日立評論

技術革新 エネルギー

研究開発

ページの本文へ

Hitachi

日立評論

1. 放射性セシウム,ストロンチウム同時吸着材の開発と実用化

[1]セシウムとストロンチウムの吸着性能 [1]セシウムとストロンチウムの吸着性能

東京電力福島第一原子力発電所の事故により発生した汚染水には,高濃度の放射性セシウム(Cs)と放射性ストロンチウム(Sr)が含まれており,周辺の放射線量状況,万一の漏洩,飛散のリスク低減のため早期の除去処理が望まれた。事故当初,放射性Csの除去装置のみ設置され放射性Srを含む汚染水はタンクに貯蔵されていたが,既存設備を活用して放射性Srも除去することをめざしてCsとSrの同時吸着材を開発した。

従来はCs用吸着材として知られていたケイチタン酸塩化合物にイオン交換性能を向上する化学処理を施すことで,Srの同時吸着を可能とした。本吸着材は,従来の高性能Cs吸着材や高性能Sr吸着材と同等の吸着性能を有し,放射性のCsとSrを選択的に同時除去できる。さらに,吸着材で処理する汚染水の性状(pH)を制御し,CsとSrの吸着性能を長期に維持する技術を開発した。

本吸着材は現在,福島第一原子力発電所において汚染水の処理設備や,発電所建屋周辺の地下水を処理する設備で採用されており,リスクの低減や新たな汚染水の発生抑制に貢献している。

本技術は,第52回(令和元年度)市村賞において,市村産業賞貢献賞を受賞した。

2. 環境事業の創出

[2]フィジカルとサイバーが織りなす脱炭素の社会 [2]フィジカルとサイバーが織りなす脱炭素の社会

世界中で発生している激甚な気象現象,気候変動の緩和・適応の問題は,今や経済運営の中心課題として捉えられている。特に二酸化炭素削減については,「どれだけ減らすのか」から「どのように減らすのか」という,社会課題解決の「質」を問う議論が本流化してきている。このような急激なパラダイムシフトの中で,誰もが尊重され,変革の主役となれるサステナブルな社会へ向けたJust Transition(公正な移行)が必要となっている。

日立は,省エネルギー機器やエネルギーマネジメントシステムなどの提供を通じ,顧客の経済価値と環境価値の向上に貢献してきた。今後は,移行が困難な顧客に対する解決策の開発や,ステークホルダー間でのグリーンエネルギーやデータの適切な流通を実現するCPS(Cyber Physical System)の構築を通じて,個々には解決できない課題の解決を図る。これらの研究開発により,持続可能な社会の実現に貢献していく。

3. 中部電力 浜岡原子力発電所1号機における廃炉除染完遂

[3]除染用触媒洗浄装置 [3]除染用触媒洗浄装置

原子力発電所の廃止措置では,解体撤去に先立ち作業員の被ばく低減のために除染が行われる。廃炉除染の課題は原子炉,配管群などの一括処理で生じる多量の放射性二次廃液(400 t)の処理である。

日立は,放射性二次廃棄液中の除染剤を,触媒を用いて高効率で水と二酸化炭素に分解して無害化する技術を開発している。しかし,廃炉除染では多量の放射性二次廃棄液量を処理するため触媒活性が低下し,廃触媒量が増加する課題がある。そこで,除染工程と同時に分解効率の低下した触媒を再活性化する新技術として,触媒を有機酸で洗浄して分解効率を回復させるとともに,洗浄液に紫外線を照射して洗浄液自体も浄化する方法を開発した。

この技術により,廃炉除染による放射性二次廃棄液を,廃棄物量を増やさず,工程にも影響を与えずに処理可能とした。浜岡原子力発電所1号機の廃炉除染に適用して,国内BWR(Boiling Water Reactor:沸騰水型原子炉)初の炉内除染工事を2019年8月に完遂している。

4. 再生可能エネルギー導入を加速するオンライン系統制御

電力系統の設備増強を抑制しつつ送電上限を拡大することで,再生可能エネルギーの導入を拡大するオンライン予見型系統制御技術を開発した。

従来の送電システムの運用では,落雷などの故障に備えて,平常時の送電容量に余裕をもたせて運用するケースが多い。これに対し,故障時の動作をあらかじめ想定し,平常時の運用に反映することで,送電容量を熱容量近くまで運用可能とする手法を考案した。具体的には,経済性を追求する平常時の系統運用と,故障時における緊急時の運用が両立するような系統の運用状態を保つ。その特長は以下のとおりである。

  • 電力の流れのリアルタイム情報を基に,想定される故障の影響をシミュレーションで逐次把握する。
  • 影響の大きい故障に対して安定化が可能となるように,平常時の発電機出力を調整する。
  • 故障を検出した際に発電量などを即座に制御することで,電力系統の安定性を維持する。

今後,シミュレータを活用して開発技術の実用検証を推進し,エネルギーシステムの脱炭素化に貢献する。

[4]オンライン系統制御の実現 [4]オンライン系統制御の実現

5. 高信頼かつ経済合理的な社会インフラの形成に向けた計画支援技術

[5]系統構成の変化を表す状態遷移モデルを活用した計画生成方式の処理イメージ [5]系統構成の変化を表す状態遷移モデルを活用した計画生成方式の処理イメージ

日本の電力系統は高度経済成長期に集中的に整備され,急速に老朽化が進んでいる。また近年は,再生可能エネルギー拡大や需要偏在化など,電力系統を取り巻く環境も急速に変化している。そのため,今後は老朽化した設備の更新に加え,環境変化に応じた系統構成変更まで視野に入れた系統計画の策定が求められる。

そこで日立は,系統構成の変化を表す状態遷移モデルを活用した計画生成方式を提案している。本方式では,設備の更新・除却といった対策候補に基づき,計画期間において取り得るすべての系統構成のデジタルツインを生成し,系統構成をノード,対策候補をブランチとする状態遷移モデルを生成する。ここで各ノードには信頼度解析に基づく発電量・負荷の許容値を属性情報として割り当て,各ブランチは予算・工期などの制約に基づく対策候補の組み合わせとする。これにより,不確実な将来環境下においても所定の信頼度を満たす系統構成の遷移を抽出でき,高信頼かつ経済合理的な系統計画の策定に貢献できる。

6. 高レベル放射性廃棄物からジルコニウムを高効率に回収する技術

原子力発電所などで生じる放射性廃棄物から,半減期が数十万年以上ある長寿命核分裂生成物(LLFP:Long Lived Fission Products)を取り出し核変換して放射能を低減する方法や,有用元素を回収し資源として利用する方法が開発されている。本研究では,使用済み原子燃料を再処理した際に発生する液体状の高レベル放射性廃棄物(以下,「高レベル廃液」と記す。)に含まれるLLFPの一つであり,耐火物やセンサー材料などとして産業利用されているジルコニウムに注目し,高レベル廃液からジルコニウムを高効率に回収する技術を開発した。

本開発では,高レベル廃液にジルコニウムと選択的に沈殿を形成するモリブデンを添加してジルコニウムを含む沈殿物を生成し,その後,沈殿物とフッ素を反応させてモリブデンを揮発分離することでジルコニウムを回収する,ジルコニウム回収プロセスを考案した。模擬高レベル廃液を用いてジルコニウムの分離回収試験を実施した結果,ジルコニウムを高効率(回収率90%以上)に回収できることを確認した。

今後も放射性廃棄物の低減や有効利用に向けた研究開発に取り組んでいく。

本研究は,総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の一環として実施したものである。

[6]ジルコニウム回収プロセス [6]ジルコニウム回収プロセス

Adobe Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe® Reader®が必要です。