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ハイライト

空気圧縮機は産業の現場に欠かすことのできない機器である。1911年に最初の空気圧縮機を発売して以来,日立は空気圧縮機事業と製品ラインアップの多角化を進めてきた。2017年には米国サルエアー社がグループの一員に加わり,グローバル展開を加速している。ここでは,さまざまな分野の顧客に向けた日立の圧縮空気ソリューションを紹介する。

目次

執筆者紹介

竹内 康浩

  • Sullair, LLC.
  • Chief Operating Officer
  • 1991年に日立製作所に入社。2017年7月にサルエアーのCOOに就任。
  • 株式会社日立産機システム 業務役員,空圧グローバル統括本部副本部長を兼任し,現在,空気圧縮機関連の統括業務に従事。

Kyle Sanders

  • Sullair, LLC.
  • R&D Commercial Systems Manager
  • 1999年にサルエアーに入社。IT,商用ソリューション,空気圧縮機に幅広い経験がある。
  • 現在,IoTおよび商用ソリューションの開発に従事。

Manhar Grewal

  • Sullair, LLC.
  • R&D Commercial Systems Product Manager
  • 2015年サルエアーに入社。アプリケーションエンジニア,オイルフリー空気圧縮機製品マネージャを歴任し,現在,IoTおよび商用ソリューションの開発に従事。

1. はじめに

ラスベガスのホテル・ベラージオの噴水ショーには,サルエアー社製の空気圧縮機が使用されている。

製造設備や建設現場には必ずと言っていいほど空気圧縮機が導入されているが,それがどのように機能しているかを説明できる者は多くないだろう。空気圧縮機は,周囲の空気を取り込んで二つのロータの回転によって圧力を上昇させる。圧縮された空気は建設現場の機械,スキー場の人工雪製造,ジェットコースターのエアブレーキ,果実の選別や梱包箱の組み立て,自動車修理工場での車の昇降などさまざまな業界で使用されており,製造現場における第四の公共サービスであると言われる。噴水アトラクション分野の象徴である米国ラスベガスのホテル・ベラージオの噴水ショーを支えるのも,この空気圧縮機である。

空気圧縮機業界における日立の歴史は長く,日立製作所創業の翌年である1911年には最初の空気圧縮機を発売している。空気圧縮機市場は今なお世界的に成長を続けているが,地域によって異なる需要に応えるべく,日立はグループ内で事業と製品ラインアップの多角化を進めてきた。さらに日々変化する市場のニーズにより適切に対応するため,グループ内に複数あった空気圧縮機事業を統合し,株式会社日立産機システムに一本化した。さらに2017年7月13日,米国サルエアー社が日立の空気圧縮機事業に加わった。日立は,これによって強化されたグローバルな顧客基盤と多様な製品ラインアップを活用し,さまざまな分野の顧客に総合的な圧縮空気ソリューションを提供していく。

2. 日立とサルエアーの空気圧縮機の概要

図1│定置式圧縮機とポータブル圧縮機

図2│空気圧縮機の系統図

空気圧縮機は長年にわたり,製造業および建設業に欠かせない存在であり続けてきた。日立産機システムとサルエアーには「定置式」と「ポータブル」の2種類の空気圧縮機があり,定置式は一般的に電動モータで駆動し,製造工場などで使用される。これに対してポータブルはディーゼルエンジンで駆動し,建設現場などで使用される(図1参照)。

空気圧縮機のコアとなる技術は,エアエンド(圧縮機構部)にある。現在の主流は回転式スクリュー圧縮機で,近年はオイルフリー式が急速に普及しつつあり,世界で20億ドル規模の産業となっている。日立は1980年にオイルフリーのスクリュー圧縮機を発売した。従来のスクリュー圧縮機ではエアエンドに潤滑油を使用するのに対し,オイルフリー圧縮機はエアエンドに潤滑油を使用しないため,油を含まないクリーンな空気が得られる。このため,特にエレクトロニクス,医薬品,化学,食品および飲料など,油が製造中の製品に混入しないことが求められる,製造環境に敏感な産業で特に好んで使用されている(図2参照)。日立はオイルフリー圧縮機の技術革新をリードする立場にあり,特に日本市場では市場の40%が日立の最先端のオイルフリー空気圧縮機を採用している2)。一方,サルエアー社は北米を中心として世界中に非常に多様な顧客基盤を有している。北米,中南米,EMEA(Europe, the Middle East and Africa)でサルエアーの顧客に日立のオイルフリーテクノロジーを紹介することにより,2社間の大きな相乗効果が生まれている。

