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COVER STORY:CONCEPT

つながるインダストリーで実現する価値の創生

製造業の進化を支える日立の産業プロダクト

ハイライト

2019年5月に発表された2021中期経営計画において,日立は社会イノベーション事業のさらなる展開に向け,モビリティ,ライフ,インダストリー,エネルギー,ITの五つの事業セクターを注力事業領域として設定した。このうちインダストリーセクターを牽引する産業プロダクト事業では,顧客の課題解決に資する革新的な機器・製品の提供を起点として「ビルトイン」,「コネクテッド」,「リカーリング」の三つの観点から事業を推し進めている。産業プロダクトに求められる価値の変化をはじめ,インダストリーセクターの大方針であるトータルシームレスソリューションの実現に向けた取り組み,今後の展開などについて,産業プロダクト事業に関わるキーパーソンたちに話を聞いた。

目次

トータルシームレスソリューションの実現をめざして

森田 和信
日立製作所 インダストリー事業統括本部 CSO&CTO 事業戦略統括本部長 産業・流通ビジネスユニットCEO付

藤井 健二郎
株式会社日立産機システム 常務取締役 事業統括本部長

今家 和宏
株式会社日立インダストリアルプロダクツ 取締役 経営戦略本部長

三上近年,産業プロダクトの位置づけやバリューチェーン,ビジネススタイルは大きく変化しつつあります。インダストリー分野では,SDGs(Sustainable Development Goals)やSociety 5.0の実現に向けてIoT(Internet of Things)などの新たな技術の活用が進んでいますが,日立のめざす「現場と経営をシームレスにつなぐソリューション」の実現に,産業プロダクトはどのような形で貢献していくのでしょうか。まずは,現在の取り組みについてお聞かせください。

森田和日立グループには,日立製作所産業・流通BU(Business Unit),水・環境BUに加えて株式会社日立インダストリアルプロダクツ,株式会社日立産機システムなど,産業に携わる多くの事業部門・企業が存在します。これらを総合して日立のインダストリーセクターと呼んでいるわけですが,こうした組織と事業領域をつなぎ,お客様の価値創出に向けたシームレスな連携を促進していくのが,われわれインダストリー事業統括本部の役割です。モノづくりのノウハウを追求しながら,データに付加価値を付けていく「トータルシームレスソリューション」というコンセプトの中で,日立のインダストリーセクターは現場と経営を「つなげる」ことによる価値提供をめざしています。

藤井日立産機システムは,インダストリーセクターの中でも主に量産プロダクト事業を担う企業です。従来,われわれのプロダクトに求められていたものは生産ラインの機能向上,コストダウンといった個別の最適化でしたが,近年は工場全体,ひいては世界全体の最適化を実現するプロダクトを考えなければならなくなっています。分散的に全体最適化を図るには,データ分析などを担うAI(Artificial Intelligence)など最新技術の活用はもちろんですが,Lumadaを中心に他の機器や設備,プラットフォームと接続することが欠かせません。日立産機システムは,情報処理機能を有しながら共有メモリで制御系ともつながるIoTコントローラや,グローバルなエリアで利用可能な通信モジュールなどの「つなげる」機器と,空気圧縮機やインクジェットプリンタなどの「つながる」機器で,IoT化の進展に取り組んでいます。

今家日立インダストリアルプロダクツでは,「ビルトイン(主機に組み込むキープロダクト)」,「コネクテッド(機器や設備をつなぐ)」,「リカーリング(アフターサービスなどの循環事業)」の三つのキーワードを軸にビジネスを展開しています。われわれが手がける非量産型のモータやインバータなどのインフラ機器は,単体ではトータルシステムにはなりませんが,社会やインダストリーに欠かせないミッションクリティカルな製品ですから,故障やトラブルなどが生じるとその影響は甚大です。これに対し,つど迅速な対応を行うことはもちろん,今後は長期的なデータを活用して事故や損失を防ぐソリューションを提供し,お客様と密に連携を取り合いながら最適化を実現することが,現在,われわれの大きなテーマになっています。

