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オープンな協創と革新的研究を通じてSDGs,Society 5.0に貢献

グローバルイノベーションリーダーをめざす研究開発グループ

ハイライト

持続可能な未来社会の構築に向けて,産業界には社会が直面するさまざまな課題解決の中心的な担い手となることが期待されている。

日立グループは,デジタル技術を活用した協創により,社会や顧客の課題解決に貢献する社会イノベーション事業をグローバルに展開してきた。2019年度からスタートした「2021中期経営計画」では,この社会イノベーション事業をさらに強化してグローバルリーダーとなり,SDGs,Society 5.0を牽引し,社会価値の創出やQoL向上に貢献することをめざしている。

研究開発グループは,この新たな社会潮流と日立グループのめざす姿をどのように支えていくのか。新設したオープン協創拠点「協創の森」への期待と,未来社会を拓く研究開発のあり方も併せ,鈴木教洋執行役常務・研究開発グループ長が語る。

目次

進化する社会イノベーション事業

鈴木 教洋
日立製作所
執行役常務 CTO 兼 研究開発グループ長 兼 コーポレートベンチャリング室長
1986年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了,日立製作所入社。デジタル画像信号処理,組込みシステムなどの研究開発に従事後,2012年日立アメリカ社シニアヴァイスプレジデント兼CTO,2014年中央研究所所長,2015年研究開発グループ社会イノベーション協創統括本部長を経て,2016年から現職。工学博士。映像情報メディア学会会員,電子情報通信学会会員,IEEE Senior Member。

現在,デジタル化の進展に伴い,企業を取り巻く環境は大きく変容しています。デジタル化には,「光」と「影」の両方の側面があります。私たちが恩恵を受けている「光」の部分では,時間と場所の制約から解放され,業務の効率化や省力化が進んでいます。そして,さまざまな価値の連鎖によって新たなビジネスチャンスが拡大しています。

一方,サイバーテロや情報漏洩などのセキュリティリスク,さらには,デジタルディバイドや格差の拡大,シンギュラリティへの不安といった「影」の部分が生じることも忘れてはなりません。このようなデジタル化に伴う新たな課題は,社会全体で取り組むべきものであり,これらの課題に対する具体的な対応が議論されています。

私たちは,この「影」の部分もしっかりと認識・対応し,ビジネスの発展,生活の質の向上をめざし,豊かで持続可能な社会の実現に向けて前に進むべきと考えています。

こうした中,社会課題の解決をビジネスと結びつけることで,持続可能な開発をめざす動きは世界中に広がり始めています。グローバルには,SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の実現に向けた取り組み,国内ではSociety 5.0が推進されています。日立は創業以来,「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念を実践し続け,時代に先駆けて社会イノベーション事業に注力してきました。その社会イノベーション事業自体も,最近ではインフラの高度化にとどまらず,AI(Artificial Intelligence)やIoT(Internet of Things)などの最新のデジタル技術を活用し,社会価値,環境価値やQoL(Quality of Life)の向上といった,より多くの価値創造を通じてお客様や社会の課題解決をめざすものへと進化し,SDGsやSociety 5.0との融合を深めています。

社会イノベーション事業を担う「グローバルリーダー」へ

日立はこのほど,2019年度を初年度とする3か年の「2021中期経営計画」をスタートさせました。2016年度から2018年度までの中期経営計画における基本方針は,IoT時代のイノベーションパートナーをめざすことでした。2021中期経営計画ではその取り組みをさらに進め,社会イノベーション事業を担う「グローバルリーダー」をめざします。IT,OT(Operational Technology),プロダクトにおける日立の強みを掛け合わせ,デジタル技術で社会インフラを変革するという目標に変わりはないものの,経済価値だけでなく社会価値, 環境価値を創造し,SDGs,Society 5.0の分野を牽引していくという意志をより強く打ち出したということです。

基本方針の実現に向けて事業体制も強化します。「モビリティ」,「ライフ」,「インダストリー」,「エネルギー」,「IT」の五つを成長分野として位置づけ,関連するビジネスユニットを各分野に配してリソースを集中させることにより,グローバルトップポジションをめざします。