3. 高品質かつ最適な空気ソリューションの提供による社会貢献

3.1 第四の公共サービス

図3│米国における空気圧縮機のライフサイクルコスト

製造工場において,水,天然ガス,電気と同様に広く使用され,第四の公共サービスとも呼ばれる圧縮空気のエネルギー使用量は膨大である。米国エネルギー省によると,米国内で圧縮空気システムに使用される消費電力は年間900億KWhにも上る。一部の施設ではエネルギー消費量全体の約10〜30%を空気圧縮機システムが占めている場合もあり,ここには15〜60%の節約の余地があると見込まれる。米国の平均的な電気料金は1 KWh当たり0.06ドルであり,単純計算で年間で54億ドルもの費用が圧縮空気に費やされていることになる3)。米国における空気圧縮機ライフサイクルコストでも,機器の運転により発生するエネルギーが全体の77%と大半を占めている(図3参照)。

3.2 メンテナンスによる省エネルギー性向上

自家用車を長期間にわたり効率よく運転するには,エンジンオイルを定期的に交換したり,フィルタを掃除したり,タイヤを調整したりする必要がある。同様に,空気圧縮機が効率的かつ安定的に動作するには,定期的な保守が必要である。空気圧縮機の基本的な保守サイクルは,(1)潤滑油の交換,(2)フィルタの交換,(3)エアエンドのオーバーホールであり,空気圧縮機メーカーは機器の販売とともに定期的な保守と複数年にわたるサービス契約を提案するのが一般的である。これによって高効率で空気圧縮機を稼働でき,突然の損傷やダウンタイムを防ぐことができる。

日々何百万ドル相当もの製品を製造する工場において,空気圧縮機が停止した場合の影響は甚大である。

サルエアーが開発した新しいデジタルツールでは,IoT(Internet of Things)を活用した機器のモニタリングを通じて故障の予兆を検知し,あらかじめ設定された期間が経過する前に保守が必要になった場合には顧客に保守の提案を行うことで,圧縮機の最適な状態を維持することができる。日立とサルエア―は今後,AI(Artificial Intelligence)やIoTを活用した監視ソリューションをさらに進化させ,障害が発生する前にその予兆を検知し,故障による圧縮機の停止を防ぐための取り組みを続けていく。

3.3 デジタル技術のさらなる向上

図4│AirSuiteの画面例

北米を中心としたサルエアーの幅広い顧客網,圧縮空気に関するOT(Operational Technology)と,日立が長年にわたり培ったOTとITを組み合わせ,日立の空気圧縮機事業では,デジタル技術を活用した総合的なソリューションを世界中の顧客に提供することができる。

サルエアーのAirSuiteアプリケーションの監視機能 では,利用者の既設の圧縮空気システムを迅速かつ完全に診断することが可能である(図4参照)。圧縮空気ソリューション専用に開発された高度な解析機能とデータを組み合わせることによって,システムの状況と必要な処置を把握できる。AirSuiteには,圧縮空気システムに変更を加えた結果をシミュレーションする機能もあり,顧客の圧縮空気システムの最適化に貢献する。例えば,より新しく効率的な圧縮機にアップグレードした場合や,空気槽を追加した場合の効果を確認できる。AirSuiteは顧客の目標とするROI(Return of Investment)達成をサポートするとともに,それぞれの顧客に応じてニーズを満たすエネルギー効果の最も高い圧縮空気システムを提供する。

また,遠隔監視と分析のためのソリューションAirLinxを利用することで,顧客は自社の圧縮機が正常に動作していることを現場に行くことなく確認できる。AirLinxは圧縮機のコントローラに接続し,SIM(Subscriber Identity Module)カード経由でクラウドにデータを送信するため,利用者はインターネットに接続された任意のデバイスを介して24時間,年中無休で情報にアクセスできる。また,AirLinxで今後の保守についてメールやテキストで通知が届くように設定しておけば,それに基づいて保守を計画できる。