森田歩現場と経営,サプライチェーン上の業務,企業,さらに異業種間といった「際(きわ)」をデジタルでつなぎ,新しい事業価値を創造していくには,お客様はもちろん,さまざまな人や組織との協創が欠かせません。「つながる」ことで生じる課題を私たちは「際」と呼んでいるのですが,この「際」を解決することこそが,お客様に対する価値となり,日立のビジネスチャンスにもなる。研究開発グループにおいて,顧客協創をミッションとする社会イノベーション協創センタ(CSI)は,オープンイノベーションの場である「協創の森」を中心に,海外の研究拠点もつなぎながら研究開発を進めています。また,長期的な視点に立って社会イノベーション事業を創生する基礎研究センタ(CER)では,日立グループだけでなく外部の方々とも活発に議論しながら,一歩進んだ協創の可能性を探っています。

インダストリーセクターの位置づけ

データと協創を通じて生み出すこれからの産業プロダクト

森田 歩
日立製作所 研究開発グループ テクノロジーイノベーション統括本部 副統括本部長
日立研究所 所長

三上 浩幸
株式会社日立産機システム 研究開発センタ センタ長

三上「つなげる」,そして「つながる」ことによって,産業プロダクトの位置づけやバリューチェーン,ビジネススタイルまでもが大きく変わりつつある中で,われわれは今後どのように対応していくべきなのでしょうか。

森田歩一つの大きな課題は,物流やメンテナンスの分野も含め,次世代マニュファクチャリングの在り方をどう考えるかだと思います。研究開発グループでは,プロダクトからデータを生み出すこと,それを活用して現場を最適に制御していくこと,バリューチェーン全体を含めてERP(Enterprise Resource Planning)につなげることの三つのレイヤーで,技術開発に取り組んでいます。例えばモータの電流を利用して,つながっている機器まで含めて状態を判断するという技術です。計測用のセンサーを付けるのではなく,ある特性が表れる部分に着目するのは,モータの研究開発・製造を100年以上にわたり続けてきた日立だからこそできることです。さらにサイバー空間に設備の稼働状況などのOT(Operational Technology)データや生産計画などのITデータを集約し,AI分析やシミュレーションによって生産工程全体の最適化を支援するソリューション「IoTコンパス」を開発しました。ユースケースも着実に増えつつあり,それらをうまくつなげていくことで理想のスマートファクトリーに近づけるのではないかと思っています。

藤井モータの電流から他の機器の状態も分かるというのは,工作機械メーカーからすると画期的なことです。研究開発グループには,私たちのインバータについても予兆診断や予兆保全に関する研究で協力してもらっていますが,ぜひ他の機器の状態まで分かるようなインバータを一緒に実現していきたいですね。

森田和先ほど「際」の話がありましたが,つながることによって生じる問題は,実は以前から現場にあったはずです。それがデータを収集することによって見えてきた。例えば物流におけるピースピッキングは,人が棚まで歩いて行って,積んである製品を取り出す作業ですが,データを詳細に分析すると,棚を動かしたほうが早いという発想が出てくる。自律搬送ロボットを活用して棚を動かすというイノベーションは,デジタル化したことによる数値やグラフでの分析から生まれてきたものだと思います。このように,価値の源は現場にあり,Man(人),Machine(設備),Material(材料),Method(方法)の4MデータにERPのデータや財務情報などを掛け合わせることによって,お客様の事業の評価や価値を具現化していきたいと思っています。

森田歩ただ,物理モデルや物理現象を理解していないと,いくらデータがあっても何をしてよいかが分からないという状況になってしまうでしょう。いわゆる昔からのやり方とデジタル技術の活用の両輪で進めなければならないと思います。

