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Hitachi Social Innovation is POWERING GOOD

Hitachi Social Innovation Forum 2019 TOKYO 基調講演

ハイライト

2019年10月,日立グループの自主展「Hitachi Social Innovation Forum 2019 TOKYO」が東京国際フォーラム(東京・有楽町)で行われ,基調講演に日立製作所執行役社長兼CEO 東原敏昭が登壇した。

SDGsやSociety 5.0など,イノベーションによって社会課題を解決しようという動きに伴い,企業の役割が重要性を増す中,日立は,新たな中期経営計画において,社会イノベーション事業でグローバルリーダーになることを目標に定め,お客様と共に社会価値,環境価値,経済価値を向上していくことを掲げている。

人々のQuality of Lifeの向上と,持続可能な社会の実現に寄与する,日立の社会イノベーション事業の軌跡と今後の展望とは。

目次

技術力と品質がもたらした人々の喜び

日立は2021年度に向けた中期経営計画(1参照)の発表にあたり,「Hitachi Social Innovation is POWERING GOOD 世界を輝かせよう。」というスローガンを策定しました。これは,日立が人々にとっての良いこと(Good)を実現するために全力を注いでいくという思いを込めた言葉であり,人への思いやりやそれを行動に移すことの重要性を強く打ち出したメッセージです。

日立が社会イノベーションに取り組み始めてから10年以上が経過していますが,一口に「社会イノベーション」と言っても,時代や社会環境に応じた変遷があり,その中でわれわれは多くのことを学んできました。

創業以来,営々と磨いてきた技術力を大いに発揮した製品による社会イノベーションの一つに,2009年12月から運行を開始している英国鉄道クラス395[1]があります。あるとき英仏海峡を通過中の列車が停止し,乗客乗員約500名がトンネル内に閉じ込められるという事態が発生しました。しかし,当時周辺地域は大雪に見舞われており,多くの車両が運転できない状態にありました。その際,雪の中でもスムーズに運転できていたクラス395が救援列車として用いられ,500名全員を救出することができたのです。これは日立の品質が高く評価される出来事となりました。

この車両はロンドンと近郊を結ぶ通勤列車でもあるのですが,ロンドン−アッシュフォード間の所要時間を半分以下に短縮しています。ある乗客の方から,「家を出る時間に余裕ができたので,毎朝子どもたちと食事ができる,かけがえのない時間を得ることができた。日立の電車は本当にありがたい」という喜びの声を頂きました。人々にとっての「幸せな時間」を日立が生み出せたことを実感し,大きな自信につながりました。

また,PBT(Particle Beam Therapy:粒子線がん治療システム)[2]も日立の製品が人々のお役に立った好例と言えます。日立のPBTは,世界各地でこれまでに約6万人のがん患者の治療に用いられていますが,数年前,米国のMDアンダーソンがんセンターで治療を受けたある患者さんが,「私は日立のPBTでがんが良くなったんだ」と目に涙を浮かべて話してくださいました。また,治療を終えた3年後にマラソン大会で完走するまでに回復した方もいるそうです。これは,技術による社会貢献にこだわり続けたエンジニアたちの執念と苦闘が結実したものであり,私自身も本当にうれしく思いました。

12021中期経営計画2021中期経営計画

[1]英国鉄道クラス395英国鉄道クラス395

[2]PBT(粒子線がん治療システム)PBT(粒子線がん治療システム)

社会イノベーションを進化させた「協創」と「デジタル技術」

[3]「協創の森」(協創棟)「協創の森」(協創棟)

2LumadaLumada

しかし,現在の世界を見渡すと,都市化,少子高齢化,気候変動,社会インフラの老朽化など社会課題は多様化・複雑化しており,それらは一つの装置,一つの企業だけで解決できるものでは決してありません。

そうしたグローバルな諸課題を背景に,2030年までの達成をめざす17の目標であるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が国連で採択され,また日本では,安全・安心・快適に暮らせる社会をつくろうというSociety 5.0をめざす動きが活発化しています。それを実現するためにカギとなるのが,「協創」と「デジタル技術」という二つのキーワードだと思います。