この5分野に共通して,ソリューション提供と価値創出の迅速化を支えるプラットフォームとしての役割を担うのがLumadaです。お客様のデータから価値を生み出し,デジタルソリューションを加速するための協創基盤であるLumadaには,さまざまな研究開発リソースが活用されています。重要な構成要素である「NEXPERIENCE」の顧客協創手法やツールの開発・適用をはじめ,お客様との協創のフロント領域からソリューション開発まで研究開発グループが深く関わることにより,お客様の課題解決を支えています。

グローバル協創体制を本格化するCSI

このような2021中期経営計画の基本方針を踏まえ,研究開発グループでは成長分野に貢献する研究を強化し,「グローバルイノベーションリーダー」となることを全体の基本方針として打ち出しました。

各部門の取り組みについてお話しすると,まず社会イノベーション協創センタ(CSI)では「グローバルソリューション協創の強化」を新たな方針としています。その中心となるのが,中央研究所内に開設した「協創の森」です。これまで赤坂を拠点としていたCSIの顧客協創活動の主要な機能を国分寺の中央研究所内へ集結させることにより,先端研究と顧客協創の融合をより深めたいと考えています。「協創の森」では,世界中からステークホルダーを招いて日立の研究者やデザイナーとオープンな協創を行い,新たなアイデアを創出するとともに,アイデアを形にするプロトタイピングと実証も行うことにより,価値創出の迅速化をめざします。

さらに,日立アメリカ社研究開発部門のSVP(Senior Vice President)を務めていたUmeshwar Dayal(ウメッシュワー・ダヤル)氏が社会イノベーション協創統括本部長に就任し,本格的なグローバル体制を築きます。彼はAIやデータアナリティクスの専門家ですから,デジタル技術によるグローバル協創にも力を発揮してくれると期待しています。北米のシリコンバレーとデトロイト,南米のブラジル,欧州ではロンドン,ケンブリッジ,コペンハーゲン,ソフィアアンティポリス,ミュンヘン,中国の北京,上海,広州,そしてインド,シンガポール,タイ,マレーシア,オーストラリアに展開する研究開発拠点を各地域のコアとして,その地域のお客様や社会が直面する課題を一緒に解決し,グローバル社会に貢献することをめざします。

CTIでは世界No.1技術の創生を

テクノロジーイノベーションセンタ(CTI)では,「世界No.1技術の創生と集中」を基本方針に定めました。グローバルリーダーをめざすには,世界No.1の製品やサービスを拡大していくことが欠かせません。日立はこれまでにも,高速鉄道車両やエレベーター,陽子線がん治療技術,生化学・免疫装置,モータや空気圧縮機をはじめとする産業機器,エネルギーシステム,情報通信および制御システム,ストレージ,エレクトロニクスなどの分野において,世界トップレベルの技術や製品・システムを提供してきました。それらを含め,五つの成長分野にフォーカスして強みをさらに伸ばすための研究開発に力を入れていきます。

Lumadaの進化に向けたCPS(Cyber Physical System)の実現も研究開発の柱の一つです。実世界のシステムから得られるデータをもとに,サイバー空間にて実世界をモデリングするとともに, リアルタイムにて最適解を探索し,解析結果をフィードバックすることにより,実世界のシステムを高度に制御するCPSは,Society 5.0を支えていく基盤技術となります。例えば,モビリティ分野では鉄道×デジタル技術による最適な運行管理,ライフ分野では自動走行による渋滞解消なども含めたスマートシティ,インダストリー分野ではスマートマニュファクチャリングやスマートメンテナンス,エネルギー分野ではスマートグリッド,IT分野ではFinTech,ブロックチェーン応用などが,CPSによって実現あるいは高度化できると期待されています。

そのため,CTIでは,CPSのキーテクノロジーであるAI,5G(第5世代移動通信システム),ロボティクスの関連技術にフォーカスしています。特にAIについては,社会基盤に適用するための信頼性,説明可能性の確保,AIアナリティクスや対話AIの高度化など,さまざまな面から研究を進めています。また,CPSのようにデータが価値を生み出す仕組みを発展させるためには,安全なデータ流通を支える技術が不可欠であることから,サイバーセキュリティ,トラスト基盤などの研究にも力を入れています。