森田和そのとおりですね。新しいトレンドばかりに目が向けられがちですが,モノづくりを追求するという基盤の上にそういった新しい柱が入ってくる。これらを両輪できちんと回すことが競争力の源泉となり,産業プロダクトの発展につながるのでしょう。また,発想の転換がイノベーションを生むとすれば,新しい発想を生む人財を育成することも大切です。それがお客様に役立つことに結び付くと,多様な事業が創生されていくのではないでしょうか。

藤井多くのお客様と同様に,私たち自身が製造業だということも忘れてはなりませんね。モノづくりにおいては最新のトレンドを追いかけ,私たちが納得できるシステムを構築していく必要があります。「日立はどうしているのですか」という問いに対する解を常に持っていないといけない。お客様はプロダクトとOT,ITの三つを持つインダストリーのプレーヤーでもある日立に期待しているのだと思います。

今家先日,あるお客様から「IoTを生かすためには現場力がなければならない。だから,日立さんと一緒にやっていこうと思いました」と言ってもらいました。非常にうれしい反面,身が引き締まる思いにもなりましたが,このようにお互いに切磋琢磨して成長していくことが,これからの産業界には必要なのかもしれません。

コト売りを支えるモノの信頼性と設計・製造・物流のグローバル化

藤井昨今,モノ売りからコト売りへと言われていますが,コト売りの効果を出すためには,信頼性をキープしなければなりません。これを効率よく,かつ低コストで実現するには,情報系が重要です。日立産機システムの産業用インクジェットプリンタでは,サービス担当者が工場内の品質管理データに加え,出荷記録や据付データなどを見られるようにしています。つまり製造から廃棄までの電子カルテを持つことで,コト売りが成り立つ仕組みづくりを実現しているわけです。本来,品質データは外に出したくないものですが,「品質を売る」,転じて「信頼性を売る」ために,あえて提供しているとも言えます。

森田和私は,コト売りで価値を出せば,その価値に対してモノがブラッシュアップされ,それが製品開発に生かされて,再びお客様にお届けできるというスパイラルがあると考えています。それをどのようにしてプラスにつなげていくか,それが産業プロダクトの強みをつくるポイントではないでしょうか。

三上モノ・コト・モノといった循環の中で,例えば環境規制はプロダクト自体の革新だけではなく,お客様のプロダクトに対する価値観にも変化をもたらしているとの印象があります。鉄道や自動車のインバータや磁石モータなどでは,プロダクトの導入による機能向上という価値もありますが,お客様が消費電力低減というライフサイクルコストの観点からプロダクトやシステムの調達を考えるようになってきたと感じます。

森田和ライフサイクルという意味では,投資面からの観点も関わってきますね。これだけの投資だと,回収はいくらになるか。例えばデータセンターの場合,電池のエネルギー密度を高めて効率を上げると,お客様の回収も増え,投資効率も上がる。グローバル競争が激化する中,モノづくりの企業が投資の範囲にまで深く踏み入れていく時代になってきています。

藤井グローバルな取り組みで言えば,米国の大手空気圧縮機メーカーであるサルエアー社が2017年に日立グループの一員となりました。われわれ日立産機システムも空気圧縮機事業を手がけることから,協調してグローバルでのモノづくりの最適化に着手しています。その一環として,米国のミシガン,日本,中国,マレーシアの各工場のどこで何の部品を生産すれば投資効率がよいのかを考え始めました。また,従来日本では二次元データの図面を使用していましたが,現在はサルエアー社が持つ三次元データの図面に合わせて設計データの共通化を進めています。設計などの上流工程をデジタル化し,共通化する一方で,製造部分は各リージョンの設備に則った生産をして供給するというように,設計の統一や製造拠点の最適化,さらにはリカーリング事業における物流コストを抑える部品供給体制の構築が始まっています。

