作所 日立総合技術研修所 所長

次に,デジタルトランスフォーメーションとデータ利活用にどう貢献していくか,それぞれの観点からお願いします。

戸田日立は産業現場などのリアルデータを対象とした利活用ビジネスを推進しています。知財部門は,そうしたビジネスの発展を支えるために,お客様のデータを利用する契約を結ぶ際のサポートや,ビジネスモデル自体の改善提案なども行っています。

データを軸とした協創が進む中で,さまざまな新しい知見が生まれています。それらはまさに知財の塊であり,Lumadaという枠組みを利用した知財の活用推進にも貢献したいと考えています。

菅原デジタルの活用により,モノづくりの領域も大きく変化すると考えます。フレキシブルなグローバル生産体制はデジタル化が進むからこそ実現できると言えますし,上流から現場まで,データの扱い方が変化しています。特に現場では,さまざまな状況や現象がデジタルデータとして可視化されることにより,これまでは経験がなければ見えてこなかった課題やその解決策が比較的容易に発見できるようになりました。新興国などの海外工場で,経験の少ない従業員だけでも,データを活用することで生産性の向上を実現している事例も増えています。

最近取り組んでいるのは,昔から生産性向上の基礎とされてきたIE(Industrial Engineering)の考え方に,ツールとしてデジタル技術を取り入れ,改革・改善のスピードとレベルを向上させることです。IEマイスター認定制度を創設してIEの考え方を広げるとともに,モチベーションの向上も図っています。

有吉教育では,デジタルトランスフォーメーションに対応した人財の育成に向け,これまで経営については日立総合経営研修所,ITは日立インフォメーションアカデミー,OT(Operational Technology)や製品は日立総合技術研究所と分野ごとに分かれていた3つの研修所を2019年4月1日付けで統合します。これまで別々に築いてきたシステムを統合するのは容易なことではありませんが,教育体系をグループ内で統一・標準化することにより,総合的な人財育成をめざしています。また,リアル世界の教育機関の統合に先駆けて,e-ラーニングのシステムを「Hitachi University」としてグローバルに統合し,世界中の従業員に適切なタイミングで効果的な学習機会を提供する環境を実現しました。

オープンなコミュニティでイノベーションを

3つ目の変化としてオープンイノベーションや顧客協創が活発化していますが,それぞれの活動はどのように変わっているでしょうか。

戸田知財部門は,世界中で年間300余りの顧客協創事例に関わり,知財を活用したパートナーシップの推進を支えています。その中で見えてきた課題の一つが,日立が保有しているBGIP(Background Intellectual Property)と,お客様と共同で生み出すFGIP(Foreground Intellectual Property)の扱いです。お客様の知財を尊重しつつ,お互いにWin-Winの関係を構築できる知財の枠組みを提案できるかがカギとなります。

菅原モノづくり分野のオープンイノベーションとしては,さまざまな分野のトップ企業との協創による生産改革が挙げられます。われわれ自身のモノづくりの総合的なレベルアップには,そのような社外との協創事例に学んで知見やコンセプトを共有することが重要です。逆に,社内の改革事例を顧客協創コンテンツの充実につなげることも期待されています。

モノづくりとデジタルの融合では新たな技術の開発や標準化が必要になりますが,その取り組みに効果を発揮しているのが,日立グループ横断の組織である部会です。部会の活動はモノづくり戦略本部が事務局として推進しており,2018年にはデータサイエンティスト部会や調達エンジニアリング部会が新設され,現在は15の技術分野で活動しています。部署を横断してその分野でのトップランナーの事例や情報の共有,人財育成をめざす自発的なコミュニティで,ある意味グループ内のオープンイノベーション活動と言えますね。

有吉ニーズの高まりに伴って自然発生的に生まれる技術コミュニティというのは,とてもよい伝統だと思います。特に最先端の分野は教科書もありませんから,トップランナーが切磋琢磨すること自体が学びになります。技術もビジネスも発展のスピードが加速している時代,教育もオープン化して,社内での座学あるいは自部門内のOJT(On-the-Job Training)から, 顧客協創型のPBL(Project Based Learning)が基本になっていくと思います。Lumadaに蓄積されたユースケースも新しい教材となるでしょう。デジタル時代になり,協創のノウハウを教育の資産として蓄積し,横展開しやすい環境が整ってきたと言えます。その環境をうまく活用して教育の変革を進めていきます。

