GLOBAL INNOVATION REPORT
従来,日本国内では交流を用いた系統連系が主流であった。しかし現在では,世界中で急速にHVDCの導入が進みつつある。この背景には,再生可能エネルギーの導入や広域電力取引の拡大,電力供給信頼性の向上ニーズの増加に加え,HVDCによる連系強化の経済合理性が実証されてきたことがある。ここではHVDC市場の現況について,特に自励式HVDCに絞って概説する。
以前は,交流による系統連系とHVDC(High Voltage Direct Current:高圧直流)送電による系統連系を比較したとき,特に日本国内では交流の選択が第一であり,HVDCは周波数変換や海底ケーブル送電などの特定の条件下で選択される手段として考えられていた。
対して現在では,欧州をはじめ南北アメリカ,中国など世界中でHVDCの導入が急速に進んでおり,その傾向はますます加速している(図1参照)。2020年から2025年にかけてのHVDC市場の年平均成長率(CAGR:Compound Average Growth Rate)は約11%と予測されており,これは世界のGDP(Gross Domestic Product)成長率予測の3倍以上である。
この背景には,再生可能エネルギーのさらなる導入拡大,広域電力取引の拡大,電力供給信頼性の向上ニーズの増加などがあるが,これらに加えentso-e※1)による費用便益分析(CBA:Cost Benefit Analysis)などでHVDCによる連系強化の経済合理性が実証されてきたことがある。これには自励式HVDCの急速な技術進歩も大きく貢献していると考えられる。電力系統にさまざまなベネフィットをもたらす自励式HVDCの技術が成熟してきたことにより,HVDCが系統連系強化の有力な選択肢となってきている。
本稿ではそうしたHVDC市場の現況について,特に自励式HVDCに絞って概説する。
1999年に初めて商用の自励式HVDCが運用を開始して以来,2019年までの約20年間に世界で39件の自励式HVDCが運用開始されている。その累計容量は2019年時点で2,000万キロワット(20 GW)を超えており,2020年には3,000万キロワット(30 GW)に達する見込みである(図2参照)。
特にマルチレベル変換器を適用した自励式HVDCの運用開始が相次いだ2014〜2015年以降,数十万から百万キロワットクラスの自励式HVDCが次々と運用を開始したことから,累計HVDC容量が急速に増えている。2020年以降もこの傾向は続き,2020〜2028年の間にはさらに3,500万キロワット以上に相当する設備の運用が開始される見通しとなっている。これは2010〜2019年の10年間に運用を開始した容量の約2倍となる。
近年の特筆すべき変化としては,従来のHVDC連系は系統と系統を結ぶ,特に海を越えてケーブル送電で結ぶ案件が多かったことに対して,最近では,従来交流での増強が選択されていた同期系統内の連系強化にHVDCが適用されるケースや,既存の交流系統と並行してHVDCが建設されるケースが増えてきていることが挙げられる。これらの事実が示すのは,HVDCによる連系が系統増強におけるさまざまな課題に対してのソリューションになりつつあること,またHVDCが交流による増強に対しても競争力を有するケースが増えつつあるという実態である。
つまり,HVDCは以前のように特殊な条件下でのみ限定的に適用されるものではなくなり,より多様な状況下で広く適用される選択肢に変わってきているのである。
近年自励式HVDCが急速に普及拡大している理由の一つとして,既存交流系統の安定化への貢献がある。
交流系統には,電圧不安定,周波数不安定,電力動揺,過渡現象など,さまざまな不安定現象が潜在しており,こうした不安定現象が発生しないように,あるいは発生しても短時間に抑制されるように,運用上の送電容量を制限したり調相設備を設置したりするなど,さまざまな対策が取られている。また,大規模な再生可能エネルギーの適地などは,もともと系統が弱く,短絡容量が小さいため不安定現象が発生しやすく,再生可能エネルギーの増加によりさまざまな対策が必要となる状況であることが多い。
自励式HVDCは,連系により電力を送電するだけではなく,こうした既存の交流系統の安定化にも貢献することができ,そうした自励式HVDCの機能を積極的に活用する事例が増えている。
自励式HVDCの技術がこの20年間で発展・成熟してきたことも,HVDCの採用が増加している理由の一つである。
現在,自励式HVDCとしては,300万あるいは400万キロワットの容量も実現可能とされている。したがって,容量のうえではほとんどのニーズに対応できるようになっている。
また,必要となる敷地面積や,交直変換所における電力損失も技術の発展とともに小さくなってきており,結果的にHVDC建設の総合経済性が向上している(図6参照)。
自励式HVDCは,世界各地で再生可能エネルギーの導入拡大に大きな役割を果たしており,同時に系統の安定度向上にも寄与している。
日本国内における今後の再生可能エネルギーの導入拡大に際しても,北海道や東北地方の日本海側などに風力発電の大きな潜在性があることや,一部地域の太陽光発電などでは既に出力抑制を余儀なくされていることなどから,その巨大なエネルギーを大需要地に送る必要が近い将来出てくるものと予測される。
これに対し,自励式HVDCは有効なソリューションであり,再生可能エネルギーの需要地への送電だけでなく,さまざまな系統へのベネフィットが提供できると考えている。