今家日立インダストリアルプロダクツでも,今後,各地域の設計部門にそれぞれが得意とする設計を割り振ることや,海外拠点と日本の時差を利用した製品の迅速な市場投入について検討しています。

森田和ぜひ推進していただきたいですね。なぜなら,製造業においては横軸のサプライチェーンに比べ,モノの企画・試作・設計・製造といった縦軸のEC(Engineering Chain)は軽視されがちになってきたと感じるからです。競争力の強化はもちろん,ECも製造業のお客様に価値を与えるための大きなテーマとなるように思います。

森田歩設計に関しては,鉄道分野が同じような課題を抱えています。英国とイタリア,日本のそれぞれが培ってきた固有の技術をマトリクス化し,共有するためのグローバルイノベーションデータベースを構築する動きが,ようやく形になり始めています。

藤井また,日立産機システムはGPS(Global Positioning System)や位置情報に関わる事業に長年取り組んできましたが,われわれはフィジカル空間とのつなぎは「時間」と「位置」だと捉えていて,この二つを軸にデジタルデータベースを構築すれば,プロダクトの遠隔監視やモニタリングなども含め,さまざまなトレーサビリティを実現できると考えています。

ワクワクする仕事の共有を社会価値・環境価値・経済価値につなげて

三上持続可能な社会の実現に向けて,日立は新たな挑戦をスタートさせています。最後に,こうした取り組みに対する皆さんの考えをお聞かせください。

森田和ここ数年,SDGsやQoL(Quality of Life)をテーマに議論する中で,みんなでワクワクする仕事をするというのが大きなコンセプトとして立ち上がってきました。日立の中でもそうだし,お客様ともそうだし,お客様のお客様ともそうです。みんながワクワクすることで人間に対する価値が向上し,それがつながっていくと環境価値にも社会価値にもなっていく。インダストリーセクターが先陣を切ってそれを推し進め,それがまた日立グループの中に活用されていくと非常にうれしいですね。

藤井ワクワクする仕事をしたいというのは,非常にいい言葉ですね。自分の想像以上の結果が出てくると,誰しもワクワクします。そのためには,私たちがまず夢を持たなければなりません。夢を持つと希望が見え,希望があると現実を求める力が湧いてきます。そのとき重要になるのが,共通的なノウハウを蓄積し,活用することです。Lumadaは多くのユースケースを蓄積することで,目的達成に向けた最短経路の探索をサポートするとともに,ワクワク感の共有にも役立ちます。

今家技術トレンドの観点で言うと,継続的に少しずつ成長していく技術もあれば,遠い未来を思い浮かべたものから逆に現在へ下りてくる技術もあります。サステナビリティに向き合うには経営視点からも物事を見て,われわれの産業プロダクトや事業がお客様のトレンドや技術トレンド,社会の要求に合っているかということを常に考えていかなければなりませんね。

森田歩研究開発グループは,「技術開発」,「エコシステムの構築」,「パブリックアクセプタンス(社会的合意)」という三つの観点でオープンイノベーションを推進しています。その一つとして設立した日立東大ラボでは,ここ数年,資源エネルギー庁や環境省などのさまざまな人が集まり,2030年,2050年を見据えたエネルギーシステムの在り方を議論していて,年に1回はその内容をオープンにするフォーラムを開催しています。こうした議論の中で,本質的な課題やあるべき将来像への理解が深まり,それに対してどのように技術を提供するか。そこではインダストリー分野の機器が重要な役割を担うはずなので,描いたビジョンを現場にどのように落とし込んでいくかも含め,多くの人たちが楽しめる世界になればと思っています。

三上日立は2021中期経営計画において,お客様の社会価値・環境価値・経済価値の向上を通じた持続可能な社会の実現に加え,人々のQoL向上を謳っています。ワクワクする仕事をお客様などとも共有しながら,現場と経営,フィジカルとサイバーをつなげて,トータルシームレスソリューションを実現していきましょう。本日はありがとうございました。

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