AirLinxは特に複数の工場を持つ大企業に有効なソリューションであり,所有するすべての圧縮機の状態を一括で確認することができる。またインタフェースは顧客がカスタマイズ可能で,稼働状況に基づいて追加のアラームを設定し,より厳しい閾(しきい)値を設定して警告や通知を出すことも可能である。これにより,顧客は使用状況やKPI(Key Performance Indicator)のレポートを作成できる。これらのデータは過去13か月分にわたって保存され,いつでもオンラインでアクセスできる。こうしたデータに基づき,サルエアーはより迅速に遠隔サービスを提供する。また,AirLinxにはGPS(Global Positioning System)追跡機能があり,盗難に遭うとジオフェンシング※)通知が届くため,安心してポータブル圧縮機を利用することができるなど圧縮機をレンタルで利用する顧客のニーズにも適している。

TotalCareはサルエアーが新たに提供を開始したプログラムで,顧客は圧縮空気システムに必要な保守を事前に把握して適切に計画することができる。多くの企業で熟練労働力が不足しつつある中,このサービスでは,IoTデータを使用した遠隔でのサポートを通じて,熟練作業者はもちろん非熟練作業者に対しても,圧縮機システムを理想的な状態に維持するためのサービスを提供する。

GPSや携帯データ通信などを用いて,特定の場所の周囲に仮想的な境界(ジオフェンス)を設け,モバイルデバイスなどがその境界内に入ったとき,あるいは境界から出たときに,ソフトウェアで所定のアクションを実行する位置情報を使ったサービスの一種。

3.4 さらなる全体最適に向けて

特定領域の専門知識がテクノロジーと出会うところに価値が生まれる。MySullairは,商用ソリューションのプラットフォームを使用して,製品とデジタル機能を単一のインタフェースに統合したものである。MySullairを使えば,製造者,販売者,顧客は,自ら業務を最適化することが可能である。AirLinxでは,履歴に基づく特徴や傾向より,結果,リソース,生産性を予測するセンサーデータを管理して,サービス担当者の保守点検のタイミングを調整できる。また,AirSuiteでは既存の圧縮空気システムを変更することでさらなる省エネルギー化が可能かどうかをシミュレーションで確認できる。これらのツールを使用して顧客自身が監視と修正を行い,システムを構築することで,サービス担当者は最もニーズの高い領域に重点を置くことができる。これらは,従来型の「時間ベースの保守」から「イベントに基づく保守」への転換により得られるメリットだと言える。

日立製作所社会システム事業部は,日立の複数の会社をまとめて顧客にソリューションを提供しており,現在,予知保全に関するデータ分析および人工知能のイネーブラとしてIoTデータを使用するプラットフォームを有している。 既にクラウドベースのデータストレージ,世界規模での携帯電話SIM管理,世界的自動車メーカーのクラウド接続など,多くのIoTプロジェクトに取り組んでおり,経験豊富な熟練者の退職が進み,技術に明るいミレニアル世代が中心となっていく中で,圧縮機に関する製造知識のニーズを一元管理する(図5参照)。

サルエアーが顧客に提供するもう一つのソリューションが,Air-Over-The-Fenceである。これは,顧客が必要とするすべての空気動力をサルエアーが使用量に基づいて管理するソリューションである。顧客は,使用量に応じて圧縮空気の料金を支払うか,固定額で購入するかを選択できる。サルエアーが顧客の圧縮空気システムすべてを管理し,供給の確保と年中無休かつ24時間のサービスを提供する。顧客は安全かつ容易に圧縮空気システムを利用することで,必要な圧縮空気を確保できる。

図5│MySullairを用いた最適化のイメージ

4. おわりに

技術は日々進歩し続けており,それは空気圧縮機のような伝統的な製品においても例外ではない。デジタル技術の導入によって,製品そのものだけでなくサービスも刷新される。顧客が求めているのは空気圧縮機ではなく,圧縮された空気である。日立とサルエアーは,現在,優れた圧縮機技術とデジタルソリューションを通じて,購入時のみならず圧縮機のライフスパンにわたって顧客に最適な圧縮空気ソリューションを提供している。デジタルツールとテクノロジーを駆使して予防保全と遠隔監視のサービスを強化し,潜在的な問題を事前に特定して,機器の安定的な稼働を実現する。今後も,日立とサルエアーは,空気圧縮機分野においてより優れた総合的なソリューションを提供していく。

参考文献など

1)
株式会社日立産機システム:日立圧縮機100年のあゆみ(2011.10)
2)
Frost & Sullivan:Global Air Compressors Market Assessment(2018)
3)
Compressed Air & Gas Institute
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