グローバルイシューに応えていくために

国連のSDGs(持続可能な開発目標)をはじめとする社会課題の克服や,Society 5.0を中心とした国の成長戦略において,企業の貢献が期待されています。こうした期待,要請に応える取り組みなどをご紹介ください。

戸田日立をはじめ多くの企業の知財部門ではSDGsに早くから取り組んでおり,その一つが国連機関のWIPO(World Intellectual Property Organization)によるグリーンテクノロジーの技術移転を促進するプログラム「WIPO GREEN」です。このプログラムは日本知的財産協会がWIPOに提案して創設されたもので,私自身も初期の段階から活動に携わってきました。企業がWIPO GREENのデータベースに,保有するグリーンテクノロジーの技術やノウハウ,サービスなどのIP資産を登録しておくと,技術を求める側とマッチングされるという仕組みで,日立は家電リサイクルに関する技術やノウハウを登録しています。

これ以外にもSDGsやSociety 5.0の実現に貢献する知財活動を強化していく方針ですが,社会課題に貢献する知財はオープンが基本です。知財を確保しつつ,大きな課題解決に向けた原動力とするための活用法を考えていくことが,ますます重要になると考えています。

菅原モノづくりにおけるSociety 5.0の取り組みとしては生産のスマート化が挙げられます。設計・生産情報をデジタルデータとしてフレキシブルにやり取りすることにより,余剰あるいは低稼働率の生産設備を共有して有効活用できるようにするクラウドマニュファクチャリングもその一環で,われわれも開発に参加しています。

環境問題に関しては,特に中国などの工場を中心に生産設備の省エネルギー化を推進しています。また,自主的に炭素排出量に価格をつけ,事業計画に取り入れるインターナルカーボンプライシングの制度を導入し,低炭素社会の実現に貢献しています。

有吉社会レベルの大きな課題や目的を共有することは顧客協創の前提として不可欠であることから,特にリーダー向けの選抜研修などではSDGsやSociety 5.0のイシューから入るということを徹底しています。事例の学習に始まり,デザインシンキングを取り入れたディスカッションなどの研修を積み,そうした大きな社会課題をビジネス上のテーマ,さらには自分の得意な領域にブレークダウンする力を高める訓練を行っています。

社会イノベーション事業の進化に貢献

日立は 2018中期経営計画の成果を踏まえて,新たに策定する 2021中期経営計画の下で社会イノベーション事業の進化をめざしていきます。新たな挑戦に向けての意気込みをお聞かせください。

戸田社会イノベーションの課題解決プロセスには,実は発明を創生するプロセス,つまり,まず対象分野を決め,課題を特定し,解決する手段,そして実施例を書き,さらに代案も考えるというプロセスとの共通点があります。そこで,エンジニアだけでなくフロントの人財も対象とした教育プログラムに,発明創生の考え方や特許の書き方などを取り入れていただくことで,課題解決力を高めるお手伝いができればと考えています。

このほかにも知財部門では,社会イノベーション事業の拡大に向け,知財を通じたエコシステムの構築などグローバル企業でもあまり前例のない新しい活動に挑んでいます。私は常々,ダーウィンの言葉を借りて「強いものではなく変化に対応したものが生き残る」と言っています。失敗しても構わないから,そこから得られた知見を知財としてきちんと確保し,変化に対応して先をめざす知財活動を継続していきます。

菅原グローバルに成長していくために,モノづくりにおいてはグローバルでフレキシブルな生産体制の構築が不可欠です。今後は,事業部門と共にグローバル標準の高効率なモノづくりの実現を加速し,グループ全体の持続的な成長に貢献していきます。

有吉教育は上が決めたものを一律に施すという時代は終わり,先ほども言ったようなトップランナーたちが切磋琢磨する自発的なコミュニティ活動などの重要性が増しています。研修所の新たな役割として,そうした人たちをサポートして知の循環,教育のエコシステムを形成する場をめざし,企業の基盤強化に貢献していきます。

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