これらの開発を通じて,実世界とサイバー空間を連携させ,「Beyond Digital,Beyond Real」をめざしていきます。

CERではオープンイノベーションを推進し社会課題解決に貢献

AIのように技術進化のスピードが速い分野に集中投資を行う一方で,物性科学,生命科学のように時間をかけて取り組む技術をしっかりサポートしていくことも,研究開発グループの重要な役割です。そうした基礎探索的な技術の研究開発を担う基礎研究センタ(CER)では,2021中期経営計画を受けた基本方針として「社会課題解決型基礎研究の推進」を掲げています。

SDGsとSociety 5.0に共通するビジョンとして,すべての人々が開発や技術進化の恩恵を受けられる,人間中心の社会を築いていくことが挙げられます。その実現に向けてCERは,オープンイノベーションにより破壊的技術の創生を加速することをめざしています。柱となる分野は,産業や社会全体の変革につながる材料物性研究のほか,量子コンピューティングや再生医療が挙げられるでしょう。量子コンピューティングは大規模な社会課題の解決に資する計算機アーキテクチャとして,日立ケンブリッジラボを中心に開発を進め,着実な成果を上げています。再生医療では,2017年に神戸医療産業都市に再生医療の研究開発拠点「日立神戸ラボ」を開設し,実用化を支えていくための細胞培養システムやデータ解析技術などの開発に産官学連携で取り組んでいます。また,未来投資本部で進めている「ハピネスプラネット」による働き方改革支援も,ユーザー参加型のオープンイノベーションとして,人間中心社会の実現に貢献していくと期待されます。

Society 5.0を先導するビジョン創生も基礎探索研究分野の大きな役割です。日立は2016年に東京大学,京都大学,北海道大学とそれぞれ連携したラボを立ち上げました。各大学の強みとする研究を活かしてSociety 5.0の実現に向けたビジョンを生み出し,グローバルに発信するとともに,社会課題の解決をめざしたオープンイノベーションを推進しています。

研究開発グループが主導するオープンイノベーションの進化

新たな価値創造に挑み続ける

オープンイノベーションという観点では,2019年4月にコーポレートベンチャリング室を新たに立ち上げました。コーポレートベンチャリング室は,スタートアップ企業が生み出す破壊的な技術やビジネスモデルと日立の技術・知見や顧客基盤を融合することで,イノベーションの創出を支援,加速し,お客様や社会が直面する課題の解決を促進することをめざす組織です。スタートアップとの協業や投資を通じてイノベーションを見極める力を磨くとともに,日立の企業文化にも新しい風を吹き込むことができればと考えています。

冒頭で触れたように政治・経済環境が大きく変化し,さらにはデジタル化の進展によって従来の業種・業態の枠を越えた新たなビジネスモデルが生まれるなど,産業構造も大きく変化しつつあります。このような変化をビジネス機会として生かすには,お客様の課題解決や変革を支援するとともに,日立自身も変革を加速しなければなりません。

過去の実績に安住せず,変化や新たな領域への挑戦を積極的に評価してきたことも,日立の研究開発の伝統です。現在,私が会長を務める「日立返仁会」はその象徴と言えるかもしれません。日立返仁会は,博士号の学位を持つ日立グループ在籍者とOB・OGの集まりで,会員数は2,100名を超えています(2019年4月時点)。その活動として,学位を取得した研究分野に安住することなく,新たに別の分野で科学技術や産業の発展に貢献する優秀な学術論文を発表した会員を表彰する「空盡賞」という顕彰制度があります。このような活動を行っている企業は,世界でも稀有でしょう。われわれはこの歴史と伝統を受け継ぎ,常に新しい価値を生み出す研究に挑戦し続けるという姿勢を大切にしています。

日立の研究開発の歴史を土壌として,若葉を広げ始めた協創の森は,新しい価値を生み出し続けるためのチャレンジと言えます。研究開発グループは,この協創の森をイノベーションの世界への発信基地として大きく育てるとともに,知の力を最大限に発揮してSDGs,Society 5.0のめざす未来社会の実現に貢献していきます。さらには,「Powering Good 世界を輝かせよう」を合言葉に,お客様とともに世界を輝かせていきます。

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