「協創」については,日立は新たな活動拠点として東京都国分寺市に「協創の森」[3]を開設しました。ここは単にアイデア出しのディスカッションをするのではなく,研究者やデザイナーと共に,課題や未来への展望を提起し,アイデアを素早く試行しつつ,ビジネスや社会実装につなげていく場です。ここを起点にパートナー,スタートアップ,アカデミア,自治体の方々など,さまざまなステークホルダーの皆様とのオープンな協創を加速していきます。

一方の「デジタル技術」については,日立には2016年5月に発表したLumada(2参照)があります。これを活用して今後実現をめざすのがCPS(Cyber-Physical System)です。CPSとは,フィジカル側の現場に設置したセンサーなどから得たデータを,サイバー側のコンピュータ内に取り込み,ビッグデータ解析やAI(Aritificial Intelligence)を活用して解析・判断した結果を現場にフィードバックするという概念ですが,その実現にはフィジカル側とサイバー側の双方に関する知見が必要です。われわれには100年以上にわたりさまざまな製品を納入・運用・保守してきた中で培ったOT(Operational Technology:制御・運用技術)のノウハウと,1960年代から蓄積してきたITに関連する多様な技術があります。OT・ IT・プロダクトのすべてを一社で保有している企業は世界的にもそう多くはないでしょう。

協創は,課題と思いの共有に始まる

協創の過程で最も大事なのはお客様と課題や思いを共有することです。そのために日立がまとめた手法として「NEXPERIENCE」があります。これはお客様とのワークショップを通じて,新しいサービスやビジネスモデルを作り上げていく手法であり,それをフレームワークとして体系化したものです。

「NEXPERIENCE」の一つであるExアプローチを用いて三井不動産株式会社と行った協創では,将来的に求められるオフィスの在り方を模索するという課題に対し,日立が有するデザイン思考のノウハウとデジタル技術を活用しました。その結果として導き出された「つながる」というコンセプトを具体的に反映した共用スペース[4]がこのほどリニューアルオープンに至っています。

また,金属加工機械を製造する世界大手メーカーのアマダホールディングスとの協創は,同じ製造業としての日立の経験が生かされた事例です。

アマダの生産においては,製品の種類や生産量の変化などによる生産計画の変更への対応が大きな課題で,従来は熟練技術者が培ったノウハウによって納期を守るための調整をしていました。実はこれと似た悩みを日立の事業所でも抱えており,それに対し,現場にセンサーを設置して作業状況をモニタリングし,生産計画の調整をLumadaで実現する工場シミュレーターを構築していました。これをアマダの熟練技術者の方に見ていただき,同社が持つノウハウと組み合わせて生産計画を調整できるシステムを実現したのです。これにより,生産計画調整に関する工程の約8割を短縮できると伺っています。

そのほかにも,アマダでは3D画像で行っている現場への作業指示に日立の画像・音声認識技術を適用し,作業プロセスをハンズフリーで管理できるシステム[5]を導入しました。そういった業務改良によって,経験の浅い作業員でも高い技術が確保できるようになるわけです。このように,熟練技術者の不足という多くの製造現場が抱える課題に対する協創を今後も広げていきたいと思います。

また,地域住民の方の思いに寄り添った事例として自治体との協創が挙げられます。福岡市では急速な高齢化により,医療・介護関係者や家族など,高齢者を支える側の負担が非常に大きくなっていました。そこで,医療・介護をサポートする側の情報を共有してビッグデータを解析し,現場のニーズをデジタルで管理する地域包括ケア情報プラットフォーム[6]を構築しました。これにより,ヘルパーやケアマネージャーをタイムリーに派遣できるようになったのです。やはり,高齢者の方をはじめ「自分が住み慣れた土地で暮らしたい」という思いはあるもので,それを支えるプラットフォームと言えます。

[4]オフィス空間の共用スペース(三井不動産との協創)オフィス空間の共用スペース(三井不動産との協創)

[5]組立ナビゲーションシステム(アマダとの協創)組立ナビゲーションシステム(アマダとの協創)

[6]地域包括ケア情報プラットフォーム(福岡市との協創)地域包括ケア情報プラットフォーム(福岡市との協創)

「決してなくならない不安」は一人ひとりの主体性で克服

[7]「Imagination 5.0」のワークショップ「Imagination 5.0」のワークショップ

これから先の社会イノベーションを考えるうえでは,現在の社会課題だけではなく,30年後,50年後といった未来の社会の姿を模索し,そこからのバックキャストで課題への解決策を探るというアプローチも必要です。

そうした考えの下,日立は2016年から大学との間で共同研究拠点を設けて取り組んでおり,その一つの成果として京都大学との共同研究「2050年の社会課題の探索『Crisis 5.0』」があります。これは同大学の歴史,心理学,哲学といった専門の先生方とのディスカッション・ヒアリングを通じて導き出したものですが,2050年に人が抱える悩みをまとめた結果は「信じるものがなくなる」,「頼るものがなくなる」,「やることがなくなる」というものでした。例えば現在のバーチャルリアリティ技術が今後さらに発達すると,人が直接見たり聞いたりするものとの区別がしにくくなってくるでしょう。視覚,聴覚だけでなく,やがては触覚,臭覚,味覚までバーチャルリアリティが広がると,人は何を信じればよいのでしょうか。また,AIやロボットといった技術が今後より進展すると,私たち人間は働く場所がなくなるといったことも懸念されています。

それに対する答えが,「Imagination 5.0」[7]。想像力を発揮し,自ら主体的に課題を解決していくことが,一人ひとりの生き生きとした暮らしにつながり,不安を乗り越える解決策になるという考え方です。つまり,どんなに技術が発達しても,不安は決してなくならないでしょう。そうであれば人間が主体的に課題を解決することが重要になり,人間が技術をコントロールし,信じるもの,頼るもの,働く場所を自ら作り出していく必要があるのです。

これは一つの仮説ですが,日立はすでにそうした仮説を前提に,一人ひとりが主体的に課題を解決していく住民参加型の社会イノベーション事業を推進しています。例えば愛媛県松山市では,地域の人々との協創により,人の移動や暮らしに関わるデータをまちづくりに役立てる取り組みを始めました。また,東京都国分寺市では,地元野菜の地産地消をデジタルの力でサポートするなど,市民がデータを活用して街に関わるための仕組みづくりに取り組んでいます。

住民の幸せを最大化する人間中心の街へ

まちづくりは,エネルギー,交通,ビル,産業など,長年にわたって社会インフラ分野での事業展開を進めてきた日立にとって,その実績・実力を総合的に発揮できるテーマの一つです。

街というものは時間が経過し住む人が変わると,求められるものやサービスも変化するわけですが,街のインフラは一度作るとそれを作り変えることが非常に難しいものです。この点について日立は,住む人の価値観に合わせて都市の機能を変化させ,住めば住むほど街の魅力が高められるようなインフラを提供したいと考えています。人間中心でハピネスを最大化し,将来に向かって価値が高まるまちづくりのために,さまざまな活動を始めており,われわれはそれをIaaS(Infrastructure as a Service) for Happinessと呼んでいます。つまり,幸せをつくるインフラサービスです。

そうした思いの下,タイの財閥であるTCCグループの不動産開発会社であるフレイザーズ社とさまざまな開発を進めることにしました。このサービスの提供にあたって,候補の一つになっているのが,タイのバンコクで進められているOne Bangkokプロジェクトです。これは,16.7ヘクタール(東京ドーム約4個分)のスマートシティプロジェクトであり,五つのオフィスタワー,五つのホテル,三つの住宅タワー,商業施設や多様な芸術文化施設で構成されます。将来にわたって価値が高まり,人間中心で,そこに集まる人々がHappinessを感じられる街。そのような街づくりに貢献していきたいと思います。

日立と一緒に「世界を輝かせよう。」

執行役社長 兼 CEO 東原敏昭執行役社長 兼 CEO 東原敏昭

人は皆,本来エゴイストの面があり,誰しも多少のわがままさを抱えているものです。しかし,ほんの少し相手を思いやる気持ちを持つと,幸せを呼び込めます。幸せは他人とシェアすると減るのではなく,むしろ大きく膨らむものです。社会課題を自分ごととして捉え,その解決に取り組むことで自らの存在価値を確認できる。直面する課題が難しく,一人では解決できないものであればあるほど,みんなが一つになれる機会だと考えてみてはどうでしょうか。

世界を輝かせるのは社会に暮らす私たち全員です。ぜひ日立と一緒に社会イノベーションを推進しましょう。

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